199 町へ行こう その2
ルウェンの町は、Y字のようになっている。
砂漠に続いている入り口から正面に教会がある。そこから右に行くと、商店が並んでおり、現在、私たちがいる道である。
ちなみに教会から左の道に行くと、町の人たちが暮らす住宅があるそうだ。そして、さらに奥に行けば、町人が働く第一炭鉱の入口があるとの事。
町の作りをフリーデから聞きながら、左右に並んでいるお店を見ていく。
肉屋、野菜屋、雑貨屋、窯屋、乳製品屋と色々並んでいる。
どこも寂れた商店街みたいで、やっているのか休みなのか分からない雰囲気が出ていた。
チラリと肉屋を見る。リディーが言っていた通り、店先に並ぶ肉はどれも変色しており、蠅が飛び回っていた。ガチガチに焼いたベリーウェルダンにしてもお腹を壊しそうである。
野菜屋は比較的まとも。うんこ樽の中身を買い取ってくれるので、近くに農家があるのだろう。どれも新鮮で虫だらけだ。
パンを焼く窯屋の隣にはサウナ屋があった。この世界のお風呂は貴重なので、町人はサウナで代用するようだ。そう思うと、毎日お風呂に入れる兵士たちは好待遇なのだろう。囚人あってのお風呂だけどね。
「町で売っているパンは食べない方がいいぞ。おっさんでは歯が立たない。本当に顎が壊れる」
パン釜屋の様子を見ていた私にリディーが笑いながら注意してくれた。
この町で食べられているパンは、小麦を一切使用していないライ麦パンらしい。
ライ麦パンは、色が黒く、硬く、ずっしろとしたパンである。腹持ちが良く、栄養価が高いパンであるが、小麦パンに比べ、ボソボソで美味しくない。
小麦パンでも「硬い硬い」とスープで柔らかくして食べている私では太刀打ちできない代物らしい。
「えーと……この辺だったはずだが……あった、あった」
色々なお店を見ては通り過ぎていたリディーは、一件のお店の前で止まった。
リディーが探していたお店は酒屋で、大小様々な樽が置かれており、お店の前で待機している私の鼻にもアルコールの匂いが感じられた。
「おう、エルフの坊主か……久しいな」
お店の前で中の様子を眺めていると、顔を赤らめたアルコール臭い髭面の中年が出てきた。
フードを目深に被っていてもエルフだと分かる当たりリディーとは顔見知りらしい。
「ああ、久しぶり過ぎて場所が分からなかった」
「似た酒屋はいくつかあるからな……もっと頻繁に買い出しに来れば、一杯ぐらい奢るぞ」
「今日はたまたまで普段は狩り専門だ。それに厨房でお酒をくすねてくるから、一杯程度、奢られても得した気分にならない」
リディーと酒屋の亭主が世間話を始めたので、心配そうにフリーデを見た。
彼女は休日返上で買い物に付き合っている。彼女からしたら早く終わらせて帰りたいだろう。そう思い彼女を見るが、当のフリーデは、監視対象の私から視線を逸らし、お酒の入っている樽に釘付けになっていた。
兵士の制服を着ていなければ、お酒を吟味して買っていたかもしれない。少しぐらい私の側から離れて、自分用のお酒を買っても良いと思うのだが、どうやらフリーデは、ドが付くほどの真面目な性格らしい。
「それで、何を買う?」
「これに書かれているのを用意して」
そう言うなり、リディーは酒屋の亭主に一枚の木札を渡した。
「結構あるな……」と酒屋の亭主は店の奥へと行ってしまった。
「買う場所は決まっているんだね」
私は、戻ってきたリディーに尋ねた。
「毎日、沢山の兵士に食事を作っているんだ。買い出しの度に店を練り歩いて値段交渉をするのは面倒だろ。だから、決まった店で買い付けているんだ。毎回、料理に味が変わるのも不味いからな」
料理を作る厨房の人たちは一般人である。囚人の私と違い、自由に町へ行き来できるので、時間を掛けて、品質、値段、亭主の人となりを調べたり出来る。そんな先人たちの努力で、購入先は決まっているそうだ。
「まぁ、今日のように僕たちが直接お店まで買いに来る事は滅多にないけどな。良く使う食材は、直接、お店の人が兵舎まで運んで来てくれる」
しばらくリディーと雑談していると、店の奥から亭主が小樽抱えて戻ってきた。その後ろには、息子らしい二人の青年が現れ、同じ様に小樽を抱えている。
亭主と二人の青年は、私たちの荷車の荷台に小樽を乗せると、また店の奥へと消える。そして、再度、小樽を抱えて戻ってくる。それを三回ほど繰り返した。
「エール、ワイン、ミード、あと果実酒が数種類。樽に札を付けといたから匂いを嗅かなくても分かるようにしておいた」
亭主が指差した荷台を見て、私はげんなりする。
購入した小樽は、すでに荷台の半分を占めていた。
これ、凄く重いんじゃないかな? 私、牽けるかな? 買う順番、間違っていないかな?
私の心配もよそにリディーは亭主に代金を払うと、「次は野菜だ」と楽しそうに歩き始めた。
私は腰に力を入れて荷車を牽く。
ギシギシと音を出しながら何とか動き出す。私の体もギシギシと悲鳴を上げている。アキレツ腱が切れそう。
でも、まだ岩石を積んだトロッコよりかは軽い。
「おばちゃん、野菜を買いに来た。これ全部あるかな?」
先を歩いていたリディーは、野菜売りの店に声を掛けている。
ゆっくりと進む私とそれを監視するフリーデが野菜屋の前に到着する頃には、必要な野菜は用意されていた。
木箱に入れられた野菜がドガドガと荷台に積まれていく。
こんな調子で、牛乳、チーズ、小麦などを購入していく。
そうなると、あっという間に荷台は満杯になってしまった。
もう限界です……。
「薬草が売っている店がある。ちょっと見てくる」
購入予定のない薬草屋を見つけたリディーは、息を切らしている私とフリーデに声を掛けた。
この世界の薬草は、主に生薬として売っている。
一応、魔力を触媒にした回復薬はあるのだが、こちらは非常に高い。その為、一般市民の薬は薬草を使用している。なお、効果は微々たるものである。
以前、リディーに山に行ったらそれっぽい草を採ってきてと頼んだ事がある。ただ、その時、採ってきてもらった草は、口にして良いのか判断に困り、結局使わずじまいになってしまった。
そんな事もあり、私も非常に興味がある。
一晩眠れば、傷も胸毛も治ってしまう私には必要のない薬草であるが、薬でなく料理用として見たい。
そういう事で、「私も見たい」とフリーデにお願いしたら、真顔で「駄目に決まっているだろ」とバッサリと切られた。
「リディー、料理に使えそうな乾燥させた薬草があったら購入してほしい」
「どれが使えるかなんて分からん」
私の言葉をバッサリと切り捨てるとリディーはお店の奥へと行ってしまった。
ただ、そこはリディー。
私の為に右から左に並んでいる乾燥させた薬草を少量ずつ購入してくれた。
リディーの優しさにおじさんのぶ厚い胸が熱くなった。
ちなみに余談だが、リディーは小金持ちである。
色街も賭場も行かないリディーは、お金をほとんど使わない。
寝泊りする家はあるし、食材は厨房で貰える。服もごくごく普通の一般服しか着ない。出費があるとすれば、狩り用の道具類を購入するぐらいである。直近では、ウサギの毛で枕を作る為になめし液を購入したぐらいで、それ以外にお金を使っていない。
お金が溜まる一方との事で、大人買いも気にならないとの事。
羨ましい限りである。
次に訪れたのは、衣服屋である。私の目的地の一つだ。
私の所持金は大銅貨八枚。古着なら大銅貨四枚程度で上着もズボンも購入できるだろう。
ただ、問題は私自身がお店の中に入って、品定め出来ない事である。
そこで……
「おっさん、これはどうだ?」
すでに厨房用の布を購入したリディーに服を選んでもらっている。
ただ、選ぶと言っても木箱に詰め込まれた古着は、どれも面白味のない物しかないので、サイズが合い、状態の良い物を選ぶぐらいしか出来ない。
そんな服選びにリディーは嫌な顔一つせず、私のサイズに合いそうな服を探し出すと、店の前にいる私に見せにきてくれた。
「寒くないようにもう少し厚めの生地を使った物が良いな」
「暖かそうなやつだな。分かった」
私の要望を喜々として聞いたリディーは、再度、木箱から服を漁り出す。
そんなリディーを見て、フリーデは優しい顔をしていた。
「お前とリディーが仲良くしているのを見て、正直、ほっとしている」
「私の服はリディーにとっても死活問題だからね。必死に探すさ」
服を洗っても匂いが取れず距離を置かれている事を話すとフリーデに笑われた。
「今回の件だけではない。今までの事も話を聞いている。リディーはお前と生活していて楽しそうだ」
「それを聞いて、私もほっとするよ。気さくで面倒見があるから私も助かっている」
ぐちゃぐちゃの木箱の中身を掻き回し、さらにぐちゃぐちゃにして服を探すリディーを眺めながら、私たちはリディーについて話し始めた。
「ああ見えてもリディーは人見知りだ。当初は、見た目がアレなお前と一緒に住まわせて大丈夫かと心配していたんだ」
「人見知り? 誰とでも仲良くなれそうな性格に見えるけど?」
見た目アレという言葉は言及しないようにする。
「容姿端麗のエルフだからな。どうしてもジロジロと見られる。だから、初見の相手には警戒をしてしまうんだ」
私も初対面の時、ジロジロと見て警戒されたので、フリーデの言葉は全面的に賛同できる。まぁ、今もジロジロと見るけどね。
「そう思うなら、どうして囚人の私をリディーと一緒に住まわせたの?」
「私は反対したさ。でも、上からの命令で仕方がなかった。私は末端の兵士だからな」
上官の命令は絶対。命令違反は重罪である。そうでもしないと組織として破綻してしまう。
どこの世界も同じである。
ただ、頭では分かっていても心は難しいだろう。
立場は違えど、囚人の私も兵士の命令は絶対なので、嫌でも従わなければいけない。崩落事故のように……。
「お前はただの囚人でなく、特別の囚人らしい。だから、食住が確実なリディーの小屋が選ばれた。元々リディーも同居前提の契約であの小屋に住んでいたから断る事が出来なかったのさ」
フリーデの話を聞きながらリディーに視線を向ける。
リディーは、「良いのがあった!」と嬉しそうにズボンを広げるが、お尻の個所が大きく破れているのに気付き、叩き付けるように木箱に戻していた。
再度、フリーデの方を向くと、鋭い視線で私の顔を見つめていた。
「リディーだけでなく兵士の間でもお前の評判は聞いている」
どんな評判なのか気になるが、言葉を挟む雰囲気ではないので口を閉ざしておく。
「もし、リディーを傷付け悲しませる事があったなら、私は上官の命令でもお前を罰するからな。肝に銘じておけよ」
フリーデに釘を刺されてしまった。
まぁ、言われなくてもリディーを悲しませる事はしない。
リディーには感謝と恩しかないのだ。何があっても嫌われる事はしないと誓える。
……エロ絵で嫌な顔をされているけど、それはカウントされないよね。
「それにしても、フリーデとリディーは仲が良いね。付き合いは長いの?」
男性のリディーと女性のフリーデだ。下種な勘繰りをすれば、男女の関係が思いつくが、近くで見ているとそういった雰囲気ではない。
とても仲の良い親友みたいな間柄である。少し嫉妬してしまいそうだ。
「リディーから何も聞いていないのか?」
「ええ、私の方から特には……」
リディーについては、まったく聞いていない。
私は囚人で、さらにリディーは希少のエルフという事もあり、踏み込んだ事を聞くと気分を害すると思い、今まで聞いていなかった。
「坑口近くの沢があるだろ。水を運ぶ場所だ。あそこでリディーが行き倒れていたんだ」
「行き倒れていた!?」
「あいつ、キルガー山脈を越えて来たんだ」
チラリと後ろを振り返る。
山頂に雪を被った険しい山々が連なっている。
目の前に見える山々は始まりらしく奥には何十という高い山が連なっているとの事。一つの山を登るにも命掛けだというのに、それが何十とある山脈を越えるのは普通ではない。
「一年と少し前の事だな。山越えをしたリディーは、町についた安堵で力尽き、そこを私が見つけたんだ。出会いはそこからだ」
リディーとフリーデの仲は一年程度らしい。
「おっさん、良いのを見つけたぞ。これにしよう」
服選びをしていたリディーが私の元に来て、持ってきた服を体に当ててサイズを計る。この世界の古着売りは試着が出来ないので、こうやってサイズを計るのだ。もしサイズが小さいと不便なので、少し大きめのサイズを購入するのが肝である。これ、初めて下着を買った時に学んだ。
リディーが選んだ服は特に問題なさそうなので、エロ絵で稼いだお金を渡して購入してもらった。
値段は上下合わせて大銅貨五枚。
残りは木札に使う予定である。
「二人で楽しそうに話をしていたようだけど、何を話していたんだ?」
購入してきた服を酒樽の隙間に押し込んだリディーは興味深そうに尋ねてきた。
「お前がキルガー山脈を越えてきた話をしていたんだ」
「ああ……あれは酷かった。……もうやりたくない」
当時の事を思い出したリディーが遠い目をする。
「普通の方法では越えられないと言っていたけど、どうやって越えたの?」
「魔物が掘った洞窟を通ったり、山間を進んだり、川を下ったりしたからおっさんが想像しているような山越えをした訳じゃないぞ。まぁ、それでも酷い旅路だったがな」
「こいつ、寒いからって理由で山脈を越えてきたんだ。やる事も理由も普通じゃない」
笑いを堪えながらフリーデが教えてくれた。
「あそこはとにかく寒かった」
「えーと……山脈の向こうって事は別の国だよね。その国は寒いの?」
「ずぅーと雪が積もっている所だ。それも年に一度、とんでもない大寒波が襲ってくるんだ。雪の中で生きている魔物も凍ってしまうぐらいの寒波。大木も寒さで割れるし、暖炉の火を消したら、あっと言う間に家ごと凍ってしまうぞ」
当時の事を思い出したのか、リディーは両肩を抱えて震え出す。
その大寒波は、キルガー山脈を越えて、ルウェンの町だけでなく、砂漠もダムルブールの街にも雪を降らすと教えてくれた。
「それが嫌で、私たちは山を越えてきたんだ。まぁ、別の理由もあるんだがな」
「私たち?」
「姉と二人で越えた」
リディーに姉がいたのか。
男のリディーがこんなにも綺麗な顔立ちをしているのだから、姉である女性のエルフはさぞや神々しいのだろう。ぜひとも拝観してみたいものだ。
そんな私の心情を察してか、リディーは「姉については教えないぞ」と言われた。
「そ、それで、そのお姉さんはどうしたの? あっ、もしかして……」
「途中で行き別れてしまった。頑丈な奴だから死んではいないだろう。何処かで生きているはずだ」
気さくに話すあたり、リディーは姉の生死については心配していないみたいである。
その後、フリーデに助けられたリディーは、兵舎厨房の料理長に預けられ、一般職員として働き始めたとの事。ちなみにリディーの小屋は元々ボロ小屋だったらしく、リディーが半年ほどかけて作り直したらしい。このエルフ、狩りだけでなくDIYも出来るようだ。
「お姉さんを探さなくても良いの?」
「その内、探しに行く予定。今は助けて貰った恩を返す事にしている」
長寿のエルフの事だ。その内の期間が十年後百年後の可能性が高い。
「恩とか言っているが、実際は砂漠に行くのが嫌なんだよ。キルガー山脈を越えたのにな」
「そ、そんな事ないぞ!」
心情を暴露されたリディーは、顔を真っ赤にしながら否定する。
「えーと……実際はどっちなの?」
理由などどっちでも良いのだが、リディーについては色々と知りたいので尋ねてみた。そうしたら、フードを目深に被ってモゾモゾとしながら、「ぼ、僕は暑いのが嫌いだ」と教えてくれた。
暑いのも嫌、寒いのも嫌、我が儘なエルフであった。
「僕の話は終わりだ。次は雑貨屋に行くぞ」と話を打ち切ったリディーは、私たちを離すように歩き始める。
雑貨屋は道の端、町の入口近くにある。つまり、私たち囚人が一泊した教会のすぐ近くであった。
リディーは、ここで鍋や包丁、食器など足りない物を購入する予定。ついでに私用の木札と羽ペンを買ってきてもらう。ちなみにインクは高く、私のお小遣いでは足りないので、リディーのを使わせてもらう事になった。
「木札は何に使うんだ?」
「絵を描いているんだ」
「お前が絵を!?」
「フリーデ、どんな絵を描くかは聞くなよ。馬鹿になる」
そんなやり取りをしてからリディーはお店の中に入っていった。
懐かしさもあり、ついつい教会を見る。
教会には、数人の町人が掃除をしていた。扉を開けて床の埃を外に掃いていたり、窓を拭いていたり、近くのトイレを洗っていたりしている。
明日は『女神の日』だったな。
閑散としていて想像出来ないけど、明日になれば、この町もお祭り騒ぎになるのだろうか。それとも、お祈りだけしてから炭鉱に行くのだろうか。
その事をフリーデに尋ねると……。
「第一炭鉱は町の役人が監督している。そいつらが休みになるので炭鉱仕事はない。私たち兵士も休みになるので、この町に来ては騒いで帰っていく。お前の言うお祭り騒ぎがどういうのか分からないが、結構、賑やかになるぞ」
……と教えてくれた。
フリーデの話を聞きながら町の入口を見ていたら、見た事のある集団が目に入った。
醜く太ったガマカエルのような男を先頭にトカゲ兵士率いる兵士の集団だ。
太った男は、確か……何とか男爵だったはず。この男爵については、どうでもいい。
私が気になるのは、男爵と一緒に歩いている漆黒のローブを羽織った人物である。
リディーのようにフードを目深に被った顔の見えない人物。背丈からして女性かもしれない。
その人物を見て、なぜか変な感覚を覚えた。
あれ? どこかで見た記憶がある。
顔が隠れているので、もしかしたら知っている人物かもしれない。
そう思ったが、こんな炭鉱の町に知り合いなんかいない。
もっとこう……薄れゆく記憶の中に……。
私の視線に気が付いたのか、その人物は私の方を振り向いた。
お互い視線が混じり合うが、顔は見えない。
だけど、見た事のある人物だと直感で分かった。
もしかしたら、向こうから来てくれるかもしれないと思い様子を見ていたら、その人物は何とか男爵と会話すると、私とは反対の移住地区へと行ってしまった。
うーむ……結局、誰だったのだろうか?
買い物を終えたリディーが戻ってきた。
荷物を抱えたリディーは、買ってきた物をバラバラと荷台の隙間に入れていく。勿論、私の木札も玉ねぎの上にバラバラに置かれた。
「ちょっと、リディー! もっと丁寧に入れなさい」
整理整頓が苦手なリディーの代わりにフリーデが野菜の入った木箱を整理して、その中に雑貨を入れ直した。
困った弟の面倒をみる姉みたいである。
必要な物は全て購入する事が出来た。
私たちは元の場所へ帰っていく。
結局、一人で満杯の荷車を牽く事が出来ず、帰りはリディーとフリーデに後ろを押してもらいながら帰った。
こうして、町での買い物は問題なく終わった。
午後からは、リディーの小屋から近いと言う事で選炭場に行かされた。
そこでは坑木を加工した。
支保用の木材を切ったり、線路の枕木を切り揃えたり、簡易梯子用に丸太に溝を掘ったりもした。
肉体的には楽で、作業内容も楽しかった。
毎日、これなら良いな。
こうして、一日が終わった。
明日は『女神の日』で炭鉱作業はお休みである。
毎日、休みなら良いなと思った。




