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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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115 女神の日 準備



 ポカポカと暖かい日差しとチュンチュンと鳴く小鳥の囀りで目が覚める。

 今日も布団代わりのエーリカの姿は居らず、一人寂しく起床をした。

 案の定、私を除いたエーリカ、アナ、ティアが食卓を囲って秘密会議をしている。

 気を利かせた私は、聞き耳を立てる事もなく、みんなに朝の挨拶を済ませてから朝食を始めた。

 うむ、出来る大人である。見た目だけだけど……。


 朝食を済ませた私たちは、いつも通り冒険者ギルドへ向かい、昨日と同じ魔物の数を減らす依頼を受けた。

 ただ、依頼を受けたは良いが、どうせエーリカとアナの二人で依頼を行うつもりだろう。ハブられた午後から何をするか別に考えておかなければいけないな。うーむ、寂しい……。



 明日は『女神の日』である。

 今日は、明日の準備としてスープを作る事になっているので、早速、クロージク男爵の館へ向かった。

 いつも通り執事のトーマスの案内で厨房に入ると、ハンネとエッポとは別の見知らぬ若い男女がジャガイモの皮を剥いている。

 若い男女は、ビューロウ子爵の料理人だとハンネから紹介された。

 誕生日会は、全面的にクロージク男爵が提供する料理を出す事になっているので、必然的にメインで調理をするのはハンネとエッポの二人になってしまう。事前に準備はするが、さすがに十数人もの料理を二人で行うのは無理があるので、男爵が子爵に応援を頼んだそうだ。

 子爵の料理人にレシピが漏れると危惧をするが、応援にきた二人には主に雑務を任せるとの事なので、最低限の流出で済むとハンネに小声で言われた。

 まぁ、別にレシピが流れても良いんだけどね。ホームページで簡単に見れるレシピばかりだし……。


 ハンネたちは、当日出す料理を完成させる為、調理を始める。

 私たちは、そんな様子をしばらく見てから明日のスープを作り始めた。

 エーリカがすっぽりと入りそうな寸胴鍋を借りて、竈に設置する。これなら百人分のスープは作れるだろう。……そのぐらい、売れたらいいな。

 沢山のスープを作るので、ホーンラビットの骨は昨日エーリカたちが狩ってきた五匹分を全部使う事にした。

 昨日解体したホーンラビットの骨を湯引きし、水で血合いなどを綺麗に洗ってから、臭い消しの生姜や野菜と一緒にコトコトと弱火で煮込んで出汁を取っていく。

 前回は一時間ぐらいしか煮込まなかったが、今回は昼食に合わせて作るので、三時間ぐらいは煮込めるだろう。

 つまり、三時間ほどやる事がなくなってしまったのだ。


 ティアに灰汁取りをしながら鍋の様子を見てもらう。

 エーリカは庭で自家製燻製器を使って、ホーンラビットの肉、ヌシの切り身、チーズ、ゆで卵、さらにジャガイモを薄切りにして油で揚げたポテトチップスを燻製にしてもらう事にした。

 燻製は誕生日会用でなく、酒飲みのアナとティアの晩酌用である。まぁ、食材の一部はクロージク男爵の食材を使ったので、燻製にした一部をお裾分けする事でチャラにしてもらう。

 そして、私とアナは、ハンネたちと交じって誕生日会の料理について、色々と決めていった。

 当日出す料理は、マローニのナポリタン、ハンバーグ、ヌシの身とから揚げとコロッケの揚げ物三種盛り、コーンスープ、ウサギリンゴ、食後のリンゴパイである。

 これだけ聞くと胃もたれしそうなラインナップである。だが、出すのはお子様ランチ。子供が大好きなてんこ盛り料理なのだ。……皆、太ればいいよ。

 コーンスープとリンゴパイ以外、全ての料理を盛り付けられる大きな皿を用意してくれたので、ワンプレートで提供出来る。

 ハンネたちと一緒に、ワンプレートに料理をどうやって盛り付けるか四苦八苦したり、味付けの最終調整をしたりして、時間を潰したのであった。


 昼が近づいてきたので、出汁を取っていたスープを完成させる。

 骨や野菜を取り除き、スープの具にする野菜を切って、再度煮込んでいき、塩胡椒で味を整えて完成させた。


 『小太りウサギ風味の野菜たっぷりスープ ~魔物仕立て 魔力を抜いて~』


 ちなみに骨に付いていた僅かな肉も丁寧に取って、昼食で食べる予定だ。

 時間を見計らったかのように執事のトーマスが現れ、クロージク男爵用の料理をキッチンカートに乗せていった。この世界の人たちは、昼食を食べる習慣はないのだが、ここ最近の習慣で、男爵は昼食を摂る事が当たり前になってしまったらしい。

 勧めてもいないのに、ホーンラビットのスープや骨に付いていた肉、さらにエーリカが作った燻製も一緒にキッチンカートに乗せて、トーマスは出ていった。

 その姿を見送ってから、私たちは完成型のワンプレートランチをみんなでいただいた。

 当日、給仕するメイドたちも呼んだので、賑やかな昼食になっている。

 私が作った野菜スープも含め、誕生日会に出す料理を初めて食べたビューロウ子爵の料理人が目を丸くして絶句していた。

 そんな姿をニヤニヤしながら見ていた私とハンネは、料理を食べながら最後の意見交換をしたのである。


 問題らしい問題もなくお子様ランチを堪能した私たちは、ティアの収納魔術で百人分のスープが入った寸胴鍋を収納してからクロージク男爵の屋敷を後にする。

 別れ際、ハンネに取引している野菜農家を教えてもらい、西地区の外れにある農家を訪れた。

 目的は、家庭菜園に植える苗や種を買い取る為である。

 農家を営んでいる一家に、クロージク男爵の紹介と付け加えてから要件を伝えたら、すんなりと苗と種を格安で譲ってくれた。

 さすが、貴族様である。

 その後、アナの家に続く林の前でエーリカとアナの二人と別れた。

 二人は魔物退治。私とティアは、家庭菜園をする為に別行動である。これも予想通りである。

 そして、昨日同様、のんびりと家庭菜園を始めた。

 昨日、耕したフカフカの土に穴を掘って苗を植えていく。

 トマト、ナス、ズッキーニ、ピーマンを植えてから、適当な木の棒を支柱にして紐で括り付ける。

 また、芽が伸びたジャガイモの種芋とカボチャの種も適当に間を空けて植えていった。

 家庭菜園の経験のない私にとっては、土に植えて、水を与えて、光を当てておけば、勝手に育つと思っている。だから、これで良いのか、すでに失敗しているのかすらも分からない。また、順調に育ったとして、途中で病気に掛かったり、虫にやられたりしても対策がまったく思いつかない。

 やっつけ仕事であり、上手く育つように願うしかないのだ。


 その後、中途半端に作りかけていた害獣避けの柵を完成させていく。


「魔物を入れておくと、普通の動物は近づかなくなるわよー」

「魔物? スライムとか?」

「そうスライム。グリーンスライムは葉っぱを食べちゃうからダメだけど、それ以外のスライムを放し飼いしておくのー。あたしが前にいたお城では、そうやって野菜を作っていたのを見たわー」


 遠い目をして語るティア。確か百年前の話だったはず。

 それにしても、お城で野菜を育てていたんだ……余程、食料に困っていた国だったんだな。

 しみじみとした雰囲気の中、柵を作り終え、家庭菜園を完成させた。

 後は、留守番担当のティアたちにお任せである。


 その後、クロたちの相手をしたり、ティアの淹れたお茶を飲んだりして時間を潰したのであった。


 

 夜の帳が下り始めた頃、エーリカたちが戻ってきた。

 今日も昨日同様、立派なホーンラビットのお土産を持ち帰ってきた。

 若干、アナの表情に疲れが見えている。二人だけの狩りは大変なのかもしれない。

 そのホーンラビットを見たティアは、肉団子入りのスープが食べたいと言い出し、それを聞いたエーリカとアナが賛同したので、急遽、ホーンラビットの肉団子を作る事になってしまった。

 明日のスープに肉団子を入れる予定はなかったのだが、どうせなら肉団子入りのスープを売る事に決めた。

 最大限に分裂したティアを使って、総動員で肉団子を作り、スープで煮込んでいく。

 小さく作った肉団子であるが、百個以上も鍋の底に沈んでいるので、寸胴鍋が溢れそうになっている。

 それを見たエーリカが「問題ありません。食べれば、減ります」と十人のティアと共にスープをガバガバと飲みまくった所為で、減った分を作り直す事になってしまった。

 まったく……。

 タプタプするお腹をさすりながら、私とアナは顔を見合わせて、苦笑いするのであった。


次話とくっ付いていたのですが、長くなったので、分割しました。

今回、短め。ただの日常話でした。

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