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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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282/347

282 最奥の工房

 通路の先の部屋。

 ここが地下道の最奥だと扉を開けた瞬間に理解した。

 光の魔法陣が等間隔に並んでいた薄暗い通路と違い、この部屋は非常に明るいのだ。

 さらに壁際には石材で作った机が設置してあり、フラスコみたいな器具まで置いてある。

 埃は一切被っておらず、部屋全体に掃除が行き届いており、清潔感があった。

 数百年前に無くなった廃村の地下とは思えない場所である。

 そんな部屋の中央に石像が立っている。

 上半身裸の男性。下半身はヘビに成っていた。

 

「ヘビの精霊を模した像ですね」


 エーリカが小声で教えてくれる。

 ヘビの精霊、私の知識ではナーガである。

 そのナーガの石像だが、なぜか手には使い古された箒が握られていた。


「人の子よ。何用でここに来た?」


 一歩、部屋に入るとナーガの石像から声がした。

 口元は動いていないが、間違いなくナーガの石像から発している。


「えーと……ここは何かな?」

「我が主の工房だ」


 試しに聞いてみたら、しっかりと返答が返ってきた。


「あなたの主って、魔女の事?」

「我が主は我が主。魔女ではない」

「それなら、あなたの主の名前は何かな?」

「主は主。それ以外にない」


 うーむ、答えてくれるのだが、どうも機械に話しかけている感じがする。


「この部屋の奥は何があるの?」


 今居る部屋の左右に別に部屋に通じる扉がある。ただ、扉は木製だったらしく、長い年月によって朽ち果てていて、入り口が瓦礫で埋もれていた。もしかしたら、そこにゴーレムの製法があるかもしれない。


「この先、寝室と書庫。入るには、我が主の許可が必要」


 興味深そうにナーガの石像を見ていたエギルが、「書庫!」と一歩進んで覗こうとする。


「エギル、無理に入ったりしないで。さっきのゴーレムもどきみたいに、敵対行動と勘違いして、攻撃してくるかもしれない」


 まったく身動きしないナーガの石像に注意を払いながらエギルに注意をする。エギルも「そうだな」と一歩下がった。


「私たち、そこの書庫に用があるんだけど、入れない?」

「駄目だ。お前ら、許可ない。入れられない」


 私は首を伸ばして、書庫らしい部屋を覗く。

 ゴーレムの製法が分かるとしたら書庫だろうと思うが、エギルに言った手前、許可なく入るのは不味いだろう。


「許可が貰いたいんだけど、あなたの主はどこにいるの?」

「存じない」

「奥の部屋にはいないの?」

「いない」

「帰って来てないの?」

「戻らない」


 もしかしたら奥の部屋で死んでいるかも、と思ったがそうでもないらしい。

 とはいえ数百年前に居た魔女だ。エルフやドワーフでない限り、もう寿命で死んでいる事だろう。ただ、「すでに死んでいるよ。だから、許可はいらないんじゃない?」と石像相手とはいえ、デリカシーのない事は言えない。


「そもそも、あなたは何? ここで何をしているの?」

「我、蛇人族を模したゴーレム。工房の管理を命じられている」

「ああ、そうなんだ……えっ、ゴーレムなの?」


 まさか目の前の石像が私たちが知りたいゴーレムとは……。この石像を調べれば良いのだろうか? それともお持ち帰りするべきか? 外に誘ったら来てくれるかな?


「本当にゴーレムなの? 何でナーガ……んん、蛇人族の姿なの?」

「ヘビは偉大なる竜属の末裔。人は知能が高い。力と知能を合わせた結果の姿」


 どことなく自慢げに説明するナーガ姿のゴーレム。

 ここに居た魔女は、どういう趣向をしているのやら……。もっと他にもカッコいい姿があったんじゃないかな? 


 うーん、それにしても……。

 教会に現れたゴーレムもどき、それと目の前の石像ゴーレム。もしかしたら、魔女はゴーレムを研究していたのかもしれない。

 いや、もしかしたらゴーレムではなく……。

 私はチラリとエーリカを見る。

 私と目が合ったエーリカは、コテリと首を傾げた。


「なぁ、おっさん。あまり時間がないと思うけど?」

「早く目的を果たさないと三人が潰れちゃうよぉー」


 つい流れで色々とナーガ姿のゴーレムと話していたら、しびれを切らしたリディーとフィーリンから注意が飛んだ。

 

「ああ、そうだったね。えーと、私たちはゴーレムの作り方を知りたくて、ここに来たの。製法方法が分かる物がある筈なんだけど、何か知らない?」

「そんな物はない」


 きっぱりとナーガゴーレムは断言する。


「書庫にあるんじゃない?」

「ない」

「本当?」

「嘘、言わない」


 ナーガゴーレムの表情が変わらないので、本当か嘘か、分からない。

 時間が無いので、無理をしてでも書庫に入ってみようか?

 その影響で、ナーガゴーレムが攻撃してくるかもしれない。

 正直やりたくはないが、ここにはエーリカもリディーもフィーリンもいるので、攻撃されても何とか成るかもしれない。


「嘘を言っているんじゃねー! 俺の爺さんは、ここでゴーレムの製法を知ったと日記に書いているんだ! どうなんだ?」


 若干、距離を空けながらエギルはナーガゴーレムに向けて怒鳴る。チラチラとフィーリンの顔を見ているので、カッコいい所を見せているつもりらしい。


「嘘、言わない。製法方法を記した物は存在しない」

「じゃあ、何で爺さんは知る事が出来たんだ?」

「我が教えた」

「……はぁ?」


 エギルから間抜けな声が零れる。


「えーと……ゴーレムの作り方を知っているって事?」

「我はゴーレム。知っていて当然」

「私たちにも教えてくれる?」

「先日も教えた。問題ない」

「先日?」

「三百年前の事」


 三百年前を先日って、時間間隔が狂ってる!


「じゃあ、早速ゴーレムの作り方を教えて」


 私がお願いすると、ナーガゴーレムはスルスルと下半身を動かして作業台へ移動した。体が石像なのに本物の蛇のような滑らかである。

 ナーガゴーレムは、作業台の棚から一枚の石板を取り出すと、手を添えて呪文を唱え始める。そして、ブツブツと何やら呟くと石板が光り出し、すぐに消えた。


「『原初の火』だ」


 そう言うなり、魔法陣の描かれた石板を私に渡した。

 どういう事? と首を傾げると「魔力を流して下さい」とエーリカから助言がくる。

 私は掴んでいる手から石板に魔力を流すと魔法陣が光り出し、ボッとライターのような炎が飛び出した。


「『原初の火』で『魔力鉱石』を溶かす。弱火でゆっくりと溶かす。溶けた『魔力鉱石』で骨組みを組む。その後、肉付けし、最後に『息吹の根源』を吹き込み、契約をしろ」


 淡々と作業工程を語る石像ゴーレム。特に難しい作業ではなさそうだ。

 ただ……。


「えーと、残りの『魔力鉱石』と『息吹の根源』は?」

「在庫ない。自分らで調達しろ」


 えー!? ここまで来て、それはないよー!

 

「『魔力鉱石』については、僕の方で何とか用意する。だが、『息吹の根源』とは何なんだ? 吹き込むって、息でも吹きかけるのか?」


 私の横に移動したエギルがナーガゴーレムに尋ねる。


「『息吹の根源』はゴーレムの源。生命の力。我にもある」


 そう言うと、石像ゴーレムは自分の胸元を指差した。


「源……生命……ああ、核の事か!? 魔力を流し込めって事だな! つまり、魔石を用意すれば良いんだな」

「魔石ではない。魔力のない石。そこに息吹を吹き込め」


 エギルが「そういう事か」と納得している。

 

「エギル、何とかなりそう?」

「ああ、手間は掛かるが、何とかなるだろう」


 頼もしい返事が返ってきた。

 ここにエギルが居てくれて本当に助かった。

 エーリカはいつもの眠そうな顔で私を見ているだけだし、リディーは壁に凭れて欠伸をしているし、フィーリンに至っては地面に座ってお酒を飲んで休憩をしている。

 そもそもフィーリン。君の為にこんな場所に来ているんだから、私とエギルに任せきっていないで、会話に参加しようね。


「今更だけど、『原初の火』の石板を貰ったり、ゴーレムの作り方を教えてもらったけど、勝手にそんな事をして大丈夫なの? あなたの主に怒られない?」


 ここは魔女の工房らしい。そんな研究成果みたいな情報を無料で教えて貰ったのだ。何か要求でもされるかもしれないと危惧してしまう。


「我が主から禁止されていない。問題無い」


 そう言う問題? 禁止していないからって、ペラペラと研究内容を話しても良いものだろうか? まぁ、教えて貰う側としては有り難いけど……。

 そう思っていると、ナーガゴーレムから「それに……」と付け加えられた。


「同胞が増えるのは、我も嬉しい」


 既に廃村となり、魔女も生きているのか死んでいるのか分からない状況。そんな地下の工房で主の帰りを待っているナーガゴーレム。

 私たちのように自意識があるのか分からないが、ゴーレムはゴーレムで思う所があるのだろう。


「用が済んだのなら、帰るがいい」


 ナーガゴーレムが何やら唱えると、私たちが入ってきた扉の横に別の扉が現れた。新しく出来た扉から出れば、罠だらけの地下通路を進まなくても地上に帰れるのだろう。


「そこから帰りたいのは山々なんだけど、手前の部屋で仲間が天井に押し潰されそうになっているんだよね。罠の解除方法を教えてくれないかな?」

「天井が下り切れば、元に戻る」

「それじゃあ、死んじゃうよ」


 天井を支えているアーロンとアーベルは出入口から抜け出せば助かるが、壁から腕が抜け出せないレギンは助からないだろう。

 いや、ドワーフ製の鎧を着ているレギンなら助かるかな? まぁ、その場合、腕は千切れてしまうけど……。


「それなら起動の石を元に戻せ。解除される」


 もう話す事はない、と石像ゴーレムは私たちの足元を使い古された箒で床を掃き出した。さっさと帰れって事だろう。

 私は『原初の火』の石板をエーリカの袖口に仕舞ってもらうと、掃除の邪魔に成らないよう工房から出た。

 


 急いで来た道を戻る。

 潰されていなければ、今もレギンが潰れないようにアーロン、アーベル兄弟が必死に天井を支えているだろう。

 そう思っていたら……。


「兄貴、今度は俺の番だ」

「十秒だぞ。それ以上したら潰れるからな」

「分かっている。……良し、手を離せ!」

「踏ん張れよ、弟よ! それ!」

「うおおぉぉ、重てぇー」

「一秒、二秒……」

「ひ、膝が壊れそうだ……足の骨が折れそうだ……」

「六秒、七秒……」

「ヒヒヒィ……なぜか笑えてきた……」

「九秒、十秒……終わりだ」

「ふぅー、危うく力尽きて、潰れるかと思ったぜ」

「危機感があって面白いな。良い場所を見つけた」

「明日から朝の散歩はここにしよう」

「おい、てめーら! 遊んでいないで、二人でしっかりと支えていろ! 俺はお前らと心中したくないぞ!」


 部屋から楽しそうな声が聞こえる。

 天井の罠を満喫しているようで、急いで戻る必要はなかったみたいである。


「レギン、奥へ押し込んだ石を元の場所まで戻せば、罠は解除されるみたいだよ」


 念の為、通路から声を掛けると、「そうか、そうか。ちょっと待っていろ」と嬉しそうなレギンの声が返ってきた。

 しばらくすると、腕が挟まっていたレギンが出入り口から顔を出す。無事に解除できたみたいだ。

 目的を果たした私たちは、再度ナーガゴーレムの元へ戻り、新しく出来た扉から階段を上がり、地上へ向かう。階段は廃村の中央付近にある瓦礫と化した建物に繋がっていた。

 後はドワーフの村へ帰るだけ。

 一秒でも速く帰りたい私たちは、アーロン、アーベル兄弟を先頭に村のある方向へ一直線に迷いの森を突っ切る。

 草木や大木をぶった切り、魔物をぶった切り、邪魔な岩をぶった切りながら進む。ブルドーザーみたいな双子のおかげで、本当に一直線に進んだ事で短時間でドワーフの村へ帰る事が出来た。


 たった半日の事だったが、色々とあり過ぎて、心底疲れた。

 これから本格的にゴーレムを作らなければいけないのだが、今日の所は休もう。

 そう思いながら、私はドワーフの村に戻ったのであった。


ようやく「迷いの森」を終えました。

第四部も終わりが見えてきました。

ふー……。

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