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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第一部 魔術人形と新人冒険者
23/323

23 ミミズ退治 その2

「やっつけたのか?」


 村人の青年が不安そうに呟く。


「あのサイズです。大した傷はおっていません。逆に、怒りでまた襲ってきます」


 エーリカが無慈悲に希望を叩き切る。

 村長たちはエーリカの言葉で青褪める。

 私はエーリカの姿を見て青褪める。


「エ、エーリカ……手が……君の手が……」


 エーリカの左腕は、袖口から先が無くなっていた。

 それを聞いた村長たちはエーリカの左手を見て、息を飲んだ。


「ちょ、ちょっと、手が、手が、エーリカの手が無くなっている!?」


 私は急いでエーリカの袖口を捲り、恐る恐る左手首を見る。

 混乱している私は、エーリカの手首を見て、余計に混乱した。

 鋭利な刃物で切ったような傷口は、大ミミズに噛み千切られたとは思えない程に綺麗だった。

 違う、綺麗過ぎた。

 傷口の断面は、骨も血管も筋肉も血液も見えない。

 元々、そこには何もないように皮膚で覆われていた。


「ご主人さま、落ち着いてください。大ミミズに噛み千切られたのでなく、わたし自身で手首を外しました」

「はい? 自分で外した?」


 エーリカ曰く、自分の手首は元々取り外しが可能だそうだ。

 大ミミズがあまりにも手を離さないので、自分の方から外して自由になったらしい。


「えーと……危なかったから切り離したって……トカゲみたいだね」

「失礼な。私は人間に最も近いヴェクトーリア製魔術人形二型六番機です。変温動物と一緒にしないでください」


 変な所で怒る高性能オートマタのエーリカを心配して損した気分だ。


「あの左手は、一つしかないので困りました。胃液に溶かされ、うんこに成る前に取り返さなければいけません。退治は必須です」


 変にやる気を出しているエーリカに悪いが、あんな地中を走る大きなミミズをどうやって倒すんだ?


 参考になるか分からないが、私が見てきた映画を思い出す。

 地底生物グラボイズを倒した方法は……色々な銃でハチの巣、ダイナマイトで粉砕、崖から落ちてペシャンコ。銃とダイナマイトは存在しないから却下。崖について村長に聞いたら、村の近くにはないそうだ。

 では、ミミズが出てくる映画で参考になるものはあったかな?

 まず、スク○ームを思い出す。

 ミミズではなくゴカイだと指摘されそうだが……まぁ、町中を埋め尽くすゴカイは、一日経ったら何処かへ行ってしまうので参考にならない。

 続いて、サン○リア。

 ミミズは出てくるが、ゾンビの顔にくっ付いているだけなので参考にならない。

 最後は本名のミミズ○ーガー。

 ミミズを食べたら、ミミズ人間になる意味不明の作品。ラストはトラックに轢かれてエンディング。うむ、大ミミズが出てきたら、馬車で体当たりするか? いや、あのサイズだと馬ごと食われてお終いだろう。

 分かった事が一つ。

 私の映画知識は役に立たない。


 では、本当のミミズではどうだ?

 踏み潰す、焼き殺す、氷漬けにする。……どれも駄目だな。サイズが大き過ぎて、使えない。

 それなら、干からびさせてはどうか?

 理由は知らないが、雨の降った後は、地面に出てきたミミズが、土に帰れず、干からびて死んでいる姿を見た事がある。それも地面を埋め尽くす数のミミズが死んでいて、凄く臭かった記憶がある。

 あれはミミズの集団自殺だったのだろうか?

 その話をすると、どうやって六メートルもある大ミミズを、干からびるまで土のない場所に閉じ込めておくのですか? と真顔で言われた。

 ご尤もな返答です。

 何とか家の中に押し込んだとしても、家の材質はコンクリートではなく、木製である。床を壊して、地面に潜ってしまうだろう。

 万事休す。

 ああ、私の知識は本当に役に立たない。



「ただの農具では役に立ちません。この村では、魔物を倒す武器はありませんか?」


 私が頭を抱えて自己嫌悪していると、エーリカが村長たちを見回して尋ねた。


「武器か……村長の所にあったよな?」


 日焼けした男性の言葉で、皆が村長の方に注目する。


「ああ、わしの爺さんが使っていた剣が、倉庫の隅に置いてあったな……錆ついて使えないかもしれんぞ」


 村長の爺さんは、若い頃、冒険者をしていて、その時の武器が倉庫の中で埃を被っているそうだ。


「本物の武器ならそう簡単には錆びません」


 刀身に魔石を混ぜているので、普通の刃物よりも錆びにくいそうだ。


「それで……その剣は、もしかして私が扱うの?」


 一応、訪ねてみた。

 ちなみに私が使っていた手斧は畑のどこかに転がっているので、現在は手ぶらである。


「魔力の持ちの冒険者は、ご主人さま以外、ここにはいません」


 エーリカが当たり前のように言うが、私の腕力で剣を振れるだろうか?

 そもそも、エーリカだって魔力持ちなんだから、武器ぐらい使えるでしょう。


「冒険者さんが剣を使ってくれるのは構わないのだが……問題は……」

「大ミミズですね。村長の家まで無事に辿りつけますかね?」


 地底生物グラボイズと同じように、大ミミズも振動を感知して襲ってくるのだろう。

 のこのこと地面を歩いて村長の家に向かえば、途中で大ミミズが地面ごとパクリとされる可能性は高い。

 今の所、家の床を破壊して襲ってくる事はないが、このまま時間を潰していれば、いずれは襲われる事もある。

 やるなら早くした方が良さそうだ。


「私たちで大ミミズを取り押さえて時間を稼ぎます。その間に村長は武器を取って来てください」


 私は決断を下し、作戦を述べる。

 (おとり)を使って大ミミズを地中から出させる。本体が出たら、網なり縄なりで取り押さえておく。その間に武器を取って来てもらうのだ。

 簡単な作戦である。

 つまり、村長は自分の家まで行って武器を持ってくる係。

 日焼けした男性は自分の家まで行って、自慢の馬に乗り、街の冒険者ギルドへ向かう係。

 私、エーリカ、若い青年、家主の旦那さんの四人で、大ミミズを押さえる係。

 思いつきの作戦を述べると、皆は黙って頷いた。


 家主の許可を得て、家の中を物色すると、太い縄を二本見つけた。

 その内の一本をフライパンの取っ手に縛りつけて、破壊された扉から外を窺う。

 外は静まり返っている。村人は勿論、家畜すら物音を立てていない。

 私は皆の顔を見回すと、不安そうな顔で頷く。

 私は縄で縛り付けたフライパンを、振り子のように揺らしてから外へと放り投げた。

 二十メートルほど飛んだフライパンは、カラカラと音を立てて地面に落ちる。

 そして、私はゆっくりと縄を引き戻し、フライパンを手繰り寄せた。

 ゆっくりと引き戻しては止めて、引き戻しては止めてを繰り返し、フライパンで大ミミズを誘う。



 ………………

 …………

 ……



 フライパンを投げては引き戻すことを繰り返すが、一向に釣れない。

 何処か遠くへ行ってしまったのか、それともフライパンが気に食わないのか。

 別の物で試そうかと思った瞬間、地面が盛り上がり、フライパンを丸飲みにしながら大ミミズが飛び出てきた。


「さすがご主人さま。フライパンで大ミミズを釣り上げました。作戦を開始します」


 村長はリンゴ園の方へ、日焼けの男性は村の入口へ走る。

 私、エーリカ、若い男性、家主の中年男性は、太い縄を持って大ミミズの元まで走る。

 体を半分ほど地面から出した大ミミズは口をガシガシと噛みながら、暴れている。

 私たちは暴れる大ミミズにぶつからないように、穴の近くまで行き、大ミミズの胴体に縄を通す。

 縄の先は家の柱に固定してあるので、反対方向から四人がかりで引き締めた。

 大ミミズの胴体がソーセージのように引き締まる。

 釣りの次は、綱引きだ。

 引き締まる体が嫌なのか、大ミミズは穴へと戻ろうとするのを、四人がかりで引き戻す。

 粗い縄なので、手の平が痛くて離しそうになるが、歯を食いしばって耐える。

 大ミミズの穴へ戻る力が強いせいで、足が地面の土を擦れて、ズルズルと引っ張られてしまう。


「そ、村長ぉー、はやく……」


 若い男性が情けない声で呟く。

 大ミミズが上下左右へ体を振るのに合わせて、縄を掴んでいる私たちも振り回された。


「ご主人さま、少し離れます」


 私の前で縄を引っ張っていたエーリカが右手を離す。

 エーリカが離れた分、大ミミズの引きに対抗できず、ズズズッと五十センチほど穴へ戻ってしまった。

 当のエーリカが、右手を地面に当てると、小さい魔法陣が地面の至る所に現れた。


「はっ!」


 エーリカの気合いと共に魔術を発動させると、魔法陣の地面が三十センチほど盛り上がった。


 「これは何!? 何の為にしたの!?」


 ボコボコと地面から盛り上がった土を見て私は叫ぶ。


「足場です。土で滑らないように、盛られた土に足を乗せて、ストッパー代わりにしてください」


 エーリカの言う通り、盛り上がった土に足の裏を乗せて踏ん張ると、大ミミズに合わせて振り回される事がなくなった。

 だが、大ミミズの動きを完全に止める事が出来ず、掴んでいる縄が手の皮を擦りながら、(たる)んでいく。


「縄を固定します」


 今度は、縄の周りに小さい魔法陣が現れた。

 そして、魔法陣から冷たい空気が流れ、縄が氷に覆われていく。

 もちろん、縄を掴んでいる手も氷に覆われ、縄と手が氷で一体化してしまった。

 これで、手の平から縄が擦れて行ってしまう事は無くなったが、逆に冷たすぎて凍傷が起きそうだ。


「村長が戻ってくるまでの辛抱です。それ、オーエス、オーエス……」


 エーリカの掛け声と共に私たちは力の限り、縄を引っ張り大ミミズの動きを抑える。


「て、手が……冷たい……そ、村長……はやく……」


 若い男性の希望が叶ったように、リンゴ園の方から村長が戻ってくる姿が見えた。

 両手で大事そうに剣を持って駆けてくる村長が私たちの近くまで来た時、バキバキと音がして大ミミズを縛っていた縄が緩んでしまう。

 縄を固定していた家の柱が耐えられなくなり、屋根の一部ごと崩れてしまった。

 私たちは緩んだ衝撃で後ろへと倒れる。

 大ミミズはズズズッと穴の中へ隠れてしまった。


「みんな、動かないで!」


 私が叫ぶ。

 剣を大事そうに持ってきた村長や他の村人もピタリとその場で動きを止める。

 地面を盛り上げて、土ごと食べてしまう大ミミズの動きは速い。

 近くの家へ避難したかったが、いつ、何処から現れるか分からない大ミミズだ。家に避難する前に襲われる可能性が高い。


 私の足元からわずかな振動が伝わる。

 大ミミズが地面を進んでいるのだろう。

 身動きできず、汗が体中に伝わる中、私は村の広場を見回す。

 大ミミズが飛び出した穴が至る所に空いている。

 この騒ぎで、他の村人は出てこない。

 私たちが大変な思いをしているのに助けに来ないとはなんて非道か、と少し思ってしまうが、逆に出て来て被害に遭うよりかは良いだろう。


 それにしても、大ミミズが地中を移動するせいで、この村の地中は蟻の巣のように、空洞だらけになっている筈。雨が降ったら、陥没だらけになりそうだなと、村の未来を(なげ)いてしまう。

 まぁ、未来よりも今をどうにかしなければいけないのだが……。

 動きを止めているだけなので、つい色々と考えてしまう。

 今、考える事は、この状況をどうにかする事。


 エーリカは、人形のようにピクリともしていない。

 村長は、剣の重さで腕が震えている。

 若い男性と中年の男性は、頭だけ動かして、不安そうにキョロキョロと周りを見ている。

 私も似たり寄ったりで、落ち着きなく周りを見回す。

 太陽の日差しを浴びながら、道の真ん中で立ち尽くしている為、汗が全身を濡らして気持ち悪い。

 不安で呼吸が乱れる。

 頭と視界がクラクラしてきた。

 このままでは、いずれ倒れてしまうだろう。


 酷い昇級試験になってしまった。


大ミミズ戦、その二。

大ミミズのエサ場で立ち尽くしてしまいました。

おお、怖い怖い。

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