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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第三部 炭鉱のエルフと囚人冒険者

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222 リディーとの話し合い その1

「くぅーっ!」


 取り調べ用に設えた部屋から出た私は、声無き歓声を漏らしながらガッツポーズを決めた。

 長いようで短かった囚人生活。犯罪者として炭鉱に送られて一ヶ月ちょいで釈放されると思えば短いだろう。ただ無料奉仕としては長い期間であった。

 思い起こせば、本当に色々とあった。

 暗くて、ジメジメして、暑い炭鉱内での力仕事。兵士たちの暴力。魔物とトカゲとの闘い。沢山怪我をしたし、目の前で人が死ぬのを沢山見た。

 現役女子高生が体験するにはあまりにも酷い一ヶ月だった。

 それが終わった。

 私は囚人ではなく、ただの平民の冒険者に戻った。

 あまりにも嬉しくて、両手を掲げて顔を上げる。下水道から脱走した囚人が、雨の中、自由を得た喜びを体現しているように……。まぁ、私の目に映るのは雨でなく、木造の天井なのだが……。


「そ、その様子だと無事に放免されたみたいだな」


 突如、後ろから声が掛かり、バッと振り返る。

 嬉しくてまったく気が付かなかったが、扉の近くに二人の兵士がいた。二人は、私が牢屋で監禁されていた時に食事や着替えを持ってきてくれた兵士だ。どうやら廊下で見張りをしていたみたいである。


「あ、あー……そうです」


 顔を真っ赤にさせた私は、ゆっくりと両手を下ろして、何事もなかったかのように振る舞う。

 そんな私を見て、一人の兵士は苦笑している。もう一人は無表情だ。


「外まで案内する。付いて来い」

「……はい」


 二人の兵士が兵舎の廊下を歩き出したので、私は黙って付いて行く。

 変なテンションで奇行に走った所を見られて恥ずかしい。

 未だに顔の熱が取れない私は、下を向きながらトボトボと歩く。そして、兵舎の玄関まで着くと、「後は好きにしろ」と追い出されてしまった。


 外はすでに真っ暗だった。

 火照った顔に冷風が撫ぜ、気持ちが良い。

 私はトボトボと歩き始め、徐々に速度を上げていく。

 すぐ近くに建っているリディーの小屋に辿り着くと、適当にノックをして扉を開けた。


「リディー、ただいま! 私、釈放されたよ! 自由になったんだ!」


 この喜びをリディーにも共感してもらいたい。そして、祝ってもらいたい。そんな思いで部屋の中に向けて声を張り上げた。


「ああ、おっさんか……ようやく、戻ったか。今、食事の用意をしているんだが、おっさんの分も追加しなければいけないな」


 久しぶりに再会したというのに、いつも通りだった。何も心配していなかったようで、私から視線を逸らし、鼻歌を奏でながら台所で調理を再開している。


「え、えーと……リディーさん? 私、囚人ではなくなったんだけど?」

「ん? そうなの? それは良かったな」


 うわ、素っ気ない!


「後でフリーデが来るから、それまでに体でも洗ってきたらどうだ? 今のおっさん、臭いぞ」


 私の方を向いたリディーが鼻をクンクンとさせて、眉を寄せている。

 ここ数日、濡れタオルで体を拭いていただけなので、リディーの言う通り、私の体は臭いかもしれない。

 私は石鹸と布を持って、再度外に出る。そして、冷たい井戸水で体を洗い、身綺麗にして戻った。

 体が冷えた事で、私のハッピーメーターはシュルシュルと下がり、冷静になっていく。

 小屋に入るとリディーは食卓用の椅子に座り、私を待っていた。


「改めて……ただいま」


 何日かぶりに帰ってきたので、正式に言いたかった。今度はリディーも私の顔を見ながら「おかえり」と返してくれた。

 一人暮らしの時は分からなかったが、帰る場所があるのは良い事だね。


「おっさんには色々と聞きたい事があるんだ。フリーデが来る間、話を聞かせてくれ」


 リズボン戦の時、私が色々と知っている理由を教えると約束をしていた事を思い出す。

 真剣な表情をしたリディーは「座れ」と机を挟んだ椅子に視線を向けた。

 私は黙って椅子に座る。

 机の上にはレモンの輪切りが入った果実水が用意されていたので、一口飲んでから口を開いた。


「正直、何から話せば良いのか分からない。言った所で信じてくれるか自信がない」


 いきなり異世界から来たと言っても信じてくれないだろう。さらにハゲで筋肉で中年の姿をしているが、中身は女子高生だと言った所で、絶対に信じてくれるとは思えなかった。


「信じる信じないは、聞いてからだな」

「私の話の前にリディーについて、改めて教えてほしい」


 戦闘中だった為、リディーについてはあまりしっかりと確認をした訳ではない。自分の事を棚上げにして、改めてリディーについて教えて欲しかった。

 その内容を聞いてから、何を言うかを選択した方が良さそうだ。

 リディーは特に不満もなく「言える範囲内なら」と軽く頷いてくれた。


「えーと……まず、リディーは男の子ではなくて、女の子で間違いないよね」


 今も地味で大きめの一般服を着ている。その為、綺麗な顔をしているが、エルフという種族の為、男性と言われれば納得してしまう。リディー自身もたまに少年のような表情をしたりするので、改めて確認してみた。


「そこから!? それ重要!?」


 長い耳を真っ赤に染めたリディーを見て、私は「重要、重要」とコクコクと頷く。


「そもそも何で隠していたの? 綺麗な顔をしているんだから、堂々としてれば良いと思うけど?」

「き、き、綺麗って!?」


 折角のエルフだ。

 そんな面白味のない服装なんかでなく、以前、部屋の片づけをした時に見た若葉色したヒラヒラの服を着てほしい。

 その事を伝えたら、「どうして知っているんだ!? 信じられん!」と顔を真っ赤にして怒られた。

 

「いやー、部屋の掃除をした時に見かけて……たまには、そういう恰好を見せてほしい」

「今更、見せれるか! 恥ずかしい!」


 うーむ、残念。


「そもそも僕が男性として暮らせと言いだしたのはフリーデだ」

「フリーデが?」

「ここは囚人が集う炭鉱現場だからな。自己保身の為に男性だと偽っていた方が身の安全が高いと言われたんだ」


 このルウェンの囚人は全員男性だ。

 囚人を取り締まる兵士もほとんどが男性で女性は少ない。

 エルフと言うだけで目立つのに、それが女性だと知れば、兵士や囚人、職員の男性から変な接近が来る可能性が高い。その為、男女の問題が発生させない為に、男と偽っていた方がお互いに問題は少ないだろうとの策だったらしい。


「その所為か、頻繁に僕の小屋に通うフリーデは、僕と付き合っていると兵士の間で噂に成っているようだぞ」


 「クククッ、アホくさ」と笑うリディーの顔は、楽しそうだった。


「僕が女性だと知っているのは、一部の者ぐらいだ。フリーデとその上司。あとは食堂の連中ぐらい」

「それだけ? 確か、リディーって一年ぐらいここに居るんだよね? さすがに兵士たちには知られているんじゃない?」

「僕は、ほとんど人に遭わないように行動しているからな。外に出る時は、顔を隠しているし、面白いぐらいに知られていないぞ」


 そう言えば、以前、リディーは人見知りだとフリーデから教えてもらったのを思い出した。

 私は人見知りではないが、人との付き合いがゼロに近かったので、リディーの行動には共感できる。


「その所為で、おっさんと一緒に暮らす羽目に成ってしまった」


 リディーが女性だと知られていれば、囚人のおっさんである私と同じ部屋で暮らせと上層部の兵士は考えなかった筈だろう。

 後で通知されたフリーデは、さぞや困った筈だ。

 まぁ、そのおかげで私は助かったのだから、リディーが男性として認知されていたのは良かった。



「えーと、話は変わるけど、リディーは六人姉妹なんだよね。それも全員、胸に魔石が埋め込まれている」


 私は、ここで本題に入る事にした。

 リディーは怪訝な顔をしながら、鎖骨の間にある魔石を触りながら「……ああ」と答えた。


「つまり、リディーはエルフの姿をした自動人形で間違いない?」


 私は、リディーがエーリカとティアの姉妹であり、何とか博士に作られた自動人形である事は確信しているのだが、私の事を話す前に、リディー本人から直接聞いておきたかった。

 そんなリディーは、瞳を大きく見開き、口をパクパクとさせながら驚いている。


「自動人形の事まで知っているのか……おっさん、もしかして僕の姉妹に会った事があるのか?」

「あるよ。……ちなみに、リディーは何番目の姉妹?」

「僕は五番目。ヴェクトーリア製魔術人形二型五番機リディアミア。極限までエルフに近づけた最高傑作の一体だ」


 無い胸を反らして、自信満々に名乗るリディー。

 エーリカとティアも同じ感じで自己紹介をしたのを思い出し、つい笑ってしまった。

 余程、その何とか博士に作られた事に誇りを持っているようだ。


「何で笑うんだ!」

「いや……ごめん、ごめん。……えーと、リディアミアが実名なんだね。ちゃんとリディアミアと呼び直した方が良い? それともリディアとか、ミアとかかな? リディーだと男性っぽいしね」

「止めてくれ。今更、変えられても違和感しかない。今まで通り、リディーで良い。みんな、そう呼んでいる」


 耳を赤く染めながらリディーは照れたように視線を逸らし、果実水を一口飲んだ。

 「そう、分かった」と、私も果実水を一口飲む。


 「リディーは五番目の姉妹か……つまり、エーリカの一つ上のお姉さんという事だね」

 「……ッ!?」


 私がエーリカの名を口にした瞬間、リディーはガバッと椅子から立ち上がると、机越しに私の胸倉を掴んだ。


「エーリカ!? おっさん、今エーリカと言ったか!?」

「ちょ、ちょっと……く、苦しい、苦しい。果実水が零れた……」


 グラスが倒れ机が水浸しになった事でリディーの手が離れた。

 椅子に座り直したリディーであるが、ギラギラとした目を私に向けている。

 何で急に興奮しだしたのだ?


「僕の事はもういい。エーリカの事を話せ」

「私の事でなくて、エーリカの事を話すの?」

「そうだ」


 どうもリディーは、エーリカに対して並々ならぬ思いがあるようだ。

 私は濡れた机を拭いて、新しい果実水を追加してから話し始めた。


「えーと……エーリカとは奴隷商で知り合ったんだけど……」

「奴隷だと!?」


 またもやガタッとリディーが立ち上がったので、私は手を前にして落ち着かせた。

 これでは、全然、話が進まない。


「やはり、私の事情から話さないといけないね。変な話だけど、我慢して聞いてほしい」


 信じるかどうか分からないが、リディーには全てを話す事にする。


 私は別の世界の人間で、教会の連中に強制的にこの世界に転移させられた。そして、強制転移すると、教会の連中は私の姿を見て、追い出した。その後、元の世界の私と今の私の姿が違う事に気が付いた。

 このように私が異世界に来て早々の出来事を伝えると、リディーはなぜか納得したような表情をする。


「そう言う事か……どうりで……」

「えっ、何か分かった事でもあるの?」

「いや、何でもない……続けてくれ」


 一人だけ納得しているリディーに、私は怪訝な表情を向けながら話を進める。

 異世界に飛ばされた私は、仕事として冒険者に成った。ただ冒険者に成ったはいいが、なぜか私のレベルは赤子並みの低レベルであった。

 そこで仲間を作る為に奴隷商に向かった事を話す。


「そこでエーリカに会った訳だ」

「会ったと言うか、眠っていた? 完全に人形に成っていて、部屋の隅に飾られていたよ」

「そうだったのか……完全に魔力が切れていたのか……最後まで抵抗していたからな、あの子は……」


 小声で呟くリディーの表情は、悲しさと辛さが混じっている。


「……ん? ちょっと待てよ」


 一人で落ち込んでいたリディーが、ハッとして顔を上げた。


「魔力切れで停止していたエーリカと知り合ったと言う事は……もしかして……」

「ああ、私が魔力を流した事で動き出したよ」

「つまり、それって契約したって事?」

「そう、エーリカとは契約しているみたい。私自身、自覚は無いけど」


 当時の事を思い出しながら私が言うと、ガタッとリディーが立ち上がり、再度、私の胸倉を掴んだ。


「僕のエーリカと契約しただって!? あの可愛いエーリカに魔力を流したって!?」

「ちょ、ちょっと、苦しい、苦しい! 落ち着いて、リディー! また、果実水が零れた!」

「これが落ち着いていられるか! 僕のエーリカが、僕の可愛い妹が! 純粋無垢のエーリカが、こんなハゲで臭いおっさんと契約したなんて! うわぁー、僕は信じないぞっ!」


 酷い言われようである。


 「エーリカが汚されたぁぁーー!」と私の胸倉を放したリディーは、濡れた机に突っ伏して叫び出す。


 えーと……やはり魔力を他人に流す行為って卑猥な行為だったりするのかな?


「ちなみにティアとも契約しているよ」


 ティアの名前を出したが、リディーから反応はなし。


 机に突っ伏して喚いているリディーを見て、一つ分かった事がある。

 リディーは、重度のシスコンだったようだ。

 

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