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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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249 数日間のあれこれ

 パウル・クロージク男爵の館に来て二日が経過した。

 昨日はマローニ料理を作った。今日は気分を変えてクッキーでも焼こうかなと思いを馳せていると、本日の料理教室は中止と言い渡された。

 理由は、男爵が管理している土地の視察と近隣に住んでいる貴族の挨拶回りで三日ほど留守にするからだ。男爵曰く、新しい料理は家族と一緒に摂りたいという事だが、ハンネの話によれば、家族よりも先に自分が食べたいだけとの事。……子供か!?

 そういう事で三日ほど、暇になってしまった。

 その事を青銅等級冒険者の三人に話すと、冒険者ギルドで依頼でも受けたらどうだ? と有り難い言葉を授かった。

 現在進行形で男爵の依頼を受けているのに、別の依頼を受けられるか心配になったが、状況次第では受けられるらしい。その辺は、冒険者ギルドで相談すればいいと言われた。

 早速、私たちは青銅等級冒険者の三人と一緒に近くの町へ向かう。ただ、近くと言っても馬を走らせて一時間は掛かる場所にあるので、着いた頃にはお尻が痛くなってしまった。


 町の名前はボーダール。ダムルブールの街の半分ぐらいの面積で、穀倉地帯というだけあり麦だけでも色々な種類の麦が売られていた。小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦ぐらいしか知らない私だが、ぱっと見ただけでは判断できない。購入する気もないのでわざわざ聞かなかった。

 また、豆類も豊富だった。こちらも見ただけで何の豆か分からない。ただ、ヒヨコ豆っぽいのがあったので、こちらは購入。トマトスープに入れると美味しいんだよね。

 穀物地帯という事で、もしかしたら米があるかと期待したが駄目だった。稲作は降水量が多くないと作れないので仕方がない。

 簡単に町を探索した後、冒険者ギルドへ向かう。

 ダムルブールの街の冒険者ギルドとは違い、場末の酒場のような建物で窓口も二つしかない。時間帯が遅い事もあり、冒険者の姿はなかった。先に行ったヴェンデルたちの姿もなし。

 気怠そうに頬杖を付いていた受付のおばさんに、私たちの事情を説明し、二重で依頼を受けられるかを相談したら、「問題ない」とそっけなく言われた。

 本来は駄目なのだが、冒険者ギルドが許可が出れば良いらしい。私たちの場合は、貴族の依頼は別扱いされている事、現在男爵不在で依頼が止まっている事、それらを踏まえた上での許可である。

 依頼票が貼り出されている掲示板に行くと……ろくなものがなかった。

 倉庫のネズミ退治、迷子のネコ探し、外壁補修、荷物の運搬、と冒険者の依頼か? と疑問に思うのしか残っていない。

 仕方が無いので、迷子のネコ探しを受ける事にする。私、ネコ好きなんだよね。

 早速、依頼主の元へ行き、事情を聞く。

 名前はミミちゃん。茶色の短毛種。二日前、開けた窓から飛び出して、それっきり帰ってこないとの事。完全家ネコなので、遠くまで行っていないと思われる。

 さて、どうやって探すかな? と悩んでいると、エーリカが「やってみます」と声無き声を四方八方へ発生させた。

 エーリカの特技の一つ、魔物呼び。犬笛みたいに人間の聴覚では聞き取れない音を発し、魔物を引き寄せる。これまでスライム、ホーンラビット、ベアボアを引き寄せた実績がある。ただ、今回は普通のネコだ。魔物じゃないけど大丈夫かな?


「問題無い。すぐに集まってくる」

「自信満々に言うけど、過去に同じ事をしたの?」

「以前、僕が同じことをした。だから、分かる」

「えっ、リディーも出来るの?」

「僕がエーリカに教えたんだ。まぁ、僕の場合、風の精霊の力が必要だから今は出来ないけどね」


 リディーの言う通り、すぐに野良ネコがわらわらと集まってきた。

 警戒心の高い野良ネコは人間を見るなり逃げて行ってしまうのが常だが、集まってきたネコたちはエーリカを中心に「ニャー、ニャー」と鳴いている。


 えーと……茶色の短毛ネコ、茶色の短毛ネコ……居た! それも三匹。どれだ?


 判断つかない私たちは、依頼主に来てもらいネコたちを見せると、「うーん……」と首を傾げてしまった。おい、飼い主! しっかりしろ!

 最終的に「ミミちゃん」と名前を呼ぶと、一匹の茶色のネコが返事をしたので、無事に見つかった。

 あっと言う間に依頼達成である。

 「さすが、エーリカ。私の自慢の妹だ!」と自分の事のようにリディーが讃えている。

 凄いと思うけど、ただネコを集めだけなんだよね。

 集まったネコたちを撫ぜようと私が手を伸ばしたら、「フゥーッ!」と唸り、蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。

 はぁー……冒険者ギルドへ戻ろう。


 迷子のネコ探しの依頼完了を済ませた私たちは、駄目元でもう一件依頼を受けられないかとお願いしたら、「良いよ」と即答で許可が出た。頼んだ私も私だが、簡単に許可を出す窓口のおばさんもおばさんである。もう少し、一日一件の規約を守ろうよ。

 そういう事で、今度は倉庫のネズミ退治を受けた。

 場所は、刈り入れた麦を一括で管理している町の貯蔵庫。役所で事情を説明し、役人に連れられた倉庫に行くと、麦の入った麻袋が山のように積まれていた。

 その倉庫の麦をネズミが食べるので駆逐するのが依頼内容である。

 ネコでも放り込んでおけば良いのでは? と思うが、冒険者の仕事が減るので言わないでおこう。

 ちなみに今回も私とリディーは出番なし。エーリカの魔物寄せの特技で倉庫内のネズミを呼び寄せると、天井の梁や柱からわらわらと集まってくる。そして、集まった場所に電撃の魔力弾で気絶させていった。

 エーリカは、冒険者でなく害獣業者に成った方が儲かるのではなかろうか。

 そういう事で、あっという間に依頼達成。三十匹以上も駆逐したので依頼主から依頼料とは別に麦の入った麻袋を一個、おまけで貰った。

 

 流石に三回目の追加依頼は断った。残りが外壁補修や荷物の運搬という力仕事しかないので却下である。

 本日一番の功労者のエーリカを労う為、露店で沢山の料理を買い、帰り道の途中にある見晴らしの良い場所で昼食を食べた。どこまでも広がる麦畑を眺めながらの食事。味は美味しくないが気持ち良かった。



 次の日、青銅等級冒険者の三人と一緒に冒険者ギルドに入り、依頼の掲示板を見ていると、ヴェンデルが「この依頼、一緒に受けないか?」と誘われた。

 内容は、野生の馬の捕獲。

 逃げる馬を追い駆けながら捕獲するので、脚力のあるクロとシロが目当てらしい。

 なぜか冒険者でないリディーが乗り気になったので、一緒に受ける事にした。

 依頼主の馬屋で情報を聞き、野生の馬が生息している平原へ辿り着く。

 ここでもエーリカの魔物寄せの特技で野生の馬を呼び寄せる。だが、ネコやネズミと違い、私たちが縄で捕獲しようとすると危険を察した馬たちは一目散に逃げていった。

 ここから追いかけっこが始まる。

 ちなみに乗馬に慣れていない私とマリアンネは高台で見張り役。

 クロとシロに乗っているエーリカとリディーがスレイプニルの脚力を生かし、馬たちを先回りして進行を塞ぐ。そこを小型の馬に乗っているヴェンデルとサシャが後方から向かい、囲んでいく。

 捕獲する方法は、輪っかにした縄を首に掛けて、無理矢理、引っ張って連れて行くそうだ。まるで西部劇である。

 ヴェンデルとエーリカは慣れていないようで、縄を投げても外していく。

 サシャは、一発で黒毛の馬を捕まえた。

 リディーは、縄を使わず、野生の馬に並行するや否や背中に飛び乗り、首筋を擦って手懐けてしまった。

 その調子でリディーとサシャの活躍で四頭の野生の馬を捕らえる事に成功する。

 本日も私は何もしなかった。とほほ……。



 さらに次の日、ヴェンデルたちは依頼料の良い盗賊退治を受けた。一応、私たちも誘われたのだが、人間相手はやりたくないので断った。

 代わりに蜂蜜取りの依頼を受ける事になってしまった。

 私は「蜂、怖い」と嫌がったのだが、リディーが「おっさんが居れば問題ない」と言うので、ここ二日間、出番のなかった負い目から受ける事になってしまった。

 蜂蜜屋の亭主と一緒に山の中を探索。

 息を切らせながら山の斜面を登ると蜂の巣を発見。

 枯れた大木の幹の中に蜂の巣があるらしく、亭主は自家製の煙幕で大木から蜂たちを追い出す。

 「おっさん、出番だ。防御魔術を張れ」とリディーの指示で、光のカーテンを広げて、私、エーリカ、リディー、亭主を覆う。

 拳大ほどの魔物の蜂が私たちに向けて集まりだす。

 数にすれば数十匹程度であるが、非常に獰猛で光のカーテン越しに太い針を付き刺してくる。

 耳を覆いたくなる羽音に囲まれる中、エーリカとリディーは光のカーテンの隙間から魔力弾と短剣で一匹ずつ仕留めていく。

 私と亭主は、ただただ刺されないように耳を塞いで、丸くなっていた。

 怖い思いをしただけで何事もなく無事に蜂を退治した私たちは、大木の幹から三段になっている蜂の巣をゲット。通常の蜂の巣と違い、魔物の蜂の巣は高級品との事で、亭主はホクホク顔だった。

 私たちは、依頼料とは別に蜂の針を冒険者ギルドが買い取ってくれたので、ちょっとした臨時収入が手に入り、ホクホク顔だった。



 クロージク男爵の館に来て六日目。

 やたらと静かだなと思い、一人寂しく朝食を食べていたサシャに尋ねたら、飽きれた顔で『女神の日』だと教えてくれた。

 『女神の日』。

 二十日に一度訪れる、特別の日。

 教会で祈りを捧げた後、お祭りを行う休息日である。

 昨日遅くに帰ってきたクロージク男爵とその家族も朝一番に館を出て、教会のある町まで行っている。その為、館の中は静まり返っていた。


「ヴェンデルとマリアンネは護衛の名目で男爵に付いて行っている。俺は後で合流して、酒を飲みに行ってくる。おっさんたちはどうする?」

「うーん……止めておこうかな」


 私は女神信者でもないし、お尻を痛めてまでお祭りのある場所まで行き、楽しみたいとは思わない。

 一応、人見知りのリディーと私にべったりのエーリカの意見を聞く。


「人混みは嫌だ」

「ご主人さまの側が一番です」


 思った通りの回答である。


 そういう事で、お留守番をしている料理人四人と一緒に料理の依頼を再開した。

 特別な日という事で、お菓子に挑戦。数日前に作ろうとしたクッキーを作るつもりだ。

 菓子作りという事で、今回はエッポを主役に作ってもらう。

 溶かしたバターに溶いた卵を加え、しっかりと混ぜていく。その後、砂糖を加え、さらに混ぜる。どろっとしたらふるいに掛けた小麦粉を加え、ざっくりと混ぜてから軽く錬ってお終い。簡単だね。

 分量は適当。ただ、砂糖の在庫が少なかったので甘さ控えめにしてある。

 丸めた生地を氷の魔石のある保管室で、しばらく寝かせておく。


 時間が開いたので、その間、飲み物として麦茶を作る。

 アルバンの話では、麦茶はすでに存在しているらしい。詳しく言うと、麦を育てている一部の平民が飲んでいるとの事。つまり平民の飲み物という事で貴族は飲まないそうだ。健康に良いのに勿体ない。

 まぁ、私が飲みたいので勝手に作ります。

 粉にしていない殻付きの麦をフライパンに入れて火に掛ける。焦がさないようにフライパンを動かして焙煎していく。

 麦の良い香りを楽しみながら黒茶色に加熱できたらお終い。後はお湯で煮詰めて完了。

 久しぶりの麦茶を飲んで、日本の夏を思い出し、目頭が熱くなる。懐かしく、美味しい麦茶は、私とエーリカとリディーに好評だった。若干、焦げ臭くなってしまったけど……。


 良い気分転換が出来た私たちは、クッキーの仕上げに取り掛かる。

 冷たい場所で寝かせたクッキーの生地を麺棒で伸ばす。この世界にクッキーの型がないので、四角形に切り揃えた。そして、窯に入れて焼いていく。

 窯の温度など分からないので、エッポに焼き具合を見てもらう。

 ほどなくすると、エッポがクッキーを乗せた皿を取り出た。

 どう見ても生焼けな感じ。試しに一口齧るとボソボソとしていた。

 無理もない。初めて作り、初めて見るお菓子だ。

 だけど、エッポ、やり直し。

 再度、窯に入れ、焼き直したら、今度は焼け過ぎてしまった。

 窯で焼くのは難しのが分かった。


 再度、クッキー生地を作り、寝かせる。そして、窯に入れて焼いたら、今度は上手く焼けた。

 サクサクとした甘さ控えめのクッキーは、茶色な見た目にも関わらず、美味しかった。何より麦茶に合う。

 お菓子という事もあり、エーリカ、リディー、ハンネ、クラーラから好評を得た。アルバンは、「美味いけど、もう少し腹に溜まる物が良いな」とポイポイッと口の中にクッキーを放り込んでいる。エッポに関しては、一口齧ると何やら木札にメモをしている。勉強熱心なのは良い事なのだが、口に出してもらわないとさっぱり分からない。


 只今は昼を過ぎたあたり。

 まだ時間はあるし、流石にクッキーだけだとクロージク男爵が不満に思うかもしれないので、主食になる料理も作る事にした。

 小麦粉料理とは呼べないが、折角、新鮮な豚肉があるので、とんかつを作ってみた。

 館で飼われている豚は独特の臭みがあるので、筋切りした豚肉を念入りに塩胡椒をしておく。そして、小麦粉、溶き卵、パン粉を順に付けて、油で揚げた。

 ソースは、トマトソース。またはレモン汁か、塩だけで食べる。

 綺麗に揚がったとんかつは、臭みも薄まり、美味しかった。ただ、白米が欲しくなり、泣きそうになってしまった。


「お菓子まで作れるとはな。それもどれも美味しいときた。パウル様が気に入るのが分かるぜ」

「クズノハさん、冒険者を辞めて、料理人に成らない? 今なら兄さんを蹴散らして、専属になれるよ」

「それは良い。俺を楽させてくれ」


 アルバン、クラーラの兄妹からリクルートされる。それで良いのか、アルバン!?

 まぁ、有り難い誘いだが、料理人になる気はない。

 みんなが絶賛してくれる料理だが、私が一から考えて作った料理ではない。料理の腕は一人暮らしの自炊で培った腕であるが、知識はネットに流れている既存のレシピを覚えているだけ。

 今の私は、他人のふんどしで相撲を取っているようなもの。自分の成果として自慢する程、厚顔無恥な性格をしていない。私の心臓はノミ並なのだ。

 一から新しい料理を作り出せる能力も基礎的な技術も根気もやる気もないので、誘いは丁寧にお断りした。

 そうしたら、「それは残念だ」とハンネに言われた。エッポも黙って頷いている。

 君たちも狙っていたのか!?


 本日の成果は、クッキーととんかつ。

 変な組み合わせだが、思い付きで作っているので仕方がない。

 クッキーは男爵夫人に好評で、とんかつはクロージク男爵と二人の息子に好評だった。

 このままいけば、数日で私の知っているレシピは無くなる。

 そうなれば、お(いとま)しよう。

 そう思っていた矢先、館に来客が訪れた事で、南アルトナの滞在期間が伸びてしまった。


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