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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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246 男爵を追い駆けろ ~合流~

新年、あけましておめでとうございます。


第三部の囚人と違い、第四部はのんびりとした話が続きます。(たぶん……)

のんびりとお付き合いしてくださればと思います。


今年も宜しくお願いします。

 教会で一晩を過ごした私たちは、ひたすら街道を進む。

 昨日の朝、クロージク男爵一行も教会から出発しているので、クロたちの速度なら今日中には合流できるだろう。

 道中、主要な町や村がないので寄り道は一切しない。森や林を抜け、川を越え、黙々と続く街道を走る。そして、私の体力が限界を迎えそうになった時、クロージク男爵一行と思しき馬車の集団に追いついた。


「リディー、先に言っておくけど相手はお貴族様だ。挨拶の時、リディーについて教えなければいけない。さすがに顔を隠したままは不味いので、一瞬で良いから素顔を見せてほしい」


 一番下の位である男爵とはいえ貴族は貴族だ。礼儀は必要だし、それ以前に顔を隠したままでは不審がられる。金や権力のある貴族は、敵対する者もいれば恨む者もいる。変な誤解が生じるなら事前に潰しておきたい。

 その事を話したら、リディーは「帰ろうかな……」と呟いた。

 それだけ嫌か!? まぁ、分からないでもないけど……厄介事が待っているので私も帰りたい。


 馬車は縦列に五台が並んでいる。どの馬車にもデカデカと家紋が刻まれているが、クロージク男爵の紋章を知らないので判断が出来ない。だが、偉い人が乗っているのだけは分かった。

 五台の馬車を取り囲むように馬に乗っている人がいる。

 どの人も長い外套につば広の帽子を被っている旅の服装であったが、腰に剣を携えているのを見るに護衛の人だと分かった。


「ご主人さま、見てください。見知った顔があります」


 私の前に座っているエーリカが、馬車の集団を指差す。

 目を凝らして見ると、前方の馬車と並行して乗馬している人物に見覚えがあった。

 名前は忘れたが、青銅等級冒険者の男女三人組だ。

 私たちの代わりに冒険者の護衛を付けたと話は聞いている。あの三人組が私たちの代わりなのだろう。

 それなら目の前の馬車は、クロージク男爵の馬車で間違いない。

 そう判断した私たちはゆっくりと馬車に近づく。すると、私たちの存在に気が付いた護衛の一人が集団から外れ、私たちに向かってきた。


「遠くで我々の様子を観察していたのは知っている。お前たちは何者だ? 我々に何の用だ?」


 護衛は、腰に差してある剣を触れながら尋ねてきた。声の響きから非常に警戒されているのが分かる。


「私たちはダムルブールの街の冒険者でアケミ・クズノハと言います。目の前の馬車は、パウル・クロージク男爵の馬車で間違いありませんか?」

「ああ、冒険者だったか……」


 護衛は、私と私の前に座っているエーリカ、そして、後ろで待機しているリディーを順番に視線を向ける。一人は少女だし、一人はフードで顔を隠しているし、私は強面だしで、どう見ても冒険者には見えないよね。


「話は聞いている。ついて来い」


 護衛は回れ右をすると、止まっている馬車の集団へ駆け足で戻って行くので私たちも付いていった。

 護衛は前から三番目に止まっている馬車に横付けすると小声で中の人物に報告する。

 馬車のキャビンに取り付けてある小さな窓が開き、パウル・クロージク男爵の顔が現れた。とはいえ、小窓の所為で、丸々と太ったクロージク男爵の顔はチョビ髭ぐらいしか見えない。


「窓から失礼するよ。最近、体が重くて、乗り降りがしんどいんだ」


 それは食べ過ぎなのでは? と注意はしない。食道楽男爵の宿命だ。


「私も馬上から失礼します」


 本来は貴族相手に見下ろすような形で会話はしない。まして馬に乗ったまま話をするなど言語道断だろう。だが、今は馬車が動き出してしまっているので仕方が無い。もし嫌な顔をするようなら、すぐにでも下りれるように気を回しておく。だが、当の男爵は「構わん、構わん」と気軽に許可を出してくれた。

 貴族の常識がない私にとって、クロージク男爵の対応は非常に助かる。


「改めて、アケミ・クズノハ君、久しいな。炭鉱帰りという事でやつれて戻ってくると思っていたが、元気そうで何よりだ」

「おかげさまで、無事に戻ってきました。ご心配をおかけしました」


 わざわざ確認はしないが、恩赦の出所がパウル・クロージク男爵の可能性があるので、ここで謝罪と感謝を述べておく。


「うむうむ、エーリカの嬢ちゃんも元気そうだな」


 私の前に座っているエーリカは、クロージク男爵に視線を向けるとコクリと頷いた。

 クロージク男爵は、好々爺のように微笑むと、私と並行して歩いているリディーに視線を向ける。


「紹介します。エーリカの姉のリディアミアです。私たちの仲間で、今回、同行する事になりました」


 私が紹介するとリディーは、目深に被っていたフードをパサリと取った。

 リディーの素顔を見るなりクロージク男爵は、「ほう……」と溜め息が漏れる。周りにいる護衛からも視線が集まる。

 その様子に気付いたリディーは、エーリカに倣いコクリと頷くとすぐにフードを被り直した。


「エルフとはまた珍しい。妖精といい、そなたの仲間は面白いな。今度、エルフの料理について話を聞かせてくれ」


 色々と聞かれるかと思い気負っていたのだが、それだけで終わったので安堵する。さすが食堂楽男爵。料理にしか興味がなくて助かった。


「トーマスから話は聞いておるな」

「はい、私たちに護衛の任務をしたかった話を聞いています。遅くなりまして申し訳ありません」

「なに、構わん。だが、見ての通り護衛は足りておる。残念だが、護衛任務の依頼はなしになった」


 私兵と思しき護衛が四人。青銅等級冒険者が三人。合計七人で馬車五台を護衛している。

 多いのか少ないのか分からないが、男爵からすれば足りている人数なのだろう。

 それならお役御免で帰れるかな? と期待をしていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。


「私が管理している南方アルトナについたら別の依頼を出すつもりだ。無駄足は踏ませないので安心しなさい」


 まったく安心していない。むしろ無駄足の方が良いぐらいだ。


「別の依頼とは何でしょうか?」

「ガーディの子供たちの誕生日を成功させたそなたなら大した事じゃない。現地についたら知らせるので、それまでゆっくりと私たちに付いて来てくれたまえ」


 ガーディって誰? という疑問はさておき、結局、本来の依頼内容は教えてくれなかった。ただ食堂楽男爵の依頼だ。料理に関する事であるのは予想に難しくない。

 話は終わったとばかりに、クロージク男爵は小窓を閉めた。



「おーい、こっちこっち」


 後ろの馬車の扉が開くと、身を乗り出して手招きされる。色あせた赤いざんばら髪を後ろで適当に結んだ女性。料理長のハンネだ。

 私たちは、馬車の横まで移動して中を覗き込むと、ハンネとエッボ、使用人の女性二人が乗っていた。男がエッボだけなので、何だか肩身が狭そうである。

 「また、クズノハの旦那に会えて嬉しいよ」と簡単に挨拶を交わす。


「長旅、お疲れさまです。まだまだ男爵の領土まで時間が掛かるので大変ですね」


 何日も馬車に揺られるなんて苦行の何物でもない。そう思っていたら、ハンネは「そうでもないさ」と答えた。


「双子の誕生日依頼、パウル様のお客が後を絶えなくてね。連日、食事会でいつも大変だった。パウル様のご家族様が楽しみにしているから館についたら、また料理漬け。料理から離れている今が休息中って事」


 馬車移動が休息になるなんて、どれだけ忙しかったのだろう? 過労死しないか心配になってくる。


「道中に寄った町や村で、男爵が毎回料理屋に立ち寄っている情報が耳に入りましたが、いつもこんな感じなんですか?」

「ああ、いつもの事さ。休憩の合間にその場所その場所の料理や食材を調べているんだ。私も同行して食べ歩ている。おかげで良い食材が見つかったり、料理の案が浮かんだりする。パウル様と私に付き合わされる他の者は、ゲンナリしているけどね」


 「はははっ」と笑うハンネから悪びれる感じはなかった。


「さっきも言った通り、旦那に教えてもらった料理を作り続けて、以前よりも上手く作れるようになったと思っている。館についたらご馳走するから感想を聞かせてくれ」

「その時は大盛りでお願いします」


 今まで黙っていたエーリカが口を挟んだ。

 エーリカの言葉にニコリと微笑んだハンネは「期待していてくれ」と言って、扉を閉めた。


「おっさんって冒険者だよな? 何で貴族に料理を教えてるの?」


 事情を知らないリディーが怪訝な顔をしながら尋ねてきた。

 本当、何で冒険者が料理人みたいな事をしなければいけないんでしょうね? 私も不思議だ。

 私たちとクロージク男爵の繋がりをリディーに教えていると、青銅等級冒険者の三人が寄ってきた。


 この三人の名前……何だったかな?

 どうも私はぼっち生活が長い所為で、人の名前を覚えるのが苦手のようだ。


「エーリカ、彼らの名前って憶えている?」


 前に座っているエーリカに小声で尋ねたら、「ヴェンデル、サシャ、マリアンネです」と教えてくれた。

 そうそう、そうだった。

 小剣と盾を使う男性がヴェンデル。腰にナイフを差しているのがサシャ。杖を持っているのがマリアンネである。ちなみに、ヴェンデルは真面目な好青年、サシャは落ち着きのないお調子者、マリアンネはふわふわとした可愛い系女子だ。


 この三人に会ったのは、私とエーリカが新人の仮冒険者だった時、水路掃除の依頼中に知り合った。その後は、大ミミズの後始末や冒険者ギルドの慰労会の時に何度か話した事がある。


「久しぶりだな」


 リーダーであるヴェンデルが代表で挨拶をしたので、「慰労会以来ですね」と返した。


「君がルウェン鉱山に送られたと噂が流れていたけど、無事な姿を見るに嘘だったようだな」

「俺は教会の地下牢に入れられて、拷問されていると聞いたぞ」

「私は教会の神父に目を付けられ、逃げた先の山奥で熊と一緒に暮らしていると聞いたわ」

 

 私がいない間、変な噂が流れているみたいである。正直に話す必要もないし、噂を訂正するつもりはないので、「色々ありまして……」と濁すだけにしておいた。


「何度見ても凄い馬だな」

「ただの馬じゃないわよ。魔物のスレイプニルよ。ほんと、サシャは馬鹿なんだから」

「そ、そんなの言われなくても分かっている! いちいちスレイプニルって言うのが面倒だっただけだ」


 マリアンネに馬鹿にされたサシャが顔を真っ赤に染めながら訂正する。


「あなたたちの馬は自前ですか?」


 男爵の私兵が乗っている馬は若々しく立派であるが、彼らが乗っている馬は、一回り小さく、どこか頼りない。老馬なのだろうか? それもと品種の違いかもしれない。


「まさか、馬屋からの借り物だ」


 やはりと私は思った。

 彼らは私たちよりも二つ上の青銅等級冒険者であるが、一日で稼げる依頼料は大して変わらないはず。そんな彼らが自前の馬を持っているとは思えない。馬は高いのだ。


「今回の依頼は急に決まったんだ」

「朝一番にギルマスに呼び出されて、男爵の護衛をしろと押し付けられたのよ」


 帰還報告に来ない私を見かねた男爵は、ギルマスを通して他の冒険者に護衛依頼を出した。そこで、ギルマスに気に入られている青銅等級冒険者の三人に回ってきた流れらしい。


「長旅の護衛という事で、急いで馬屋に行ったら、この三馬しかいなかった訳さ」

「サシャとヴェンデルは不満そうだけど、私はこのぐらいの大きさで良いわ。早馬に使う訳でもないしね」


 プリーストらしくマリアンネは優しく微笑みながら灰色の馬を撫ぜる。


「徒歩並みの速度ですしね。でも、魔物とかが現れたら大丈夫なんですか?」

「その時は下りて戦っている。馬上で戦う事なんかした事が無いからな」

「サシャの言う通り、今の所、それで対応している」

「今の所って? もしかして、本当に魔物に遭遇しているんですか?」


 護衛任務とはいえ、滅多に魔物や盗賊に出会うとは思っていなかった。


「移動距離が長いという事は、色々な場所を通るという事だ。開けた場所なら問題ないが、森や川といった自然に囲まれた場所では、魔物の遭遇率は上がる。特に男爵様は、街道を逸れて町や村に寄り道ばかりしているから余計に出会っちまう」

「まぁ、ウルフやラビットぐらいだから問題はない」

「その為の護衛任務だしね」


 ちょっと道に逸れただけで魔物に遭遇するなんて……異世界、怖すぎ。


「あなたたちは、ここまでの道中で遭わなかった?」

「えーと……ゴブリンに襲われました」

「ゴブリンか……街道で遭うのは珍しいですね。どこで遭遇したんですか?」


 マリアンネの問いに私は、高い山の峠で遭ったとだけ答えた。細かく言う気はない。特に吊り橋を壊した件は……。


「おっさんたち、『夜泣き峠』を越えて来たのか!? どうりで襲われる訳だ」


 わっはっはっとサシャが笑う。

 どういう意味かとヴェンデルに視線を向けると、何も知らない私たちに説明をしてくれた。


「あそこは標高が高く、道が悪い。さらに山賊や魔物が現れる事で有名な峠道なんだ。余程、腕に自信のある者か、急ぎの者以外は利用しない。ほとんどの者は、山を迂回して進む。僕たちもそうした」


 そうだったのか!

 どうりで渓谷の下に馬車の残骸がある筈だ。私は見ていないけど……。

 最短距離で進むべきでなかった。事前に教えてよ、トーマスさん……。

 ちなみに『夜泣き峠』の名前の由来は、寝ていた子供が怖すぎて起きだし、泣き続けてしまう事からきているらしい。


「それで、あなたたちは、どんな依頼で合流したの? 知らないとはいえ、『夜泣き峠』を通って急いで来たのよね。余程、重要な依頼なんでしょう?」

「それが分からないですよ」

「「「はぁー?」」」


 青銅等級冒険者の三人から変な声が漏れる。

 私も同じ気持ちだ。


「男爵が治める南方アルトナに到着したら教えてもらえるらしいのですが……何なんでしょうね。依頼料も聞いてませんし……」

「金額もか? それで良く引き受けたな」

「まぁ、仕方が無いわよね。貴族の依頼だし……従うしかないわよ」

「僕たちも同じようなものだしな」


 貴族の依頼と聞いて、納得してしまう私たち。

 悲しい身分社会である。


 その後、列から外れたマリアンネは、少し離れた場所にいるリディーの横へ移動していった。

 マリアンネは、フードで隠しているリディーの顔を覗き込みながら色々と聞いている。

 人見知りのリディーは、凄く嫌そうな雰囲気を醸し出しながら言葉少なめに答えていく。

 チラチラと私に助けを求めてくるが、無視する事にした。

 ぐいぐい来るマリアンネを使って、少しは人見知りを治ってくれればと願うばかりである。


「目的地まで、あとどのくらい掛かりそうですか?」

「そうだな……この調子だと二日って所か?」

「ああ、そのぐらいは掛かるだろう」


 これから二日間は、男爵一行と行動を共にしなければいけない。

 私は別に問題はないのだが、人見知りのリディーは大丈夫だろうか?

 男爵の私兵は、無駄口を叩かず、真面目に護衛をしている。ヴェンデルとサシャも特に気にしている節はなし。マリアンネだけ興味津々で絡んでいるが、同性なので問題ないだろう。


「おっさんたちは長旅は初めてなのか? そんな服装で何日も移動する気か?」

「ええ、何着も服を持っていませんから」


 私の言葉を聞いたサシャとヴェンデルが、やれやれと首を振る。

 話を聞くに、寒さから身を守る外套、日差しや雨から守る帽子、泥や水で汚れても良いブーツのような長靴は必需品との事だ。

 私兵やヴェンデルたちを見ても、みんな同じような服装で固めている。プリーストのマリアンネも然り。

 改めて、自分の服装を見る。麻の上着とズボンに皮鎧をまとっているだけ。確かに、長旅をするには心もとない服装である。

 エーリカに至っては、いつものゴシックドレスだ。貴族の祭事に行くならまだしも決して長旅をする服装ではない。


 冒険者にとってヴェンデルたちは先輩だ。

 二日もある事だしね、冒険の何たるかを聞いて、勉強させてもらおう。

 

 

 こうして、私たちは無事にパウル・クロージク男爵と合流し、目的地である南方アルトナに向けて、進むのであった。


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