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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第三部 炭鉱のエルフと囚人冒険者

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161/347

161 はじめての炭鉱労働 その3

 坑道内に休憩を知らせる音が鳴り響く。おたまでフライパンを叩いている音に近い。

 私は、狭い切羽から抜け出し、音が鳴っている所へ向かう。

 枝分れしている別の坑道から他の囚人たちが集まってくる。

 十数人ほどの囚人たちと共にぞろぞろと坑道を進むと、少し開けた場所で兵士が鉄の棒でトロッコを叩いているのが見えた。

 ここで皆で一斉に休憩をするようだ。

 囚人たちは、壁際に置かれている水の入った樽に向かうと、上半身を裸になり桶を使って手や体に水を掛けている。

 私も汗や汚れを落としたくて列に並んだ。


「新人、樽の水は飲むなよ」


 私の後ろにいる細目の囚人が声を掛けてきた。

 

「えーと……どうしてか聞いても?」

「簡単な事だ。おまるから離れられなくなるからだ。そうしたら、兵士に殴られる。クソを垂らしながら作業する羽目になるぞ」


 うわー、それは嫌だ。まぁ、水は革袋に入れてあるので問題はない。

 それはそうと、ちょっと気になった事が出来たので、後ろの囚人に聞いてみた。


「ちなみに、何で私が新人だと分かったの?」

「そんなの服を見れば分かる」


 そう言うと、囚人は自分の真っ黒な服を指差した。

 ああ、なるほど。

 私の服は、土や炭粉で汚れているとはいえ、まだまだ白くて綺麗だ。

 一方、殆どの囚人の服は真っ黒である。

 元は私と同じ白い服だったのが、何回も坑道で作業をして、真っ黒になってしまうのだろう。

 私の服もその内、洗っても真っ黒のままになるのだろうな。そうなれば、新人卒業だ。うわー、そこまで働きたくない。


 私の番になったので、後ろの囚人に礼を言ってから桶を手にして、樽の中の水を汲む。

 裸になる事に抵抗があったので、手と顔だけを洗った。

 冷たくて、とても気持ちがいい。

 何度か水を掛けてからその場を後にする。


 周りを見ると、囚人たちは各々好きな場所に座って休憩をしていた。

 一緒に作業をしていた初老の囚人とドワーフが壁際に座っているので、私もそこで休む事にする。

 ドワーフの横に座り、麻袋から水の入った革袋を取り出して、生暖かい水をグビグビと飲む。


 ああー、生き返る。


 麻袋の中にリディーから貰ったリンゴが入っているが、誰も水以外を口に入れていないので、我慢する事にする。疲れと鞭の痛みで空腹を感じないし、もしこっそりと食べたら、叱られそうなので無理して食べる必要はないだろう。

 

「ふぅーぃ……」


 隣に座っているドワーフの溜め息と共にアルコールの匂いがした。

 どうして? と思い、ドワーフの方に顔を向けると、美味そうに革袋の中身をチビチビと飲んでいる。


 もしかして、革袋の中身って!?


「ん? ああ、酒だ。内緒で作ったものだ。ほれ……」


 私の視線に気が付いたドワーフは、革袋を私の方へ向ける。

 私は首を振って、それを断る。


「そうか……欲しくなったら言えよ」


 ドワーフは「兵士には黙っていろよ」と言うと、チビチビと飲み続ける。

 さすが、ドワーフ。お酒好きは本当みたいだ。

 水の代わりに酒を飲んでいたら、脱水症状が起きるのだが……ドワーフだから大丈夫なのか?

 ……というか、こっそりと作ったって事は密造酒ってこと!? 兵士の目を盗んで、作れる環境なの?

 色々と聞きたいが、兵士にばれると不味いので我慢する。


 私は鞭で打たれた背中が痛いので、壁に背中を預ける事はせず、前屈みで休んでいる。

 それにしても静かだ。

 囚人たちは黙って休憩をしている。

 話してはいけないルールがあるのかと最初は思っていたが、時々、他の囚人がボソボソと小声で話をしている。それについて兵士は何も言わないので、特に会話禁止という訳ではなさそうだ。

 気温も湿度も高い、空気の重い坑道内だ。体力を温存する為に、みんな無駄口を開かないだけなのかもしれないな。

 そんな静寂が支配する真っ暗な坑道内は、ポタポタと天井から滴る水音だけが響く。

 薄暗い中での水滴の音。非常に気味が悪い。

 蒸し暑いにも関わらず、ブルリと体が震える。

 腕を擦っていると、さらに恐怖が襲う。

 手掘りで掘られた壁の奥からピシッピシッとか、ゴゴゴッとした音が聞こえた。

 

 な、何の音!?

 もしかして、壁から魔物でも出て来たりする!?


「地鳴りだ」


 音の出所を探すようにキョロキョロと周りを見回していると、ドワーフがお酒臭い口で教えてくれた。


「山は生き物だ。動いたり、成長したり、壊れたりする。今も生きている山の中に俺たちはいるんだ。音ぐらいするさ」


 山の腹の中に入り込んだ私たち。

 山からしたら、内部を掘っている私たちは、人間でいう病原菌とか寄生虫とかお腹を突き破る宇宙生物なのかもしれない。

 内部を破壊する私たちに抵抗する為に、山は落盤とかガスとかで抵抗するのだ。

 私たちは異分子。

 決して、踏み込んではいけない場所に入り込んでいる。

 現世から隔離された場所。

 暗くて、暑くて、じめじめとした場所。

 山が本気で私たちを排除しに掛かったら、内部にいる私たちは生き抜くのは難しいだろう。

 生きるか死ぬかは山次第。

 ちっぽけな私たちでは、抗う事は無理である。

 そんな場所で、私たちは作業をしているのだ。

 異常としか言えない。


「俺たちドワーフにとって、地鳴りは子守歌だ。この音を聞くと、故郷を思い出す。早く出所して、美味い酒を飲みながら女房を抱きたいぜ」


 私の心情などお構いなしに、ドワーフは地鳴りを肴に密造酒をチビチビと飲んでいた。



 ………………

 …………

 ……



「休憩は終わりだ。仕事に戻れ!」


 カンカンカンッと鉄の棒でトロッコを叩きながら、兵士が囚人を動かす。

 面倒臭そうに囚人たちが立ち上がり、各作業場へと散っていく。

 私もドワーフや初老の囚人の後を追うように坑道の奥へと戻る。……っていうか、彼らの後を追わないと元の場所に戻れないので、見失なわないように気をつけなければいけない。

 

「新人のお前とお前。こっちにこい」


 元の場所に戻った私と別の新人の囚人が兵士に呼ばれた。

 何かしたかな? と戦々恐々しながら兵士の元に向かうと……。


「トロッコが一杯になった。選炭場まで運べ」


 ……と兵士は、顎でトロッコを示す。


 えっ、二人だけで運ぶの? と不安に思っていると兵士は別の坑道に向けて叫ぶ。


「オルガ、こっちにこい!」


 兵士の叫びが坑道内に響き渡ると、奥からドスドスと音を立てながら二メートル以上ある大男が姿を現した。


「あい、親分。オルガ、きた」


 オルガと呼ばれる囚人は、先日、地下水路で戦ったオークに似ている。茶色い肌に潰れた鼻、短いが牙のようなものも生えている。ただ、私が戦ったオークと違い、人間に近い顔立ちをしていた。もしかして、人間とオークのハーフなのかもしれない。

 そんなオルガであるが、少し変な部分がある。

 それは肩だ。

 オルガの両肩は、首に近い部分だけ歪にへこんでいた。

 どうすれば、あんな変な形になるのだろう?


「オルガ、この新人と一緒にトロッコを運べ」

「あい、分かった」

「忘れずに、この木札を向こうの兵士に渡せよ」

「あい、分かった」

「よし、行ってこい」

「あい、親分」


 オルガと会話を済ませた兵士は、坑道の奥へと行ってしまう。

 オルガは、兵士に渡された木札をトロッコの中に入れると、私たちの方に顔を向けた。


「おで、引っ張る。お前たち、押す」


 そう言うとオルガは、トロッコの前に行き、トロッコに繋がっている革ベルトを肩に回すと四つん這いになった。そして、四肢に力を込めて低い唸り声を漏らすと、ズズズっとトロッコがゆっくりと動き出した。


 おお、凄い! 一人でトロッコを動かしたよ。

 なるほど、あの歪な形をした肩は、何回も重いトロッコを引っ張った影響でへこんでしまったのだろうと理解した。


「お前たち、手伝え。オルガ、一人、無理」


 関心していた新人の私たちは、お互いに顔を見合った後、急いでトロッコを押し始める。

 岩石を山盛りに積んだトロッコは、ゆっくりと動いていく。


 すげー、重い!


 力一杯に押さないと、トロッコは動かない。

 隣で押しているもう一人の囚人も歯を軋ませながら、必死に押している。

 こんな重たいトロッコを、僅かとはいえ、一人で動かしたオルガは異常である。


「いつもより重い……みな、頑張れ」


 ごめん。

 いつもより重いと感じるのは、私が原因だと思う。

 低レベルの筋肉詐欺のおっさんだ。どんな大人よりも非力なので、二人の囚人には負担が掛かっているだろう。

 だから、もう一度、心の中で謝っておく。

 ゴメンね。


 なるべく、二人の負担を減るように、私も出来る限り、力を込めて押していく。

 線路の枕木に足を掛け、体全体で押す。

 汗を滴らせながら押す。

 息を切らせながら押す。

 三人で唸りながら押す。

 前向きが疲れたら、後ろを向いて背中にトロッコをくっつけながら屈伸運動で押す。

 そして、幾つかの分岐を通り過ぎ、力尽きる前になんとか昇降機まで辿り着いた。

 重たいトロッコを昇降機に乗せると、担当の囚人がクランチの付いたハンドルを回して、上昇させていく。

 トロッコだけを乗せた鉄製の箱が第一横坑へと上がっているのを膝をついて眺めていた。

 

 ああ、この後、真っ暗な縦穴を梯子を使って、登っていかなければいけないのか……。

 プルプルと震える筋肉と鞭の痛みで登りきる自信がない。


「少し、休憩。今、登るの危険。何人も落ちてる。だから、休憩」


 力尽きるようにオルガが地面に倒れる。

 私も地面に座り込みたかったが、トカゲ兵士の教育現場を目の当たりしているので、堂々と休憩する事が出来ない。

 また、殴られたり、鞭で打たれるのは嫌だ。


「おい、兵士の見回りが来たぞ。立ち上がれ」


 もう一人の囚人が、地面に倒れているオルガに向けて、立ち上がるように訴える。だが、当のオルガは、気にせずに倒れたままであった。

 これでは連帯責任で教育を受ける羽目になる。

 二人で何とか立たせようと声を掛けるが、オルガは気にせずに休憩している。

 奥から現れた兵士は、私たちの元まで来ると眉を顰めた。


「珍しく力尽きているな、オルガ。調子でも悪いのか?」

「調子、良い。トロッコ、重かっただけ。回復するまで、待つ」

「別のトロッコが来るかもしれないから、早めに向かえよ」

「あい、分かった、親分」


 兵士は私たちの方も見るが、何も言わずに何処かへ行ってしまった。

 私ともう一人の囚人は、ほっと胸を撫で下ろす。

 このハーフオークっぽい囚人がいたから見逃されたのか、それとも兵士によって教育のさじ加減が違うのかもしれない。

 まぁ、理由は何であれ休憩が出来るならと、私ともう一人の囚人はその場で腰を落とし、水袋から水分を補給した。


「おで、回復した。上に行く」


 えー、もう!?


「お前たち、ゆっくり、登る。落ちたら、怪我する。上で待っている」


 そう言うなりオルガは、カツカツと軽快に梯子を登り始めた。

 顔を見合わせた私たちは、渋々と腰を上げて、梯子まで向かう。


「力尽きて巻き込んでしまう可能性があるから、先に行ってほしい」


 もう一人の囚人は、疲れ切った私の姿に納得してから梯子を登り始める。

 ある程度、距離が開いたのを確認した私は、手汗を拭いてから梯子を握った。

 暗い縦穴に向けて登る。

 上からパラパラと砂が落ちてくるので、上は向けない。

 一度、この梯子を使って降りているので、変な緊張感は薄らいでいるが、体力と腕力が限界に近いので、別の意味で恐怖を感じる。


 それにしても、何て重たい体をしているの、私の体!

 もう少し、痩せた方がいいかしれない。

 これを気にダイエットでもしようと思ったが、このまま炭鉱で働けば、嫌でも痩せそうなのでダイエットは無かった事にする。


 そんな事を考えつつ、しっかりと梯子に手と足を掛けて、ゆっくりと登っていく。

 カツ、カツ、カツと上も下も見ずに正面のみを見ながら登り続けると、周りが明るくなってきた。

 ようやく、到着である。

 梯子を登りきった私は、木柵の切れ目で四つん這いになり、動けないでいた。

 緊張と不安と恐怖と疲労と鞭の痛みで立ち上がる事が出来ない。

 それにしても、第一横坑は気持ちがいい。

 気温や湿度が下がり、空気が流れている。


「おい、別のトロッコが来た。休みたいのは俺も同じだが、早く移動させた方がいい」


 もう一人の囚人が私の腕を掴んで、立ち上がらせる。

 休んでいる暇は無い様だ。

 オルガは既に昇降機の中に入り、トロッコを動かし始めていた。

 私たちはフラフラになりながらトロッコに向かい、三人で重たいトロッコをギコギコと動かす。そして、選炭場から来るトロッコの為に待機場所まで移動させて待機した。

 しばしの休憩。

 選炭場から来たトロッコは、私たちよりも細身の三人組で、空になっているにも関わらず、荒い息を吐きながら動かしていた。

 そんな三人組が通り過ぎてから私たちも移動を再開する。

 第二横坑と違い、第一横坑は曲がりくねっているので、トロッコが余計に動かし難い。

 ただ、坑口に近づけば近づくほど冷たい風が流れてきて、火照った体を冷やしてくれるので、第二横坑を移動させていた時よりもスムーズに動いていた。

 まぁ、人一倍オルガが頑張ってくれているのが大きいのだが……こっそりと後でリンゴでもあげようかな。


 ようやく、坑口を抜けて、外に出た。

 山脈という巨大な生き物の体から出た私は、空を見上げて大きく呼吸をする。

 空は曇っているが、ずっと暗闇の中にいたので非常に眩しく感じる。

 オルガももう一人の囚人も私と同じように深呼吸をした。

 さて、選炭場まであと僅か。

 頑張ろう。



 ………………

 …………

 ……



 ようやく選炭場に到着した。

 私たちは崩れるように地面に座る。

 選炭場で働いている囚人たちが集まってくる。

 トロッコの側面が外れる仕組みになっていたらしく、ガツっと閂を外すと、ガラガラと岩石が地面に転がっていく。

 囚人たちは、地面に転がった岩石を作業場まで運び始めた。

 私たちも岩石を運んだ方がいいかなと思っていると、作業場の奥から兵士がこちらに歩いてきた。

 オルガはトロッコの中に入れていた木札を見つけ、兵士に渡した。

 兵士は木札を確認すると……。


「疲れただろ。必要な物を用意している間、向こうの壁際で休んでいていいぞ」


 ……と何処かへ行ってしまった。

 まともな感性の兵士がいて安堵する。

 許可が出たので、私たちはトボトボと壁際に向かう。

 そして、壁を背に腰を落とし、岩石を運ぶ囚人や指示を出している兵士をのんびり眺めた。

 

「リンゴ、食べる?」


 二つしか持ってきていなかった為、私は自分の分を諦めて、二人にリンゴを渡した。

 半人前の筋力しかない私だ。二人には迷惑を掛けたし、帰りも掛けるのでリンゴぐらいあげてもいいと思った。まぁ、元はリディーのリンゴなので、偉そうな事は言えないが……。


「おお、リンゴ、くれくれ」


 デカい口を開けたオルガは、リンゴの芯やヘタなど気にせず、ガシガシと食べる。


「久しぶりの果物だ。うめーな」


 もう一人の囚人もシャリシャリと食べ始める。

 私は水だけで我慢する。

 

「お前の分は?」

「二つしかないから、私はいい」

「それなら、半分食え。まだ、夕方まで時間がある」

「良いの?」

「元はお前のだろ」


 くくっと笑う囚人は、食べ掛けのリンゴを渡してきた。

 私はシャリシャリと酸味の強いリンゴを食べながら体を休める。

 食べ終わったリンゴの芯をオルガが食べたそうにしていたので、ゴミ処理としてあげた。

 その後、他愛無い話を二言三言話しをしていたら、兵士の呼び出しを受けた。


 兵士の元に向かうと、準備が出来たという事で、元の第二横坑まで戻るように指示を受ける。

 岩石が無くなったトロッコには、代わりに水の入った樽や木材、炭鉱で使う道具が入れられている。

 私たちは元来た道を戻っていく。

 重たい岩石の代わりに色々な物がトロッコに入れてあるが、行きに比べ、とても軽い。ただ、軽いと言っても三人でようやく動かせるぐらいは重い。

 帰りは、オルガが後ろで押し、私ともう一人の囚人がトロッコの前方左右から押していった。

 

「これ、車輪やレールに油とか塗れば、もっと滑らかに動くんじゃないのか?」


 会話が出来るぐらいの余裕が生じたので、もう一人の囚人がギコギコとトロッコを動かしながら話してきた。


「駄目。油、危険。火が付くと面倒。却下された」


 オルガの話では、以前に誰かが提案したみたいだ。


「なら、蝋燭とかはどうかな? 滑るし、油よりも安全だと思うよ」


 私が別の案を言うと、オルガは首を振った。


「無理。蝋燭、高い。貴族、許可しない」


 あの何とかという醜い男爵がケチったのだろう。


「そもそも、こんな重い物を人間が運ぶのがおかしい。車は動物が牽くものだろ」

「ああ、ロバとか馬とかベアボアだね」

「以前、ロバ、使った。すぐに潰れて、食料になった。馬、高い、許可下りない。ベアボア、デカくて無理」


 私たちの案をオルガが答えていく。

 どうもオルガは、長年この坑道で働いているようで、色々と知っている。

 舌足らずな感じの言葉使いであるが、会話をしていると頭は良いと思われる。ハーフオークっぽいので、人間の言葉が苦手なだけかもしれない。

 そんな会話をしていると、前方からトロッコが向かってきた。

 トロッコを動かしているのは、二足歩行の馬だった。

 ミノタウロスと呼ばれる種族だろう。オルガよりも背が高く、馬毛の下に引き締まった筋肉が盛り上がっている。

 そんなミノタウロスの囚人は、岩石を山盛りに積んだトロッコを一人(匹?)で運んでいた。

 待機場所に近かった私たちが、少し後方に下がり、待機する。

 ミノタウロスは、ブヒヒーンと鼻息をあげながら、カポカポと通り過ぎていった。

 人外の囚人が居るのだから、トロッコの運搬は彼らだけでやった方が効率が良くないかな?

 そんな事を思う一場面であった。


 その後、無事に昇降機に辿り着き、暗闇の縦穴を降り、第二横坑の奥までトロッコを運び終えた。

 兵士の指示でトロッコの中身を下ろし、各場所に移動させる。

 木材は支保を作っている囚人の元へ。水の入った樽は、休憩場所に。工具類は壁際に置いた。

 そして、私は最初に作業をした切羽に戻り、作業時間が終わるまで、暗くて、暑くて、息苦しい坑道内で過ごしたのであった。


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[良い点] 労苦、その中でも人の触れ合い 書ける作者さんが少なすぎる国って いい国なんでしょうねー(なろう批判&作者絶賛)
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