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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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240 男爵を追い駆けろ ~出発準備~

 パウル・クロージク男爵の依頼を受ける事になった。

 依頼内容は、直接男爵に聞かなければ分からず、その男爵は二日前にダムルブールの街を出発している。

 男爵が向かっている場所は、男爵自らが管理しているアルトナ郡南方アルトナという町。執事であるトーマスの話によれば、ダムルブールの街から馬車で五日の距離にあるそうだ。

 私たちはこれから男爵を追い駆けて、途中で合流しなければいけない。

 目的地が分かっているのだから南方アルトナの町で落ち合えば良いのでは、と私は思うのだが、トーマスの雰囲気から察するに、今すぐにでも出発し一秒でも速く男爵と合流して欲しい感じだった。

 そんな急ぎの依頼であるのだが、私たちはのんびりと貴族街を歩き、冒険者ギルドへ向かっている。たぶん貴族の依頼という拒否反応からくる現実逃避だろう。私のやる気スイッチは、一日も持たないのである。


 それはそうと、どうやってクロージク男爵を追い駆けようか?

 馬車は人間の徒歩と変わらない速度で進む。二日前に出発した男爵だが、徒歩二日と考えるとそこまで距離が空いているとは思えない。

 同じ馬車で向かっては意味がないが、馬を走らせればすぐに追い付けるだろう。

 やはり、ここはクロとシロの出番だな。

 若いとはいえクロたちは足が八本もある魔物のスレイブニル。通常の馬よりも体力も筋力も魔力もある。私、エーリカ、アナ、リディーを二組に分けて乗せたとしてもクロたちなら余裕で駆けてくれる筈。ちなみにティアはサイズ的にカウントしていない。

 問題は期間だ。

 男爵の元に合流して、「お久しぶりです。では、さようなら」とトンボ帰りする事は出来ない。元々私たちに護衛任務をさせたかった男爵だ。合流した後も南方アルトナまで同行する事になるだろう。それだけなく護衛任務とは別に本命の依頼がある。依頼内容によっては、何日も掛かってしまうだろう。

 つまり南方アルトナの往復と依頼内容によっては、数日では帰ってこれない恐れがある。

 その間、アナの家を空けて良いのだろうか?

 増改築中のアナの家だ。壁や天井は出来ているとはいえ、場所によっては仮設として簡単に作っている個所もある。

 いつ戻れるか分からない手前、長い間、他っておくのは問題だ。

 その事は、後でみんなと相談しよう。最悪、私だけ留守番でも良いしね。……うん、駄目だね。


 

 そんな事を頭の中で考えていたら冒険者ギルドへ到着した。

 久しぶりの冒険者ギルドである。最後に訪れたのは、貴族の誕生日会の報告をした時だ。その後、神父と衛兵に連行され、炭鉱へ送られたのである。

 一か月ぶりに冒険者ギルドへ入る。朝の喧噪は過ぎているので職員しかいない。その中に窓口で書類仕事をしているレナの姿を見つけた。


「レナさん、お久しぶりです」

「アケミさん!? 戻って来たんですね!」


 私の顔を見たレナは、口に手を当てて驚く。

 そんなレナに私は、「ご心配をおかけしました。無事に戻ってきました」と謝罪と感謝を述べいく。

 私の事情はティアを通して伝わっている。特に担当のレナには、事細かに話したと言っていたのだが、私がダムルブールの街に戻った事は伝えていなかったみたいである。


「本当に心配したんですからね。急に教会の方に連行されたと思ったら、ルウェンの町で炭鉱作業をさせられると聞いたんです。もう戻って来れないかもと覚悟していたんですよ」

「元々草むしり程度の罰で良かったのをさる事情から炭鉱での作業になりました。そういった事情で、すぐに戻って来れたんです」


 期間としては短いのだが、炭鉱生活は言葉に言い表わせない過酷なものだった。何度も死に掛けたしね。そういった事は心配してくれたレナには伝えず、「これからも冒険者としてお願いします」と挨拶を終わらせた。


「それで……そちらは、もしかして新規の冒険者を希望される方ですか?」


 レナは、私の後ろで黙って立っているリディーを見た。

 私とエーリカと一緒にいる所為か、リディーを新規登録の冒険者と勘違いしている。


「一応、紹介しておきます。彼女はエーリカの一つ上の姉でリディアミアと言います。リディー、彼女は私たちの担当のレナさん。冒険者に成らないとしても、もしかしたら何かしら用事があるかと思うので覚えておいて」


 フードを被ったままのリディーは、コクリと頷くとスススッと私の背後へ隠れてしまった。


「レナです。これからも宜しくお願いしますね。それにしても、お姉さんですか? 極々普通の人に見えますが……」


 レナが疑問に思うのも無理はない。エーリカの姉であるティアが妖精なのだ。それに引き替え、リディーは身長も体形も普通の人に見える。


「人見知りで顔を隠していますが、実はエルフなんです」


 私が小声でレナに伝えると、背後にいるリディーからゴスッと叩かれた。余計な事は言うなの合図だろう。


「エルフ!?」

「細かく言うと、エルフの姿をした自動人形なんですが……」


 レナには、エーリカとティアが自動人形である事を知っているので、隠し立てする事はない。ただ当のリディーは、ゴスッゴスッと私の背中を叩いて抗議していた。


「そうですか……やはり、エーリカさんとティアさんと同じで、綺麗な顔をされているのでしょうね」


 そう言うなりレナは、私の背後に隠れているリディーを見ようと、受付から体を乗り出して覗き見る。

 興味が出るのは無理もない。

 規格外の顔立ちをしているエーリカとティアの姉妹だけでなく、レア度高めのエルフなのだ。リディーの顔を見たがるのは頷ける。

 だが、当のリディーはフードを目深に被り、私の背後を移動してレナの視線を避け続けていた。

 「残念です」とレナが諦める。


「それで少しリディーについて相談なのですが……」


 私はリディーの身分証の話をする。正式な冒険者に成らなくても、狩人として冒険者ギルドで身分証は発行できるか? と尋ねてみた。


「それは無理ですね。確かに魔物の素材を売る為に依頼を受けている方はいます。ただ、ここは冒険者ギルドですから、冒険者に成って頂かなければ身分証は発行されません」


 きっぱりと断られた。

 まぁ、予想できた事なので落胆はしない。やはり商業ギルドに行くべきだろう。


 話が一段落したので、次はレベルアップの確認をした。

 レナが用意してくれた魔術石板に手を置いて魔力を流すと、金色の塗料が光り出し、半透明の画面が浮かび上がる。

 文字の読めない私の代わりにレナが確認してくれた。


「現在のアケミさんのレベルは……八になっていますね」


 おおー! ……お?

 レベル八?

 前回計った時はレベルは七だった。

 これまで色々な魔物と戦い、色々と経験をしたのにレベルが一しか上がっていない。

 これ如何に?


「今までが低すぎたのです。ここから上げるには、相当な努力が必要になります」


 この世界の大人の平均レベルは十前後。レベル七や八は、ひ弱で引き籠りの大人レベルとの事である。つまり、まだまだ弱いという事だ。

 今までが低レベル過ぎて簡単に上がったのだが、これからは実のある努力と経験を積まなければ上がっていかないと言われた。

 根気のない私だ。強くなるのは無理かもしれない。


 落胆している私を置いてレナは、「エーリカさんも確認しますか?」と尋ねた。今まで一言も口を開いていないエーリカは、私の前に出るとつま先立ちになりながら受付の上に置いてある魔術石板を触れた。そして、文字化けだらけの画面を見ると、「やはり、変化なしです。ありがとうございました」と私の横へと戻っていった。

 ちなみにリディーは身分証が無いので確認は出来ない。


「最後に依頼なのですが……」


 落胆から立ち直った私は、トーマスから渡された木札をレナに渡す。


「クロージク男爵の依頼ですね。えーと、護衛の任務は記載されていますが、もう一つある依頼が空欄になっています。どういう事でしょうか?」


 首を傾げるレナにトーマスから聞いた依頼内容を伝える。

 すると、「何やっているんですか!」と怒られた。


「執事の方から急いでクロージク男爵と合流するよう言われたんですよね。他に伝えなければいけない報告はありますか? 無いなら急いで男爵の元へ向かって下さい! 急いで、急いで!」


 アナに続き、レナにまで尻を叩かれるように冒険者ギルドを追い出された。

 それだけ貴族の依頼は、優先順位が高いのだ。



「僕の事、詳しく教える必要はないだろ!」


 レナに続き、リディーまで怒っている。

 今日の私は叱られてばかりだ。


「レナさんは、エーリカとティアが人形だって知っているし、これからも会うと思うから教えておいただけ。今まで色々とお世話になったし、これからもお世話して貰うんだから先に教えておいても良いと思ったの」

「僕の同意もなく教えるのが悪い」

「それなら自分から言った?」

「……言わない」


 正直、リディーが怒っている理由が分からない。確かに個人情報を他人に教えたのはいけないのだが、エーリカの姉と紹介した時点で人形なのは知られる。それに外見がエルフと教えたからって、恥じる事は一切なく、むしろ自慢出来る個性だ。


「ご主人さま、ご主人さま」


 今まで黙って私の横を歩いていたエーリカがクイクイと私の服の裾を引っ張った。


「リディアねえさんは、ただ恥ずかしかっただけです。真面目に相手をする必要はないです」

「ぼ、僕は恥ずかしがっていない!」


 フード越しに真っ赤な顔をするリディー。

 そうか……じろじろと見られて恥ずかしかっただけか。

 流石、姉妹。良く分かっている。


「綺麗な顔をしているんだから堂々としていれば良いじゃない?」

「き、綺麗!?」


 さらに真っ赤に染まるリディーは、「からかうな!」と叫ぶとドスドスと歩いて行ってしまった。

 うーむ、女心は分からん……あっ、私も女だった!



 アナの家に戻ってきた私は、アナとティアを呼んで、貴族の依頼について話をした。これからすぐに出発し、いつ戻ってこれるか分からないと伝える。

 すると、アナとティアは今回の依頼は同行せず留守番を希望した。


「長い間、家を空けるのは不味いです。お店用に頼んだ調理器具や換気扇が届くかもしれません。それにカリーナちゃんたちが来て、留守だったら可哀想です。申し訳ありませんが、今回、私は家に居たいと思います」


 常識のあるアナが来ないのは非常に心細いのだが、いつ戻ってくるか分からない依頼なので無理強いは出来ない。

 申し訳なさそうにするアナに私は「クロたちを借りても良いかな?」と尋ねると、「遠出は喜びます。ぜひ連れて行ってください」と快く許可を出してくれた。


「駄目よー! クロちゃんたちの面倒はあたしが毎日やっているのよー。一緒に昼寝だってしているんだからー。おっちゃんたちに面倒できないわよー」


 私の顔の前に来たティアが羽をパタパタさせながらプンスカと抗議してきた。


「それならティアも来る?」

「アナちゃんが行かないならあたしも行かないわよー。アナちゃんとはいつも一緒なんだからねー」


 ティアの意味不明な理由を聞いたアナは、「ティアさん」と嬉しそうにする。

 だが、「アナちゃんの柔らかい胸から離れないんだからー」とティアが言うと、アナは「……ティアさん」と胸を押さえて真顔になる。


「安心しろ、ティア。僕もクロとシロの世話は出来る。お前が行かなくても問題ない」

「はい、リディアねえさんの言う通りです。ティアねえさんは来なくて良いです」

「なによー!」


 仲良し姉妹によって、ティアは撃沈してしまった。


 その後、急いで出発の準備をする。……とは言っても頑張ったのはアナであった。

 男爵が管理している南方アルトナに到着するまで街や村があるとは限らない。もしかしたら、野宿をする可能性がある。そういう事で、アナは家にある野宿セットをかき集めてくれた。

 夜は冷えるという事で厚手のシーツ、火起こしの道具、調理器具、食糧一式、虫よけの薬草、体調不良の時の薬と多岐に渡る。野宿するのも大変だ。

 これ全部、クロたちの体に縛り付けられるのかと心配したのだが、エーリカの収納魔術である袖口に殆ど入ったので問題なかった。

 無論、私とリディーの荷物もエーリカの袖口に入れてある。

 身に付けているのは、武器と財布と小物入れぐらいであった。


「おじ様、これを使ってください」


 アナが持ってきたのは、麻布で編んで中に藁を入れたクッションだった。

 毎回、クロたちに乗ると股が痛いと訴えていた私の為に作ったそうだ。

 アナ、君は本当に気の利く子である。


 久しぶりに皮鎧を身に着けた私は、エーリカの手を借りてクロの背中に乗る。お尻にアナお手製のクッションを敷いてあるので、いまいち座り心地は良くない。だが、股が痛くなるよりかは良いだろう。

 私の前にはエーリカが座っており、私の胸に体を預けていた。

 リディーはシロに乗っている。そして、なぜかシロの頭にティアもいる。


「今日いっぱいだけど、あたしも付いて行くわー。あんた達だけじゃ心配だからねー。お姉さんに任せなさーい」


 時間限定であるが、分身体の一体が付いて行く事になった。明日の朝には消えてしまうとの事。

 そんなティアに、「別に来なくていい」「居なくても問題ないです」とリディーとエーリカが仲良くハモる。

 「クロちゃんとシロちゃんの為よー!」とプンスカと怒るティアを無視して、私はアナに視線を向けた。


「では、行ってくるね」

「はい、無事に帰って来てください」


 アナと挨拶を交わした私たちは、クロージク男爵と合流する為にダムルブールの街を出発した。


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