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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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134 貴族の誕生日会 その2

 貴族たちに呼び出されてしまった。

 私とアナは、グリーンマイルを歩く死刑囚みたいな顔をしながら館の中を歩く。

 私は緊張と嫌気で顔が青い。アナは体調不良で顔が青い。

 私の予想では、アナは女の子の日なのだろう。

 今の私はおっさんなので縁のない話であるが、現役の女子高生だった時はそれなりに大変だったことを思い出す。

 そもそも、この異世界では、どのように対処しているのだろうか?

 現在日本みたいに、朝まで安心の超吸収素材やタンポンがあるとは思えない。

 ほったらかしという訳ではないはずで、専用の下着があったり、厚手の布を当てているのだろうか?

 元女性としてその辺が気になるが、ハゲのおっさんがストレートに聞くとセクハラで訴えられそうで聞けない。

 彼女らもあるのかな? と思い、チラリとエーリカとティアを見る。

 エーリカは少女で、ティアは妖精だ。見た目からすると二人とも微妙な所である。

 ……あっ、忘れていた。

 そもそも彼女たちは人間や妖精の姿をしているだけで、本当は人形だ。以前、エーリカが性的な行為は出来るが、子供は作れないと言っていたのを思い出す。

 つまり、子は作れないという事は、あの日は無いのだろう。


「どうしました?」


 ジロジロとエーリカを見ていたら、眠そうな目で私を見詰め返してきた。

 至極真面目な内容を考えているのに、なぜか背徳的な気分になり、顔を逸らして「何でもない」と濁してしまった。


「えーと……アナ。その……た、体調が悪かったら厨房で休んでいても良いよ」


 貴族の元まで連行されているのは、私、エーリカ、アナ、ティア、ハンネ、調理手伝いの二人である。エッポは、リンゴパイの準備をしているので厨房に残っている。

 

「い、いえ……べ、別に……体調が悪い訳ではないです……は、はぃ……」

「えっ、そうなの? 無理強いはしてない? あの日だと歩くのもしんどいから、今から戻っても良いよ」

「あの日?」

「えーと……女の子の日とか、月のものとか、女性週間とか……」


 ストレートに言うのもどうかと思い、別の表現で伝えてみるが、アナは首を傾けるだけだった。


「ご主人さまが言いたいのはこういう事です」


 私の代わりにエーリカが説明してくれた。

 エーリカは、専門的な言葉で理路整然と説明するので、始めアナは理解できていなかった。だが、徐々に内容が分かり出すと顔が真っ赤に染まっていった。


「ち、違います! アレはすでに終わっています……それに、わ、私は軽いですから……」


 早口で訂正するアナであるが、最後の方は、もごもごと小声で聞こえなかった。


「そ、その……少し、緊張していまして……エーリカ先輩のおかげで少しは緊張はほぐれていますので、大丈夫です」


 大丈夫と言うわりには、初めて会った時のような不健康そうな顔をしているのだが……。

 まぁ、私も緊張で腹がキリキリとしているので、お互いさまである。

 

「おっちゃんは強面なんだから、もう少し気配りを身に着けた方が良いと思うぞー」


 無駄口ばかり垂れ流すティアに気配りについて注意されてしまった。


「ご主人さまは気配りし過ぎて、逆に空回りしているだけです。とても優しいのです」


 エーリカ、それフォローになっていない。

 そんなやり取りを見て、アナはクスクスと笑い、緊張しきっていた顔も幾分和らいだ顔になる。

 気が紛れたみたいで何よりだ。



 そんな他愛無い話をしていると、誕生日会の会場へ辿りついた。

 使用人を先頭に部屋に入ると、料理と酒の臭いが鼻につき、お腹の虫が鳴りそうになる。

 宴会場のような広い部屋の奥に長方形の立派なテーブルが置かれ、そこに二十人ほどの男女が椅子に座ってジュースとワインを飲んでいる。

 男性貴族は、ぴったりと体格に沿った服で、複雑な刺繍がされている。女性貴族は、色鮮やかなドレスで、優雅の一言である。そして、どの貴族も胸元と手首にヒラヒラとした物がついていた。

 まさに圧巻。映画の世界である。

 そんな中、一番端に座っているラースとナターリエだが、普段着にも関わらず、なぜか溶け込んでいるのが不思議でならない。

 一番奥の上座に座っている子供に視線を向ける。

 一人は女の子。白に近いプラチナブロンドで、肩口で髪を二つに結んでいる。少し釣り目な瞳で私たちを見つめていた。

 もう一人は、同じ白に近いプラチナブロンドを短く刈った、少しぽっちゃりとした男の子で、女の子に寄りそうように私たちをチラチラと見ている。

 性別は違うが、顔立ちが似ている事から、今回の誕生日会の主役である双子のノアとフィンだと分かった。

 トーマスさんに教えてもらって描いた似顔絵とそっくりでびっくりした。

 ちなみに部屋の壁際には、四人の男女が楽器を持って、ゆったりとした曲を演奏している。

 雇われ楽師なのか、子爵家の専属楽師なのか分からないが、生演奏付きの誕生日会とはさすが貴族である。

 そんな貴族の視線を浴びながら私たちは少し離れた場所に並ぶ。

 代表の私とハンネが一歩前に出て、その後ろにエーリカたちが立つ。

 代表として、双子の横に座っていた細身の男性が声をかけてきた。


「素晴らしい料理を提供してくれた事、大変に喜ばしく思う。子供たちが料理を楽しそうに食べている姿を見せたかった」


 ニコニコと嬉しそうに語る柔和な感じの男性が双子の父親であるゲルハルト・ビューロウ子爵だろう。

 その子爵から直接賛辞を頂いているのだが、たかだが男爵の専属料理人と鉄等級等冒険者にするには大袈裟である。何か裏があるのかと疑っていると、案の定、ただの賛辞だけでは終わらなかった。

 ビューロウ子爵の賛辞の後、参加した貴族たちから怒涛の質問攻めをくらった。

 この料理はどうやって作ったのか? どんな味付けをしたのか? 材料はなんだ? と次から次へと聞いてくる。

 食堂楽で名を広めているクロージク男爵が聞いてくるのなら分かるのだが、なぜに他の貴族たちが調理方法まで知ろうとするのだろうか? やはり、クロージク男爵繋がりで、他の貴族も食に興味があるのかもしれない。

 調理に関する事はハンネが主に答え、私はフォローに回る。

 そして、あらかた質問が終わる頃には、私もハンネもぐったりとしてしまった。

 一段落したのを見計らい、クロージク男爵が席を立つ。


「皆さん、これから食後のお菓子を用意してあります。それだけでなく、冒険者の方から余興もありますので楽しみにしていてください」


 クロージク男爵の報告と同時に、ナターリエとラースが立ちあがる。


「私たちは準備があるますので、しばらく席を離れますわ」

「準備が出来るまで、菓子と茶を楽しんでいてくれ」


 へー、ラースたちが余興をするのか……何をするんだろう?

 興味津々にラースたちの後ろ姿を見ていたら……。


「わたしたちも行きます。ご主人さまはここでわたしの雄姿を堪能してください」


 ……とエーリカとアナとティアもラースたちの後を追うように部屋から出て行ってしまった。


 えっ!? どういう事? 何でエーリカたちも行っちゃうの? 何も知らないんですけど? ……っというか、アナ、大丈夫か? 真っ青な顔をしながら、手足が同時に動いて歩いているのだが……。


 何が何だか分からないまま貴族が集まっている中、私だけぽつんと取り残されてしまった。

 ハンネと他の料理人は、リンゴパイの仕上げに戻って行っている。


「アケミ・クズノハ君と言ったかな? 君の事はパウルから聞いている。良かったら席に着いて、君の事を教えてくれないか?」


 ビューロウ子爵がにこやかな笑顔を私に向ける。

 正直、お断りしたい。そして、脱兎の如く、この部屋から退出したい。

 だが、そんな事は出来ず、私は渋々とクロージク男爵の横の席……ラースが座っていた場所に移動した。

 使用人たちが空いた皿と飲み物のグラスを片付けていく中、子爵を中心に話しかけてくる。


「今日の料理の調理方法を教えたのは、君らしいね」

「は、はい……」

「子供たちの絵を描いたのも君と聞いたよ。とても喜んでいる」


 チラリと双子の方を向く。

 勝気な姉のノアは、私の方を向いてニコリと微笑む。ぽっちゃりの弟のフィンは、似顔絵を描いた板を大事そうに握っていた。

 本当はただの旗を作るつもりだったが、偽造罪で捕まると聞いて似顔絵にしたんだった。二人とも喜んでいるのを見て、似顔絵にして良かったと胸を撫で下ろす。


「今、庶民の間で変わった絵柄のハンカチが流行っているそうよ。この子たちの顔を描いた絵柄と似ているけど、もしかしてハンカチもあなたが?」


 ビューロウ子爵の隣に座っている女性……たぶん、子爵の妻で双子の母親がおっとりとした雰囲気で尋ねてきた。


 うーむ、どうしよう?


 正直に答えたら、ハンカチ用の似顔絵を注文されるかもしれない? いや、貴族だから下町で流行しているハンカチなんか買わないだろう。うん、そうだそうだ。

 そう思い、素直に「はい」と答え、ハンカチ用の絵を描いた顛末を話したら……。

 

「あら、そんな事が……ふふふ、今度、お願いしようかしら」


 ……と、楽しそうに微笑まれた。

 うわー、本当にハンカチ用の似顔絵を頼まれたらどうしよう。どつぼに嵌ってしまった。


「其方は、アケミ・クズノハと言ったかな?」


 今まで一言も口を開いていない初老の男性が口を開いた。

 ビューロウ子爵の隣に座っている彼は、周りの貴族とは少し違っていた。

 フリフリのついた豪華な服装をしている貴族の中、彼だけがタキシードみたいなシンプルな服装である。ただ、使われている素材が違うようで、誰よりも艶があり、誰よりも気品に満ちていた。

 もしかして、ビューロウ子爵よりも上の位の人かもしれない。

 私がゴクリと唾を飲み込み、彼の話の続きを聞く。


「似顔絵の件も本日の料理も今までフォーラルガルド中には存在しないもの。私の知る限り、隣国でもないだろう。其方は何処から来たのだ?」


 フォーラルガルドとは、今、私が住んでいる国の名前である。女神フォラを信仰しているから付けられたらしい。

 言葉は穏やかだが、何となく詰問されている雰囲気がする。もしかして、私はどこぞの間者と思っているのだろうか? 

 まぁ、白髪の交じった初老の男性から嫌な感じはしないので、ただ単純に興味があるだけだろう。


「わ、私の出身は、日本という東の果てにある小さな国です」


 この世界に日本が存在している訳ではないが、異世界から来たとは言えず、真実半分、適当半分で茶を濁す。


「ニホン……聞いた事のない国だな」

「ええ、小さな島国ですから」


 世界地図を見ると日本は本当に小さい。世界の国の面積ランキングでは、真ん中ぐらいかな。そう思うと別に小さくないように思えるが、上位の国がデカ過ぎるせいだ。

 そんな小さな国が、よくもまー、敗戦後から経済大国になり上がり、先進国にまで上りつめたものである。

 そのおかげで、私は平和な日本でぬくぬくと育ち、B級映画とゲームを楽しめるインドア生活を送る事が出来たのであった。

 ああ、日本に帰りたい。『ケモ耳ファンタジアⅡ』がやりたい。


「訳あって故郷に帰れなくなりまして……ダムルブールの街に居つく事になりました」


 ホームシックになりかけた私は、そんな風に伝えてしまった。


「それは、何か悪い事をして、帰れないという事かな?」


 キラリと目を光らせる初老の貴族。

 変な疑いを掛けられると困るので、急いで訂正する。ただ、教会に無理矢理、異世界転移されたなどとは言えるはずがないので、その辺はぼやかしておく。


「いえ、違います。あまりに遠すぎて、帰りたくても帰れない状況なのです。場所も分からないし、帰る方法も分かりません」


 初老の貴族は、「帰りたくても帰れないか……」と私の言葉を呟き、それ以降、黙ってしまった。


「私たちでも聞いた事のない国ですものね。どこにあるのか分からないのでは、帰るに帰れないでしょう」


 貴族の夫人方から同情めいた表情へと変わっていく。

 

「で、でも、安心してください。故郷には帰れませんが、このダムルブールに来て良かったと思ってます。人々は優しいですし、治安も安定しています。仕事もありますし、仲間も増えました。ダムルブールでなかったら、私は悲しさと不安で潰れていたでしょう」


 夫人たちの同情心を和らげる為に言った言葉であるが、半分以上は本心である。

 カルラやレナたち、会う人が皆親切にしてくれたから何とか生きてこれた。それ以上にエーリカ、アナ、ティアが居てくれるから毎日楽しく生活していける。

 ただ生きていくのと、楽しく生きていくのでは、雲泥の差だ。

 エーリカたちには感謝である。


「そう言ってもらえると、街を管理している私たちは誇らしくなるわ」


 貴族たちが和やかに微笑みあう。


「わたしとフィンは、あなたの国の食べ物の話を聞きたいわ」


 弟に耳打ちされた姉のノアが、釣り目をキラキラとさせながら聞いてきた。

 確か今日で六歳になる筈だが、とても歳相応には見えないハキハキと話す子だ。弟のフィンの方は、人見知りで私とは視線を合わせてくれない。この子は歳相応に見える。

 そんな二人に向けて、日本の食事文化を話し始める。

 穀物の一種である米が主食である事。牛、豚、鶏、魚がメイン食材である事。『さしすせそ』の調味料を使う事。焼く、煮る、蒸す、揚げるなどの色々な調理方法がある事。

 やはりと言うべきか、興味津々に耳を傾けていた双子以上にクロージク男爵が食いついてきた。

 特に魚料理。

 まぁ、無理もない。

 日本人の魚に対する思い入れは、全世界でも一番だろう。

 焼いて良し、煮て良し、揚げて良し。ご飯と一緒に炊き込んでも良いし、鍋の具に入れても良い。味噌汁の出汁にも使うし、生でも食べる。

 ガチガチに乾燥させたかつお節を作ったのは称賛に値する。

 魚だけでなく、イカやタコ、貝や海藻はもちろん、ナマコやホヤといった、どうして食べようと思った!? と疑問に思う変な物まで食材にしてしまうのだ。

 某大国では、足があるなら椅子と机以外全部食べる、と言われるように、日本人は海産物なら何でも食べてしまう。……ごめん、言い過ぎた。何でもは食べません。

 猛毒のフグまで食べてしまう日本人の魚愛は世界一である。そんな血筋を持っている私は、ホームシックに相まって、ペラペラと魚料理を楽しく語っていく。

 ただ、ホラー映画好きの私は、ただの魚料理に満足できず、とても臭いくさやや発酵させた鮒寿司を説明し、「うわー」とか「きゃあ」といった嬉しい悲鳴をもらってニンマリする。さらにイカの内臓やナマコの内臓を使った、塩辛とこのわたの説明をすると、皆、青い顔になっていった。そんな中、食堂楽男爵だけが、「ぜひ、試してみたい」と目をキラキラとしていた。


 流石にやり過ぎたと思った私は、話を変える為に、湖のヌシの切り身を使った経緯を語る。

 エビフライの為に名も無き湖に向かったら、なぜかカエル狩りをしたり、サハギン退治した事を話す。

 魔物との闘いの場面になると、男性陣が興味深そうに聞いていた。特に、双子の弟のフィンとその上の兄が身の乗り出して、あれやこれやと聞いてきた。

 そして、成り行きでヌシを退治する事が出来たので、今回のフィッシュフライにした事を報告する。やはり「もう一度食べたくなった」とお代わりがきたが、材料がないので断った。


 こうして私は、相手が貴族なのを忘れ、リンゴパイが完成するまで楽しく話し続けたのである。


すみません。

特に展開もなく、会話して終ってしまいました。

予定では、残り二話で第二部を終わりたいと思います。

宜しく、お願いします。


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