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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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263 フィーリンの事情 その1

 エーリカとリディーの姉であるフィーリンは、ドワーフに似せて作られた自動人形とは思えない可愛らしい少女だった。


 エーリカよりも頭一つ分背が高いだけなので、中学生に入ったばかりの少女に見える。ちなみにエーリカは小学生高学年、リディーは高校生ぐらい。ティアは……サイズが小さくて分からん。エーリカの姉と言われれば分からないではないが、リディーの姉と言われると混乱する。見た目もバラバラなので余計に混乱する。


 そんなフィーリンは、ボリュームのある茶色い髪を無造作に三つ編みにして束ねている。女性という事で髭は生えていない。さらに暑っ苦しい顔もしていない。逆に丸っこく、ころころと表情を変える愛嬌のある少女だ。

 ぱっと見は人間の少女であるが、ドワーフっぽい所もある。

 どことなく気怠い雰囲気を醸し出しているので、お酒が入っている可能性が高い。また体付きが見た目以上にがっしりとしており、柔らかそうな肌の下に筋肉が見え隠れしている。

 私が知らないだけで、もしかしたらドワーフの子供はみんなフィーリンみたいに顔は可愛く、体はがっしりしているのかもしれない。

 まぁ、変な拘りのある何とか博士が作った自動人形だ。ただの趣味という線が強そうである。



 そんなフィーリンは、久しぶりに会う妹たちと再会のハイタッチをしていた。


 「一年ぶりぐらいだねぇー、リディア」とバチンと手を合わせると、「いったー、相変わらずの馬鹿力だ」とリディーが涙目に手を擦っている。

 「エーリカは……えーと……忘れるぐらいの久しぶりだねぇー」とバチンと手を合わせると、「計算するのが面倒なので、約百年ぶりです」と痛がる素振りを見せず、エーリカは淡々と答えた。


「それでぇー、こちらの方はどなたぁー? ただの護衛って感じじゃなさそうだねぇー」


 ここでようやくフィーリンは私の方に顔を向ける。

 エーリカとリディーの背後に立っていたら旅の護衛に見えたかもしれない。だが今はエーリカとリディーに挟まれた状態で座っているので、二人にとって特別な存在に見えたのだろう。


「ご主人さまは、わたしたちにとって、とても大事な人です。掛け替えのない方です」

「えっ、なに、なに? もしかして結婚でもしたのぉー? すごぉーい!」


 大袈裟に言うエーリカの言葉を聞いたフィーリンは、身を乗り出して私の顔をジロジロと見る。


「ば、馬鹿! け、結婚なんてしていない! 誤解を招く言い方をするな、エーリカ!」


 真っ赤な顔をするリディーが否定する。

 

「えーと…….はじめまして、フィーリン。私はアケミ・クズノハ。エーリカとリディーとは結婚していませんが、魔術契約を結んでいます」


 初めての会話なので、しっかりと挨拶をしておく。


「おおー、契約したの? 結婚以上じゃなーい! すごぉーい! めでたぁーい!」


 えっ、魔術契約って結婚以上の行為なの? まぁ、主従関係になるので、結婚以上かもしれないが……。

 フィーリンがパチパチと祝いの拍手をすると、「わたしは幸せ者です」とエーリカが満足顔をする。リディーは真っ赤に染まった長い耳をポリポリと掻いていた。


「まったく知らないけど、良さそうな旦那さまだねぇー。髪と髭を生やしたらドワーフっぽいし、姉としては安心だよぉー。旦那さま、これからも妹をよろしくねぇー」

「えーと……旦那さま?」

「そう、旦那さま。名前、忘れちゃったし」


 この娘、どこか変だよ。すでに泥酔している?


「まぁ、そういう事だから、これからもよろしくねぇー。あっ、そうそう、アタシの事はフィーリンでいいよ。ヴェクトーリア製魔術人形二型三番機。極限までドワーフに似せて作られた自動人形。よろしくねぇー、旦那さま」

「えーと……」

「おっさん、フィーリンについては慣れろ。考えずに話をする奴だ。思いつくまま口に出すのは、ティアに似ている」


 上から二番目のティアと三番目のフィーリン。エーリカもどことなくリディーの言動に似ていたりするから、連番の姉妹だと似るのだろう。


「ティアねぇーか……懐かしいねぇー」

「一応、ティアねえさんもご主人さまと魔術契約をしています」

「えぇー、本当ぉー!? ティアねぇーもすごぉーい! もしかして、ルルねぇーとセシルも契約してるの?」


 おや、初めて聞く名前が出た。もしかして、まだ会っていない姉妹かな? まぁ、ここで聞いても「権限ない」と教えてくれないので、心の片隅にしまっておこう。


「いえ、わたし、リディアねえさん、ティアねえさんの三人だけです」

「六人の内、三人も契約しちゃうなんて……今度はアタシの番って訳ねぇー。困っちゃうわぁー」


 小さい体をクネクネと動かすフィーリン。それに合わせて三つ編みが左右に揺れるのが可愛い。

 フィーリンの言動を見たエーリカとリディーは、同時に「違います」「違う」とハモる。


「ここに来たのは、行き別れたフィーリンの無事を確認しにきただけだ」

「様子も見れたので、もう帰ります」

「いやいや、違うでしょう」


 私は、帰り支度を始めるエーリカとリディーを急いで引き留める。


「フィーリンの事情を詳しく聞きたいし、ドワーフが酒を買い漁っている事も聞かなければいけないでしょう」

「どれも些細な事です」

「いや、面倒事だな」

「些細な事でも面倒事でも、姉妹なんだから話ぐらいは聞こうね。一応、冒険者の依頼なんだから」


 私がエーリカとリディーを座らせると、タイミング良くマリアンネが戻ってきた。


「もしかして、この可愛らしい子が探していたお姉さん?」

「ええ、彼女がフィーリンです」

「相変わらず、似ていない姉妹ね」

「それで、そっちはどうです? ヴェンデルとサシャは起きれそうですか?」

「あれは駄目ね。諦めて寝かせておいたわ」


 マリアンネの視線の先には、村長とその他ドワーフに囲まれて床に寝ているヴェンデルとサシャがいた。倒れるぐらい酒が飲めて良かったね。

 

「新しい子が来たねぇー。この子も旦那さまが契約した子?」

「違います」


 フィーリンは私を誰でも契約してしまう間男と認識してしまったかもしれない。

 ちなみにマリアンネが「契約って何?」と聞いてきたので、「気にしないでください」と流した。


「これからフィーリンにドワーフの件を聞こうと思っているんです。一緒に聞いてください」

「村長からまったく話が聞けなくて困っていたから助かるわ」


 マリアンネが椅子に座ると、逆にフィーリンが席を立ち、エールの入った樽と喧嘩に巻き込まれなかった肉の塊を持ってきた。


「何の事か分からないけど、まずは朝食。腹へったぁー」

「もう昼だがな」

「姉妹の再会と素敵な男性を見つけた妹を祝って、飲みまくろぉー」

「僕たちは食べ終えているから勝手に食べてくれ」


 リディーの冷たい言葉に気にする事なくフィーリンは、山盛りの肉とエールをバクバクグビグビと凄い速さで食べ進める。

 さすがエーリカの姉というだけあり、呆気に取られる食べっぷりだ。

 ただ不思議な事に豪快に食べているにも関わらず、口の周りを汚す事はなかった。その辺、普通のドワーフとは違うようだ。

 会話するタイミングを逃した私たちは、フィーリンの食事が終わるまでリンゴを齧りながら待つ。

 そして、山盛りの肉が無くなり、エールだけグビグビと飲み始めた時、リディーが口を開いた。


「なぁ、フィーリン。僕と別れた後、どうしていたんだ?」

「あははー、リディアが僕って言うの変な感じだねぇー。アタシとしては、その辺の事を先に聞きたいんだけどぉー」


 炭鉱暮らしをする前のリディーは、自分の事を「僕」って言っていなかったらしい。さらに髪の毛も長かったみたい。その時の姿、ぜひとも見たかったな。


「ぼ、僕の事は後で話す。それで川に落ちた後、僕の事を探さず、何をしていたんだ?」

「怒らない、怒らない。探そうにもリディアの魔力を探知できなかったし、周辺の地理も分からない。それなら自分の好きな方向に行くしかないじゃなぁーい」

「それで酒の匂いの方に向かったら、ドワーフの村に辿り着いたと?」


 リディーの言葉の端々にとげとげしさがある。やはり離れ離れになった後、少しは探して欲しかったみたいだ。


「この村は最近だねぇー。村や町を転々としは、鍋やフライパンを直して酒代を稼いでいたのぉー。そしたら、良い匂いに誘われて変な森に入り込んじゃって、何日もウロウロしていたら、この村に着いたんだよねぇー」

「その時にアーロンとアーベルの冒険者に会ったんだったね」


 双子の兄弟といい、フィーリンといい、行動パターンが似通っている。フィーリンも脳筋なのだろうか?


「そうそう、双子のにぃーちゃんたち。旦那さまたちは既に会ってるんだねぇー。……っと思ったら、そこに倒れているじゃない。笑えるぅー」


 ドワーフに囲まれて寝ている双子を発見したフィーリンは、ケラケラと笑って、エールをグビグビと飲み干す。


「あの二人についてはどうでもいい。フィーリンは、どうしてドワーフどもに姫様って言われているんだ? どうして、この村に滞在しているんだ? 僕たちが会いにきたけど、フィーリンはこのままこの村に住み続ける気か? どうなんだ?」


 リディーが一気に捲し立てると、フィーリンは「うーん」と唸りながら周りを見回す。


「ちょっと事情があってねぇー。しばらく村に滞在しなければいけないんだよぉー。それに……」


 フィーリンが続きを話そうとした時、「フィーリンさん」と背後から声を掛けられた。

 声の主はドワーフだ。ただ普通のドワーフと違い、お腹がでっぷりと膨れている。

 確か村長の息子だったな。


「やぁ、エギル、おはようさぁーん」

「本日も見事な飲みっぷりですね、フィーリンさん」


 村長の息子のエギルは、他のドワーフと違い、粗野で乱暴な話し方をしない。それどころか、慇懃丁寧にフィーリンに話しかけている。ただ、どことなく演技臭いので違和感が拭えない。


「この後の事なんですが、よろしかったら僕……んん、俺と一緒に山に行って、綺麗な宝石でも掘りに行きませんか?」


 あー、これ、デートの誘いだ。

 期待と不安に交じったエギルの声を聞くに、エギルはフィーリンに好意を抱いているのかもしれない。

 ただ、髭の生えたおっさん顔のエギルが、中学生みたいなフィーリンを誘っている構図は非常に危ない図である。ここに衛兵がいたら、職質を飛ばして逮捕だろう。

 まぁ、他人から見たら、私とエーリカのやり取りもこんな感じに見えるのだろう。今後は気をつけよう。


「エギル、いつも誘ってくれてありがとねぇー。でも、今日も駄目なんだぁー。妹たちが会いに来てくれて、これから遅くまで飲み明かすんだぁー」


 「妹?」と呟いたエギルは順に私たちを見る。最後に私に視線を合わせると、太い眉を顰めた。


「フィーリンさんの妹さん。ぼ……俺はエギル。村長に代わり、みなさんを歓迎します。フィーリンさんともども、好きなだけ滞在してください」


 挨拶を終えたエギルは、「では、フィーリンさん。またね」と寂しそうに行ってしまった。


「好意を抱かれているなんて、フィーリンも隅に置けないな」

「そうなんだよぉー。みんな良い人たちばかりでねぇー、アタシの事、姫様とか言うんだよぉー」

「そう、その姫だ。少し耳に入った事だが、フィーリンを村長の嫁にして、この村の一員にしたいと聞いたが本当か?」

「はははっ、アタシが村長のお嫁さん? ないない。村長には何人もお嫁さんがいるけど、歳の差のあるアタシを欲しがる訳ないじゃなぁーい。アタシ、まだ二百歳も経っていないのよぉー。ドワーフにとっては未成年。まぁ、エギルからは求婚みたいな事を言われた事あるけどねぇー」


 村長についてはよく分からないが、やはりエギルはフィーリンに好意を抱いているようだ。……いや、村長の代わりとして、息子のエギルが動いている可能性もある。

 まぁ、どちらにしろ、二人の構図がヤバイので求婚については阻止したい。


「フィーリンとドワーフの間に面倒臭い思惑があるのは分かった。ただ、それが原因で村に長居している訳じゃないんだろ?」

「リディアの言う通り、別の理由があるんだよねぇー」

「その理由とは何だ? 仕方がないから手伝ってやる。だから、さっさと話せ」


 強い口調になるリディーだが、フィーリンを心配しての言動なのは雰囲気で分かる。面倒臭いとか言っている割りには、やはり大事な姉なのだろう。

 まぁ、末っ子のエーリカは口を挟まず、無言でエールを飲んでいるだけだが……。


「その事だけど、アタシの工房に行ってから話すよぉー。そっちの方が分かりやすい」


 そう言うなり、フィーリンはエールの樽に蓋をすると、担ぎ上げて入口へ歩いていった。

 私たちは顔を見合わせると、急いでフィーリンの後を追う。

 

「食堂が酷い状況だけど、このままでいいの?」


 蚊帳の外だったマリアンネが自分と同じ大きさの樽を担いでいるフィーリンに尋ねる。


「大丈夫、大丈夫。村の規則で、酒に酔い潰れた奴が責任を持って片付けるんだってぇー。何でも酒に潰れる奴はドワーフじゃないとかで、やらせているらしいよぉー。アタシ、潰れた事がないから詳しくは知らないけどねぇー」


 何、その独自ルール!

 規則を作った村長も酔い潰れていたから、後で責任を持って、片付けるんだろうね。


 フィーリンを先頭に土と石だらけの村を歩く。

 殆どの者が食堂に集まり、酔い潰れているか、今も飲んでいるので、外には誰も姿を見ない。トンテンカンテンという物を叩く音も聞こえない。

 そんな寂しくなった村の奥まで進むと、横長に広い建物に辿り着いた。

 

「ここがアタシの工房兼寝床。借り物だけどねぇー」


 そう言うなり、フィーリンは観音開きの扉を開けて、中に入った。

 工房という事もあり、私が入っても頭がぶつからない高さになっている。壁にはハンマーや鋸といった工具が掛けられ、作業台には色々な機材が置かれている。

 そして、なぜか床には石の塊が置かれていた。


「これ……ゴーレムの残骸か?」


 床に置かれている塊を目にしたリディーは、ジロジロと観察しながら呟いた。


「そう、ロックゴーレム。これが原因」


 興味深そうにゴーレムを見ていた私たちにフィーリンは言う。


「このゴーレム、アタシが壊しちゃったんだよぉー。その修復をしなきゃいけないんだぁー」


 樽の蓋を空けたフィーリンは、エールを飲みながら「たははぁ、まいった、まいった」と笑った。


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