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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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142 幕間 レナの追想 その1

 私のお爺様は、前ギルドマスターです。

 お爺様っ子だった私は、幼い頃から冒険者ギルドに足を運び、細々としたお手伝いをしてはお爺様からお小遣いを貰っていました。

 勿論、両親は幼い私が荒れくれ者が集う冒険者ギルドに足繁なく通う事に反対をしていましたが、どうにも肌に合ったと言うか、落ち着くと言うか、第二の実家という感覚で通っていたのです。

 私は、今年で二十歳を迎えます。正式に冒険者ギルドの職員になったのは四年前ですが、幼い頃を合わせると十年以上の経歴を持っています。

 職員の人たちは、私の事を前ギルマスの愛孫で古参の一人と思われており、同じ年頃の同僚からは少し距離を置かれてしまっています。逆に私よりも歳や経験もある同僚からは、ギルマスを通り越して先に相談される事もあります。

 頼られるのは嬉しいのですが、私はまだ二十歳ですので少し複雑な気分です。


 冒険者ギルド一筋といえる私は、両親からは早く良い人を見つけて安心させてくれと口うるさく言われています。

 私自身、今の環境が楽しくて、結婚や恋愛は後回しにしてきましたが、さすがにそろそろ真剣に考える時期なのかと思い始めています。とは言え、あと数年はこのまま維持し、出遅れる手前で行動すれば良いと心の片隅で思っていたりもするのですが……。

 

 それにしても、結婚ですか……。


 私に合う男性がいるのでしょうか?

 十年以上も冒険者ギルドで働いている私です。自覚はないのですが、冒険者や同僚から少し恐れられている節があるのです。

 たまに命を粗末に行動する冒険者を注意しますが、普段から怖がられる事は無いはずです。

 逆に、冒険者の一部の方から私用のお誘いを受ける事もあります。自慢ではありませんよ。

 まぁ、しっかりと公私を線引きしなければいけませんので、ギルド職員の私と冒険者での色恋沙汰はあり得ません。いつも、お断りさせてもらっています。

 そう言う事で、あと数年はこのまま維持していても何とかなるのではないでしょうか? 駄目そうですか? そうですか……その時になったら考えます。

 ただ、気になる男性がいないと言えば嘘になります。

 恋愛感情は無いのですが、どうも目が離せず、そして会うと楽しくなる不思議な男性がいます。



 彼と出会ったのは、つい最近です。

 名前はアケミ・クズノハ。

 この辺では見かけない変わった名前の男性です。

 見た目は武器屋や炭鉱などで働いていそうな、どこにでもいる男性です。

 綺麗に剃られた頭髪に剃り残しのある髭、筋骨逞しく、上位等級の冒険者と名乗っても不思議ではない彼なのですが、なぜか言動が女性っぽいのです。

 夜の街では、男性がわざと女性のような行動をする不自然な方がいるのですが、アケミさんは女性っぽいのが逆に自然の男性なのです。その所為か、歳が私よりも一回り以上、上にも関わらず、同年代の同性と話している気がします。

 アケミさんは、とても気さくで優しい方なので、友達のような感覚で接してしまいます。その所為か、彼が依頼をする度に心配したり、過度に注意したりと、ちょっとだけ他の冒険者よりも目に掛けているほどです。……これ内緒です。


 アケミさんは、初対面の時から好感の持てる方でしたので、ついカルラ叔母さんの宿を紹介してしまう程です。

 カルラ叔母さんは、宿屋とパン屋を経営しており、私が仕事で遅くなった時など夕飯を食べさせてもらったり、宿泊客がいなければ泊めてくれたりと、親切にしてくれる有り難い方なのです。

 そんな大切な叔母さんのお店をよく知らないアケミさんに紹介したのです。

 今思えば軽率だったと反省するのですが、結果からしたら紹介して良かったと思います。

 現在、ダルムブールの街ではピザという料理が流行しています。

 流行の発信元はカルラ叔母さんのお店で、教えたのアケミさんとの事。

 私も食べたのですが、とても美味しくて驚きました。街中の人がピザを求めて、行列を作るのも納得です。


 そういえば、アケミさんについて、こんな事もありました。

 怪我をしたアケミさんの手当ての為、私のハンカチを差し上げたのですが、そのお返しに新しいハンカチを頂きました。

 理由はどうあれ、異性からハンカチを貰う行為は特別な事ですので、普段の私なら受け取る事はありません。しかし、アケミさんからのハンカチは、つい嬉しくて受け取ってしまったのです。

 ただ、その後が大変でした。

 同僚からはからかわれ、他の冒険者からは問い詰められました。

 私はどうあれ、アケミさんが迷惑を掛かると申し訳ないので、しっかりと説明しておきました。

 あまり納得してくれない方もいますが、アケミさんが同性愛者との噂が流れると、私とアケミさんとの関係を疑問に思う人はいなくなりました。



 普通の男性とは思えない風変りのアケミさんですが、彼の仲間も一癖も二癖もある方たちです。

 一人は、お人形のような華麗な少女、エーリカさんです。いえ、違います。お人形のようなではなく、本物の自動人形らしいのです。どういう事か説明を聞きましたが、まったく理解できていません。

 奴隷商会で仲間にしたと聞いた時、こんな幼い少女が売られているのか、と嫌な気分になりました。よくよく話を聞くと、人形のように飾っていた所を魔術契約してしまい、主従関係になったそうです。……本当に意味が分かりません。

 エーリカさんは、理路整然と話したり、行動も落ち着いているので、見た目との違いに戸惑ってしまいます。ただ、アケミさんの事をご主人さまと呼び、雛鳥のように付いて回っている姿を見ると、親子のようで微笑ましいです。……見た目はまったく似ていませんが。


 二人目は、アナスタージアさんです。

 彼女は長年親子で冒険者をしていた鋼鉄等級冒険者です。

 ただ、父親が魔物に殺されてしまい、その影響で何日も冒険者ギルドの長椅子に座り続けていました。

 十年以上も冒険者ギルドの職員をしていますと、依頼で亡くなられた方を何人も知っています。ご遺族が悲しむ姿も何度も見てきました。

 アナスタージアさんも見るに堪えない状況でした。

 私たちが出来るのは冒険者に依頼を斡旋する事だけですので、悲しむ彼女に出来るのは見守る事だけでした。

 さすがに何十日も椅子に座り続け、日に日に痩せていく姿を目の当たりにすると、どうにか立ち直ってもらいたいと思い、同僚と相談した事もあります。

 食事にでも誘うか、無理矢理依頼を受けさせるかと提案が出ましたが、それは杞憂に終わります。

 気が付いたら、アケミさんたちと行動を共にしていたのです。

 どうやって彼女を仲間にしたのか分かりませんが、アケミさんなら彼女の事を大事にしてくれると信じています。

 以前は、アナスタージアさんの担当は別の方でしたが、アケミさんの仲間として依頼を受けるので、担当は私に変わりました。

 アナスタージアのように悲しむ方を増やさないように、冒険者の方には身を引き締めて依頼をこなしてもらうよう、私も頑張りたいと思います。


 最後にティアさんです。

 彼女は何と妖精なのです!

 初めて見た時は、心臓が止まりそうになるほど驚きました。

 とても小さく、とても綺麗で、とても自由な妖精です。

 ただ、厳密に言えば、妖精の姿をした自動人形との事で、エーリカさんの実の姉だそうです。

 人形というだけで意味が分かりませんが、エーリカさんと姉妹というのが、まったく理解を越えています。

 姿形がまったく違うのです。彼女たちは一体何なんでしょうか?

 


 そんな一癖も二癖もある彼女たちですが、アケミさんを中心に上手くまとまっていると思います。

 鉄等級冒険者にも関わらず、格上の魔物を討伐したり、各依頼も予想以上の成果で終わらせています。

 冒険者とは思えないほど、真面目で、人当たりも良く、私たちギルド職員だけでなく依頼主からも好印象を持たれています。

 ただ、なぜか危険な目に遭いやすいのが気になります。

 リンゴ園の手伝いをすれば大ミミズに襲われたり、薬草採取をすればブラック・クーガーに襲われたり、ベアボアを狩りにいけば発情期のベアボアに追いかけられたり、池の調査をすれば大量のサハギンと池の主を退治したりします。

 一昨日では、ゴブリンに連れ去られ、沢山のゴブリンだけでなく、オークやアシッドスライムまで戦ったそうです。

 低レベルの鉄等級冒険者が対応する魔物では決してありません。

 報告を聞く限り、アケミさんたちも自分から退治する為に行動をした訳ではなく、成り行きでそうなってしまったと言います。

 冒険者ですので、どうしても危険な場所に出向く機会が多くなります。危険な事に巻き込まれるのは珍しくありませんが、ただアケミさんたちに関してはあまりにも多いのです。

 その所為で、つい口うるさく注意をしてしまいます。

 アケミさんたちの行動が悪いとは思っていません。逆によくやったと褒めるべきでしょう。たけど、今まで何人もの冒険者が亡くなっていくのを見てきました。アナスタージアさんの父親も魔物に襲われて亡くなっています。

 だから、冒険者の方に嫌がられようが、私は口を酸っぱくして注意をします。

 アケミさんには、もうワイバーンで瀕死になった時のような状況になってほしくありません。

 あの時は生きた心地がしませんでした。

 大火傷で死にかけていると聞いた時、すぐにでもアケミさんの元に駆け出したかったのですが、私が向かっても何も出来ません。歯がゆい気持ちで押し潰されそうになりました。

 結局、アケミさんを殺し掛けたワイバーンの正体も未だに分からずじまいです。情けなくて、涙が出そうです。



 それにしても、どうしてゴブリンはアケミさんを連れ去ったのでしょうか?

 一昨日のゴブリンとオークの件は、明らかにアケミさんだけが被害に遭いました。

 たまたま外に出た人間が狙われたのか?

 いえ、どうもそんな感じはしません。

 そもそも、どうやって人が沢山住んでいる街の地下道に、大量のゴブリンが住民にばれずに移動できたのでしょうか?

 獣の魔物に比べ、ゴブリンは知能は高いです。でも、所詮はゴブリン。子供程度の知能しかありません。そんなゴブリンがこっそりと地下道に移動できるとは思えません。

 ゴブリンやオークとは別の誰かが、手を貸したと見た方が自然で納得できます。


 別の誰かの暗躍。それが、私の見解です。証拠はありませんけど……。


 ただ、ダムルブールの地下道に大量のゴブリンを秘密裏に移動させる事は至難の業です。ちょっとだけ知能がある所為で、素直に言う事を聞きません。

 そんなゴブリンを移動させる程の実力のある人物です。たまたま外にいただけのアケミさんを連れ去る必要があるのでしょうか?

 どうも、私は違う気がします。

 アケミさん自身、慰労会の途中で外に出た所までは覚えており、気が付いた時には地下道だったと報告しています。

 この謎の空白時間に、人為的な意志が見え隠れしている気がしてなりません。

 ギルマスに相談したら、「俺も大量のゴブリンを斬りまくりたかったぜ」と、くだらない感想しか出ません。

 裏で糸を引いている者がいるかもしれない今回の件を、しっかりと調べる必要があると思います。

 それだけではありません。

 アケミさん個人が狙われたと考えた場合、アケミさんが今回の騒動の原因の可能性があります。

 アケミさんは、物腰柔らかく、真面目で、人当たりの良い、同年の同性のような中年の男性です。

 ただ、謎の多い人物でもあります。

 異常な程の低レベルで、見た目に反して弱すぎる事。

 偏りだらけの能力値である事。

 謎だらけの自動人形を仲間にしている事。

 巻き込まれ体質な事。

 私たちの知らない知識がある事。

 私自身、アケミさんには好意を持っています。

 そんなアケミさんをもっと知る必要がある筈です。

 もし、今回の件でアケミさんに原因があると分かれば、今後の対応も出来ます。

 すなわち、アケミさん自身を守る事にも繋がるのです。


 だから、私は街を守る冒険者ギルドの職員として、アケミ・クズノハという鉄等級冒険者を調べようと思いました。


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