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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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287 試作ゴーレム作り その4

 新しく主従契約をしたチビゴーレムのロックン。

 彼に二つの命令をした。


 一つ目は、意思の疎通だ。

 表情も声帯もないので、彼の意思が伝わらない。ゴーレムに意思があるのか分からないが、これから付き合っていく上で不便なので、対策を考えた。

 と言っても、至極単純な案で、両目の点滅回数で言いたい事を伝えるのだ。

 「肯定」の場合は点滅二回、「否定」の場合は点滅一回とした。

 色々と種類を増やしても良かったが私が覚えられないので、まずは二つ。必要とあれば、これから増やせばいいし、モールス信号みたいなのを作ってもよい。

 「ロックン、分かった?」と足元にいるチビゴーレムに言うと、両目をチカチカと二回点滅した。さっそく使ってくれて嬉しい。

 

 二つ目は、他の者の指示も聞くようにした。

 ゴーレムというのは、単純と言うか、ガバガバと言うか、私の命令を素直に聞いてくれる。

 今ここに居る者……エーリカ、リディー、フィーリン、マリアンネ、エギルの五人の指示も聞くようにと命令したら、五人の声も聞くようになった。



 現在は昼過ぎ。

 朝一番から作業をして、半日が経ってしまった。

 エギル曰く、人工魔石の魔力抜きを含め数日は掛かると見越していたが、とんでもなく速く終わって驚いている。

 無事に試作ゴーレムが完成し、さらに昼という事で、フィーリンが提案した完成会ではないが、昼食をみんなで食べる事にする。

 フィーリンとエギルの二人は、ドワーフ達が広場で大量のエール作りをしている隙に完成している酒樽をこっそりと持ってきた。

 私とリディーは、ホーンラビットの香草焼きと野菜スープを作った。

 エーリカとマリアンネは、パンを温めたり、食器を運んでもらった。

 試しにロックンに完成した料理の皿を持たせ、工房まで運んでもらったら、まったく危なげなく運んでくれた。これならアナの食事処で活躍できるだろう。

 用意が出来たので、地面に倒れている汚いマシュマロマンのようなゴーレムを机代わりに食事を始める。


「この兎はうめーな。それに引き替え、スープは駄目だ。野菜と茸しか入ってねー。これだからエルフは。肉を入れろ、肉を」


 ブツブツと文句を言いながらエギルは、スープにホーンラビットの肉を入れて飲んでいる。

 「エギル、賢ぉーい」とフィーリンもスープに肉を入れて、酒と一緒に飲む。


「嫌なら飲むな! まったく……」


 スープを作ったリディーは溜め息を吐くと、私の左側で柱もどきになっているロックンと私の右側でバクバクと肉を食べるエーリカを交互に見た。


「なぁ、エーリカ。おっさんがゴーレムと契約したけど、嫉妬はしないのか?」

「ただの石の塊に嫉妬などしません。ただの動く置き物です」


 手と口を休む事なくエーリカは淡々と答える。


「ロックンもエーリカちゃんみたいにクズノハさんの傍を離れず、常に見ているよね。まるで子供みたい」


 酒で若干顔の赤いマリアンネも会話に参加する。

 それにしても子供って……まったく似ても似つかない石の塊を生んだ覚えはない。


「実際に子供みたいなものだろ。一から体を作って、魔力を注いで、契約をしたんだ。おっさんの子供だ。似てないがな」


 ケラケラと笑うリディー。

 さらにマリアンネが「エギルさんが体を作ったから、クズノハさんとエギルさんの子供だね」と言うと、「酷い組み合わせだ」とリディーが腹を抱えて余計に笑い出した。


「くだらねー事を言ってんじゃねー。酒が不味くなる」


 凄く嫌な顔をしたエギルは、「耳を傾けては駄目ですよ」とフィーリンの酒器に酒を注ぐ。


「ご主人さま、壊しましょう」


 隣に座ってバクバクと食べ続けていたエーリカの動きが止まる。


「どういう事?」

「このゴーレムを解体し、溶かしてフライパンにしてしまいましょう。そして、私と一緒にもう一度、ゴーレムを作りましょう」


 危険を察したのか、ロックンがエーリカの視線を避けるように私の影に隠れる。


「なぜ?」

「わたしもご主人さまの子供が欲しいです。わたしがゴーレムの体を作りますので、ご主人さまは魔力を注いでください」

「いや、やらないし……」


 「面倒臭い」と私が断ると、エーリカは食事をする事なく、しつこく強請ってきた。そんなエーリカに「僕が魔力を流す。エーリカと僕の子供を作ろう」とリディーが参加してきた事で歪な三角関係が生まれてしまった。

 さらに「面白そぉー、アタシも作るぅー」とフィーリンまで乗ってきて、「そ、それなら僕が体を作りますよ、フィーリンさん」とエギルまで顔を赤くして入ってきたので、無茶苦茶な事に成ってしまった。

 勘弁してくれー。



 そんな状況も昼食を終える頃には落ち着いた。


「フィーリンさん、僕はこれからオヤジ、んん……村長の所に行って、ゴーレムに必要な材料を集める為に話してきます」


 試作ゴーレムが完成したので、本番用のゴーレムの材料を集めるそうだ。ただロックンと違い、本番のゴーレムは大きい。材料も沢山必要なので、村人全員で協力して集めなければいけないらしい。


「フィーリン、エギルに全て任せず、お前も協力を要請しろ」


 リディーが真剣な顔で告げると、フィーリンが「えぇー、アタシがぁー?」と面倒臭そうに言った。


「当たり前だ。このロックンは試作品だから、おっさんとエギルに任せていたが、これから作るのは、お前が壊し、新しく作ると約束したゴーレムだ。お前が率先して作っていかなければいけない。酒の席での約束は必ず守るんだろ。なら、責任持って実行しろ」


 リディーが諭すようにフィーリンに言う。どちらが姉でどちらが妹か分からない。


「まぁ、そう言う事なら……エギル、アタシも一緒に行くよぉー。いや、みんなで行こぉー」


 やる気になったフィーリンは、エーリカ、リディー、マリアンネを引っ張るように外へ出て行く。

 遅れた私とエギルは女性陣の後ろ姿を見ながら後を追う。

 ロックンもキャタピラーを動かして、私の速度に合わせて付いてくる。


「ねぇ、エギル。ちょっと聞きたい事があるんだけど?」


 良い機会なので、少し疑問に思った事を尋ねてみた。


「どうしてエギルは、積極的にゴーレム作りに手を貸してくれるの? フィーリンの為?」

「確かにフィーリンさんの手助けはしたい。だが、それだけが理由じゃない」

「別の理由があるの?」

「そんなの決まっているじゃねーか。面白れーからだよ。僕たちは散々鉱石を叩いて道具を作ってきた。そんな鉱石の塊が僕たちみたいに動くんだ。面白れーじゃねえか。今回のゴーレム作りを機に新しい技術が手に入れば、よりドワーフの名が広がるってもんだ」


 やはりエギルは研究者タイプのドワーフのようだ。


「他のドワーフは、あまり関心がなさそうだけど?」


 魔女の廃村まで一緒に行ったレギンは、村長の命令で同行してくれただけで、すぐに帰りたがっていた。

 ドワーフにとってゴーレムは興味の対象外なのだろうか? それかエギルが特別なのか?


「今の連中は、鉄を打って、酒を飲んでいれば満足している。ゴーレムなんて、ただの魔物の一種としか思っていない。戦時中は違っていたんだがな」

「戦時中って……」

「百年も生きられない人間には分からん事さ」


 ドワーフの寿命は五百年ほど。目の前のエギルも二百歳以上なので、何度も戦争を経験しているようだ。


「くだらない小競り合いもあれば、国同士の大規模の戦いもあった。その度に僕たちは、武器や防具を作り続け、中には戦場にも立った。敵を殺す為、また自分や仲間が死なない為に最高級の武器や防具を作った。新しい技術を追い求め、常に研鑽していたんだ」


 ダムルブールの街にいるドワーフ師弟は、最高の武器や防具を作る為に今も切磋琢磨している。だが、ここのドワーフは、酒代を稼ぐ為の日用品を作るだけである。武器や防具を作った所で、使う者もいなければ、使う機会もないので作らなくなったと、以前、別のドワーフが言っていた。


「でも、戦が無いのは良い事じゃないの?」

「ああ、それは間違いない。だが、戦争だけが戦じゃない。この村は迷いの森と風吹き山に隣接している。魔物の巣に囲まれているんだ」

「えーと……何が言いたい訳?」


 何か変な方向へ話がズレていき、終着点が見えなくなっていた。


「今までは何とか成っているが、いつでも魔物の集団に襲われる可能性がある」

「なるほど、その為のゴーレムか」

「そんな話ではない」


 あれ? 違ったみたい。


「平和だからって研鑽を怠っていけば、能力は停滞する。いや、低下だ」


 ドワーフと言えば鍛冶の代名詞みたいな種族だ。そんなドワーフの鍛冶能力が低下している事にエギルは嘆いている。そんな話なのだろう。


「エギルは、そんな現状を改善したいと思っている訳だ」

「今の連中は酒代の為だけにハンマーを握っている。人間が作るような安い鍋や包丁をだ」

「良い物を作ると高価すぎて買い手が付かないと別のドワーフが言っていたよ。買ってくれないとお酒が飲めない。エギルもガバガバと酒を飲むよね」


 「むぅ……」とエギルは顔を逸らす。


「ふ、ふん、別に至高の武器を作れとは言わん。僕は自尊心や向上心を持てと言いたいんだ!」

「村の為に色々と考えている所、次期村長はエギルが成った方が良いね……あっ!?」


 私は急いで口を(つぐ)む。

 無責任な言葉を言って後悔した。

 村の事を部外者の私が口を挟む事ではない。

 そんな私の言葉をエギルは気にする事なく鼻で笑った。


「残念ながら僕は鍛冶も戦闘も大した事はない。魔術も初歩的なものしか使えない。デスフラワーの酒も二杯が限界だ。村長の息子だと言うだけで村人は相手にしてくれるが、ドワーフにとってどれも致命的な欠点だ。村長なんぞに成れるか」

「そ、そうなんだ」


 鍛冶や戦闘に関しては良く分からないが、デスフラワーの蜂蜜酒を二杯も飲めれば、凄いのではなかろうか? ドワーフの基準がさっぱり分からない。


「でも、村長はエギルの事を評価していたよ。どのドワーフよりも頭の出来が良いって、魔女の廃村に行く前に言っていた」


 実際にゴーレム作りはエギルに丸投げしてしまった。そのおかげで、問題無くロックンが誕生した。


「ふん、ただの身贔屓なだけだ」


 そう言って、長い髭をモサモサと触りながら、エギルは顔を逸らす。

 照れているのかもしれない。


「まぁ、なんにしろ、僕は未知の塊であるゴーレムを調べ、村人が驚くような物を完成させてやる。そして、鍛冶の向上、技術革新の可能性を示してやるつもりだ」


 おっ、話が戻った。


「エギルはフィーリンの事が好きなんだよね」

「は、恥ずかしい事を真顔で言うな! 数十年しか生きていない若造が色恋沙汰を語るな! 百年早いわ!」


 別の疑問を聞く為に振った言葉なのに、怒られてしまった。


「そう言う話をしたい訳じゃなくて……ゴーレムが完成したらフィーリンは村から出ていく事になるけど、それでも手を貸してくれるのはどうしてだろうと思ってね」

「結果はどうあれ、フィーリンさんの為に手を貸すのは当たり前だろ」

「そもそもの話、フィーリンってドワーフに似てないよね。それなのに村人に受け入れられ、姫さまと呼ばれているのはどうして?」


 ドワーフの女性は、髭面の男ドワーフを少し柔らかくしただけの外見だ。子供も然り。一方のフィーリンは若干体付きがしっかりしているだけで、見た目は人間の女の子である。

 ドワーフに似せて作られた人形のわりには、まったく似ていない。


「だからお前は若いって言っているんだ。僕たちドワーフは人間と違って、顔立ちや髭の有無だけで判断しない」

「何となく予想はつくけど、何を基準で判断するの?」

「決まっている。鍛冶、腕っぷし、酒の量だ。フィーリンさんはどれも凄い。まさにドワーフの女神様だ」


 うん、予想通りの答えだった。


「そんなフィーリンさんの邪魔はしない。彼女が望むなら喜んで手を貸す。それがドワーフの道理だ」


 そのわりには大量のお酒を飲ませて、ゴーレム作りを遅延させていたのだが……。



 ビューッと強風が吹く。

 時たま風吹き山から吹く、空っ風である。

 小石がビシバシと体に当たり痛い。

 隣にいるエギルの髭がバッサバッサと(なび)いて、根本で千切れるのではと心配になる。

 私の隣にいるロックンは、鉱石の塊という事もあり、小石が当たろうが、強風が吹こうがへっちゃらである。


「旦那さまぁー、エギルゥー、ロックンー。風が強くなる前に急いで食堂へ行くよぉー!」


 前方を歩いていた女性陣が走り出したので、私たちも顔を庇いながら駆け出す。

 広場でエール作りをしていたドワーフたちが酒樽を担ぎながら急いで食堂へ避難している。そんな彼らの隙間を縫いながら私たちも食堂へ入った。


「えーと、村長、村長……いた! おーい、村長ぉー!」

「姫さま、折角、労働後の一杯を楽しんでいたのに、強風で台無しですよ。気を取り直して、ここで飲み直しますが姫さまもどうですか?」

「良いねぇー」

「違うだろ、馬鹿!」


 リディーがすかさず訂正させる。


「えーと、何だっけ……ああ、村長に報告と協力をお願いしようと思ってねぇー。酒を飲みながら聞いてくれる?」

「協力ですか?」

 

 眉を寄せる村長にフィーリンは二つの酒器に酒を注ぐ。


「ゴーレムの作り方が分かったから、村人全員を貸してくれるかなぁー」


 そう言って、フィーリンはグビグビと酒を飲み干した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] エギルさんの侠気が槌の音のように(直喩)心に響きますねえ [一言] 命がかかると解像度が上がるのはあるあるすぎて困る 現代人だと災害のときに命がけになりますね 川があと少し増水すれば家が沈…
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