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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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121 慰労会と快気祝い その1

 『カボチャの馬車亭』へ戻ってきた私たちは、二人のティアが作ってくれていたスープを完成させる。

 カルラたちの準備もすでに終わっているので、さっそくお店を開く事にした。

 待ってましたと言わんばかりに、客が押し掛けてくる。

 その後は、息をつく暇もなく、お椀にスープを注ぎ、売り捌いていった。

 見る見る内に寸動鍋からスープが無くなり、夕方の鐘が鳴る前には完売してしまった。

 夜の慰労会用のスープを別の鍋に移しておいて良かった。勢いで全部売ってしまう所だった。

 少しだけ休憩した後、慰労会兼快気祝い用の料理の準備をする。

 カルラに「主役の一人なのに自分で作るのかい?」と呆れられた。

 仕方が無いのだ。成り行きでレナに料理を振る舞うと約束してしまったので、何品かは作らなければいけない。

 ただ、朝夕とスープを売り、遊び疲れているので、作る物は簡単なものにする。


 さて、何を作ろうかな?

 慰労会と名ばかりの酒飲み場になるのは想像に難しくない。

 つまり、お酒に合う料理が良い。さらに在庫を減らす為に湖のヌシを使いたい。


 まずは、カルパッチョ。

 ヌシの切り身に、オリーブオイルとレモン汁と塩胡椒を混ぜて絡ませるだけの料理だ。

 ただ、この世界にオリーブオイルがないので、それっぽい油で代用。

 また、生食文化がないので、ヌシの切り身は軽く焼いた物を使用する。


 お次は、ガーリックシュリンプ。

 油で炒めたニンニクにエビを入れて、バターを絡め、仕上げにパセリをパラパラと振り掛けた、パンと一緒に食べても美味しい料理だ。

 まぁ、エビは無いので、これもヌシの切り身で代用。


 最後に竜田揚げ……は片栗粉が無いので、普通のフィッシュフライ。

 これは明日の誕生日会にも出すので、事前にみんなの反応が見られて良い。

 ちなみに大量の油を使うので、ついでにフライドポテトとオニオンリングも作ろう。


 食事会がいつ始まり何人が参加するのか、細かい事を知らされていないので、いつでも開始出来るように準備をしなければいけない。

 アナを助手に大量の食材を下ごしらえをしていく。

 カルラとブルーノもピザやパン、その他の料理の準備を始めている。

 エーリカとティアとお手伝いにきたマルテは、カリーナの指示で食堂の会場設置を手伝っていた。

 主役の一人である私であるが、完全におもてなしをする側に回っている。

 まぁ、良いんだけどね。



 日も傾き、夜の闇が街中を覆い始めた時、レナ率いる冒険者ギルドの面々が『カボチャの馬車亭』に到着した。

 レナやギルマス、無表情のレンツは顔見知りであるが、何人かの職員は見た事もない方たちだ。職員の中にエトワール凱旋門の様な風貌の女性がいた。彼女も職員なのだろうか? それとも凄腕冒険者かもしれない。

 代表としてレナがカルラたちに挨拶をしてから食堂へと入っていく。

 そのすぐ後から何人かの冒険者が到着する。

 同業者とはいえ、見た事も聞いた事もない中年の冒険者ばかりだ。雰囲気からして上位の冒険者らしく、新人冒険者の私からしたら近寄りがたい方たちであった。つまり、顔を会わせただけで逃げ出したくなるような強面連中と言う事だ。まぁ、私の外見も人の事言えないんだけどね。

 そんな中、顔見知りの青銅等級冒険者のヴェンデル、サシャ、マリアンネも現れ、少しほっとする。

 なぜか鋼鉄等級冒険者であるルカも単身で来た。

 場違いな場所に来てしまったルカは、不安そうに周りをキョロキョロしているので話し掛けた所、私の快気祝いも兼ねているので、大火傷を負った私に回復魔法を掛け続けたルカが呼ばれたそうだ。

 何か、ごめんね。と心で詫びていると、同じく場違いで疎外感を感じていた青銅等級冒険者の三人組がルカを取り込んだので、ルカに関しては他っておいても問題なさそうだ。


 沢山の参加者が集まった。

 エーリカ、ティア、マルテ、カリーナの四人で参加者に飲み物を配り、燻製にしたおつまみを食堂に置いて時間稼ぎをする。

 その間に、急いで料理を完成させていくが、量が多くて間に合わない。

 カルラは、ソーセージの詰め合わせや卵料理、温野菜などの定番料理を大量に作っては、カリーナたちに運んでもらっている。さすが長年客商売をしている料理人で手際が良い。

 ピザに関しては、出来立てを食べてほしいとの事で、後で焼き上げるそうだ。


 ひぃー、私、料理人は無理!


 客が待っているのを想像しながら、料理を作るのがこれほど心労に堪えるとは……。シクシクとお腹が痛くなる。もう、いっその事、私の料理もピザに合わせて後で出そう。

 そう決めて手を止めると、カルラから「そろそろ始まりそうだから、クズノハさんたちも参加しておいで」と厨房から追い出された。

 すでにヘロヘロで疲れ切っているが、主役の一人である私が会場に入らなければ、慰労会兼快気祝いは始まらない。

 はぁーと溜め息を吐きながら、疲れ切った体で食堂へ入る。



 食堂には机があるだけで椅子はない。つまり、立食パーティーのスタイルである。

 すでにお酒で出来上がっている参加者は、机に並べられている料理に目が釘付けである。

 湯気を立てて、部屋中に良い匂いを漂わしている料理を目の前でお預けをされている参加者たち。今か今かと待っている参加者をさらに待たせるように幹事であるレナは、ゆったりとした動作でみんなを一望できる場所まで進んだ。

 レナはワインの入ったグラスをコンコンと叩き、みんなの注目を集める。そして、慰労会と快気祝いの挨拶を始めた。

 私よりも少し年上のレナは、慣れた様子で慰労の言葉を述べていく。その姿は堂々としており仕事の出来るカッコいい女性で、つい見惚れてしまう。

 友達ゼロで、映画鑑賞とゲームばかりしていたインドアの私では無理な姿だ。

 そんなレナは、『女神の日』で忙しかった今日の事やこれからの事を、みんなに感謝と激励を交えた言葉で締めくくると、私の方を向いて手招きをした。


「新人冒険者のアケミ・クズノハさんは、先日、大怪我を負いましたが、無事に回復しました。今日はアケミさんの回復祝いも兼ねております。では、アケミさん、簡単にご挨拶をお願いします」

「……えっ!?」


 えー!?

 私、ただの女子高生だよ!

 こんな見も知らない人たちの前で何を語るの!?

 私の事を知らない相手からしたら、怪我してなんぼの新人冒険者のおっさんが、怪我から治ったからって、それがどうしたって話だよね。

 思うよね、興味ないよね。

 あーん……どうすればいいの!?


「え、えーと……こ、こんばんわ。は、初めましての方も沢山いますが……」


 レナの横に移動した私は、頭が真っ白になりながら他愛のない挨拶を始める。

 正直、何を話せばいいのか分からない。

 緊張で震える足に力を入れて、思いつくまま口を開いていく。

 冒険者になった経緯、エーリカやアナとの出会い、大ミミズやブラック・クーガーとの闘い、そして、ワイバーンに丸焼きにされた事。

 

「正直、怪我をしていた時の記憶はありませんが、回復魔法で助けてくれたり、沢山の方が心配をしてくれたと後で聞きました。えーと……」


 早く挨拶を終わらせたいと思いつつも、止め時が分からず、ズルズルと話してしまっている。

 これは、あれだ。

 「部長、話が長いです」と誰かがツッコミを入れて、ようやく乾杯するあれである。

 私はダラダラとつまらない話を続けつつ、誰かのツッコミを待っている。

 だが、そのツッコミをしてくれる人が誰もいない。

 参加者全員、美味しい匂いを漂わしている料理が目の前にあるというにも関わらず、真剣に私の話を聞いている。

 特にエーリカの視線が熱い。一語一句、聞き逃さないように眠そうな目で私を見詰めていた。

 一番、ツッコミをしてくれそうなティアは、ワインボトルの横に立って、私の一言一言に合わせて頷いている。


 ちょっと、何でそんなに真面目なの!? 異世界あるあるなのかなー?


 これでは、つまらない話を永遠に話さなければいけないんですけど。

 いや、普通に切りがついたら自分で止めれば良いだけの話だけど、場に慣れていない私では、自分で終わらせる事が出来ないでいた。

 そんな時、救世主が現れた。さすが救世主。困っている時にタイミング良く現れる。


「いやー、遅くなった。悪い、悪い。道が混んでて……」


 食堂の入口から白銀等級冒険者のラースとナターリカが顔を見せた。

 彼らも食事会に呼ばれていたみたいである。


「あんたが遊び過ぎて眠ったのが悪いのよ」


 妙齢の姿のナターリエが杖の先でラースの頭を叩き、ラースの言い訳を黙らせる。

 ナターリエが視線だけで私の挨拶の続きを催促してきたが、私はこの機会を逃さず、羞恥プレイの挨拶を終わらせる事にした。


「えーと……全員、集まりましたので、私からの挨拶はこの辺で……では、皆さん、お手元のグラスをお持ちください」


 つい流れで私が乾杯の挨拶までする事になってしまった。

 各々、飲みかけのグラスを持って、私の方へ掲げる。


「では、短い時間ではありますが、これまでの労をねぎらい、親睦を深めていきましょう。乾杯っ!」

「かんぱい」


 グラスを上に向けて「乾杯」と言ったら、返事を返したのは私と契約したエーリカだけであった。

 他の人たちは、首を傾けるだけである。

 どうやら『乾杯』という言葉は、この世界には無いみたいだ。


「し、失礼、私の生まれた国の習慣で……」


 恥ずかしさでタコのように赤くなった私は、どうして良いか分からずレナの方を向く。

 状況を理解したレナは、すぐに私の横に立つとグラスを掲げて、「女神の祝福と感謝を!」と挨拶を締めた。


「「女神の祝福と感謝を!」」


 参加者は、レナに合わせて復唱し、食事会が始まった。



「レナさん、助かりました。こういうのは初めてで、どうして良いか分からなくて……」

「いえ、とても立派な挨拶でした」


 ニコニコと素敵な笑顔を向けるレナ。そもそもレナが私に挨拶をさせなければ、こんな恥をかかなかったとは思わないでおこう。


「本当、お前さんは不思議な男だな。大して面白くもない話だったが、なぜか聞き込んでいた」


 エールの入った大ジョッキを持って、口元に泡をつけたギルマスが近づいてきた。

 

「ご主人さまのお話はいつも興味深いです。わたしの自慢のご主人さまです」


 すでに皿に料理を山盛りにしてきたエーリカがフォローしてくれる。


「どちらかと言えば、おっちゃんの話は反則技に近いものがあるわねー。魔力的なものを感じたわー」


 ん? 魔力?

 何かに気が付いたティアは、グラスにワインを注ぎながら興味深い事を言った。

 その事を聞き返そうとしたが、ティアはワインを持って料理が置かれている机へと飛んで行ってしまった。


「そうそう、お前たちが売っていたスープはあるのか? 楽しみにしていたんだ」


 極太ソーセージをかぶりつき、エールで流し込んでいたギルマスが、料理が並んでいる場所を見回している。

 そう言えば、ギルマスは昼前に売り切れになったピザとスープを買いに来ていたな。


「スープはまだ厨房に置いてありますから、今から持ってきます。レナさんも飲んでみてください。みんなで作った自慢のスープです」

「ええ、ぜひ飲みたいです。カルラおばさんやカリーナちゃんからアケミさんの料理の評判は聞いています。貴族も満足させる料理を楽しませてもらいます」


 ワインで少し頬を赤らめているレナが、期待に満ちた顔を向けてくる。

 これは是非とも私の料理を食べて感想を貰いたい。

 

 私は厨房へ戻り、途中やりの料理を完成させていくのであった。


前回の『女神の日』や今回も、サラサラと簡単に終わらせるつもりでしたが、気付いたらダラダラと……。

全然、話が進みません。

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