表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/347

268 石板探しとドワーフ村の生活 その3

 勝手知ったる何とやら。

 誰にも知らせず、ズガズガと村長の家に入るフィーリンと共に書庫へ辿り着く。

 鍵の魔術は三日間有効との事で、フィーリンがいれば重厚な扉は開き、中に入る事ができる。

 書庫の中は、昨日と同様、石板で埋め尽くされていた。


「これは酷いな」


 始めて書庫に入ったリディーが眉間に皺を寄せながら呟く。

 エーリカは昨日座っていた石板の上にちょこんと座る。その横にフィーリンが移動し、石板を渡していった。

 私も昨日同様、石板で作った机の前に座り、木札とペンを置いていく。


「おっさんは何をしているんだ?」

「文字が読めない私は、ゴーレムの見た目を決める為に絵を描いているよ」

「ふーん、ゴーレムの設計図みたいなものか……僕はエーリカを手伝おうかな」


 エーリカの横に行ったリディーは、地面に置かれている石板を拾う。


「リディアねえさん、それは読み終わった石板です」


 エーリカが注意をすると、「そうか」とリディーは石板をドサッと床に置いた。

 「じゃあ、こっちをやろう」とリディーは壁をくり抜いた書棚に向かい、乱雑に突っ込まれている石板を引き抜いていく。そして、「読めん、読めん……」とドサドサと床に落としていった。


「リディアねえさん、余計に散らばっています。読めないなら読めないで、後で分かるように一か所にまとめてください」


 「ああ、そうだね」と生返事をしたリディーは、読めない石板を書棚の隙間にズボズボと入れていく。


「おっ、これは読めるぞ……って、何て書いてあるんだ? 字が汚過ぎて、やっぱり読めん」


 そう言うなりリディーは、元あった隙間に石板を突っ込む。


「リディアねえさん、ご主人さまのお手伝いをしてもらえませんか?」

「おっさんの?」

「石板探しは、わたしとフィーリンねえさんで足りています。ゴーレムの作り方が分かれば、すぐに作業が出来るよう完璧な設計図が必要です。外見だけでなく、内部の構造、身長や重さの概算、素材や材料の選別等、決めなければいけない事が沢山あります。ご主人さま一人では大変ですので、リディアねえさんが手伝ってくれると助かります」


 ちょっと、待て!

 外見案を考えるだけでなく、その他諸々も私が考えなければいけなかったの!?

 私は極々普通の学校に通う高校二年生だよ。

 そんな専門知識、まったく持ち合わせていません。


 ……っと思ったが、石板を読んでいないのに目を細めているエーリカを見るに、私にリディーを押し付けたのだと悟った。

 ドワーフ同様、整理整頓が出来ず、さらに文字も読めないリディーに対し、直接戦力外だとは言えないエーリカの優しさ。だからって、遠回しに私にくっ付けないでほしい。まぁ、戦力外は私も同様で役立たず同士なのだが……。

 そんなリディーに「ねえさんの感性に期待しています」とエーリカが言うと、「おっさんは僕に任せておけ」と嬉しそうにリディーが近づいてきた。

 単純というのか鈍感というのか、最愛の妹の言葉に盲目過ぎである。まぁ、手伝ってくれるので、私からは何も言わないけどね。


「おっさん、どんな感じだ?」

「何枚か描いたよ。リディーはどれが良いと思う?」


 私の前に新しく石板を積んで机にしたリディーに草案の木札を見せる。


「どれも四角形ばかりで無骨だな。ドワーフの顔に合わせているのか?」

「無骨じゃなく堅牢って言ってほしいな。門番らしくて良くない?」

「門らしいと言えば門らしいが、僕のゴーレム像は工房にある残骸だな」

「やはり、そうなんだ」


 石板の机に木札を並べて、リディーは見比べながら考え込んでいる。

 真剣に考えてくれるのは嬉しいが、色々と考えて描いた案じゃないから適当でいいよ。


「それで、この変身前と言うのは何だ? 門や柱の絵は何なんだ?」

「見たまんまだよ。省エネモード……待機中は門や柱の形になっているの。それで不審者が現れたらガチコンガチコンと変形し、人型ゴーレムの姿になるんだよ。面白いでしょう」

「…………」


 何、その間? 私、変な事、言った?

 長い耳を垂らしたリディーから「はぁー」と溜め息が漏れる。


「擬態するのは分からないでもない。植物や動物だって敵から身を隠したり、不意打ちしたりするからな。ただ、動植物の場合、周りの風景に溶け込むだけで、体全体を変形する訳じゃない。まして図体の大きいゴーレムだ。どうやって変形させるんだ?」

「それは……例えば、一度、部位ごとにバラバラになって積み木みたいに勝手に組み替え、門になったりするの。魔術とかで出来ないかな?」


 私が訪ねるとリディーは遠い目をしてしまった。


「僕たちの知識では無理だ。そんな事ができる奴は相当の手練れだ。何十年かけて世界中を探しても、見つからないかもしれん」

「そうなんだ。エーリカは出来ない?」


 私が訪ねるとエーリカは石板から視線を外し、「無理です」と即答した。


「そのような高度な魔術を使えるのは一人しか知りません」

「えっ、出来そうな人を知っているの?」


 出来そうな人がいるならお願いしたい。だって、私の拘り部分なんだから。


「ヴェクトーリア博士です」

「ああ、博士なら出来そうだな」

「えーと……確かエーリカたちを作った博士だったね」


 私が確認するとエーリカ、リディー、フィーリンが懐かしそうな悲しそうな顔になった。そして、フィーリンから「会いたいね」と小声で呟くのが聞こえ、私は深く聞くのを止めた。


「じゃ、じゃあ、関節がぐいっと伸びて、折り畳めたりするぐらいなら出来ないかな?」

「間接が伸びる? 何を言っているんだ?」

「えーと……関節が外れて、骨格が見えるの。そうすると伸びた分だけ余裕が出て、パタリと重ねて小さくなるの」


 眉を寄せるリディーに分かるよう長方形のゴーレムが正方形まで折り畳んだ絵を描く。

 そうしたら、「そこまでする必要ある?」と可哀想な人を見る目で私を見た。


「折角だから、そう言った物を作りたい。何もしていない時にただ突っ立ているだけじゃ勿体無いじゃない」

「ゴーレムなんてそういうものだ」


 その後、色々とアイデアを出してはリディーに駄目出しをされ、結果的には体操座りをすると柱に見える程度に調整し、落ち着いた。


「そもそもおっさんは、どんな素材のゴーレムを作る気なんだ? 門や柱にしたい訳だから石か?」

「そうロックゴーレム。四角形の石を組み合わせた感じのゴーレム。この村では石切りもしているし、ちょうど良いよね」

「まだ草案だからいいが、実際に座らせる事が可能かどうかすら分からない。肘や膝を曲げた時、部位同士がぶつかって曲がらなくなる可能性がある」

「えーと……どういう事?」

「土で出来たサンドゴーレムは、擦れて壊れたとしても地面が土なら勝手に補充し直していく。木で出来たウッドゴーレムは、木や枝のしなりで曲げ伸ばしが可能だ。だが、硬い石や鉄だと隣り合っている部位が当たり、可動しない可能性が出てくる。実際に動かした時の事を想像して考えてくれ」


 まだ外見の案を出すだけなのに、色々と考えなければいけないとは……。


「ぶつからないよう関節部分は細くさせ、徐々に厚みを増やしていけばいけるかもしれんな」

「ふむふむ、関節部は細く、そこからポコッと膨らませるっと……」


 リディーの指摘に合わせて絵を描くと、一昔前のポリゴンキャラになってしまった。

 「もっと体全体を細くしなければ、関節が折れるぞ」と言うので、全体的に削っていくと私が求めているゴーレム像ではなくなっていった。

 その事を伝えるとリディーは、「それなら」と別のアイデアを口にした。


「じゃあ、いっそのこと鎧を着せるか?」

「鎧?」

「ああ、細身のゴーレムを作って、その後に四角形の鎧を部位ごとに装着させるんだ」


 それ、もう別物ではなかろうか?


「不服そうだな」

「その案だと鎧を別に作らなければいけないよね。手間とお金が掛かるよ。ドワーフが無料で作ってくれるかな?」

「大量の酒を代価にすれば、喜んで作ると思うぞ。まぁ、ドワーフどもを満足させるだけの酒を用意できればの話だがな」

「無理! 絶対に無理!」

「だろうな」

「でも、鎧を参考に形を作ったら上手くいきそうだ。表側は四角形に盛って、内側はすっきりとさせる。そうすれば、大分動きやすくなる筈」


 何となくイメージが固まりだした私は、サラサラと木札に絵を描いていく。

 「もっと足腰を太くしないと立てないぞ」とか、「腕を長くしないと地面の物を拾えないぞ」とか、「首があると重さで折れるぞ」とリディーの指摘を聞きながら、何点か描き上げていった。


「あっ、そうだ! また関節の話になるけど、関節部分を球体にして滑らかに動かせるように出来ないかな?」

「球体? 滑らか? 何を言っているんだ?」


 私が持っていたデッサン人形は肩、肘、腰、股、膝の部分が球体になっていて色々なポーズを作れるようになっていた。

 もしゴーレムにも球体関節を適用すれば、鈍重なゴーレムも複雑な動きが可能になるだろう。

 そう思い、理解できていないリディーに分かりやすく説明し、こんこんと利便性を説いていった。


「おっさんの言いたい事は分かった。僕もあれば良いと思い始めている。ただ、どうやって取り付けるんだ? 球体なら接続部分が滑り落ちてしまうだろ」

「うーん、どうなっていたんだろ?」


 私は頭の中で下肢の骨を思い浮かべる。

 例えば、大腿骨と脛骨を繋げるとする。そして、膝の部分を球体にしたら……。


「小さい球体に大きな球体を覆ってしまえばいけるんじゃない?」


 脛骨の先端に球体をくっ付ける。そこに大腿骨にくっ付いた球体が覆えばいけそうな気がする。そして、余計な場所が動かないよう可動域を調整すれば、余計な動きを制限できるだろう。

 いや、いっその事、可動域の制限を無くして、腰も肩もグルグルと回らせてもいい。悪魔憑きの少女の頭が一回転するみたいにね。


「分かったような、分からないような……。まぁ、実際に動くかどうかは、今の段階では何とも言えん。実際に作って、試してみないと分からないな」

「試作品として、まずは小さいゴーレムを作りたいね。手乗りゴーレム。何だか楽しくなってきた」

「ただ一つ言える事は、間違いなく大変な作業になる。ここがドワーフの村で良かったな。ドワーフを総動員すれば、部品だけは調達できるだろう」

「そうだね。自分たちの村を守るゴーレムだ。しっかりと働いてもらおう」


 私は新しい木札にゴーレムの骨格図を描いていく。

 しばらくリディーの駄目出しを聞きながらリテイクを繰り返していたら、ある疑念が生まれ、羽ペンを机に置いた。


「ねぇ、リディー。そもそもの話、ゴーレムってどうやって作るの?」

「はぁー? それを調べる為にエーリカが頑張っているんだろ」


 チラリと横を向くとエーリカと視線が合わさる。

 石板を読んでいる筈のエーリカは、じっと私を見ていた。


「エーリカ、どうしたの?」

「楽しそうです」

「はぁー?」

「リディアねえさんと交代してほしいです。わたしもご主人さまと一緒にゴーレム案を考えたいです」


 エーリカからしたら私とリディーでお絵描きをしているように見えるようだ。私は頭が沸騰しそうなぐらいフル回転させながら絵を描いているのに……。


「おっさんが変な事ばかり言うから大変だ」

「エーリカはエーリカの出来る事をまずやろうねぇー。無事に石板が見つかれば、旦那さまと一緒に作業が出来るよぉー」


 フィーリンに諭されたエーリカは、「むぅー」と唸ると、再度、石板に目を通し始めた。


「えーと……何の話だっけ?」

「ゴーレムの作り方だろ」

「ああ、そうそう。ゴーレムって魔力か何かで動いているんだよね。もしかしたら、絵さえ用意すれば、勝手にもこもこっと誕生しないかな?」


 例えば、設計図を用意し、そこに魔法陣みたいなものに乗せて魔力を流せば、地面から素材を集め、液体金属のT-1000みたいにうにゅうにゅと自動で完成したりするかもしれない。

 もし、そうなれば、部品製造や組み立ての方法まで考えなくすむ。


「もしかしたら、そうかもしれん。逆に一から外見を作らなければいけないかもしれん。今の段階では何とも言えん。ゴーレムの製法が書かれた石板を見つかるまで分からん。どっちにしろ、おっさんはどんなゴーレムを作りたいかを練っていればいい」


 リディーの言う通り、どっちに転がるにしてもゴーレムの外見や性能などは、事前に練って完成させておかなければいけない。


 再度、羽ペンを持ち、木札に向かおうとした時、ノックの音が聞こえた。


「やぁ、フィーリンさん。それとお客人。邪魔するよ」


 一人のドワーフが書庫に入ってきた。

 唯一ぱっと見で判断が出来るドワーフ、村長の息子のエギルである。だって、ふっくらとしたお腹をしているからね。


「やぁ、エギル。何か調べものぉー?」

「書庫の中が酷い状況だからね。少しお手伝いをしようと思って。必要あるかい?」


 柔らかい口調のエギルは書庫を見回して、私たちの手伝いを申し出た。

 手伝ってくれるのはありがたいけど、ゴーレム作りが進めば、それだけフィーリンが村から出て行くのが早まる。

 彼は、そうなっても良いのだろうか?


「前々から片付けようと思っていたのですが、なかなか手が出せなくて……良い機会なので、片付けがてら僕……んん、俺も手伝いますよ」

「片付けに来たという事は、共用語、ドワーフ語だけでなく、古代ドワーフ語も読めるのですか?」


 エーリカが尋ねるとエギルの瞳がキラリと光った。


「ええ、読めます。この村では古代語を読んだり書いたり出来る者は数人しかいません。それも殆どの者が年寄りです。若い連中の中ではぼ……俺しか古代語は読み書き出来ないでしょう」


 エーリカでなくフィーリンに視線を向けてエギルは自信満々に告げる。

 それはそうと、エギルは若い連中に含まれるのか……まぁ、村長の息子だからそうなるよね。ただ、どいつもこいつも、おっさん顔なので年齢がさっぱり分からん。


「わたしは共用語とドワーフ語で書かれている石板を調べています。あなたは石板を片付けつつ、古代ドワーフで書かれている石板を調べてください」


 「読み終わったのはこれ」「共用語、ドワーフ語はフィーリンに」「奥からやってください」とエーリカはエギルに指示を出していく。

 エギルの眉間が寄る。エーリカの指示では動きたくないと不満そうな雰囲気が漂っていた。

 そんなエギルはチラリとフィーリンに視線を向けると、「よろしくねぇー」と笑顔のフィーリンに言われ、「よろこんで!」と読み終わった石板を抱え、ドスドスと書庫の奥へ向った。

 エギルは抱えた石板を床に置くと、書棚にぎっしりと差し込まれている石板を引っこ抜いていく。そして、片目にモノクルを挟むと石板をチラリと見ては、空いた書棚にしまっていった。

 石板ごとに別々の書棚に入れているあたり、しっかりと分類はしているようだ。

 エギルは他のドワーフと違い、整理整頓の出来るドワーフであると知った。


 石板を読み続けるエーリカ、石板を渡すだけのフィーリン、書棚を整理するエギル、ゴーレム案を考える私とリディー。

 黙々と自分たちの役割を果たしていると、くぅーと可愛い音が書庫内に響く。

 エーリカの腹時計である。

 どうやら昼食の時間のようだ。

 私が「休憩にしよう」と立ち上がった時、奥の方から「見つけた!」とエギルの声が聞こえた。

 石板を抱えたエギルは、ドスドスとフィーリンの元へ駆けてくる。


「フィーリンさん、見つけました。ゴーレムの製法が書かれた石板です」


 わずかにエーリカの眉間が寄る。

 腹を空かせたエーリカに悪いが、昼食は後回しである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ