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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第三部 炭鉱のエルフと囚人冒険者

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203/347

203 新な洞窟と排水作業

〔報告〕

次回の投稿日は未定です。

最近、バタバタしていたり、花粉症で集中力がなかったり、他事していたりと遅筆になっています。

しばらく日付は決めず、出来次第、投稿させてもらいます。

気長にお付き合いください。

宜しく、お願いします。

 決してダニの死骸ではない、太陽の匂いが染み込んだシーツで眠った翌日。

 二日ぶりの炭鉱作業である。

 やる気と元気をベッドの上に置いてきた私は、地球最後の日を迎える気分で広場に向かった。

 行儀よく並ぶ囚人たちから労働したくないオーラが漂っている。

 そんな生きる屍の列に並び、兵士たちが来るのを気怠い気分で待つ。


「えー、皆さん。おはようございます。本日も清々しい天気に恵まれました。これも一重に皆さまの日頃の行いが女神さまに認められた証でしょう」


 トカゲ兵士のリズボンの挨拶が始まる。

 淡々と紡ぐリズボンの言葉を聞く限り、使節団の失踪と紛失物に関して、囚人に知らせるつもりはなさそうだった。その所為で、この件がどうなったかは分からない。


「今現在、第三横坑は閉鎖し、第二横坑を拡張しながら、炭層を探している事でしょう。そんな皆さんに良い知らせがあります」


 どうでも良い定型文的な挨拶を続けていたリスボンが、ようやく本題に入ってくれた。

 それにしても良い知らせとは何だろうか?

 こういった入りは、大抵良くない話になるのが定説である。


「昨日、第二横坑の状況を調査した所、自然に出来た洞窟を発見しました。その穴を軽く調べた結果、炭層ではありませんが、鉱石や魔石があるのを確認しました」


 自然の洞窟?

 地下水などで浸食した穴だろうか?

 鍾乳洞でも見つけたのかな?


「炭層探しは一時中止し、本日からその穴を中心に掘り進めていく次第です。ただ通路が狭く、明かりのない洞穴です。さらに湧水も溢れている個所もあります。まずは切場までの道を整える事を優先しましょう。皆さんの活躍を期待しています」


 説明を終えたリスボンは、スススッと演壇から降り、我々に目もくれずに兵舎へと去っていった。

 それを合図に兵士から「作業場に行け」と指示が飛ぶ。

 地面に置いた荷物を持ち上げた私は、近くにいる兵士に本日の作業場所を尋ねると「坑内排水を手伝え」と告げられた。

 つまり、先程言っていた新しい洞窟に行って、水の処理をしろとの事である。

 うわー、嫌だなー。



 鉱山作業には湧水がつきものである。

 このキルガー山脈も例外ではなく、険しい山脈の頂上には大量の雪が積もっている。その雪が解けて、地面に染み込み、地下水として流れている。さらに一昨日の雨の影響で、水分を大量に含んでいた。

 崩落事故を起こした第三横坑は、その地下水の影響で地盤が緩み事故が起きてしまった。

 比較的地盤がしっかりしている第二横坑であるが、新しく見つかった洞穴には帯水層とぶつかっているらしく、大量の湧水が至る所に湧いているそうだ。

 その水を何とかしない限り、鉱石や魔石を掘るのはもちろん、坑道を整備する事も出来ない。

 その溢れる水や溜まった水を坑外に排水するのが私やその他囚人の役目である。


 以上の事を現場担当の兵士が囚人たちに説明する。

 今いる場所は、第一横坑と第二横坑を繋ぐ梯子の前の広場である。

 近くにブラッカス一味、ルドガー、オルガの姿が見える。

 ブラッカスたちがチラチラと私の顔を見ているのに気付いたが、私は素知らぬ顔をして兵士の話を聞いていた。どうせ木札が気になっているだけだろう。休憩時間まで待たせておけば問題無い。

 兵士の説明が終わると、私を含めた数十人の囚人は、ゾロゾロと兵士の後ろをついていく。

 光源の少ない薄暗い壁や天井。歩き難い土塊の道。風の通りの悪い重たい空気。ジメジメと蒸し暑い気温。相変わらずの坑道内でげんなりする。

 迷路のように入り組んだ坑道を進んでいくと徐々に地面が泥濘んできた。

 ベチャベチャと地面が柔らかくなるにつれ、湿度が上がっていく。

 奥へ行くほど狭くなり、岩盤を支える支保やトロッコのレールも無くなってきた。炭層を見つける為に手当たり次第掘り進めた結果、支保やレールが追い付いていないようだ。そんな道が至る所に存在している。作業員の安全なんかまったく考えていなかった。


 しばらくすると先導していた兵士が止まった。

 兵士の横の壁には、人が一人通れるぐらいの隙間が空いている。明かりが一切ない所為で、そこだけ絵具で塗ったみたいに真っ暗であった。その隙間から水が止めどなく流れているのを見て、寒気が襲う。

 この隙間の奥が新しく見つけた洞窟? 地獄の門みたいで怖いんだけど……。


「三日前には、こんな隙間なかった筈だが……どうして、昨日になって見つかったんだ?」


 私の前を歩く囚人がぼそりと呟くのを耳にした。

 昨日、一昨日と炭鉱作業は行われなかった。つまり、行方不明の使節団や紛失物探しの捜査でここまで来た兵士が見つけたのだろう。ただ、どうして隙間が空いたのかは知らないが……。


 影に吸い込まれるように兵士たちが隙間の中に入っていく。

 囚人たちも順番に入る。勿論、私も一切の希望を捨てて、恐る恐る入った。

 一寸先も見えない隙間を体を擦りながら進む。

 足元に流れる水で靴が水浸しになり、足が濡れていく。

 生き物の口の中に入って行くようで恐怖を感じ、足が竦みそうになる。

 後ろの囚人に「早く行け」と煽られつつ進むこと数メートル、前方に薄明かりが見え始める。そして、急に開放的な場所に出た。

 数十人の囚人が余裕で入れそうな広々とした空間。凹凸の激しい地面。氷柱のように尖った天井。虫食いにあったようなボコボコの石柱。

 別の場所に移動したのではと錯覚してしまう程、自然が作り出した光景に私たち囚人は呆然と周りを見回す。

 こんな場所が横坑のすぐ近くに存在していたとは驚きである。

 

「お前たち、こっちだ。奥へ進むぞ」


 さらに奥へと進む兵士たちは、手の平に光の玉を作っては、ポイポイと投げて壁に張り付けていく。そのおかげで、光源の一切ない洞窟でも進む事が出来た。

 そもそも光の玉って、くっ付くんだ。

 私の光の玉は破裂するだけだが、イメージを変えれば、同じ事が出来るかもしれない。囚人から解放されたら試してみよう。


 地面は硬く、岩盤の上を歩いているみたいだ。壁も天井も水の浸食で尖っており、下手に歩くと怪我をしそうだ。

 奥へ進むほど地面を流れる水は強くなっていく。地面の窪みには水が溜まっているので、慎重に歩かなければ水の中にドボンッである。

 進むにつれ、壁の間隔が狭まっていく。

 その辺りから壁から水が噴き出し始めていた。噴水のように勢い良く噴き出てはいないが、そこかしこから爆雷を受けた潜水艦のようにビュービューと噴いているので辺り一面水浸しである。

 湧水地帯。水を吸ったスポンジの内部にいるようなものだ。

 いつ水圧で壁や天井が崩壊し、大量の水が流れ込んでくるか分からない。こんな逃げ場のない狭い場所で大洪水に遭ったら間違いなく溺れてしまうだろう。

 豪華客船の水没事故の映画が記憶に蘇り、今すぐにでも逃げ出したくなってきた。


「この先に鉱石や魔石が眠っている。ただ、途中の通路が水に浸かっているので、お前たちは道が通れるように排水をしろ」


 排水しろと言うが、どうやって、こんな山の中で水を捨てるのだろうか?

 ここは異世界だ。科学が発達していないので排水ポンプなんてものはない。さらに鉱山事業が始まったばかりの為、排水する為の道具もない。

 どうするのだろうか? と思っていると、大量の桶が先頭に運ばれてきた。


「お前たち、間隔を空けながら一列に並べ」


 兵士の指示の通りにすると先頭から順番に水の入った桶が囚人を伝って運ばれてきた。

 バケツリレー。

 やはりと言うべきか、人海戦術である。

 私の位置は先頭から六番目。前方の囚人から水の入った桶を受け取ると三メートルほど移動して後方の囚人に渡す。そして、元の位置に戻る。これの繰り返し。

 「はい……はい……はい……」と掛け声と共に運ばれる桶。

 ペース、早くない?

 みんな真面目過ぎる!

 おじさん、もう既に腕も腰も限界なんですけど……。


 直接、確認をしていないが、バケツリレーの最終地点は第二横坑のトロッコまでと思われる。そこで大きな樽に水を入れて、満タンになったらトロッコを動かして外まで運ぶのだろう。

 その為、空になった桶をまとめて先頭まで運ぶ囚人が必要で、その役目はハンスであった。

 ハンスは大量の桶を持ち、足場の悪い洞窟を先頭まで駆けて行く。

 地面を滑って転倒すれば怪我をするし、間に合わなければ怒鳴られそうである。これはこれで大変そうだ。

 心配は現実になり、ハンスは三往復目の帰り道、水溜りにドボンッと入って、肩まで沈んでしまった。

 それを見た囚人たちは青褪めて言葉を失う。

 そこら辺にある幾多の水溜りがこんなに深いとは思わなかった。これ、下手をすると死ぬぞ。


 そんな感じでバケツリレーをしているのだが、一向に水の量が減らない。

 それもその筈で、壁から湧き出る水の方が多く、排水がまったく追い付いていないのだ。

 まず湧水を何とかしないと駄目なんじゃないかな?

 いっその事、わざと壁に穴を開けて、地中にある水を全部水抜きしてからじゃ駄目かな?

 元の世界のトンネル工事とかは、湧水を減らす為、水抜き工程がある。同じ事をすればと考えたが、ここは精密な地質調査が出来ない異世界だ。下手に穴を開けると、岩盤が崩壊したり、大洪水になったりで、逆に危険が伴うだろう。

 なら異世界という事で、魔法なり魔術なりで何とか出来ないだろうか?

 囚人の私たちは束縛魔術で使えないが、兵士たちは使える。土属性の魔法や魔術で湧水個所を固めたり出来そうに思えるのだが……。

 それをしないという事は、私が想像するよりも魔法や魔術はそこまで万能ではないのかもしれない。

 もっと安全で効率良く出来ないかな? と息を切らせながら考えていると、木材と工具を持ったドワーフたちが洞窟の中に入ってきた。


「ここは駄目だな」

「まるで魔物の腹の中だ」


 二人のドワーフが洞窟を見回しながらボソリッと呟くのが聞こえた。

 

 えっ、どういう事!? 

 滅茶苦茶、怖いんですけどー!


 ドワーフたちは、壁からビュービューと噴き出ている湧水個所に木板を当てると、剥がれないように丸太を当てて、ハンマーでカンカンと叩いて固定した。


 うーむ、原始的だ。


 でも、それで噴き出る水は落ち着き、木板の脇からチョロチョロと流れるだけになった。

 その後、ドワーフたちは凹型に加工した木材を繋ぎ合わせ、第二横坑との隙間まで設置した。

 おかげで窪みに水を入れるだけの作業になり、バケツリレーから解放された。


 流石ドワーフ。

 穴掘りだけでなく、知恵も回るようだ。


 私を含めた数人の囚人で、通路に溜まった水を汲み上げて、凹型木材に流し込む。

 危険性があるという事で、残りの囚人も地面にある水溜りを掬って水を減らしていく。

 


 しばらくすると、休憩時間になった。

 休憩中、ブラッカス一味がニヤニヤ顔で近づいてきた。そんなブラッカスたちに悪いが、木札を渡す事は出来なかった。排水作業との事で濡れる可能性があったので、荷物は第二横坑の広場に置いてきているのだ。

 残念そうに立ち去るブラッカスを見ながら、私も残念に思う。

 あんな呪われそうな物、一刻も早く、手元から離したかったのに……。

 

 休憩後、黙々と通路の水を減らしていく。

 そして、作業時間が終わる頃、奥の通路に行ける程度には水を無くした。


「よくやった。残りは明日にしよう。お前たちは、少し休憩をした後、片付けの準備だ」


 現場を監督している兵士の一人から作業の終わりを告げられた。

 私たち囚人はその場で腰を落とす。

 腰は悲鳴を上げ、腕は震えている。

 体中、びしょ濡れで水分を吸った服が重い。

 体力も見た目もボロボロで非常に疲れた。

 

「ちょっと、奥を見てくる」


 一人の兵士が鉱石や魔石のある奥の通路に向かった。

 私もどうなっているのか見に行きたかったが、囚人の私が勝手に行ったら、不審がられて殴られるだろう。無論、素直に願い出ても許可は下りない。

 まぁ、明日以降からは、石炭の代わりに鉱石と魔石掘りになるのだ。それまで我慢しよう。

 そう思いつつ、恨めしそうに通路の奥を見ていると、奥から「カサカサ」とか「ジャリジャリ」とか「ガリガリ」といった不思議な音が聞こえてきた。


「何の音? 地鳴り?」


 第三横坑の崩落事故を思い出し、体が強張る。

 どうも地鳴りに対して、トラウマになってしまったみたいである。


「……いや、地鳴りじゃないな」


 近くで地盤を補強していたドワーフが、私の呟きに答えてくれた。

 地鳴りでないと聞いて、不安が掻き消えた。


「じゃあ、何かな?」

「そうだなー……」


 長い髭をモミモミと触るドワーフは、通路の奥を睨みつけると……。


「……魔物」


 ……と呟いた。

 その言葉を聞いて、周りにいる兵士と囚人が一斉に通路の奥を見る。

 それと同時に、奥に行っていた兵士が、叫び声を上げながら戻ってきた。


「な、何があった!?」


 同僚の兵士が問いかけると……。


「あ、蟻だッ!」


 ……と、青褪めた兵士が叫んだ。


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