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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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106 エビを求めて、ギルマン退治 その3

 ボロ船を囲むように続々とサハギンが襲い掛かってきた。

 水面を駆けて飛び上がったサハギンを、エーリカの魔力弾とアナの風魔法で撃ち落とす。

 そのまま水の中から船に乗り移ろうとするサハギンをエーリカのグレネードランチャーで粉々にしていく。

 

「数が多すぎます!」

「後輩、泣き言は後で聞きます。あなたは、なるべく近づけないようにしてください」


 アナの魔法では、サハギンに止めを刺す事が出来ない。

 グレネードランチャーと言った高威力の攻撃をするエーリカ以外、サハギンの数を減らす事が出来ない状況の為、数の多いサハギン相手では分が悪すぎる。

 グレネードランチャーも魔力充電に時間が掛かり、連続で撃つ事が出来ないので、必然的にサハギンが船に乗りあがってきてしまう。

 私のいる右舷から一匹のサハギンが船に乗り込こもうと船縁に手を付いた。

 急いで、両手を塞がれているサハギンの頭に手斧を振り落とす。

 だが、硬い鱗に覆われた頭は、手斧の刃を逸らすだけで傷を負わす事は出来なかった。

 揺れる船での攻撃にバランスを崩した私に向かって、乗り上げたサハギンが腕を上げ、鉤爪を振る。


「『幻身』!」

 

 アナの胸元からティアが叫ぶと、私の体が一瞬、白い靄が纏わりついた。

 私を攻撃しようとしたサハギンの鉤爪は、私のすぐ横に逸れて空振る。

 返す形で別の腕を横へと振るうが、それも距離が届かず空を切るだけだった。

 その隙をついて、私はサハギンの頬にあるエラを狙って手斧をぶつけた。

 手斧の刃は奥まで届かなかったが、痛みでサハギンの動きが止まる。

 私はふらつくサハギンを両手で押して、湖へ落とした。


「ティア、何をしたの?」

「おっちゃんに幻影魔術を掛けただけよー。相手からは、おっちゃんの体がぶれて見えてるわー。そうそう当たらないわよー」

「便利な魔術があるなら早く使って欲しかったよ」


 自分の腕を見ても特に変化はない。本当に掛かっているのだろうか?


「効果はすぐに切れるから、注意してよねー」


 ティアの注意を聞きつつ、周りを注意する。


「『風砲』! 『風砲』! 『風砲』!」


 アナは、水面から飛び出して船に乗り移ろうとするサハギンを撃ち落としていく。


「はっ!」


 エーリカは、アナが撃ち落としたサハギンを一匹づつ、グレネードランチャーで吹き飛ばす。

 

「こなクソ!」


 撃ち漏らしたサハギンが船に乗り込もうとする瞬間を狙って、私は手斧で手や頭を殴り時間稼ぎをする。そして、余裕が出来たエーリカが、至近距離でグレネードランチャーを撃って(ほふ)る。

 至近距離で爆発音を聞いているので、耳鳴りが鳴り止まない。さらに近距離で血煙を巻き上げてバラバラになるので、船の中はサハギンの血や肉で汚れてしまっていた。



 何体のサハギンを退治したのか、辺り一面血塗れで、ボロ船を中心に湖が真っ赤な血で染め上がっている。

 それでも、サハギンの襲来は収まらない。

 エーリカは分からないが、私とアナはすでに息が上がっている。

 アナが真っ青な顔をしているので、魔力が無くなりつつあるかもしれない。

 私も体力が無くなり、力や腰が入っていない手斧で殴っているので、サハギンは怯まなくなってきている。

 非常にジリ貧な状況で、不安に満ちた雰囲気が支配していた。


 正面から一匹のサハギンが飛び上がってきた。

 エーリカはそのサハギンをグレネードランチャーで撃ち落とすと、血煙を上げながら空中でバラバラになる。

 そちらに気を取られていた所為で、船尾からサハギンが飛び乗るのに気づかなかった。

 サハギンは船尾にいたアナに向けて鉤爪を振る。


「『幻夢』!」


 一瞬の事で反応できなかったアナの代わりに、ティアが幻影魔術を放つ。

 顔の前に黒い靄を纏ったサハギンの動きが止まる。

 その隙をついて、私はアナの服を掴み、後ろへ倒す。

 すぐに正気に戻ったサハギンは目の前にいた私を抱きしめ、湖の中へ引き摺り込もうとした。

 

 また、私を拉致しようとするのか!? 

 

 凄い力で船の外へと向かうサハギンに抗うように、船の出っ張りに足を乗せて抗う。


「ご主人さま、今、助けます」


 エーリカは急いで私の横まで行き、いつの間にか右手に装備した円錐型のドリルをサハギンの頭に添えた。

 

「エーリカ!? この体勢でドリルは……」


 「止めて!」っと叫ぶ前に、エーリカのドリルがキュイーンと回転し、サハギンの頭を粉砕した。

 目の前にサハギンの頭がある所為で、サハギンの鱗や骨、血や脳みそが顔中に降り注ぐ。

 顔をズタズタにされたサハギンは力を失い、そのまま湖へ落ちていった。


「こっちの方が効率が良さそうですね。作戦を変えましょう」


 私にサハギン汁でベタベタにした事を何とも思っていないエーリカは、淡々と別の作戦を伝えていく。

 わざとボロ船にサハギンを近づけて、私とアナとティアでサハギンの動きを止める。

 動きを止めたサハギンにエーリカが円錐型のドリルで止めを刺すそうだ。

 一応、遠距離にいるサハギンにもグレネードランチャーを撃つつもりらしく、左手にグレネードランチャー、右手に円錐型のドリルを装備して、フンと勇ましく鼻息をあげて臨戦態勢を取っている。その姿はまさに、『死者の書』から呼び出された死霊と戦うおっさんのようであった。

 

 早速、一匹のサハギンが小舟に乗りあがった。

 

「風よ集まれ、壁と成せ!……『風壁』!」


 アナがサハギンに向けて魔法を放つと、風の壁がサハギンの動きを止める。

 すぐさま揺れる船の上を器用に移動したエーリカが、身動きの出来ないサハギンの心臓部分にドリルを当てて、ドルドルと風穴を開ける。

 肉片を飛び散らかしながら、力尽きたサハギンは湖へと逆戻りした。

 

 今度は、左舷からサハギンが船縁を使って乗り上がってきた。


「『幻夢』!」


 ティアの魔術で視界を奪われたサハギンは、顔を覆ってくの字に体を屈む。

 その隙に、エーリカはサハギンの頭にドリルを回転させて、ドルドルと骨と脳みそをまき散らかしながら止めを刺し、湖へ捨てた。


 私がいる右舷から船縁を使ってサハギンがよじ登ろうとしてきた。

 傾く船に足をもつれながら、船縁に手を付いているサハギンの手を手斧で縫い付ける。

 苦痛の叫びを上げるサハギンが手斧を引き抜こうとする隙に、エーリカは私の近くに寄り、サハギンの顔にドリルをドルドルする。

 私とエーリカの体に血や骨や目ん玉をまき散らかしたサハギンは、のっぺりとした魚顔に穴を空け、湖へ沈んでいった。


「うむ、魔力もほとんど使わないし、焦る事もないので、この作戦は良いですね」


 ドリルをキューンキューンと回しながら、満足顔をするエーリカ。私だけでなく自分もサハギンの血肉で汚れきっているのは、一切、気にしていないみたいだ。

 私の姿同様、ボロ船も鱗や肉片がこびり付いているし、船底に至っては血だまりが出来ている。

 外にいるにも関わらず、船の上は血と魚臭さが充満しており、何度も胃の中の物を戻しそうになる。そんな状況なのに、一度も吐いていない事を褒めて欲しい。

 ちなみにアナは、船尾で待機しているので、ローブの一部を汚しただけで済んでいた。



「な、何か……お、落ち着きましたね」


 周りを監視していたアナの言う通り、サハギンの猛攻が止んだ。

 サハギンたちは、ボロ船を中心に一定の距離を取りつつ、水面から顔を覗かして私たちを見ている。

 エーリカの残虐行為が、サハギンに恐怖を与えたのだろうか?

 両手に禍々しい魔術具を装備して、黒いゴシックドレスを血で真っ赤に染めた金髪少女が睨んでいるのだ。私なら一目見ただけで、尻尾巻いて逃げるだろう。

 そんなサハギンは口だけ水に入れて、ブクブクと水泡を出している。


「何かする気だわー」


 アナの胸元にいるティアの言う通り、サハギンの一匹が水から顔を上げると、口から水の塊を飛ばしてきた。

 水の塊は船の側面に当たり、グラグラと揺らす。

 一発、二発なら船が壊れる事はなさそうだが、体に当たれば凄く痛そうだ。

 サハギンも学んだようで、直接船に乗り込むとドリルで残酷に殺されてしまう。だから、船から降りる事が出来ない私たちを遠距離から仕留める事にしたらしい。

 サハギンたちは、一斉に口から水の塊を飛ばしてきた。

 私たちは急いで血溜まりが出来ている船底に身を隠す。

 ガツンガツンと水の塊が船を叩き出す。

 

「はっ!」


 タイミングを見て、エーリカは体を上げてグレネードランチャーをサハギンの密集地帯に撃つ。

 爆発音と共に水柱を上げるが、あまりサハギンにダメージを与えていない。どうやら、エーリカがグレネードランチャーを構えると同時に散開したらしい。水草を紐みたいに使うだけあり、サハギンはそれなりに知能があるようだ。

 アナもエーリカに倣って、サハギンの攻撃の隙をついて、魔法を放つが状況は良くない。

 いや、どんどん悪くなってきた。

 ガツガツとボロ船に水の塊がぶつかり、船の板が割れて、そこから水が漏れだしている。

 それだけでなく、船の底からもガツガツと叩く音もしだした。

 サハギンの一匹が水の中から船底を叩いて穴を空けようとしているみたいだ。

 もし、底に穴が空いて水が入ってきたら船が沈み、私たちは水の中でサハギンを相手をしなければいけない。そうなれば、私たちに勝ち目はないだろう。


「エーちゃん、前方!」


 ティアの叫び声で前を向くと、水面から飛び出したサハギンが三又の槍を持って飛んでいた。

 エーリカはすぐに前方のサハギンに向けてグレネードランチャーを放ち、槍を持ったサハギンを空中で爆散させる。

 だが、すぐ後ろから別のサハギンが現れ、船頭に飛び乗ってきた。

 船が前方に傾き、湖に投げ落とされないように船縁に手を付いて耐えると、サハギンの口から水の塊が飛んで、私の顔を直撃した。


「――ッ!?」


 石でもぶつけられたような痛みが顔を襲い、後ろへと倒れる。


「『幻夢』!」


 痛みで瞳が開かない中、ティアが魔法を放つ声が聞こえる。そして、すぐにドリルの音がして、私の顔に生臭い物が降りかかってきた。


「ご主人さま、大丈夫ですか?」


 エーリカの心配する声が聞こえたので、「だ、大丈夫……」と気丈に答えた。

 硬くて痛かったが、所詮、水の塊だ。顔を拭うと、瞳が開くようになった。


 非常に不味い状況だ。

 水の塊の遠距離攻撃だけでなく、槍を持った特攻隊まで合わせてきた。

 船もいつ壊れるか分からない状態だ。

 どうする!? と焦っても良いアイデアは浮かばない。

 エーリカも身を屈めては、隙をついて攻撃するだけで、打開案は浮かんでいないらしい。


「うわー、空から槍が降ってきたー!?」


 空を指差すティアに反応して上へ見上げると、雲一つない青々とした空から五本の三又の槍がボロ船目掛けて落ちてくる所だった。


「風よ、集まれ。渦を巻き、踊れ戯れよ。――『旋風』!」


 アナが魔法を唱えると、アナを中心に風が巻き上がり、落ちてくる槍に向けて、小規模のつむじ風が吹き荒れた。

 四本の槍は軌道を外れ湖に落ちるが、残り一本の槍はフラフラとしながら私たち目掛けて落ちてくる。


「はっ!」


 エーリカがドリルを付けた右手で槍を弾く。

 

「うわっ!?」


 弾かれた槍は、私の股の間に突き刺さった。

 「エーリカ、危ない!」と下半身がキュンとなりながらエーリカを睨むと、「怪我が無いようで、何よりです」としれっと返ってきた。

 「まったく……」と溜め息をついてから、板に突き刺さった槍を引き抜く。

 サハギンの槍は、何の材質で作ってあるのか分からない、ごわごわとした手触りの槍であった。三又に別れている刃も形が歪で、返しのない粗末な代物であった。

 

「おっちゃんの方から一匹来たわよー!」


 私のいる右舷方向から背びれで水を切り裂きながらサハギンが迫ってくる。

 私は、中腰の状態でサハギンの槍を構えて待っていると、水飛沫を上げながら一匹のサハギンが船に乗り上げた。

 

「うらぁー!」


 船が大きく揺れ中、サハギンの方へ倒れるように槍を突き刺すが、硬い鱗に耐え切れず、三又の刃はボキリと折れてしまった。

 

 サハギンの槍、使えねー。


「ご主人さま、退いてください」


 エーリカの指示通り、サハギンから距離を置くとグレネードランチャーが火を噴き、サハギンの上半身を吹き飛ばした。

 

 刃の折れた槍を湖に捨てて、ほっと一息つくと、バキッと船底から音がして、船底に手をつけていた右手に違和感が起きる。

 サハギンの血で溜まっている船底から槍の刃が突き抜けており、右手に付けていた手甲の表面を削っていた。

 一瞬で血の気が引いていく。

 少し、位置が悪ければ、手の平を貫通していた所だった。

 それよりも……。


「底に穴が空いた!」


 船の下に潜り込んでいたサハギンが船底に穴を空けたみたいだ。

 底を貫いた刃が引っ込むと、そこからじわじわと水が入ってきた。


「土の魔術で穴を塞ぎます」


 そう言うなり、エーリカは船底に身を屈め、ブクブクと水が浸入する穴に土を塗り込んでいく。

 エーリカの姿が消えたのを確認したサハギンたちは、水の塊を飛ばしてくる。

 ガツガツと船に当たり、側面の板からも水が漏れだす。


「うわー、どうするのよー! 船が沈むわー! うわー、また槍まで降ってきたー!」


 叫ぶだけ叫ぶとティアは、アナの服の中へ隠れてしまった。

 

「風よ集まれ、壁と成せ!……『風壁』!」


 アナが叫ぶとボロ船を覆うように風の壁が現れた。

 水の塊も空から降ってくる槍も風の壁に弾かれていく。


「さすが、アナちゃん! 頼りになるー」

「も、もう、魔力がないので……気休め程度……です」


 真っ青な顔色をしたアナが苦しそうに顔を(しか)めている。


 四方八方から水の塊が飛んで船にダメージを与えたり、特攻隊のサハギンが槍を使って、直接船を攻撃してくるが、サハギンの攻撃は全て風の壁で弾かれている。

 だが、攻撃を防ぐ度にアナの魔力が減り、風の壁は徐々に薄くなっていった。

 

「うぅーー……」


 アナが膝をついて、嗚咽を漏らす。


「後輩もこの船も限界みたいです」


 船の浸水を直していたエーリカは、風の壁を持続しているアナを見ながら呟いた。


「エーリカ、何か良い案はない!? このままじゃ全滅だ!」


 すがるようにエーリカを見るが、エーリカは無言で首を振る。

 元々ボロボロの木造船が、サハギンの攻撃で沈没寸前である。

 魔法で船を守っているアナの魔力もつきかかっている。

 いつも、「わたしに案があります」と希望の光を示すエーリカも今では首を振るだけだ。

 ただの女子高生である私では、この状況を打開する良いアイデアはまったく思い浮かばない。

 アナの風の魔法で守られているにも関わらず、船の中は絶望に染まっていった。

 

 ぐるりと周りを見回したエーリカは、魔力切れのアナを見つめる。

 そして、感情の起伏の無い平坦な声で……。


「打開案は浮かびませんが、少しは状況が良くなる案はあります」


 ……と、心身共に疲れている私に視線を向けるとポツリと呟いた。


今更ですが、エーリカは、ご主人さま大好きなのに扱いは雑です。

その所為で、吹き飛ばされたり、破片が当たったり、サハギン汁まみれになっています。

可哀想に……。

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