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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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270 再度、迷いの森 その1

 うーん、ベッドから起きたくない。


 ドワーフの村に来て三日目の朝。

 昨日は早くに眠り、睡眠時間は十分過ぎるほど取っている。

 それなのにベッドから起きれないのは、心理的拒否反応が出ているからだろう。

 本日は、ゴーレムの製法を探す為に迷いの森を通り、魔女が住んでいた廃村に行かなければいけない。

 正直言って、行きたくない。

 絶対に良くない事が起きる。

 迷いの森に入るだけで魔物との遭遇率は百パーセント。その上、数百年前に廃村に成っているにも関わらず、魔女の置き土産が今も稼働中という噂まである。

 楽しいハイキングでは決してなく、生死を分けた探索になるのは間違いない。

 そもそもの話、私が必ず同行する必要はないと思う。強面の見た目と違い、私は低レベルの底辺冒険者。絶対に足手まといだ。

 ただ、私が行かず留守番をすると言えば、エーリカも私と一緒に残ると言うだろう。そうなるとリディーもエーリカと一緒に残ると言う筈だ。

 三人が行かないとなるとフィーリン、村長の息子のエギル、守備隊長のレギンの三人で廃村に向かう事になるが……うん、別に問題ないんじゃないかな。

 ドワーフは人間と違い、体力も腕力もある。さらにドワーフ製の武器と防具を身に着けて行く筈なので、どんな場所でも突破できそうである。廃村に着いた後は、知識をもっていそうなエギルに任せておけば、ゴーレムの製法の情報を探してくれる事だろう。

 うん、私はいらないね。


 そう結論つけた私は、シーツに身を包み、丸太のような枕に顔を埋める。

 このまま二度寝をしようとするが、ゆっくりと寝かせてくれない人物がいた。


「ご主人さま、起きて下さい。朝です。食事の時間です。沢山食べなければ、体を動かす事は出来ません」


 馬乗りになっているエーリカが私の体をゆさゆさと揺らす。

 いつもは私が先に起きて、エーリカは朝食時間ギリギリまで寝ているのだが、今日は逆になっている。


「体調が悪い。風邪を引いたかもしれない。今日はこのままベッドの上で寝ているよ」

「それは大変です。今すぐに食堂に行きましょう。食事をすれば元気になります。朝食は一日を過ごす活力の源です。沢山、食べれば元気になります。すぐに起きて、食堂に行きましょう」


 食事、食事って……この娘、ただご飯が食べたいだけではなかろうか?

 まぁ、仮病の私もお腹は空いていて、胃がキリキリとしている。トイレにも行きたいし、渋々とベッドから起き上がった。

 やる気と元気をベッドに置いた私は、エーリカに手を引かれるまま工房内の食堂に入る。

 扉を開けるとベーコンの香ばしい匂いが鼻に入り、お腹の虫が鳴り出した。

 

「やっと起きてきたか。すぐに食べられるようにしてある」

「旦那さま、顔を洗ったら席についてねぇー。すぐにお酒を持ってくるからねぇー」


 竈の前にはリディーとフィーリンが調理をしながら声を掛けてきた。

 

「フィーリンも料理が出来るんだね」

「切って焼いて酒を掛けるぐらいならねぇー」

「そ、そう……ちなみにお酒はいらないからね」


 二人に挨拶を終えた私とエーリカは、トイレに行って、顔と手を洗ってから食堂の席に座った。


「あとはマリアンネだけだね。昨日の晩から見かけていないけど大丈夫かな?」

「昨日、僕たちが戻ってきた時には、すでに部屋で眠っていた。声を掛けても起きなかったから余程疲れたのだろう」


 昨日のマリアンネたちは、アーロン・アーベル兄弟に訓練と言う名のパワハラを受けていた。昼過ぎに会った時には、すでに疲労困憊で泣きじゃくっていたのに、さらに夕方近くまで続いたのだ。精も根も尽き果ててしまったのだろう。



「……おはよぉー」


 噂をすれば、テンションの低いマリアンネが食堂に入ってきた。

 ふんわりとしているマリアンネの髪の毛が、どことなくべったりとしている。

 たぶん、昨日は夕飯も食べず、サウナにも入らず、ベッドで眠ってしまったのだろう。

 そんなマリアンネは、椅子に座るなり「はぁー……」と溜め息を吐いた。

 私と違い、本当に疲れから体調を崩しているみたいである。


 リディーとフィーリンが完成した朝食を机に置いていく。

 内容は、スクランブルエッグとベーコン、茸と葉野菜のスープ、温野菜、ドライフルーツ、そして嬉しい事にフレンチトーストである。

 リディーは、以前、私が作ったレシピを覚えていたらしい。


「リディー、作ってくれて申し訳ないけど、少しだけでいいわ」

「それなら私が食べます」


 エーリカがマリアンネの皿を取っていく。

 先程、沢山食べれば元気になると私に言っていたのに、マリアンネには適用されないようだ。人を選ぶ少女である。


「あっ、美味しい……」


 フレンチトーストを食べたマリアンネが呟く。

 砂糖の代わりに蜂蜜を掛けたフレンチトーストは、元がレンガみたいなガチガチのパンとは思えないほど、ふっくらとしている。さらに牛乳と卵の風味もあり、とても美味しい。

 勿論、他の料理も美味しく、あっという間に完食をしてしまった。

 エーリカの言う通り、食事をした事で先程の仮病が完治していき、今では森の中に行ってもいいかな? と思える程であった。

 それはマリアンネにも当てはまり、両手を上げて背伸びをすると、「これでゆっくりと眠れるわ。ありがとう、リディー」と部屋に戻っていった。 

 「体を洗って、新しい服に着替えてから寝ろよ」と言うリディーはとても嬉しそうだ。

 大好きな野菜と茸が食べられただけでなく、自分の料理を美味しそうに食べてくれた事が嬉しかったみたいである。

 一人前以上をペロリと食べたエーリカ。「美味いぃー。美味いぃー」と昨日買った酒と一緒に食べるフィーリン。無論、私もマリアンネも満足顔である。

 アナの食事処が完成したら、ぜひともリディーには厨房に立ってもらいたい。



 久しぶりに満足のいく朝食を摂った私たちは、準備を終えると外へ出た。

 これから迷いの森に入り、魔女の廃村に向かう。

 その前に村長の息子のエギルと守備隊長のレギンと合流しなければいけない。

 待ち合わせ場所は村の入口。

 私たちが到着した時には、すでにエギルとレギンが待っていた。

 さらに別の人物もいた。


「双子のにぃーちゃんたちは、これから森の散歩に行くのかなぁー?」


 エギルとレギンと話をしていたアーロン・アーベル兄弟にフィーリンが尋ねる。


「そのつもりだったんだが、お前らが面白い事をしに行くと聞いて、一緒に同行しようと思ってな」

「あの辺はまだ行った事がない。何があるか楽しみだ」


 既に行く気満々のアーロンはデカい大剣を、アーベルはデカい戦斧を持ち上げて、楽しそうにブンブンと振り回している。まるで体だけ大きくなった小学生である。

 彼らが同行してくれるのは、戦力的に非常に頼もしい。ただ、余計な事をして問題が起きないか不安でもある。

 

「えーと……ヴェンデルとサシャの面倒を見なくていいんですか?」


 やはり不安の方が大きいので、ヴェンデルたちに押し付けようとしたら首を横に振られた。


「あの二人は駄目だ。体が痛いとか、体調が悪いとかでベッドから出ず、朝食も食わんと言い張るから置いてきた」

「飯を食えば、気力も体力も回復するのにな」


 ヴェンデルとサシャもマリアンネと同じ状態らしい。


「俺たちが青銅等級の時は、武器すら買えず、素手でゴブリンの巣に入って、皆殺しにして回っていたのにな」

「最近の若い奴らは向上心が足りん。あれでは銅等級までいけないぞ」


 うーん、言いたい事は分かるが、この二人を基準にしたら駄目な気がする。


「おい、お前ら早く行かないと今日中に戻ってこれなくなるぞ」

「魔女教会跡地まで時間が掛かる。森の中で一泊したくなければ、すぐに移動した方がいい」


 レギンとエギルが急かす。


「エギル、目的の教会跡地は遠いの?」

「距離としてはそうでもない。ただ、森の中だ。最短距離で進む訳にはいかんし、嫌でも時間は掛かる」

「魔物も襲ってくるしね」

「それと僕……んん、俺とレギンも行くのは初めてだ。迷わず辿り着ければいいのだがな」

「二人とも行った事がないの?」


 私が二人のドワーフに尋ねると、「ない」とハモった。


「森の最奥だ。それも子供の頃から大人たちに行くなと言われている曰く付きの場所だ。今の村人の中で行った事のある奴はいないと思うぞ」

「えーと……それじゃあ、たどり着けない可能性もあるって事?」

「最悪はな。ただ、情報によれば森には林道があるらしい。魔女たちが使っていた廃道で、そこを歩けば、たどり着けるとの事だ。……数百年前の話だがな」


 本当に大丈夫かな?

 凄く不安になってきた。


「教会跡地に着いた後、さらにゴーレムの製法方法を探さなければいけないんだろ。話は歩きながらしろ」


 我慢できなくなったレギンが村の入口から外に出ていく。

 置いて行かれないよう私たちも急いで後を追った。



 しばらく森を縦断する道を進むと、先行していたエギルとレギンが立ち止まり、西側の森を指差した。


「この辺から森の中に入るぞ。アーロン、アーベル、なるべく真っ直ぐ進みたいから枝や蔦を刈りながら進んでくれ」


 エギルに頼まれた脳筋兄弟は、「任せておけ」と頼もしく武器を構えるとブンブンと振り回しながら道を切り開いていく。

 本当に真っ直ぐに進むつもりらしく、太い木があっても大剣と戦斧で何回も叩き付けて倒していった。もう人間重機である。

 そんな二人の後を追うように私たちも森の中へ入る。

 背後からガサガサと草木が擦れる音が聞こえた。後ろを振り向くと切り開かれた個所を修復するように草や枝が伸びて道を塞いでいる。

 これで私たちは森の中に閉じ込められてしまった。


「このまま進めば、廃道にぶつかる筈だ。二人とも、それまでひたすら真っ直ぐに進んでくれ」


 エギルの言うその廃道って数百年前の話だよね。もう森の一部になっていて、原型が無いんじゃないの? そう思ったが、水を差すので黙って脳筋兄弟が切り開いていく道を進む。


「この森は気味が悪いな。至る所から視線を向けられている気分だ」


 私の背後にいるリディーが周りを見回すと弓を持ち、いつでも矢を撃てるように構えた。

 リディーの言う視線というのは分からないが、至る所から音が聞こえる。草木が擦れる音、風の音、枝が落ちる音、生き物や虫の鳴き声など四方八方から聞こえてきて、どこを警戒しなければいけないか分からなくなってくる。


「ご主人さま、あそこにある大木は魔物です。近づいては駄目です。わたしの側から離れないでください」


 私の前方を歩くエーリカが少し離れた一本の大木を指差すと、アーベルが「あれか!」と叫び、一気に駆け出して一刀のもとに叩き斬った。

 わざわざ倒しに行かなくてもいいのに……。


「嬢ちゃんは索敵能力が高いな。魔物がいたらすぐに知らせろ。俺たちが片っ端から倒してやる」

「根絶やしにしてやるぜ」


 その後、エーリカとリディーが魔物を発見しては、脳筋兄弟が道に逸れて退治して回った。

 今の所、遭遇する魔物はエントしかいない。

 大地に根の張ってあるエントは、私たちの方から近づかなければ攻撃をしてこない。

 つまり、わざわざ退治して回らなくてもいいのだが……脳筋兄弟は、魔物に恨みでもあるのだろうか?


「何だか魔物が少ないね。私が入った時は至る所から色々な魔物が襲ってきたよ」

「ここはまだ村と繋ぐ道の近くだ。魔物避けの結界の範囲になっている。これから奥に進むにつれ、魔物どもが襲ってくるぞ」


 「気を引き締めろ」と最後尾を歩くレギンから注意が飛んだ。

 結構、進んだと思ったがまだまだ入口だったみたいである。

 それもその筈、道なき道を作りつつ、さらに魔物がいれば兄弟が道に逸れて、倒しに行ってしまうのだ。時間が掛かって仕方が無い。

 ただ、その兄弟のおかげで、安全に進んでいるので文句は言わない。


 その後、特に危険な出来事もなく黙々と進むと、草木の生えていない場所に出た。


「魔女が開拓した林道だ。この道を進めば廃村に辿り着けるだろう」


 数百年前に廃道になっているにも関わらず、比較的、道は保っていた。それも小さな馬車が一台分通れそうな幅があり余裕で歩ける。


「これはいいね。魔物の巣窟である森の中とは思えない」

「道に関してはな。ただ、ここはすでに森の奥だ。結界の範囲外で、これからどんどんと魔物が襲ってくるぞ。それも魔女の作った道だ。何があるか分からん」


 「気をつけろよ」と再度レギンから注意が飛んだ。


 これからが本番。

 気を引き締めた私たちは、魔女の廃村に向けて、林道を進むのであった。


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