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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第三部 炭鉱のエルフと囚人冒険者

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177 幕間 これからの事

 空が白みかかり始めた頃、目が覚めました。

 なかなか寝付けない昨晩でありましたが、目覚めは良いです。

 いつもより早めの起床でありますが、おじ様の事を考えると二度寝する気も起きないので、ベッドから抜け出す事にします。

 専用のベッドで寝ているティアさんを見ると、なぜか三人に増えており、「くかー、くかー」と腕や足がベッドからはみ出しながら寝ています。

 ティアさんたちを起こさないよう静かに部屋から出ると、エーリカ先輩がすでに起きており、食卓の椅子に座り、薄暗い外の景色を眺めていました。


「エーリカ先輩、おはようございます。もしかして、ずっと起きていたんですか?」


 まさかとは思うが、一応、尋ねてみます。


「いえ、先程、起きました。少し考え事をしています」

「考え事ですか?」


 もしかして、おじ様の事でしょうか? それとも朝食の内容でしょうか?


「後で伝えます」

「そうですか……では、私は顔を洗ったら、朝食の準備をしますね」


 エーリカ先輩が何を考え、何を伝えたいのか気になりますが、まずは朝食です。

 私は外に出ると、井戸に向かいます。

 朝の冷たい風が顔に当たり、眠気が消えて無くなります。そして、冷たい井戸水で顔を洗うと、頭がすっきりとしました。

 厩舎の方を見ると、扉はすでに開かれ、クロとシロが飼葉を食べている姿が見えます。

 すでに数人のティアさんが、クロたちの世話をしたり、厩舎の掃除をしているのでしょう。

 本来は私がしなければいけない事なのですが、つい働き者のティアさんに任せきってしまうので罪悪感が湧きてきます。以前、その事を伝えたら、「あたしが好きでやっているのよー」と言われたので、つい甘えてしまっています。

 だからと言う訳ではないのですが、料理が不得意なティアさんに代わり、なるべく私が作る事にしています。まぁ、おじ様も作ったりしますので、あまり出番はないのですがね。

 

 顔も手も洗った私は、すぐに厨房に入り、朝食の準備をします。

 今日は、以前、おじ様が作ったチーズオムレツとかいう料理を思い出して作る予定です。

 作り方は覚えているのですが、いざ焼いてみると思うようにいきません。

 火力が強くて焦げてしまったり、チーズを入れ過ぎて中身が飛び出したり、フライパンから離れずボロボロになったりと散々な姿のチーズオムレツが食卓に並びます。

 

「アナちゃん、形は酷いけど、味は美味いよー」


 クロたちの世話をしていたティアさんたちが、落ち込んでいる私を慰めてくれます。ただ、以前おじ様が作ったトマトソースをドバドバと掛けて食べているので、美味しいのはトマトソースな気がします。

 ちなみに、専用のベッドで寝ている三人のティアさんは、今も寝たままです。


「誰でも初めてはこんなものです。日々精進です。お代わりを所望します」


 こちらもトマトソースをたっぷりと掛けて食べているエーリカ先輩が、失敗作を次々と無くしてくれます。

 無理して食べてないですよね? 

 いつもと同じ眠そうな顔をしているので、判断が付きません。

 そんなこんなで失敗したチーズオムレツ、屑野菜のスープ、パン、乾燥させた果物は完食しました。



 汚れた皿を洗い場に置き、お茶を用意して、みんなの前に並べます。

 これからエーリカ先輩が話したい事があるそうです。

 いつもの眠そうな表情でありますが、その瞳は真剣なのが窺えます。

 あまりの真剣さに私とティアさんは、背筋を伸ばします。


 エーリカ先輩が何を考え、何を伝えたいのでしょうか?

 もしかして、おじ様を助けに向かうとか言うのではないでしょうか?

 もしエーリカ先輩から協力を要請されたらどうしましょう?

 私もおじ様が困っているのなら助けてあげたいです。

 でも、罪で捕まったおじ様を釈放される前に私たちが助け出したら、私たちまで罪人になってしまいます。

 それはおじ様自身が望んでいない事です。

 おじ様の気持ちを反してまで助けたいかと問われると悩みどころです。


「私は、昨日から考えていた事があります。それを実現するつもりですので、協力をお願いします」


 真剣な声で語るエーリカ先輩と目が合います。


「それでー、何を考えていたのー?」

「今、わたしがご主人さまの為に何が出来るのか? それの一点につきます」


 本当にエーリカ先輩はおじ様一筋ですね。真剣な場面なのに、微笑ましく思えます。


「これから行う話し合い……いえ、会議はわたしたちの未来を大きく変わるでしょう。真剣にお願いします」


 会議? 未来? 何だか大変な話し合いみたいです。

 もし本当に無茶な事を要請してきたらどうしましょう?

 私は、ゴクリと唾を飲み込んでから話の続きを聞きます。


「せ、先輩は、おじ様に対して何をするつもりですか?」

「料理屋を完成させます」

「……はい?」


 私とティアさんは、エーリカ先輩の言っている事が理解できず、同時に首を傾げました。

 

「昨日、話をしていた後輩の料理屋を実現させる為に準備を進めます。ご主人さまが戻って来た時には、いつでも開店できるようにしておくつもりです」

「まさか、そっち!?」


 斜め上の要請につい声をあげると、逆にエーリカ先輩が「そっち?」と首を傾げました。


「わ、私はてっきり、おじ様を助ける為に、先輩が兵士詰所を襲うのかと思いました」

「うんうん、あたしもそー思った」

「何を馬鹿な事を。わたしはご主人さまの言葉に従います」


 ほっと安堵します。

 もし仮に兵士詰所に行くと言ったら、全力で止めなければいけませんでした。

 エーリカ先輩がおじ様を慕っているように、おじ様もエーリカ先輩を大事に思っているのは見ていて分かります。そんなエーリカ先輩を犯罪者にしてはいけません。


「それは良い考え……いやいや、確かに私の夢は料理屋ですが、今すぐの話ではないですよ」

「どうせ、いつかはするつもりなのでしょう。それなら今すぐでも問題無いはずです」


 そういうものでしょうか?


「ご主人さまが望んでいた後輩の料理屋です。わたしは全力で実現したいと思います」


 えーと……おじ様、望んでいたのでしょうか? 苦笑いしていただけなのですが……。


「ご主人さまが疲れて戻ってきた後に料理屋の準備をするのは過酷でしょう。事前に出来る事は、わたしたちで済ませておきます。その為の会議です」

「エーちゃん、言っておくけど、料理屋を開いたからって、エーちゃんが料理を食べれる訳じゃないのよー。食いしん坊だから、いつでも食べれると思ってないー?」

「何を阿呆な事を言っているのですか? つまみ食いばかりしているティアねえさんと一緒にしないでください」


 うーん、私もそれ思いました。

 本人の前では言わないけど……。


「あたしは、エーちゃんの提案に反対はしないけど、当のアナちゃんはどうなの? あまり乗り気ではなさそうねー。このままだと本当に料理屋に転職しちゃうよー」


 私の方を向いたティアさんが、優しく聞いてきます。

 いつも騒いでいる姿しか見ませんが、良く周りを見ているようです。


「えーと……私は……」

 

 改めて聞かれると、言葉に詰まってしまいます。

 確かに、私の将来の夢は料理屋です。

 これは亡き父と母の夢を引き継いだだけです。

 私自身、本当に料理屋をしたいのかと問われると……分からないとしか言えません。

 ただ、料理を作るのは好きですし、おじ様たちが私の料理を美味しく食べてくれると嬉しくなります。

 そう思うと、やはり私自身、料理屋を開きたいと願っているのかもしれません。


「ティアさんの言う通り、もっと先の事だと思っていた夢が、目の前に現実として来てしまったので、心の準備が出来ていないと言うのが本心です」

「開店準備をしていれば、おのずと心の準備も出来ます。最悪、後輩のお店でなく、ご主人さまとわたしのお店にしますので、場所の提供と手伝いだけで結構です」


 ええー、何でそうなるの!?

 夢が乗っ取られそうになり、私は「駄目です!」とすぐに断りました。


「せ、折角ですので、私のお店を開きます!」

「そうですか……」


 なぜか悲しそうな雰囲気を出すエーリカ先輩。

 本心でおじ様とのお店が開きたかったのかもしれません。


「た、ただ、お店を開くとなると、冒険者稼業はどうなるのでしょうか? さすがに冒険者を辞めるのは、気が引けます」


 冒険者は国が認めた職業でありますが、冒険者ギルドに雇われている訳ではありません。

 日雇い労働の冒険者が、自分の都合ですぐに辞めても誰も文句は言えません。

 冒険者をやるのも、辞めるのも、怪我をするのも、死亡するのも、自己責任なのです。

 ただ私にとって冒険者は、亡き父と一緒に築いた職業です。それは私の大切な思い出であり、人生なのです。

 料理屋を開く代わりに冒険者を辞める事になるなら、料理屋は後回しでいいと考えています。

 その事をエーリカ先輩に伝えると、「問題ありません」と答えました。


「その辺の事も考えてあります」


 そう言うとエーリカ先輩は、クピリッと温くなったお茶を一口飲みました。


「では、わたしの考えた計画を話します」


 こうして、私の夢である料理屋を実現する為の話し合いが始まりました。


きりが良かったので、今回は短め。

予定よりもまったく話が進みません。

……困ったものです。

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