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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第三部 炭鉱のエルフと囚人冒険者

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153 炭鉱への道程

 私が兵士に捕まった日から四日が経った。

 その間、やる事がなく、暇すぎて発狂しそうになる。

 ここにグローブと野球ボールがあれば、壁に向かってゴツンゴツンとやったり、ロックハンマーがあれば、チェスの駒を作るついでに壁に穴を開けていたのだが、残念ながら、ここにそんな物は存在しない。

 そこで私は、胸に蝶の刺青をしている囚人のように、狭い部屋で筋肉トレーニングをする事にした。

 この先、強制的に肉体労働をさせられる炭鉱に送られる。今の内に筋肉と体力を付けた方が良いと判断したのだ。

 だが、私の空気しか入っていない筋肉では、十五分と持たない。ここに来た時よりかは、回数は増えているのだが、まだまだである。

 筋トレで疲れたらベッドに倒れゴロゴロとする。だが、木製の堅いベッドの為、寝ていると体が悲鳴を上げる始末。

 結局、筋トレしてもベッドで休んでも体を痛めるだけなので、地面に座って呆けるのだが、それも長続きしない。本当に暇過ぎで狂いそうになる。結局、また筋トレしてベッドへ直行するの繰り返しで時間を潰す事になってしまう。

 

 朝夕の食事はいつも同じ物。

 硬い黒パン、塩味のスープ、謎の干し肉のみである。

 毎晩、ティアが様子を見に来てくれて、その都度、差し入れを用意してくれるので助かっていた。

 冷めたピザやリンゴパイを持って来てくれた時などは、涙を流して喜んだほどである。

 

 そんな生活を四日続けていたら、炭鉱送りの不安と恐怖はさよならをしていた。

 だが、今日の昼頃、兵士長のマリウスが訪れた事で不安と恐怖がただいまと戻ってきてしまった。


「出ろ、移送するぞ」


 何の前触れもなく言い渡された移送命令である。

 少しは囚人の気持ちを考えて欲しい。

 ベッドに腰を落としていた私は、渋々と重い腰を上げて鉄格子の扉に近づく。

 「両手を前に出せ」と指示が飛ぶので、言われた通りに腕を突き出し、拘束魔術を掛けられた。さらに、両足も追加である。

 

「ついて来い」


 短く指示を出すマリウスの後を追うように、ちょこちょこと足を動かして歩く。

 デコボコの石畳の所為で、とても歩きにくい。

 後方には、二人の兵士が武器を持って怖い顔をしているので、もし倒れたりしたら不審行動と取られ、すぐに槍で刺されるかもしれない。歩くだけで疲れてしまった。

 外へと出ると同時に深呼吸をする。

 久しぶりの外である。

 澄み渡る青空。サンサンと照らす太陽。ハゲ頭を撫ぜるそよ風。

 四日間、薄暗い部屋に閉じ込められていたので、空気がとても美味しく感じる。

 これから炭鉱に強制労働しに行く予定が無ければ、微笑みがこぼれていただろう。

 だが、これから向かうのは、生きて戻れる保証のない炭鉱。笑いでなく、嗚咽が漏れてしまう。


「お前で最後だ。列に並べ」


 私の方を振り向いたマリウスは、兵士詰所の前に待機している帆馬車の方に顎で示した。

 帆馬車の前には、私と同じ両手両足に拘束魔術を掛けられた男性が七人ほど並んでいる。

 彼らも炭鉱送りにされた囚人なのだろう。

 如何にも犯罪を犯したと思える怖そうな人からごくごく普通の人までいる。その誰もが正気のない瞳で、疲れ切った雰囲気が漂っていた。

 彼らの様子を見る限り、囚人の中で私が一番元気がありそうだ。私は、暇すぎて疲れただけである。もしかしたら、彼らはもっと酷い場所で留置されていたのかもしれない。これも恩赦の影響だろうか?

 

 私はマリウスの指示の通り、ちょこちょこと足を動かして、囚人の列に並んだ。

 街人たちが遠巻きに私たちを眺めている。とても恥ずかしい……。

 もしかしたら、エーリカたちが居るかなとキョロキョロと周りを見ていると、「動くな!」と兵士の一人に怒鳴られてしまった。

 チラッと見た限り、知り合いはいない。上空にティアの姿も確認できなかったので、私がこれから炭鉱に移送される事はエーリカたちは知らないだろう。そうなると、毎晩様子を見に来てくれたティアは、私が居なくなって驚くだろうな。

 そんな事を思っていると、馬を引き連れた六人の兵士が帆馬車の近くに集まり、兵士長のマリウスに「準備、完了です」と大声で報告した。

 

「では、囚人を乗り込ませろ」


 マリウスの指示で動き出した兵士が、私たちを順番に帆馬車に移動せていく。

 帆馬車の数は二台。囚人は私を含め八人。一台の荷車に四人の囚人が入れられる。

 一番後ろに並んでいた私は、帆が開いている後ろ側に座った。

 私たちが乗り込むと「乗馬!」とマリウスの指示が飛び、馬を引き連れていた兵士が慣れた動作で馬の背に乗る。そして、「移送任務、開始します」と兵士の一人が大声で言うと、「道中、気を抜くなよ」とマリウスが送り出した。

 帆馬車にも監視の兵士が乗り込むかと思っていたが、荷車の中は囚人だけである。大人六人は乗れる帆馬車に囚人四人だけが乗っている。

 つまり、私の横に一人分の間が空いているので窮屈になっていない。初めて馬車に乗った時は、ギュウギュウに詰められ、空気の流れも悪かったので、酷い馬車酔いをしたものだ。

 それに今回は荷車を牽くのは馬でなく、魔物の中で一番見慣れたベアボアである。つまり、帆馬車でなく、正式には帆ベアボア車なのだ。

 馬よりもゆっくりと進むので、激しい揺れはないはずだ。炭鉱までの道中、ゆっくりとしていられるだろう。


 「ブモー」と一鳴きした帆馬車が動き出す。

 それに合わせて、馬に乗った兵士が散開し、帆馬車を取り囲むように移動した。

 馬に乗った兵士は六人。御者役の兵士は二人。全員で八人の兵士が私たち囚人を監視し護衛をする。

 炭鉱まで移送する為にこれだけの兵士が必要なのだ。

 乗り合い馬車のように、人数が集まるまで四日も掛かるのも納得である。

 ただ、逆に考えると、四日で囚人が集まるのも恐ろしいものである。



 開いている帆から南門を抜けたのが分かった。

 一ヶ月近く住んでいた街を出てしまった。

 これから向かうのは、強制労働を行う炭鉱である。

 場所は、以前、ベアボア狩りをしたキルガー山脈の(ふもと)だと以前聞いた事がある。

 クロとシロに乗って向かった時は、数時間で辿りついたのだが、このベアボアが牽いている帆馬車はどのくらいかかるのだろうか?

 たぶん、恐ろしく時間が掛かると思われる。

 なにしろ、とんでもなく遅いのだ。人間の徒歩レベル。

 初めて馬車に乗った時は、北門からリーゲン村まで整備された街道を進んだ。その時でもガタガタと上下に揺れて酔ってしまったが、今進んでいるのは南門を抜けた、整備されていない道である。

 帆馬車を牽くベアボアの速度は遅くても、石や轍がそのままになっている道を進んでいるので、ガタガタと常に上下に揺れている。

 馬車酔いだけでなく、木製の椅子に直に座っているお尻がとても痛い。

 炭鉱についても地獄なのに、そこまで行く道程も地獄のようだ。すでに罰の償いが始まっているのかもしれない。

 悪い事はするべきじゃないな。


「や、やあ、僕はペーター。あんた、名前は?」


 お尻が痛くてげんなりしていた頃、隣に座っていた男が私に近づき、声を掛けてきた。

 見た目は、二十代半ばのごくごく普通の細身の男性で、少し気弱そうに見える。そんなペーターの顔には、私同様に疲れが滲み出ていた。

 悪い事をした人と関わりたくはないのだが、相手が普通っぽかったし、何よりも酔いとお尻の痛みを忘れる為に、彼に名前を告げで、話をする事にした。


「あんた、変な話し方をするね。もしかして、色街の住人かい?」


 いろまち? 

 ダムルブールの街とは別の街の事を差しているのかな?


「いや、私は冒険者だよ。鉄等級冒険者。色々あってここにいる」

「ははは、本当に何があるか分からないね。この僕が炭鉱送りになるなんて……ちょっと、食べ物を盗んだだけなのにね」


 疲れた顔をしているペーターという囚人は、遠い目をしながら、しみじみと語り出す。

 仕事先で大変な額の損失を起こしてしまい仕事をクビになった。賠償金も請求された所為で、無一文になったそうだ。

 家族も彼を置いて逃げ去り、住む家も無くなり、そして路頭に迷う羽目になる。

 そんなある日、パンを抱えている女性が目の前を通り過ぎ、あまりの空腹の所為で、その女性のパンを盗んでしまったそうだ。

 

「運の悪い事に盗んだ相手の女性は貴族の使用人で、結果的に貴族の物を盗んでしまったんだよ。そして、貴族の怒りを買い、炭鉱送りさ。はははぁ……」


 自分の生い立ちを語るペーターは、渇いた笑いで話を終わらせた。

 パンを盗んだだけで炭鉱送りとか、異世界のジャン・バルジャンだ。

 貴族、こえー。まぁ、盗みを働いた彼が悪いんだけど……。


「それで、あんたは何をしたんだい? 人を大量に殺したのかい?」


 ちょっと、私って大量殺人を犯した極悪人にでも見えるの!?


「そんな恐ろしい事はしない。ちょっと教会に侵入して、迷惑を掛けただけ……」

「きょ、教会に侵入!? あんた、無茶苦茶だな。よく死刑にならず、炭鉱送りで済んだね」


 えっ、普段なら死刑になる程の罪なの!?

 教会、こえー。


「話をするな! 黙って座っていろ!」


 後方を警護している兵士が槍で荷馬車をガツンと叩き、私たちの会話を止めさせる。

 対面に座っている強面の囚人が私とペーターを無言で睨んでいる。その瞳から「騒ぎを起こすな!」と語っていた。

 ペーターはそそそっと私から距離を離し、無言になる。

 私も口を閉ざし、後方の景色を黙って眺める事にした。



 ゆっくりとした歩みの荷馬車は、砂漠を進んでいく。

 日差しが強く、気温が上がる。

 帆が張ってあるおかげで直射日光を浴びる事はないのだが、後方しか帆が開いていないので空気の通りが悪く、帆馬車の中は非常に暑苦しい。

 目の前に黙って座っている囚人二人は、目を閉じて、暑さを我慢していた。

 隣に座っているペーターは、口を半開きにして、天井に空いている小さな穴を虚ろな瞳で眺めている。

 私の顔も汗が吹き出し、頭がクラクラとしていた。

 車内が暑過ぎて、馬車酔いもお尻の痛さも忘れてしまう程だ。

 水分を補給する水すら与えてもらえず、焼けるような砂漠をゆっくりとしたペースで進んでいるのだ。

 これでは熱中症で倒れてしまう。

 炭鉱には着いてほしくないのだが、この状況が続くのなら早く着いてほしい。

 兵士に水分の請求をしてみようか? 

 怒鳴られ殴られる可能性もあるが、普通に水をくれる可能性もある。

 どうしようかと悩んでいたら、隣に座っていたペーターがパタリと私に向かって倒れてきた。


「ちょっと、大丈夫!? へ、兵士の人! ストップ、止まって! 囚人の一人が倒れた!」


 私の叫びを聞いた兵士の一人が帆馬車の中を覗くと、大きく手を振りながら「止まれ!」と叫び、帆馬車を止めた。

 こうして短い休憩時間を確保する事が出来たのである。



 なぜか私と対面に座っている囚人の二人で倒れたペーターを帆馬車から引きずり下ろし、岩場の陰へと移動させた。

 ペーターは瞳を閉じて気絶している。呼吸も若干荒く、苦しそうだ。

 これは熱中症かもしれない。

 医療知識のない私は、どうしようかと周りを見回すが、誰も介抱しにきてくれない。一緒にペーターを移動させた囚人も姿を消えていた。

 兵士たちも助ける事はせず、私たちを囲むように移動し、監視しているだけだった。

 仕方ないので、私はペーターの服のボタンを外し、楽にさせる。

 後を冷やす物と水分が欲しい。

 

「おい、水だ。そいつに飲ませてやれ」


 一人の囚人が私に近づくと、木製のコップを渡し、革袋に入っている水を注いだ。

 兵士にでも命令されたのだろう。別の場所でも一人の囚人が、岩陰で休んでいる囚人に水を飲ませているのが見えた。

 水の色を見ると明らかに透明度のない薄茶色をしている。

 こんなのを飲ませて大丈夫だろうか? と疑問に思ったが、他の囚人も美味そうに水を飲んでいるので、気絶しているペーターの口にコップを近づけ、零れないように飲ませた。

 水を欲する本能だろうか、意識が無くても口に水が入るとグビグビと薄茶色の水を飲んでくれる。


「お前も飲め」


 全ての水をぺーターに飲ませた後、空になったコップに囚人が追加で水を注いでくれる。

 口の中はカラカラのネバネバで、今すぐにでも水は飲みたい。でも、こんな透明度の無い水を飲む事に抵抗感が起こる。

 腹でも壊したら、余計に水分が失われてしまう。

 気絶しているペーターには飲ませたが、実際に自分が飲むとなると悩ましい。

 このまま一滴も飲まないと今度は私が倒れてしまうかもしれないので、試しに一口だけ飲む。

 すると、水を欲する気持ちが抵抗感を塗りつぶし、欲望のままグビグビと一気に飲み干してしまった。

 空になったコップは回収され、囚人は別の囚人の元まで行ってしまう。

 もっと水が欲しいと未練がましく囚人の姿を眺めていると、手を貸してくれた囚人が戻ってきた。


「魔水ヘビを捕まえてきたぞ」

「えっ、ヘビ?」


 囚人の手には淡青色をしたヘビが握られている。ヘビの頭は指で固定され、長い胴体は囚人の腕に絡まっていた。


「何だ、知らないのか? 冒険者だと言っていただろう。……ああ、鉄等級の新人だったな」


 私とペーターの会話を聞いていたのだろう。

 囚人は納得したように腕に絡みついているヘビを突き出し、私に見せた。


「こいつは魔水ヘビと言って、名前の通り、水属性の魔力を持っているヘビの魔物だ。こいつらは何処にでもいて、こんな暑い砂漠でも探せば見つかる」

 

 そう言うと囚人は、岩陰になっている穴を指差した。


「日中は、ああいう穴に潜んでいる。ただ、無闇に手を突っ込むなよ。こいつは無毒だが、普通の毒ヘビや毒グモ、サソリなんかもいるからな」


 聞いてもいないのに、色々と教えてくれる。

 私とペーターが兵士に怒られた時、鋭い眼光で睨まれた怖い囚人のイメージだった。だが見た目に反して、おしゃべりが好きなのかもしれない。

 私が不思議に思っていると、男は「俺も元冒険者だ」と言った。


「少し前までは銅等級の連中と組んで、色々な場所で依頼をこなしていた。名はディルクだ」


 銅等級といえば、中堅に値する冒険者である。

 私のような鉄等級のペーペーでは比較にならない程、知識と経験を持っている。

 改めて、元冒険者と名乗る囚人のディルクを眺めた。

 日に焼けた肌は、全体に浅黒く、ざんばら髪はグレーに近い黒色をしている。

 私と対して変わらない背丈であるが、私と違い、引き締まった筋肉をしている。

 所々、傷跡のある肌。特に顔の右側が火傷をしたような跡がくっきりと残っていた。

 囚人として見ると怖そうであるが、冒険者と見ると頼もしく見える。


 ディルクは、一通りの説明を終えると、手に握っている魔水ヘビの頭を口に持っていき、噛み千切った。


「うげっ! な、何をしているの!?」


 ディルクは、私の言葉に答えず、噛み千切ったヘビの頭を吐き捨てると、ヘビを持ち上げ、断面から滴る血を飲み始める。

 ドン引きしている私を無視し、グビグビと血を飲んでいたディルクは口元を拭うと、私の方を向いた。


「血を飲ませてやる」

「いや、私はいらない」


 まだ水分を欲しているが、ヘビの血で補いたいとは思わない。


「お前じゃない。倒れているこいつに飲ませる。口を開けておけ」


 気絶している相手にヘビの血を飲ませても良いのだろうか?

 それも熱中症で倒れている相手にだ。

 必要なのは、水分と塩分、それと体を冷やす物だと思う。

 どうして良いかと戸惑っている私を見て、ディルクは血の滴るヘビを握りながら説明してくれた。

 魔水ヘビの血は、栄養満点で栄養失調や熱中症などにも効くそうだ。

 砂漠などの暑い場所で、水や食料がなくなったら、まずは魔水ヘビを探すのが冒険者の常識との事である。

 元冒険者の言葉という事で、私はペーターの顔を手で覆い、口元を開けた。

 ディルクは、頭の無いヘビの断面にペーターの口元に近づけ、血液を入れていく。

 水属性の魔力の影響なのだろうか? 魔水ヘビの血液は、ドロドロとした粘液性はなく、水のようにサラサラであった。

 気絶しているペーターは、無意識にヘビの血をゴクゴクと飲んでいる。

 

「良し、後はこの死骸を首に巻いておけ」


 そう言うなり、ディルクは魔水ヘビの死骸を私に向けて渡した。

 彼の説明では、魔水ヘビは死んだ後、魔力の影響で、しばらくの間、キンキンに冷たくなるそうだ。

 これも冒険者の常識で、砂漠を歩く時は、魔水ヘビの血液を飲み、その後、首に回して冷やしながら移動するとの事。もちろん肉も食べられるので、冷却効果が無くなっても食料として重宝するらしい。

 「苦くて不味いがな」とディルクは笑っている。

 私は言われるままにペーターの首にヘビの死骸を巻き付けた。

 ペーターの口や胸元はヘビの血が飛び散って汚れているし、首にはヘビの死骸が巻き付けられている。とても、シュールな光景であった。

 本当かどうか分からない治療行為とはいえ、私は気絶している相手に何をしているのだろうか?

 何も知らない人間から見たら、熱にやられて変になっていると思われるだろう。

 その後、ディルクは、もう一匹探してくると言って、どこかへ行ってしまった。

 私は、岩場の陰になっているペーターの横で休憩を続けた。


 何気なく兵士たちを見た。

 こんな暑い場所を通る囚人移送は、仕事とはいえ、彼らも大変だろう。

 そう思っていたのだが、兵士は各々自分の魔術で涼を取っていた。

 ある兵士は、魔術で氷の粒を作り、口に入れている。

 ある兵士は、手の平から風を起こし、扇風機のように顔に当てている。

 ある兵士は、何もない空間に水の塊を作り、顔を突っ込んでいる。

 うわー、ずりー。

 私もその魔術、使いたい。

 そんな兵士の姿を私を含めた囚人連中が、憎たらしい目で見つめるのだった。

 

 しばらくして休憩は終わった。

 気絶しているペーターを再度帆馬車に乗せて、出発する。

 結局、ディルクは二匹目の魔水ヘビを見つける事は出来なかった。

 ペーターは、二度目の休憩の手前で目が覚めた。

 口元や胸元が血で汚れ、首にヘビの死骸が巻き付いているの知り、混乱していた。

 


 太陽が傾き、標高が上がっていく。

 昼間と打って代わり、肌寒くなってきた。

 長い過酷な道のりもようやく終わる。

 ただ座っているだけだったが、すでに疲労困憊である。

 私もペーターもディルクももう一人の囚人も正気のない疲れ切った顔になっている。

 そして、太陽が完全に沈んだ数時間後、帆馬車は完全に停止した。


 ようやくと言って良いのか分からないが、鉱山の町ルウェンに到着したのである。

 

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