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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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284 試作ゴーレム作り その1

 ドワーフの村に来てから三日目の朝を迎える。

 いつも通り私の胸板の上で寝ているエーリカを起こし食堂へ向かうと、リディーとフィーリンとマリアンネが朝食の準備をする事なく椅子に座っていた。

 どうしたのだろうか? と首を傾けていると、マリアンネが私の前に進み出る。

 どことなくホワホワとしているマリアンネだが、今日は真剣な表情であった。


「クズノハさん、お願いがあります!」

「な、何!?」


 マリアンネの迫力に押され、私は一歩後退る。


「私、昨日のが忘れられないんです!」

「……はぁ?」


 何を言っているのか分からない。

 エーリカから冷たい視線を感じながら、「どういう事?」と聞き返す。


「昨日作ったふわふわのパンが忘れられないんです。もう一度、作ってください。お願いします」

「もしかして、スフレパンケーキの事?」


 昨日、みんなでメレンゲを作って、スフレパンケーキを食べた。マリアンネはその味をもう一度味わいたいみたいである。


「朝起きたら、ずっと食べたい食べたいと言っているんだ。だから、朝食を作らずに待っていた」

「美味しかったもんねぇー。アタシも食べたいよぉー」


 リディーが説明し、フィーリンは酒を飲みながら同意する。


「これからメレンゲを作るつもり? 昼とか三時のおやつじゃ駄目なの?」


 メレンゲ作りは肉体作業だ。朝一でやる調理ではない。私は絶対にやりたくない。


「待てません。私が作ります。だから、作り方を教えてください」


 うーむ、どうもマリアンネは連日の心労から甘味に飢えているようだ。

 それにしても私の周りには中毒患者が多すぎる。

 フィーリンはアルコール中毒だし、リディーは野菜中毒だし、マリアンネはお菓子中毒になってしまった。エーリカは……私中毒かな?

 健常者は私だけか。まぁ、外見と中身が乖離している私が一番変なのだが……。


「朝食が遅くなるけど良い?」


 みんなに意見を聞くとマリアンネとフィーリンはコクコクと大きく頷いた。リディーは肩を上げるだけで反対はしない。腹ペコエーリカは、クゥーとお腹を鳴らすだけだった。

 まぁ、私も美味しいものを食べたいし、朝から頑張るか。

 

 そういう事で、エーリカ、フィーリン、マリアンネの前に陶器のボールを置いて、カツカツカシャカシャと卵白をかき混ぜてもらう。

 ちなみにエーリカのメレンゲだけ砂糖ではなく、塩を入れてある。

 スフレパンケーキだけでは朝食らしくないので、スフレオムレツを作ろうと思ったからだ。

 二回目の砂糖投入で「辛くなってきたー」と弱音を吐くマリアンネを聞きながら、私とリディーは付け合わせのスープと温野菜を作っていく。

 そして、パンを温め終えた時にメレンゲが完成した。

 エーリカとフィーリンは普段通り。言い出しっぺのマリアンネだけ机に倒れて、「疲れたー」と後悔している。

 致し方ない。昨日の反省を生かし、倍近い時間をメレンゲ作りに費やしたのだ。その甲斐もあり、ふっくらとしたメレンゲが完成した。

 そんなマリアンネを無視しながら、メレンゲに黄身と牛乳と小麦粉を混ぜて、パンケーキとオムレツを焼き上げた。


「ようやく、完成だね。じゃあ、さっそく食べよう」


 待っていましたとばかりに、みんなはフォークを動かす。

 私も食べ出すが……うーむ、スフレパンケーキとスフレオムレツを同時に作ったのは失敗だった気がする。

 見た目は殆ど同じ。それなのにパンケーキは甘く、オムレツは塩胡椒味。交互に食べると頭が混乱する。

 だから、スフレパンケーキは食後のデザートとして少し離れた場所に置いた。そうしたら、目聡くエーリカが「ご主人さま、食べないならわたしが食べます」と眠そうな目を光らしている。エーリカだけでなく、リディーもフィーリンもマリアンネもジロジロと私のパンケーキを見ているので、仕方なく一緒に食べる事になった。

 


 朝食を終えた私たちは、ゆっくりとお茶を啜りながら休憩をしている。


「はぁー、満足、満足。また夕飯にでも食べたいね」

「マリアンネが率先して作るならね」


 欲求を満足させたマリアンネだが、まだ食べ足りないみたいだ。

 そんなマリアンネにリディーは呆れた顔をして、ミント茶を啜っている。


「エーリカの魔術具を分解して、泡立て器をくっ付けば、メレンゲってやつを楽に作れるんじゃないかなぁー? 今度、アタシがくっ付けてあげようかぁー?」

「フィーリンねえさんなら接着させる事は出来るかもしれません。ただ、実際に動かした時、回転率が高いので、泡立て器の方が駄目になりそうです」

「ああぁー、博士の魔術具だもんね。流石のドワーフ製でも刃が立たないかぁー」


 エーリカとフィーリンが自動泡立て器の話をしているが、上手くいきそうになさそうだ。

 ただ、これからアナの家が食事処になる。自動泡立て器があれば、何かと便利だろう。

 ダムルブールの街に戻ったら、魔術具作りが得意なクルトにお願いしてみようかな?

 


 そんな事を思いながら食後の休憩を終え、片付けをしていたら工房の方から声がした。


「おはようございます、フィーリンさん。それと客人」


 工房には村長の息子で、お腹がでっぷりと太っているエギルが荷物を抱えて立っていた。ちなみにエギルがフィーリン以外の私たちをおまけ扱いしているのは、いつもの事なので気にしない。


「おはよぉー、エギル。朝の一杯を終わらすには早いねぇー」

「ええ、他の連中はまだ飯を食べながら飲んでます。僕はフィーリンさんと一緒にゴーレムを作りながら飲もうと思いまして、すぐに来ました」


 寝起きに一杯。朝食に樽一杯を飲むドワーフ。今、酒の在庫が少ないのを理解しているのだろうか?


「ゴーレム作りって、もう素材は集まったの?」


 私がエギルに声を掛けると「ああ」と素っ気なく返答した。フィーリンとの温度差にちょっとだけ心が傷付く。

 そんなエギルは再度フィーリンに顔を向けると抱えている素材を地面に広げた。


「これが『魔力鉱石』と『息吹の根源』です」

「へぇー、これがそうなんだぁー。……普通の石だねぇー」


 エギルが取り出したのは、真っ黒な拳大の石が五個と小さな石が沢山入った麻袋だった。

 興味を失ったフィーリンが一歩下がり、代わりに私が前に出ると、エギルは嫌そうな顔になった。それでも律儀に説明してくれた。


「風吹き山の中腹に大きな魔石がある。とても純度が高く、風吹き山を中心に広範囲に魔力の影響を与える魔石だ」

「その魔石を取ってきたの?」

「まさか。僕たちが生活できるのはその魔石のおかげだ。魔力が満たされる事で質の良い鉱石が取れる。まぁ、魔物も現れるがな」


 エギルは、その魔石の力によって、魔物の巣窟である迷いの森が誕生したという説もあると付け加えた。


「話を戻すが、その魔石の周りには純度の高い鉱石が取れる。それを利用したのが星光石だ」


 村長の家には、光を発する石材が使われている。その石材が星光石だった筈。


「ミスリルやアダマンチウムとまではいかないが、星光石も魔力伝達率が高い。少しの魔力で星の光を吸収し、光を発する程だから細かく説明しなくても分かるだろう」

「つまり、『魔力鉱石』は星光石を使うって事?」

「まずはな」

「まずは?」

「星光石は非常に手間が掛かる。それをゴーレムの骨格として使用するには、さらに手間が掛かる。実際に使って、ゴーレムとして使えないと分かると無駄骨だ。まずは、上手くいくか試作を作りたい。分かるな?」


 ああ、私も複雑なゴーレム案を作ってしまったので、まずはチビゴーレムを作って、テストするつもりだった。

 

「だから、量が少ないんだね。納得した」


 エギルが持ってきたのは、五個の真っ黒な石の塊と大量の小石である。素人の判断でもゴーレム作りには足りない。


「昨日の内に用意が出来たのはこれだけだ。これを使って、小さなゴーレムを作る」


 ちなみに五個の石の塊は、村長の家で使われている星光石を引っこ抜き、精鉄し直した物らしい。


「今更、こんな事を聞くのはどうかと思うけど、壊れたゴーレムから必要な材料を取って使った方が早くない?」


 私は地面に崩れている汚いマシュマロマンのようなゴーレムを指差す。

 壊れているとはいえ、少し前まで動いていたゴーレムだ。まだ使える部分がある筈。再利用すれば時間も手間も掛からないだろう。

 

「それは止めておいた方がいい」

「理由は?」

「今思えばの話だが、このゴーレムは出来損ないだ。昨日の教会跡地に現れたゴーレムもどきの動きを見て、分かった」

「そうなの?」


 私は実際に戦って壊したフィーリンに視線を向ける。


「エギルの言う通りだねぇー。動きが凄く遅かったぁー。ただの岩の塊を相手にしていた感じぃー。だから、簡単に壊せたんだねぇー」

「前村長は『魔力鉱石』をケチったのだろう。そんなゴーレムの素材を使っても不具合が起きるだけだ」


 確かに、不良品を使って、すぐに壊れてしまっては元も子もない。


「ゴーレムには無限の可能性がある。ゴーレムもどきやヘビ男のゴーレムを見た後で、それを確信した。今回、上手くゴーレムが作れるようになれば、新しい技術が生まれるぞ」


 さすがドワーフ。鍛冶などの物作りに関しては、誇りと拘りがあるみたいだ。それは目の前のエギルも当て嵌まり、この先の未来を見越してゴーレムを完成させたいみたいである。


「じゃあ、『魔力鉱石』は星光石を使う方向で問題なしと……。それなら麻袋に入っている小石が『息吹の根源』なの?」

「そうだ。昨日、アーベルとアーロンに頼んで、魔物の魔石を集めて貰った」


 昨日、迷いの森に入ったにも関わらず、ゴブリンしか倒してないという事で、昼過ぎに再度森の中に入っていった。その時に狩ってきた物らしい。

 良くもまぁ、これだけ集めたものだ。

 ああ、青銅等級のヴェンデルとサシャも連れて行かれたんだったな。そう思い、マリアンネを見ると、青い顔をしながら部屋の隅に移動していた。今日も外に出ず、工房に引き籠るつもりだろう。


「この魔石を溶かし、一つの魔石にする」

「そんな事が出来るの?」

「僕たちを誰だと思っている? 鉱石や魔石を加工するのは、髭が生えだしたガキでも出来るぞ」


 鍛冶作りの専門家のドワーフだ。その辺は言葉通りに期待しておこう。


「魔石を一つにまとめ、残っている魔力を抜けば、ヘビのゴーレムの言う核が出来上がる」

「それが『息吹の根源』なんだね。でも、ゴブリンなどの小さな魔石でも使えるものなのかな?」


 ゴブリンの魔石は二束三文にしかならないクズ魔石だ。

 どんなに集めてもゴーレムの核として品質が保てるのだろうか?


「一つにまとめるから大丈夫だと僕は考えるが……その辺も含めての試作品だ」


 まずは作ってみて、不具合などを見て改善していこうとエギルは言う。


「残りの『原初の火』はお前たちが持っている。これで材料は揃った。早速、始めるぞ」


 「良いですね、フィーリンさん?」と最終確認をするエギル。

 お酒を飲みながら私たちを見ていたフィーリンが、「良いよぉー」と他人事のように許可を出して、ついにゴーレム作りを始める事になった。


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