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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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273 迂回 その2

 現在、途切れた林道から脇に逸れ、迂回をしている。

 途中、木の魔物のエントが行く手を阻んでいたので、フィーリンが土で作った爆発する斧で粉砕。その爆発音で、ゴブリンやヒヒの魔物が集まってしまった。

 折角、アーロン・アーベル兄弟が大量のゴブリンを足止めして、私たちを魔女の廃村まで行かせてくれたのに、意味を成さない状況になってしまった。


「雑魚だが数が多い。ここで数を減らしてから進むしかない」


 全身鎧のレギンが一歩前に出ると斧を構える。だが、それをエーリカが腕を横にして押し留めた。


「駄目です。ネズミのように増えるゴブリンです。ここで戦っても次から次へと現れて襲ってくるでしょう。雑魚とはいえ、地の利のない場所です。強引でもいいので走り抜けた方が得策です」

「走り抜けるって、どうやって!? 数が多すぎるぞ!」


 エーリカは怒鳴るレギンには答えず、私に視線を向けた。


「ご主人さま、光の魔力弾で視力を奪ってください。その隙に走り抜けます」


 私の十八番である目潰しで動きを止めるのね。うん、得意技だから問題ない。

 

「みんな、目を逸らして! 絶対に見たら駄目だよ! 強い光を放つからね! ふりじゃないからね!」


 何も知らないフィーリン、エギル、レギンに向けて注意をすると、私は右手に集めた魔力弾をゴブリンの集団に向けて放った。

 先頭を走るゴブリンの頭に光の魔力弾がぶつかり、薄暗い森に閃光が広がる。

 「ギャアギャア」と叫びながら足を止めるゴブリン、「キィキィ」と叫びながら枝から落ちるヒヒの魔物、「うわっ!?」と声をあげる一人の人間。私の忠告を無視した人物が居るみたいだ。

 「まったく……」と後ろを振り返ると目を覆って(うずくま)るリディーがいた。


「リディー、君は何をしているの?」

「それはこっちの言葉だ! 急いで追い駆けて、やっと合流できたと思ったら、これだ! うぅー、目が痛い……」


 リディーが私の魔力弾を食らうのは三度目だ。フレンドリーファイヤを食らうのが定番になってきていた。


 真面目な話、便利だからといって光の魔力弾を連発するのは不味い気がしてきた。

 そもそも戦闘中に目を瞑ったり、逸らしたりするのは危険過ぎる。

 慣れている私は少し顔を逸らし、薄目で対処をしているが、始めての者は直前に忠告しても瞬時に対応できるとは思えない。

 何とか限定的な範囲で光らせればいいのだが……。


「リディーと旦那さまぁー、遊んでいないで行くよぉー」


 フィーリン、エーリカ、エギル、レギンが駆け出した。

 私は「行ける?」とリディーに尋ねると、「おっさんの後を追うから問題ない」と答えたので、私も駆け出す。

 目を瞑っているにも関わらず、リディーは長い耳をピクピクさせながら私の後ろを危なげなく付いて来た。


「はっ!」

「たぁー!」


 先頭を走るエーリカとフィーリンは、草花の上で目を覆っているゴブリンに魔力弾と土斧で止めを刺しながら通過する。

 後ろを走るエギルとレギンも斧でゴブリンの頭をかち割りながら通り抜けて行った。

 私もレイピアに魔力を込めるが、すでに通り道はゴブリンの死骸しかないので、ただ走るだけで終わった。


「リ、リディー、このまま大丈夫? も、もう少し、速度を落とそうか?」


 木の根っこや草木が生い茂って走り難い道無き道を走っているので、今の私は汗だくで息が上がっている。魔物に襲われている緊張もあり、いつ足を踏み外して転ぶか分からない。

 そんな私は、リディーをダシに速度を落とせないかと期待をするのだが、当のリディーから「話しかけるな!」と怒られてしまった。


「おっさんの足音を聞きながら進んでいるんだ。余計な音がすると後を追えない」

「あっ、そうなんだ。ごめ……」

「……あいたっ!?」

 

 「ごめんね」と言おうとした時、大木の枝がリディーの頭を直撃した。

 うん、本当にごめんね。


「うぅー……あっ、左右から足音がする」


 額を押さえているリディーの長い耳がピクンと動くと、「左に一匹、右に三匹だ!」と叫ぶ。

 リディーの言う通り、草を掻き分けながらゴブリンが私たちに向かって駆けてきた。

 「えいっ!」とフィーリンが土斧をブンッと投げると、左から来た一匹のゴブリンの頭に突き刺さって倒れた。

 右から来た三匹のゴブリンは、エーリカの魔力弾で吹き飛ばすと、エギルとレギンの斧で止めを刺した。

 

「上にもいるぞ!」


 木の上に一匹のヒヒの魔物がいる。

 「わたしがやります」とエーリカは、右腕を上げて、魔力弾を放つ。

 ヒヒは一直線に飛んでくる魔力弾を避けるように別の枝に飛び移る。

 その行動を予測していたのか、エーリカはすぐに飛び移った場所に氷の魔術を左手から放つ。

 氷柱のように尖った氷は、ズブリッとヒヒの頭に突き刺さり、地面に落した。


「キキィー!」


 私のすぐ横から鳴き声がした。


「ご主人さま、もう一匹います!」


 エーリカの叫び声と同時に横を振り向くと、ヒヒの魔物が私目掛けて飛び掛かっている。その手には、先の尖った枝を持っていた。

 

 間に合わない!


 体を逸らして攻撃を避けようとするが、すでにヒヒの魔物は目と鼻の先。このままではヒヒが持っている枝で体が突き刺さる。

 どうか皮鎧に当たってくれ、と願っていると、突然ヒヒが横へと吹き飛び、大木にぶつかった。

 私を襲ったヒヒは、頭に矢を受け、大木に縫い留められている。


「リディー、助かった。ありがとう」


 弓矢を構えているリディーに感謝をすると、「ん? 当たったか?」と目を瞑りながら、長い耳をピクピクさせていた。


 うわー、この娘、まだ目が見えていないよ!

 少し距離が違っていたら、私もフレンドリーファイヤされていた!



「行くぞ」


 レギンの掛け声と共に再度森の中を走り出す。

 時々ゴブリンとヒヒの魔物が襲ってくるが、特に危なげなく殺しながら進む。


「ようやく見えるようになってきた」


 私の後ろを走っているリディーが呟く。

 リディーの視力が回復したという事は、ゴブリンの視力も回復したという事で、後方から大量のゴブリンが迫って来ていた。

 

「『光刃』!」


 ゴブリンが固まっていた場所にレイピアを振って、光の刃を放つ。

 弧の字型に飛び出した光の刃は、一度に三匹のゴブリンを輪切りにした。


「旦那さま、凄い、凄いぃー!」

「はい、ご主人さまは凄いのです」


 フィーリンとエーリカが褒めてくれる。

 うん、ゴブリン相手なら私もベテラン冒険者ぽく戦えるんだよね。


「喜んでいる暇はない。次から次へと来るぞ」


 仲間の死骸を踏み付けながら大量のゴブリンが押し寄せてくる。


「『光刃』、『光刃』、『光刃』!」


 急いでレイピアを振って、光の刃を放つ。

 ビシバシと数体のゴブリンを輪切りにするが、ゴブリンの数は減らず、乱戦になった。


 リディーは弓を肩に掛け、短剣を使ってゴブリンの首を斬り裂いていく。

 エーリカは距離を取りながら、右手から魔力弾を撃って、一匹づつ仕留めていく。

 エギルも距離を空けながら、土魔術で作った鋭く尖った石を飛ばしてゴブリンを倒していく。

 両手に土斧を持ったフィーリンはゴブリンの集団の中に飛び込むと、ブンブンと振り回しながら叩き斬っていく。

 フィーリンを真似るように全身鎧のレギンもゴブリンの中に突進すると、フィーリンの横でゴブリンを叩き殺していく。ただ、フィーリンに近すぎて、たまにゴツゴツと土斧が鎧にぶつかっていた。

 私はというと、エーリカやエギルよりもさらに距離を空けて、乱戦からこぼれたゴブリンを相手にしていた。

 人間の子供ぐらいのゴブリン。手足が短く、動きが単調で、短絡的な思考。ゴブリンとの一対一なら負ける気はしない。

 ただ、木々が邪魔で私の腕ではレイピアを振ると幹や枝に当たってしまう。だから、私は刺突を中心に攻撃した。

 腕の短いゴブリンがナイフで刺してくるが、距離を取りながらレイピアで一突きする。そうすると危なげなく倒せた。

 たまに二匹同時に襲ってくるが、その時は光の刃で輪切りにしておしまい。

 私も強くなったものだ。

 そう思っていると、目の前の地面に矢がブスブスと刺さった。


「弓持ちのゴブリンが現れやがった!」


 レギンの言う通り、森の茂みからゴブリンたちが玩具のような弓を使って、矢を撃っている。

 ゴブリンの命中率は悪い。殆どの矢は私たちに届かず、手前の地面に刺さっている。ただ、あまりにも放たれる矢の数が多く、いつかは当たってしまうだろう。鏃の無い枝のような矢で致命傷にはならないが、体に刺されば痛い。足に刺さったら、痛みで魔女の廃村まで向かうのが厳しくなる。

 私はすぐに大木の影に隠れる。エギルも土魔術で壁を作り、身を隠した。

 四方八方から滅茶苦茶に飛んでくる矢は、味方のゴブリンにもブスブスと当たっている。

 エーリカは、矢の軌道を読んで、最低限の移動で躱している。

 リディーは、飛んでくる矢を掴んでは、近くにいるゴブリンにブッ刺している。

 フィーリンは、土斧を使って、空中で弾き返している。

 全身鎧を着ているエギルは何もしない。カツン、カツンと当たるがまったく動じない。

 各々矢を防ぎつつ、近づいてくるゴブリンを屠っているが、やはりこの状況は不味い。


「こんな状況で戦えん! 客人、もう一度、目潰しだ! 退避するぞ!」


 私と同じ事を考えていたレギンから指示が飛ぶ。

 私は急いで右手に魔力を溜めると、「目を瞑って!」と叫びながらゴブリンの集団に向けて、魔力弾を放った。

 森の中が光ると同時にゴブリンの叫び声が木霊する。

 それに合わせて、私たちは駆け出した。



「前方に木の魔物だ。それも二体。エーリカ、フィーリン、二人に任せた」

「あいよぉー」

「分かりました」


 先頭を走っていたリディーが速度を落とし、エーリカとフィーリンに先頭を交代させる。

 フィーリンは、エントに向けて土斧を投げて、エントの幹に突き刺す。

 エーリカは、いつの間にか装着したグレネードランチャーをもう一体のエントに向ける。

 土斧の爆発音とグレネードランチャーの発射音が同時に鳴り響き、森の中を震わせた。

 私たちはエントの木片を体に受けながら駆け抜ける。


「リディアねえさんの矢を見つけました。この先が廃道です」


 地面に一本の矢が突き刺さっていた。

 よくここまで木々の隙間を縫って、矢を放てるなと感心してしまう。


「その前にゴブリンどもに追いつかれるぞ」


 ドスドスと最後尾を走るエギルから報告が飛ぶが、言われなくても分かっている。

 すぐ真後ろから「ギャアギャア」と音の壁が迫っているのだ。


「相手なんかしてらんないよぉー。このまま駆け抜けよぉー」

「フィーリン、待て! 目の前の大木は魔物だ!」


 廃道に出る手前、またもエントが立ち塞がっていた。

 「わたしがやります」とエーリカがグレネードランチャーを構えたので、私は急いで止める。


「エーリカ、私にやらせて。こいつは倒さない方がいい」


 道中、ずっと考えていた事を実行したい。

 私は右手に魔力を集める。

 ただ、いつもより魔力量を減らした。

 普段より小さく光も弱い魔力弾がエントに当たると、エントを中心に僅かな範囲だけ閃光が広がった。


 良し、上手くいった!


 光の魔力弾を受けたエントは、(こうべ)を垂れるように枝や葉っぱがしおしおと垂れ下がっていく。

 その隙に私たちは横を通り過ぎ、ようやく廃道に躍り出た。


 

 光の魔力弾を食らったエントはすぐに元気になり、ガサガサと枝や蔦を使って出てきた道を塞いでいく。そのおかげで、大量のゴブリンが一斉に廃道に出てくる事はなかった。

 それにしても、ぶっつけ本番でやったが上手く出来て良かった。今後は、魔力量を調整すれば、リディーみたいに味方の視力を奪ったり、目を瞑ったりする必要が無くなる。


「ゴブリンどもが遠ざかっていく。木々の隙間から襲ってくると思っていたが、諦めが早い。もしかしたら、廃道になっていても魔物避けの効力が発動しているのかもしれないな」


 長い耳を森の奥に向けているリディーの言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。


「はぁー、疲れた……」


 私は大きく深呼吸をする。

 ちょっと迂回しただけで、すでに体力がゼロに近い。

 安全なら少しは休憩が出来そうだ。


「魔物避けの効果じゃない」

「えっ?」


不穏な事を言うエギルに視線を向ける。


「ゴブリンが遠ざかっていったのは別の理由だ。あれを見ろ」


 エギルは廃道の先を指差す。

 そこには木々に囲まれた広場があり、色々な魔物が自由気侭に歩いていた。


「魔物の集落だ」


 ゴクリと唾を飲み込んだエギルが小声で呟いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スライムに苦戦していたおじさんがゴブリン相手にまともに戦っていて成長している…これはもう無双ものですね!(魔物の広場から目を逸らしながら)
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