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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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102 エビを求めて、ゼーフロッシュ退治 その1

分割したので、ちょい短め。

 突然のティアの消失に、どうして良いのか分からず、お互いに顔を見合わせた。


「アナ、本当にティアは、水の中に引き込まれたの?」

「は、はい、細長い物がティアさんの体に絡まったと思ったら、すぐに水の中に……」

「魔物の仕業でしょう。どうしますか、ご主人さま?」


 いつも通りの表情のエーリカが私の判断を仰ぐ。

 ティアが危ないのならすぐにでも助けに行きたいのだが、相手は水の中にいる魔物だ。下手に水の中に入ったら、私たちまで攻撃されてしまう。

 冷たいようだが、分身体が残っているティアを急いで助けに向かう必要があるのか、躊躇(ちゅうちょ)してしまう。

 水面の様子を見つつ悩んでいると、目の前の水面から何かが飛び出し、私の足元の水辺に落ちてきた。


「ティア!」


 私の靴をビタビタに濡らした物体は、ティアであった。

 体中をヌルヌルの液体に塗れたティアは、水辺の中でわーわー泣き出している。

 

「もう、酷い目にあったー! 早く助けに来てよー!」

「ああ、ごめん、ごめん。すぐに助けに向かうつもりだったが、その前にティアが飛び出してきたんだよ」


 見捨てても良いかな? と少し思っていた事は内緒にしておこう。

 泣きじゃくるティアの話では、水の中にいた謎の生き物を観察していたら、急に細長い舌のような物が飛び出し、体に絡みつき、そのまま口の中に飲み込まれたそうだ。

 あっという間で叫び声も上げられず、為すがままにされたティアは、粘液塗れの口の中で自分用のフォークを取り出し、口の中をチクチクと刺して、脱出したそうだ。

 それにしても、ネバネバの触手に絡まれ、粘液塗れにされた妖精。好き者なら、これでご飯三杯はいけそうな場面である。まぁ、私はティアに同情して鳥肌が立つだけだけどね。


「このフォーク、もう使えなーい。ネバネバが重くて羽が動かせなーい。助けてよー!」


 私は急いで水辺に入りティアに手を伸ばすと、水の中から長細いピンクの舌が飛び出し、私の腕に装着してある手甲に絡みついた。


「ちょ、ちょっと!?」


 グンっと水の中に引き込まれそうになる。

 突然の事で、踏ん張りが効かず、バシャっと水辺に四つん這いになってしまった。

 

「す、凄い力! 引き込まれる!?」


 腕に力を込めて、絡みつく舌を剥がそうとするが、吸盤が付いているようにぴったりと手甲にくっ付いて離れない。逆に力を入れる度に肌の部分が引き締まって痛みを感じる。

 グングンと徐々に力負けする私は、ズルズルと水の中へと入っていった。


「風を集え、刃へ変われ……『空刃』!」


 アナの魔法が、私の手甲に絡まった舌を切断する。

 急に引く力が抜けて、私はそのまま水の中へ倒れ、水浸しになった。

 頭を上げると、水の中に丸々とした大きな物体がいるのに気がつく。

 ヒィッと息が漏れながら急いで立ち上がり、ヌルヌルベタベタのティアを両手で掴んでからエーリカたちのいる場所まで避難した。

 

「アナ、助かった。はい、これあげる」


 「あたしを物扱いしないでよー!」とティアの抗議を聞きながら、ヌルヌルのティアをアナに渡す。

 両手が粘液塗れになったアナは、顔を引きつっていた。

 水の入った革袋でティアを洗っているアナを見ながら、私は手甲に巻き付いている舌を剥がす。

 ブヨブヨとしたピンク色の舌を掴み、引っ張るように剥がすと、手甲と舌の間に粘液の糸が引かれる。

 眉をひそめて、指を振りながら切れた舌を放り投げると、ポチャリと水辺に落ちた。


「ご主人さま、手を見せてください。毒があるかもしれません」

「えっ、マジで!?」


 私の隣にきたエーリカにヌルヌルテカテカになっている手を見せる。

 エーリカは決して手に触ろうとはせず、ジロジロと観察し「大丈夫です」と言った。

 ヌルヌルが乾燥してきて何か痒くなってきたのだが、本当に大丈夫なのだろうか? 早く洗い落としたい。


「それよりも……来ます」

 

 いつもの平坦な声で告げるエーリカは水面を睨み、右腕を伸ばした。

 私も急いでレイピアを鞘から抜いて、水面に刃先を向ける。

 水の中から丸々とした物体がノシノシと近づいてくるのが分かる。

 ヌメヌメとした赤茶色の肌が水辺から上がり、左右に付いている真っ黒な目が周りを観察している。

 

「ゼーフロッシュだ!?」


 青年が水辺に顔を出した魔物を見て叫んだ。

 ゼーフロッシュと呼ばれる魔物は、サッカーボールサイズの丸々と太った大きなカエルであった。

 

「どういった魔物なの!? どんな危険があるの!?」

「見た目通り、カエルの魔物だ。自分は応援を呼んで来るので、逃がさないようにしておいてくれ」

 

 そう言うなり、青年は村の方へ走り去ってしまった。

 えっ、逃がさないように? それって倒しても良いの、それとも倒したら駄目なの?

 私はゴクリと唾を飲んで、ゼーフロッシュを見る。

 見るだけならカエルは好きだ。愛嬌があって可愛い。ただ、サッカーボールサイズのカエルでなければの話。

 どうしようかと考えつつ、重さでプルプルと震えるレイピアを構えていると、ゼーフロッシュの口が開き、水の中にある何かを舌で絡めて飲み込んだ。


「な、何!? 何を食べた?」


 私はビクっと肩を震わせ、隣にいるエーリカに聞くと、「自分の切られた舌を食べたようです」と教えてくれた。


「えーと、切れた舌を食べたら、舌も回復するのかな?」

「魔物だから可能性はあります。ただ、お腹を空かしているだけかもしれません。口をモグモグと咀嚼しているので、美味しいのでしょう」


 カエル串の味を思い出しているのか、エーリカの瞳は食材を見る目でゼーフロッシュを眺めている。


「おじ様、カエルの魔物は、鉄等級冒険者でも討伐できる簡単な魔物です。特に危険はないので、慎重に対処すれば大丈夫です」


 助言をくれるアナであるが、なぜかティアと一緒に離れた場所に退避していた。青い顔をしているのを見ると、カエルが嫌いなのかもしれない。

 弱い魔物という事で、一度、レイピアで突き刺してみるか、と思った瞬間、ゼーフロッシュがゲコっと一声鳴くと、ピョンと跳んで私の足にベチャっとしがみ付いた。

 ズシリと足に重みが加わり、サッカーボールサイズのカエルと目が合う。


「ちょ、ちょっと!? 離れて、離れて! 気持ち悪い!」


 私は足をブンブンと振って引き離そうとするが、ゼーフロッシュはまったく離れる事はなかった。

 特に危険のない魔物の所為か、エーリカは私を助ける素振りも見せず、私の情けない姿を眺めているだけ。アナとティアは、離れた場所で、同情めいた顔をしているだけだった。


「まったく、もう!」


 誰も助けてくれないので、私はレイピアを構えて、足にへばり付いているゼーフロッシュ目掛けて突き刺す。

 ぐにゃりとした弾力のある感触が手に伝わるだけで、ゼーフロッシュを足から引き剥がす事は出来なかった。

 それ以前に、レイピアの剣先がゼーフロッシュの皮膚を切り裂く事すら出来ていない。

 何度も何度もレイピアを突いたり斬ったりするが、ゼーフロッシュの体がへこむだけで、傷を与えれないでいた。

 

「冒険者さん、それじゃあ駄目だ。わしに任せな」


 重いレイピアを何度も突き続け、疲れ切った私の元に、初老の男性が駆けつけてくれた。

 応援に来た村人の一人だろう。

 初老の男性は、躊躇する事もなくゼーフロッシュの首元を手で掴むと、私の足にしがみ付いていた手が緩まり、剥がされる。

 初老の男性はそのままゼーフロッシュを大きな石の上に乗せると、空いている手で石を掴み、ゼーフロッシュの頭目掛けて振り落とした。

 ブチュっと潰れる音がする。

 その後、二度、三度と石をぶつけて、完全に頭を潰していく。

 

「こいつらの肌は、武器じゃなければ切り裂く事は出来ないのじゃ。だから、こうして何度も石などで叩いて、殺すしかない」


 やり切った感を出す初老の男性は、頭がペッタンコに潰れたゼーフロッシュを見せてくれた。


「完全に成長したゼーフロッシュだな」

「こいつらが繁殖していたら、魚なんか逃げてしまう」

「狩り尽くさなきゃいけないな」


 応援に駆けつけてきた四人の村人が、喜々として語り合っている。

 さっきまで疲れ切った顔をしていたのに、何で嬉しそうなの?

 まぁ、魚が捕れない原因かもしれないので、嬉しそうになるのは仕方がないが……なぜか、カエル串を思い出したエーリカのような顔をしている。

 もしかして……。


「今夜はカエル料理だ。狩りまくるぞ!」


 村長の息子である青年が声を張り上げると、応援に駆け付けた村人は「おおー!」と嬉しそうに賛同した。

 やはり、食べる為なのね。

 カエル肉は美味しいけど……これ、魔物だよ。良いの?


 こうして、私たちは村人と一緒にカエル退治をする事になってしまったのである。


カボチャ以外の食料が手に入り、村人は嬉しそうです。

カエル祭の始まりです。

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