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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第一部 魔術人形と新人冒険者

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29 鉄等級冒険者

 翌日、いつも通りの朝を迎えた私たちは、カリーナとマルテに見送られて、冒険者ギルドへ向かった。

 相も変わらず朝の冒険者ギルドは賑やかだ。


「おい、あいつだぜ」

「何でも見習い冒険者なのに、大ミミズを倒しちまったそうだ」

「あの顔とガタイだ。今まで兵隊か何かしてたんじゃないのか?」

「悪そうな顔しているし、炭鉱帰りなんじゃねーの」

「レベルが高くても、最初は誰でも見習いだからな。どうりで強面のヤバイ顔をしている」

「隣の嬢ちゃんは何だ? 娘か?」

「親子で冒険者か……家庭の事情というやつだな」

「おい、お前たち、あいつを見るな。尻を掘られるぞ」

「どういう意味だ?」

「実は……」


 何か私たちが注目されているんですけど……。

 それも変な噂まで広まっているような。

 向こうから聞きにきたり、ちょっかいをかけられないぶん、小声で噂されるだけで助かる。

 私たちは部屋の隅の方で、隠れるように時間を潰し、人が捌けるのを待ってからレナの窓口へ向かった。


「おはようございます。アケミさん、エーリカさん」


 いつも笑顔が素敵なレナだ。この笑顔のおかげで、活力が(みなぎ)ってくる。


「おはようございます。早速ですが、昇級試験の結果はどうでしたか?」

「もちろん、合格です」


 やったー! と私とエーリカは手を叩く。

 手ごたえはあったが、やはり不安は付きまとう。

 特に笑顔が素敵なレナにこってりと説教された後だから仕方がない。


「では、今まで使っていた木製の身分証を提出してください」


 私とエーリカは木製の身分証をレナに渡す。

 レナはそれを受け取り、奥へ行ってしまった。

 しばらく待っていると、鉄製の身分証を二枚、カウンターの上へと置いた。


「こちらが新しい身分証です」


 鉄で出来た新しい身分証は、綺麗な光沢を放っている。木製の時と同じ、何かしらの文字と顔写真が書き出されていた。


「これで今日から正規の鉄等級冒険者になりました。頑張って依頼をこなしてください」


 今までは見習い冒険者という事で、依頼内容はギルドから渡されていた。だが、これからは掲示板に張り出されている依頼票を見て、自分たちの身の丈にあった依頼を受けなければいけない。

 ちなみに、依頼票は早い者順なので、条件の良い依頼はすぐに別の冒険者に取られてしまう。

 私たちも明日から早めに行く必要がある。


「では、続いて、これが大ミミズ二匹の買い取り金になります」


 そう言うと、レナがお金の入った袋をカウンターの上へどさりと置いた。

 中身をのぞき込むと、銀貨が沢山入っている。つい、ゴクリと唾を飲んでしまった。


「大ミミズの魔石と本体の価格から、リーゲン村の復興資金を差し引いて、銀貨六十枚です」

 大ミミズ二匹が銀貨六十枚に化けた。

 借金の金貨一枚にはまだ四十枚ほど足りないが、大分、心にゆとりができた。

 正規の冒険者に成ったのだ。依頼を受けて、残りのお金を稼いでいこう。

 私は銀貨の入った袋をエーリカに渡し、収納魔術に入れてもらう。


「本日の依頼を受ける場合は、掲示板に張り出してある依頼票を持ってきてください」


 私たちは一旦受付を離れ、依頼票が張られている掲示板へ向かった。

 ほとんど剥がされてしまった依頼票は、指で数えるぐらいしかない。


「えーと……うむうむ……さっぱり分からん」


 私は異世界文字が読めない。

 エーリカにお願いして、代わりに読んでもらう。


「わたしたちが受けられる依頼は二件あります」


 スラスラと異世界文字を読んだエーリカから内容を教えてもらう。

 今度、時間がある時に、エーリカから文字を教えてもらおうかな。


「一つはホーンラビットの討伐と素材。もう一つはスライムの捕獲です」

「ちなみに金額は?」


 エーリカが依頼票に書かれている金額を私に伝える。

 それを聞いた私は青褪めてしまった。


「エーリカ、ちょっと、あっちの席へ行こうか。少し、会議をしたい」


 ほとんどの冒険者は本日の依頼の為、居なくなっている。ギルド内にいるのは、私たちと出遅れた冒険者二組である。ちなみに、毎度同じ長椅子に座っている黒色のロープを着た女性は健在だ。

 そんな閑散としたギルド内の机に、私とエーリカは対面するように席に座った。


「さて、我々の現状について、改めて考えたいと思います」


 背筋を伸ばし真剣な表情(目は眠そうだが)で私を見つめるエーリカに対して、私は真剣に語り出す。


「私たちは金貨一枚の借金があります。残りの期限は……えーと……」

「二十二日です」


 間髪(かんはつ)を入れずにエーリカが答える。

 つまり、エーリカと出会ってもう一週間も経ったのか……つい昨日の出来事な気がする。


「現在の所持金は、銀貨六十枚と財布の中身です」


 財布の中身がどのくらいあるか分からないが、たぶん銀貨五枚か六枚ぐらいだろう。

 ちなみに、エーリカの財布は保険なのでカウントしない。


「今、細かい数字は省くとして、現在の所持金は約銀貨六十五枚とします。つまり、残り銀貨三十五枚を二十二日までに稼がねば、私たちは借金奴隷へ強制就職を余儀なくされます」


 コクコクと黙って頷くエーリカに私は満足する。


「だが、生活するだけでもお金が必要です。食事をしたり、宿に泊まるにもお金がかかります。つまり、銀貨三十五枚以上を稼ぐ必要があります」


 私は真剣な目でエーリカを見て、少しためらってから、続きを語り出す。


「その稼ぐ方法に対し問題があります。つまり……」

「依頼料が安い事です」


 私が言いたかった事が、エーリカに言われてしまった。

 そう、依頼料が安い。

 私は甘く見ていた。

 正規の冒険者に成れば、依頼料は破格な金額になると思っていた。

 魔物に関われば、自分の命も関わる。その為、冒険者は高級取りだと……。だから、借金も簡単に返せると思っていたのだが、現実は甘くはなかった。

 所詮、下っ端の鉄等級冒険者。見習い冒険者の依頼料に毛が二、三本生えたような金額だ。

 これでは、到底、残り銀貨三十五枚には届かない。それ以上に、まともな生活すら送れない。


「そういう事ですので、今後は節約生活をする事にしましょう」


 無駄な買い物をしない。我慢できる事は我慢する。生活水準を落とす。

 やれる事からやりましょう。


「節約生活は、どういった事をしますか?」

「まず、昼食はなし」

「却下です」


 即答である。


「栄養バランスが崩れます。人間は三食摂ることで、一日の活力を補っているのです。特にわたしたちは肉体労働の冒険者です。大事な時に体力が切れてしまっては元も子もありません。それに空腹は、集中力の低下とストレスの蓄積になります。必要な時に必要なだけ食事を摂取するのは、冒険者にとって重要かつ仕事の一環なのです」


 エーリカが勢いよく早口で語り出した。


「ここの人たちは一日二食が基本になっているけど?」

「彼らは生まれた時からそのように生活しています。だが、ご主人さまは一日三食が基本。いきなり、一日二食に変更をすると、不調をきたすことになるでしょう。体調を崩し、風邪や病気にかかったら仕事が出来ず、薬代がかかり、逆にお金を失ってしまいます。もちろん、わたしも同じです。それに、一日二食といっても、完全に二食ではありません。間食をします。おやつを食べます。つまり、三食と変わりありません。そういう事で、一日二食は効率的に却下です」

「そ、そう……」


 一日二食案は、エーリカの勢いで却下されてしまった。


「じゃあ、宿を変える事は?」


 『カボチャの馬車亭』の宿泊無料期間は、明日の宿泊で終わる。

 宿の部屋もカルラたちも気に入っているので、宿を変えるのは心苦しい。

 だが、今の現状、まともにお金を払って住み続けるには、私たちの収入では不可能である。


「宿を変えるとして、どこに変えるのですか? 値段としては、あまり何処も変わりありません」


 馬糞回収や草むしりの依頼の時、他の宿を見つけては、値段や雰囲気を調べた事がある。

 裕福地区に限れば、どこも大した差はない事は知っている。


「どこって……貧民地区の安宿だったり……最悪、野宿?」

「却下です」


 また、速攻でエーリカの却下がきた。


「野宿は明々白々(めいめいはくはく)ですが、貧民地区の安宿の衛生管理や劣悪な環境では、温室育ちのご主人さまでは二日も持ちません」


 強制召喚された当日に泊まった安宿でトラウマを植え付けられた私には、エーリカの言葉は的を射ていた。

 人間は環境に慣れると言うが、貧民地区の安宿は、正直言って、私では無理だ。

 お金よりも住みよい環境を選ぶ。

 だが、そのお金が無いのだが……。


「宿に関しては問題ありません」


 言い切ったエーリカに私は「どうするの?」と聞いてみた。


「また、ご主人さまが料理のレシピを教えて、無料期間を延長してもらいましょう」


 私頼みかい!?


「『カボチャの馬車亭』では、ピザという新しい料理で人を集めました。先の話にもありましたが、ピザで集まったお客はこれから分散していきます。一度味を占めたお客の集客です。また、新しい料理を提示すれば受けてくれる事でしょう」


 カルラが言っていたように、ピザを出すお店は増えてきた。それに伴って、お客は分散していく。

 ピザだけでは、分散するお客は繋ぎ留めれないだろう。

 それなら、新しい料理をまた出せばいいのだが……。


「エーリカ、簡単にレシピを教えると君は言うが、それこそが問題なんだよ」


 私は一人暮らしをしていた為、同年代に比べ、色々な料理を作ってきた。

 ピザもその一環。学校から帰れば、ポストにピザ屋のダイレクトメールが届いている事がある。それを見て、ピザを食べたくなるが、いかんせん、お金が無い学生一人暮らしである。食べたいがお金がない。それなら、自分で作ってしまおうという事で、トマトソースやピザの種類等を調べたのだ。

 これは現在日本に住んでいたから出来る事である。材料や調味料は手軽に手に入る。レシピもインターネットから簡単に分かる。

 だが、ここは異世界だ。

 知っている料理も材料や調味料の関係で、再現が出来ないものが多い。特に醤油、酢、味噌を使った和食料理は不可能に近い。発酵技術を知らないので、一から作る事も出来ない。


 それに私の知っているレシピは穴だらけである。

 何となくイメージが出来ていても、細かくは分からない。

 例えば、ショートケーキ。

 生クリームの作り方は知っている。だが、スポンジケーキの作り方は知らない。

 イメージで、卵、小麦粉、砂糖が必要なのは想像出来るが、そこからどうすれば良いのか分からない。想像で作っても、ホットケーキみたいな物が完成するのが目に見えている。

 そういう事で、私の穴だらけのレシピと異世界の素材では、提供できるレシピに限りがあるのだ。


「ご主人さまは完成品を知っているから悩むのです」


 私の知識の欠点を伝えたら、エーリカはやれやれと首を振っている。


「ここは異世界です。誰も料理の完成型を知りません。材料が無ければ、代わりの物で補う。代わりが無ければ妥協する。レシピの詳細が分からなければ、適当にアレンジしてごまかす。不完全でも問題なく通用すると考えます」

「そんなんで満足するかな……」

「問題ありません。この世界の料理は、煮るか焼くだけです。味付けは塩胡椒のみ。一手間、二手間加わっているご主人さまのレシピは、不完全でも今までにない新しく美味しい料理になるでしょう」


 「わたしはご主人さまの料理をもっと食べたいです」とエーリカは鼻をフンスと鳴らして、拳を握りしめている。


 私の節約案がエーリカに(ことごと)く却下されてしまった。

 所々、エーリカの欲求……つまり、三食食べたいとか、良い宿に泊まりたいとか、私の料理が食べたいとかの欲求が見え隠れするが、私個人も同じ意見なので、ついエーリカの反論に深く突っ込む気がなく、流されるように現状維持になってしまった。


 だが、これでは根本的に解決はしていない。

 どうした物かと頭を悩ましていると、エーリカから提案がきた。


「日常に使うお金を含め残り銀貨三十五枚と考えるから悩むのです。それならいっその事、残り銀貨五十枚と思って過ごしましょう」

「増えてるじゃん!?」

「気持ちの問題です。銀貨十五枚は必要経費です。これから討伐依頼も受けなければいけません。その為、ご主人さまには武器を買わなければいけません。冒険者稼業としての先行投資は必要不可欠です」


 確かに武器は欲しい。

 日常道具の手斧では、これから厳しい事になる。

 

「それで残りの銀貨五十枚はどうやって稼ぐ気なの? 鉄等級冒険者の依頼では到底間に合わないよ」

「ご主人さまの知的財産を売りましょう。ちょっとした知識でも、この世界では革命的に価値は高いです」


 知識を売るって言うが、どうやって売るのだ? カルラには料理のレシピを売る予定だが、他の知識はどうすればいい? 商人の知り合いを作るか? ただ、アイデアを教えただけで買ってくれるものだろうか? 現物を作る必要もあるし、商業ギルドで相談してみるかな?

 私がうんうんと唸りながら考えていると、エーリカが「追々、考えましょう」と先延ばしの提案をしてきた。


「最悪、わたしの私物を売れば、借金は返せるでしょうから安心してください」

「私物? 何か売れる物でも持っているの?」

「例えば、わたしの着ている服です」


 エーリカの一張羅は、黒を基本としたつなぎ目のないゴシックドレスである。水でバシャバシャと洗っても皺一つ出来ない不思議素材。見た目、肌触り、素材とどれも高く売れる要素がある。


「貴族に売れば高く買ってくれるでしょう」

「貴族が中古の服を買うかね?」

「物理耐性、魔力耐性の付加が付いていますので、年頃の娘を持っている貴族なら買うと断言します。何と言ったって、ヴェクトーリア博士のお手製ですから」


 私の偏見で申し訳ないが、貴族という者は見栄の塊だ。どんなに優れた服でも、中古の服は買わないだろう。

 それよりも、エーリカのヴェクトーリア博士に対する信頼度が高すぎる。何とか博士のお手製ってだけで、高値が付くと思い込んでいる節がある。


「他には……これです」


 エーリカは袖口に手を入れて、大ミミズの肉をズタズタに引き裂いた三角錐のドリルハンドを取り出した。

 確かに、このドリルは土木関係の人に売れそうだ。


「この魔術具は、岩をも砕きます。もちろん、これもヴェクトーリア博士のお手製ですので、オークションに出せば、天井知らず、間違いなし」

「ちょっと待って。私はエーリカの私物を売るつもりはないからね」


 私にとってエーリカは、何なのだろう?

 成り行きで契約してしまったが、そもそもあの契約は何なのだ? 主従関係みたいにエーリカは私をご主人さまと呼ぶ。では、私にとってエーリカは従者なのか? いや、エーリカを奴隷や部下のように見ているつもりはない。

 それなら、仲間、友、妹? 改めて考えると分からない間柄だ。

 とはいえ、エーリカを(ないがし)ろにする気はない。何度も助けられたし、これからも頼りにしている。

 そんなエーリカの私物を借金の為に売る気はサラサラない。


「あくまで最終手段です。わたしも売る気はありません。それよりも、ご主人さまがわたしをそこまで愛しているなんて……わたしはとても幸せな人形だと再確認しました。今夜の夕食は豪華にしましょう」

「金が無いと言っているでしょうが!」

 

 毎日、依頼を受ける。受け続ければ、鉄等級冒険者から鋼鉄等級冒険者へ昇級する。借金の返済期間までに昇級するか分からないが、鋼鉄等級冒険者になれば、依頼料も上がる。依頼料が上がれば、返済の目途がたつ。

 頑張って依頼をこなしていかなければいけない。

 その為には、武器を購入する必要も出てくる。

 そして、毎日依頼を受けるには、心身共に健康でなければいけない。

 つまり、現状維持。何も変わらない。

 「まぁ、何とかなるでしょう」という結論である。

 これにて、借金返済の相談は終わった。



 気を取り直して、本日の依頼を受ける事にする。

 鉄等級冒険者の依頼は二つ。

 一つはホーンラビットの討伐と素材。もう一つはスライムの捕獲。

 武器を持っていない私に討伐依頼は荷が重い。

 だから、スライムの捕獲依頼を受ける事にした。

 私たちは依頼票を剥がし、受付へ向かおうとした時、背後から声を掛けられる。

 後ろを振り向くと、いつも長椅子の端に座っている黒色のローブを着た女性が立っていた。

 なぜか、ギルド内にいた冒険者や職員が仰天の顔をしている。


「あ、あの……そ、その……」


 か細く、聞き取りにくい小さな声がロープに隠れた口から発せられる。

 声の雰囲気からして、若い女性であると気がつく。


「はい、何ですか?」


 一応、初対面だ。

 相手を不快にさせないように爽やかスマイルで答える。


「お、お父さん……その……」

「お、お父さん?」


 爽やかスマイルが引きつる。

 私に娘を持った事実はない。娘を生んだ事もなければ、子作りの作業もない。

 そもそも、中年のおっさんの姿をしているが、中身は現役の女子高生である。

 その事実を知っているのに、なぜかエーリカは私を冷たい目で見つめている。


「えーと、何か勘違いをしていませんか? 私はあなたの父親じゃないですよ」


 黒のロープを着た女性は、ハッとして、手を口元へ持っていく。


「ご、ごめんなさい……」


 そう言って、女性はそそくさとギルドから出て行ってしまった。


 うーん、何だったのだろう?

 宝くじ現象かな? 宝くじが当たったら、今まで見た事も聞いた事もない遠い親戚が訪れるあれ。

 大ミミズの買い取り金を目当てに接触してきたとか?


「何だったのだろう? どう思う、エーリカ?」

「知りません」


 エーリカに聞くと、頬を膨らませ、顔を背けてしまった。

 あの女性もエーリカも一体何なんだ?

 年頃の娘はよく分からん。(私も年頃だけど……)



「アナスタージアさんが話しかけてくるなんて珍しいですね。何を話されていたんですか?」


 依頼票を受付へ持っていったら、さっきのやり取りを見ていたレナが開口一番に尋ねてきた。


「どうも人違いをされました。彼女、アナスタージアさんと言うんですか?」

「ええ、ここ一ヶ月ほど、誰とも話さず、ずっと椅子に座って過ごしていたんですよ。色々とありまして……」


 レナの声色が徐々に暗くなっていく。

 どうも言いにくそうな話題なので、私は本題へ戻し、依頼票をカウンターの上に置いた。


「スライムの捕獲依頼ですね。しばらく、お待ちください」


 レナが後ろの棚から資料の木札を取り出して、依頼内容を説明してくれた。

 内容はスライムの生け捕り。

 数は最低三十匹。

 期限は三日。

 依頼主はブルクハルト奴隷商会である。

 確か、スライムは貴族に人気の愛玩魔物であると教えてくれたな。


 スライムの種類や各個数は自由。グリーンスライムだけ三十匹を集めても良いし、別のスライムを混ぜても良い。ただし、スライムの種類によって金額が変わるそうだ。


「この街にはグリーン、ブルー、グレーの三種類のスライムがいます。値段はグリーンスライムが一番安いです。次にグレースライム、最後にブルースライムです」


 街の外に行けば、もっと別の種類のスライムがいるそうだが、この三種類で的を絞れば、街中でも可能な依頼という事である。


「スライムってどうやって捕まえるんですか?」


 スライムには苦い経験がある。あんなにも苦戦した魔物だ。簡単には捕まえられないだろう。


「どうって……手でパシっとですね」


 レナが中腰になって猫を捕まえるようなジェスチャーをする。

 

 そんなんで良いのかスライム!?


「こちらに攻撃の意志さえなければ、スライムも攻撃してきません。ゆっくり近づいて、優しく掴めば、大丈夫ですよ」


 ああぁー、あの時の私の苦労は一体……。


 (なげ)いても仕方がないので、このスライム捕獲の依頼を受ける事にした。


 これが私たち鉄等級冒険者に成った最初の仕事である。


正規の冒険者に成りました。

正規といっても大した金額はもらえません。

会議をするが、特に変化はなし。

これからも、地道に依頼をこなす日々になりました。

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