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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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266 石板探しとドワーフ村の生活 その1

 ゴーレムの作り方を調べる為、村長の家の書庫に来ている。

 書庫に入った私は、フィーリンが二回だけ足を運んで諦めかけたと言う意味を悟る。

 地下に作られた書庫は石板で埋め尽くされていた。

 等間隔に並べられている書棚の中は勿論、壁をくり抜いて作った書棚もみっちりと石板が突っ込まれている。綺麗に並べられていればよいのだが、如何せん、斜めに入れてあったり、大きさがバラバラだったりと見るに堪えない乱雑状態だ。隙間に突っ込んでおけばいいと思っての行動だろう。

 それだけでなく、床にも大量の石板が山のように積み重なっている。

 高さを揃えて綺麗に積み重なっていれば若干見た目も良いのだが、書棚と同じで高さも置かれている位置もバラバラで書庫内を歩くのも一苦労。中には山が崩れ、床一面に散らばっていたりもする。その所為で、石板が欠けていたり、ぼっきりと割れていたりもした。

 整理整頓が苦手なリディーもここまで酷くない。

 まぁ、粗野で大雑把なドワーフらしいと言えばドワーフらしい。


 あと石板で文字を残すあたりもドワーフらしい。

 木札や羊皮紙はほったらかしにしていれば、カビが生えたり、腐ってしまう。その点、石板はそんな事はない。雨風が防げる地下に保管していれば永久的に残るだろう。

 ただ石板を用意したり、文字を掘ったりする手間を考えると利便性は無いに等しい。それに凄く重そうだしね。

 私は手近にある石板を一枚持ち上げる。

 石板は少し厚みのある下敷きサイズ。

 思ったよりも軽くて、驚いた。

 だけど、木札や羊皮紙に比べれば重い。

 これを山のようにある石板を一枚一枚調べるとなると、根気と集中力だけでなく、腕力も必要になるだろう。


「……あっ」


 私は石板を見て、自分の失態を思い出した。


「ごめん、フィーリン。私、文字が読めなかった。ここに居ても役に立たない」


 時間を見ては文字の練習をしていたのだが、まだ数字が何となく分かる程度にしか上達していない。

 中身を読む事も内容ごとに整理整頓する事も出来ない。せいぜい壊れた石板をジクソーパズルのように直すぐらいしか役に立たない。


「安心してください。石板を調べるのはわたしとフィーリンねえさんでやります。ご主人さまは、別の事をお願いしたいと思います」

「別の事?」

「ゴーレムの外見を考えてください」

「えっ、外見? ゴーレムの姿って事? 今のを変更をしていいの?」


 フィーリンの工房に置かれているゴーレムの残骸は、汚いマシュマロマンである。たしかにあのままではカッコ良くない。ドワーフたちは良いかもしれないが、私のゴーレム像では決してない。

 ただ、そんな理由で勝手に変えてよいのだろうか?

 だって、長年村を守ってきたゴーレムだよ。姿形を変えたら、ドワーフたちが悲しむんじゃないかな?


「新しく作っても良いらしいので、どうせならご主人さまの考えたゴーレムが良いと思います。わたしはそっちが良いです。やる気がでます」


 ドワーフの心情よりもエーリカの心情が優先らしい。


「まぁ、考えてもいいけど、何か注意事項とかある? こうしなければいけないとか、絶対に頭が必要とか?」

「草でも木でも石でも鉱石でも生き物のように動くものをゴーレムと呼ばれています。人に近い姿なら何でも良いです。これを機にご主人さまの考えた素敵なゴーレムを作りましょう」


 そう言うなり、エーリカは袖口から木札と羽ペンを私に渡した。

 まぁ、ここに来て何もせずに立ち尽くしているよりかは、ゴーレムの案を考えていた方が貢献しているみたいで気は楽である。


「私の方はいいとして、本当に二人で調べられる? 結構な量があるからリディーを叩き起こしてこようか?」

「ここにある石板は、公用語とドワーフ語と古代ドワーフ語で書かれています。リディアねえさんはドワーフ語全般が読めませんので、あまり役に立つとは思えません」

「アタシ、古代ドワーフ語がさっぱりだから、全部読めるエーリカが居てくれて本当に助かったよぉー」


 うんうん、エーリカが優秀でご主人さまも鼻が高い。むしろ役に立たないご主人さまで肩身が狭い。


「ただ、問題が一つあります」

「えっ、問題? な、何かな?」


 何か重大な事だろうか? とゴクリと唾を飲み込みエーリカを見ると、「文字が汚い事です」と言って、ガックシと肩を落とした。


「石板一枚に書かれている文字数は少ないので、一枚当たりに読める時間は短いです。ただ、あまりにも字が汚いので、解読に時間が掛かってしまいます」


 私は一枚の石板を拾い眺める。

 デカデカと書かれている文字の大きさがチグハグで、ハネやトメは隣の文字に重なっている。内容が分からない私でも不安定な文字だと分かる。硬い石板を削っているからか、それともドワーフの字が汚いだけか分からないが、エーリカが時間が掛かると言うのだから余程なのだろう。


「ゴーレムを作り直したのが先代の村長と言っていました。それが本当なら数百年前の事なので、古代ドワーフ語で書かれている石板は省きましょう」


 そう言うなりエーリカは、床に散らばっている石板を集め、程よい高さに積み上げるとその上にちょこんと座った。


「わたしが石板を読んでいきますので、フィーリンねえさんは公用語とドワーフ語が書かれている石板を選別し、持ってきてください」


 「あいよぉー」と元気良く答えたフィーリンは、山のように積み重なっている石板をエーリカの横に持ってくると、チラッと見てはエーリカに渡していく。その中に古代ドワーフ語の石板があれば、足元へドサッと落としていった。

 石板を渡されたエーリカは、目を細めながら石板を読み終えるとフィーリン同様、床にドサッと落す。石板を受け取り、読んでは床に落とす。この繰り返しで、まるでわんこそばである。

 一枚当たり十数秒ぐらいなので、意外と速く目的の石板を見つけられるかもしれない。


 そんな二人の様子を確認した私は、自分に課せられた任務を始める。

 読み終えた石板や古代ドワーフ語で省かれた石板を集めて、机になるように積み重ねた。その上に木札と羽ペンを置いて、お絵かきタイムに入る。

 

 さて、ゴーレムの外見を考えなければいけないが、どんなのが良いかな?


 人型なら何でもよいと言っていたが、ここは反骨精神で動物型にしてみようかな?

 鳥なんでどうだろう。空を飛んで監視したり、適当な屋根の上で待機すれば飾りにもなる。そして、戦闘時は口から炎を吐く。恐ろしいゴーレムの誕生だ。……と思ったら、これはガーゴイルだね。動物型は止めておこう。


 やはり人型が一番良さそうだ。

 頭があり、手足があり、胴体がある。手があれば物を掴んで畑仕事も出来るし、足があれば子供たちと駆けっこも出来る。同じような姿形だと愛着も湧く。やはり人型だ。

 人型として一番に思い付くのは、壁のような四角形型ゴーレム。

 次にフィーリンが壊したような、頭も肩も腰も全体的に丸みのあるゴーレム。

 思い切って人間そっくりのゴーレムも良いかもしれない。何とか博士に倣って、エーリカたちのような人間と見分けがつかないゴーレム。……と思ったが、材料が土や石なので、不気味人形にしかなりそうにない。止めておこう。

 

 うーむ、どうしようか? と低い天井を眺めていると、ある案が浮かんだ。


 アニメなどに登場するロボット型のゴーレムはどうだろうか?

 昔懐かしのがっちりとした無骨なロボットから最近のスラリとしたロボットを思い浮かべる。

 だが、すぐにやる気をなくす。

 私、ロボットアニメに縁がないんだよね。

 昔から放送されていて、プラモデルも多数ある国民的ロボットアニメすら見た事がない。

 さらにトラックやバイクが変形する映画やオタク監督が作ったロボットと怪獣の映画も心に刺さらなかった。

 せいぜい遥か彼方の銀河系で帝国と反乱軍が戦う映画に出てくるドロイドぐらいしか愛着がない。またはロボットに改造された警官か。

 まぁ、そんな訳でカッコいいロボット型ゴーレムも却下する。


 無難に四角形型にしておこうかな。

 待機時間は、柱や壁になっていて、不審者や来訪者が現れるとガチコンガチコンと変形して人型になる。それに驚いた来訪者が腰を抜かしながら逃げて行くんだね。うん、面白い。

 可能かどうか分からないが、変形前と変形後を木札にサラサラと描いていく。

 少し楽しくなってきた私は、その後、筆が進み、造形別に数枚の木札に絵を描いていった。


 満足した私はチラリとエーリカたちを見る。

 エーリカの横には読み終えた石板がビルのように積み重なっていた。


「そっちはどう?」

「目が疲れました」


 珍しく弱音を吐くエーリカ。

 眠そうな表情のエーリカが、目を細めて石板を睨んでいるので、怒っているような顔になっている。それだけドワーフの字を解読するのに集中力が必要なのだろう。


「ちなみにどういった内容が書かてれいるの?」

「他愛無いメモ書きが多いです。何々が必要で買いに行くとか、○○の所の子供が生まれたので酒を送るとか、わざわざ石板に記する必要がないものばかりです。中には、この村の生い立ちをまとめたものもありますが、途中で飽きたのでしょう、中途半端で終わっています。同じように村人の家系図もありますが、これも途中で切れています」

「そ、そうなんだ」

「興味深い内容が書かれていれば読みがいがあるのですが、意味のないものばかりで気力がすり減っています。予想以上に手間取りそうです」

「ゴーレム作りの方法が書かれている石板を見つかればいいから、一枚一枚、真剣に読まなくていいからね。斜め読みで関係無ければさっさと次に移せばいいよ」


 真面目なエーリカだ。

 一枚一枚、しっかりと読んでいるに違いない。

 それは疲れるだろう。


「アタシはエーリカが居てくれて助かっているよぉー。こんな汚い文字、エーリカの倍以上の時間が掛かっちゃうねぇー」


 そう言うなり、フィーリンは「ほい」と新しい石板をエーリカに渡す。

 一応、フィーリンも文字が読めるんだから、エーリカの解読時間の間にフィーリンも読めば? と言ったら、「頭を使うと酔いが抜けるからいやぁー」と石板の選別以外は読まないつもりでいた。



「ひめさまー、飯ができたってー」

「酒の時間だってー」

「宴会だってー」


 書庫の扉が開き、ドワーフの子供たちが入ってきた。

 どうやら昼の宴会の後片付けが終わり、夕飯の支度が終わったらしい。

 私自身、昼の肉と二次会の酒がお腹に溜まっている状態なので夕飯はいらない。

 だけど、フィーリンとエーリカは「酒だぁー、酒だぁー」「お腹、空きました」と食べる気満々である。


「もう遅いし、今日はこのぐらいにしようか。続きは明日にしよう」


 私が宣言すると子供たちに手を引かれながら村長の家を出た。

 一応、フィーリンの工房へ戻り、リディーとマリアンネに声を掛けてみたが、起きる気配がないので他っておく。

 食堂に入るとすでにドワーフたちが楽しそうに食事をしながらお酒を飲んでいた。

 昼にもガバガバと飲んでいたのに、今も樽ごと酒器を突っ込んではガバガバグビグビと流し込んでいる。このペースで飲んでいたら、数日の内に酒の貯蔵がなくなりそうだ。

 そうなったら、アルコール中毒の彼らはどうなってしまうのだろうか?

 禁断症状が発症し、村人全員が地面に倒れて痙攣をしているかもしれない。または、生きる屍のように正気を失って、近隣の町や村を襲うかもしれない。

 どちらにしろ地獄のような展開しか見えない。

 そうなる前に村を出よう。

 そう決意した私は、空いている席に座る。

 エーリカとフィーリンも座ると女性ドワーフがエールの入った樽と肉の塊とパン皿を持ってきてくれた。

 昼の宴会と同じ内容にげんなりする。もう、帰りたい……。

 ちなみにヴェンデルとサシャの二人は、アーロン・アーベル兄弟と村長、その他ドワーフに囲まれて楽しく食べて飲んでいた。ただ、若干青い顔をしているので無理をしている様子に見える。頑張ってくれ。



 ………………

 …………

 ……



 食事を終え、工房に戻ろうとした時、アーロン・アーベル兄弟に声を掛けられた。

 そして、なぜか男連中に囲まれてサウナに入っている。

 鍛冶場が多いドワーフ村には幾つかサウナ室がある。

 その内の一つに私はいる。

 こう言ったら怒られそうだが、意外な事にドワーフたちは綺麗好きらしい。

 一日の疲れを取る為に夜は必ずサウナに入ってスッキリするそうだ。


 ロの字型のサウナ室は、鍛冶場から出た熱を使って部屋を熱している。それだけでなく、中央には焼けた石も置かれ、水を掛ける事で水蒸気を発せられていた。

 サウナ室には、私、アーロン、アーベル、ヴェンデル、サシャ、その他ドワーフがいる。

 勿論、全員、素っ裸。炭鉱の坑口浴場で慣れたとはいえ、目のやり場に困る。

 アーロン・アーベル兄弟は見た目通り、ムキムキの筋肉をしており、なかなか見ていて楽しい。ただ、生々しい傷跡も多くて、ちょっと引く。

 ヴェンデルも引き締まった筋肉をしていて、細マッチョぽく良い感じだ。

 サシャは細身。ガリガリではないが筋肉質でもない。まぁ、普通。

 ドワーフたちは、背を縮めたブラッカスみたいである。つまり、筋肉ダルマ。さらに胸毛や腕毛が生えているので、あまり見ていて楽しくない。

 そんな状況の中、誰も何も言わず、黙々と汗を流す。

 ドワーフに至っては、サウナの中で酒まで飲んでいる。汗をかきながら皮袋に入れている酒をグビグビと飲みながら「うぃー」とフラフラしていた。


 凄く危ない行為! 駄目、絶対! 死ぬよ!


 と注意した所で、ドワーフにとってはありがた迷惑だろう。

 だから無視しておいた。


「おっさん、ジロジロと見て、やはりそっちの趣味があるのか?」


 サシャが人間観察をしていた私からズズズッと遠ざかる。同じようにヴェンデルもゆっくりと遠ざかっていく。


「ち、違う、違う。あまり蒸し風呂に入った事がないから、どうしていいか分からず、キョロキョロしていただけ」

「蒸し風呂に入らないって……普段、どうしているんだ? 井戸水で洗っているのか?」

「普段は、普通のお風呂。湯船にお湯を溜めて入っている」

「風呂って、どこの貴族様だ!?」


 ああ、やはり普通じゃなかったね。

 食事事情とお風呂事情だけで、私がどれだけ特殊な生活をしているか分かってしまった。

 場所を提供してくれるアナと労働力のティアには感謝しかない。


「風呂といやぁー……」


 一人のドワーフがチビチビと酒を飲みながら話に入ってきた。


「風吹き山に天然の風呂場があるぞ。地面からコンコンと湯が出ていて、入ると疲れが取れる。さらに肌や髭がツヤツヤするんだ」


 天然のお風呂って……まさか、温泉!

 ぜひ、入りたい!


「景色も良いし、機会があったら行ってみるといい」

「でも、山の奥って禁足地……入ってはいけない場所なんじゃないですか?」

「村長が許可を出せば、誰でも入れる。俺たちもたまに通っていた。ただ、最近は風の様子が変だから行っていないがな」


 許可があれば誰でも入れるって……禁足地、ガバガバじゃないか。


「ぜひ入りに行きたいけど、簡単に行けそうな場所なんですか?」

「山道は険しく、魔物がいて、風が吹き荒れているが、子供のドワーフでも辿り着けるから許可さえ下りれば行けるぞ」


 魔物って……命懸けにもほどがある。

 そんな秘湯は止めておこう。


「魔物が居るのか。それなら行かなければな、兄貴」

「おう、魔物を倒して、帰りに風呂に入る。さぞや気持ち良いだろうな、弟よ」


 「楽しみだ」と脳筋兄弟の馬鹿笑いを聞きながら、私はサウナを満喫するのであった。



 その後、サウナ室に近接している井戸で汗を流す。

 冷たい井戸水で心臓が止まりそうになるが、火照った体には気持ちがいい。冷気を含んだ山風も相まって、一気に体が冷えていく。

 湯冷めしない内にさっさと工房へ戻ると、私と同じように火照った顔をしているエーリカ、リディー、マリアンネが果実水を飲んでいた。

 彼女たちも私同様、サウナに入って、戻ってきたばかりらしい。

 ちなみにフィーリンは、村長たちと一緒に宴会を続けている。


 エーリカから果実水を受け取り、今日の事、明日の事を軽く話し合う。

 フィーリンが戻って来る気配がないので、勝手に空いている部屋に入り、就寝する。

 私とエーリカで一部屋、リディーとマリアンネで一部屋を借りる。

 ちなみにヴェンデルとサシャは、工房には来ていない。どこに泊まるかも聞いていない。成人した男性なので、脳筋兄弟やドワーフに囲まれて寝るといいよ。

 そういう事でベッドと書き物机しかない簡素な部屋で眠りについたのであった。


 おやすみなさい。


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