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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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288 みんなで楽しく素材集め その1

「む、村人全員ですか!?」


 フィーリンの無茶ぶりに村長のガンドールが目を丸くする。


「うん、試作のゴーレムは体が小さいからすぐに出来たけど、これから作るのはもっと大きいんだよねぇー。だから、みんなで作れば、それだけ早く終わるだよぉー」


 早く終わると聞いて、村長は眉を寄せる。


「姫さまに協力をしたいのは山々なのですが、酒作りも鍛冶作業もありますからな。全員を使うのは少し難しいかと……」

「村人全員は言い過ぎたねぇー。時間が空いている人にゴーレム作りを手伝ってほしいなぁー」

「まぁ、それでしたら……」


 いまいち乗り気でない村長の前に息子のエギルが前に出る。


「オヤ……んん、村長。見てほしい物がある。ロックン、こっちに来い」


 私の足元にいたロックンがドスドスと重たい足取りでエギルの元へ向かう。

 そんなロックンの姿をドワーフたちが身を乗り出して見ていた。


「もしかして、この奇妙な石の塊はゴーレムか?」

「ああ、先程、試作で作ったゴーレムだ。ロックン、性能を見せてやれ」


 エギルの指示を聞いたロックンは、両目をチカチカと光らせると食堂内を走ったり、キャタピラーで高速移動したり、酒樽を担いだりした。

 そんなロックンの姿にドワーフたちは「おおー!」と感嘆の声を上げながら酒を飲んでいる。


「これだけじゃないぞ。ロックン、魔力弾を放て!」


 エギルが指示を出すとロックンは右手を持ち上げ、手の平から魔力弾を放つ。そして、酒を飲んでいたドワーフの酒器に当たり、粉々に破壊した。


「こいつは凄ぇ-な。ゴーレムとは思えないほど、機敏に動くじゃねーか」


 「そうだろ、そうだろ」と自慢気に髭を触るエギル。その横でロックンもチカチカと目を光らせている。

 球体関節で複雑な動きを可能にしたロックンであるが、そこまで驚く事なのだろうか?

 余程、前のゴーレムが動かなかったのだろう。


「ぼ……俺たちは物作りの達人だ。どの種族よりも誇りを持たなければいけない。このまま包丁や鍋を作って、酒を飲んで終わりで良いのか?」

「うむ……」

「このロックンは、良い素材と少しの改良で素晴らしいゴーレムになった。俺たち全員が知恵を絞りだし、汗水流して素材を集め、全ての技術を継ぎ込めば、この世界の全てのゴーレムよりも最高で至高なゴーレムが作れるだろう」

「確かに……」

「フィーリンさんの為に、この村の為に、そして、全てのドワーフの為にゴーレムを作ろう!」


 勝手に熱くなったエギルが村長を説得する。

 私たちを含め、ここにいるドワーフが村長を覗き込む。

 目を閉じて思案していたガンドールは、くわっと両目を開くと「分かった!」と酒器に入っているエールをガバガバと飲み干した。


「姫さま、手を貸しますぞ! 村人全員で最高のゴーレムを作りましょう!」


 村長が宣言すると、食堂に集まっていたドワーフたちは酒器を持ち上げ「うおおぉぉーー、やってやるぞ!」と叫んだ。


「お前たち、宴会だ! 決起集会だ! 作戦会議だ! 全ての酒を飲み干せー!」


 なぜか飲み会が始まってしまった。まぁ、いつもの事である。



 村長、フィーリン、エギルを中心にこれから作るゴーレムについて話し合う。無論、隣に酒樽が置かれているので、一言意見を言ったらグビリグビリと飲んでいる。

 そんな三人の周りに私たちも座って話を聞く。さらに私たちの周りを囲むように他のドワーフも酒を飲みながら、話に参加していた。

 ゴーレム案であるが、基本的にロックンと変わりない。

 サイズが大きいだけで姿形は四角形型ゴーレム。

 溝の深いキャタピラーも付ける事で悪路にも対応可能。

 ロックンでは諦めた声音機能も付ける事になったので、フィーリンの工房で朽ちているゴーレムは解体されて、調べられる事が決まった。

 また、迷いの森から爆発する豆を採取して、ミサイルのような爆発物を搭載する事も決まったが、上手くいくかは試してみないと分からないとの事。

 

 基本、私が始めに描いた案で決まったのだが、少し変更点もあった。

 それは役割である。

 機動性が高い事が分かった村人たちから、ただの門番では勿体ないので土木作業も出来るようにと意見が出た。

 そこで私はエーリカの魔術具をドワーフたちに見せてみた。

 ダムルブールのドワーフ師弟の時と同じ、ここに集まっているドワーフたちが目を丸くしてエーリカの魔術具を観察する。特にエギルは食い入るように調べ、エーリカに色々と質問をしていた。ただ、「権限がない」という事で殆どが秘密にされてしまった。

 余談だが、再度エギルがエーリカに「村人に成らないか?」と誘った事で、リディーに髭を掴まれ「こ、と、わ、る!」と睨まれていた。

 ただ、そんなエーリカの魔術具だが、再現する事が出来ないと判断され、諦める事になった。

 その代わり、ゴーレム用の大きなスコップやハンマーを別に用意する事で話が決まった。


 ゴーレム案が決まると、さっそくエギルが木札で図案を描き、必要な材料を計算していく。

 そんな姿をエギルの父親である村長が満足そうに酒を飲みながら見つめていた。

 やはり、エギルに任せておけば問題なさそうだ。というか、今回もエギルに丸投げな状況になりそうだ。



 しばらくエギルの作業を眺めながら干し肉を齧っていると、食堂の扉が勢い良く開いた。

 外はまだ強風が吹いているらしく、食堂内に風が流れ、ドワーフたちの長い髭を靡かせる。

 風が吹く中、四人の男性が食堂に入ってきた。


「ひでー風だな。全身砂まみれだ」

「もう少し天井と遊んでいれば良かったな」


 いつも元気で体力が有り余っているアーロン、アーベル兄弟だ。

 そんな二人を見て、「ひぃっ!?」とマリアンネがリディーの影に隠れる。完全にトラウマになっていた。私もこの異世界に来てからトラウマだらけなので心情は察する。

 そして、脳筋兄弟の後ろから現れたのは、ヴェンデルとサシャである。

 数日ぶりに会った彼らは、頬がこけ、肩を落とし、死んだ魚の目になっていた。

 「喉が渇いた」「俺らにも飲ませてくれ」と脳筋兄弟が適当な席に着き、ドワーフと共に酒を飲み始める。

 ヴェンデルとサシャは、私たちの姿を見るやトボトボと覇気のない姿勢で近づき、「やぁ……」と元気なく挨拶をした。


「疲れ切っているね」

「昼間は双子のしごきに付き合い、夜はたらふく酒を飲まされている」

「昨日は大量の魔物を狩って、魔石を集めた。今朝は、面白い所があると言って、森の奥の廃村地下で落ちてくる天井を力尽きるまで支えられた」


 「俺たち、近い内、死ぬと思う」とヴェンデルとサシャが机に倒れた。


「え、えーと……回復魔法をかけようか?」


 リディーの影に隠れていたマリアンネが、申し訳なさそうに出てくる。


「マリアンネ、君だけは守るから」

「犠牲者は俺たちだけでいい。安心してくれ」


 二人は逃げ回っているマリアンネを責める事はしない。逆にマリアンネに魔の手が伸びないようにしているようだ。うん、ちょっとカッコいい。

 だが、当のマリアンネは「女の子だから、色々とあるのよね」と適当な理由を言って、回復魔法をかけていた。


「おい、アーロン、アーベル。こっちに来い」


 エギルが呼ぶと、脳筋兄弟は「どうした、どうした」とノシノシと近づいてくる。

 その為、回復魔法は中断され、マリアンネは再度リディーの影に隠れてしまった。


「これから本格的にゴーレムを作る。大量の素材が必要だ。お前たちには、また魔石を集めてほしい」

「どのくらい欲しいんだ?」

「昨日の十倍だ」

「そんなにもか……森の中の魔物を狩り尽しちまうな」


 なぜか楽しそうに笑う双子。それに対して、ヴェンデルとサシャは重い溜め息を吐く。


「狩場なんだが、昨日行った魔女の廃村に向けて、一直線に魔物を狩ってくれ」

「どういう事?」


 なぜ狩場を限定したのか疑問に思ったので、私はつい口を挟んでしまった。


「お前、気づいていないのか? 『原初の火』が使えなくなった事を?」

「えっ、そうなの!?」


 新事実を聞いて、私は「どうして?」と尋ねる。


「ロックンを起動させた時、火が飛んでいっただろ。たぶん、それが原因だ。僕の予測では、ゴーレム一体につき『原初の火』は一回限りのようだ」

「そ、そうだったんだ……」


 つまり、もう一度ヘビのゴーレムから『原初の火』を貰いにいかなければいけない。


「あんな弱っちい火では大変だから、ついでに『原初の火』を何個か貰えないか、ヘビのゴーレムに交渉してくるつもりだ」

「うん、頑張って」


 魔物に襲われるし、ミミズやヒルばかりの気味の悪い場所には行きたくないので、『原初の火』の交渉もエギルに丸投げだ。

 私は金輪際、迷いの森に入らないと誓ったのだ。

 

「僕だって嫌だ。だから、新しく道を作るんだ」

「ああ、そう言う事ね」

「それに今後時間があれば、魔女の廃村自体を調べたいと思ってな。頼もしい連中も居る今、良い機会だから道を作る」


 実際に行った事で魔女の廃村が伝承や口伝とは違う事を知ったエギルは、知的好奇心が刺激され、本格的に廃村を調べたくなったらしい。

 その為には、ドワーフの村と廃村を行き来しやすくする必要がある。

 ちょうどブルドーザーのような脳筋兄弟が居るので、魔石集めのついでに道作りをするそうだ。

 邪魔な草木や魔物を狩り、道を均し、魔物避けを設置するらしい。一気に大規模工事である。

 そんな土木作業みたいな事を頼まれた脳筋兄弟は、気分を害する事なく「任せておけ。全て狩り尽してやるぞ」と快諾した。

 うーん、冒険者でなく、都合の良い作業員である。白銀等級冒険者のプライドはないのだろうか?


 

 図案を完成させ、必要な材料を割り出したエギルは、フィーリンと共に別のドワーフの元へ向かった。

 ゴーレム作りに必要なのは、骨格の材料となる星光石、外装の石材、核となる魔石である。

 魔石集めは先程アーロンとアーベルにお願いした。残りの星光石と外装の石材を用意する為に、各代表のドワーフにお願いに行ったのだろう。

 エギルは木板に描いた図案を代表ドワーフに見せて説明し、フィーリンが一言お願いする。すると、嬉しそうに酒器をぶつけて、ガブガブと酒を飲み干した。承諾できたみたいだ。

 そして、エギルとフィーリンは席を立つと、別のグループの元へ向かい、同じ事を繰り返している。

 そんなエギルを村長のガンドールは、「いつでも俺の仕事を任せられるな」と酒を飲みながら見守っていた。


 エギル、村長の仕事も丸投げされそうだぞ!


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