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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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100/347

100 エビを求めて、珍道中

〔祝☆100話〕

皆さまのおかげで、100話目に成りました。

これからも、末永く、宜しくお願いします。

 エビを求めてエッヘン村に行こう。

 そう思ったのも束の間、先にやるべき事を思い出し、トボトボとクロージク男爵の屋敷へ向かった。

 朝早いというのに、いつも通りのトーマスに出迎えられ、ハンネとエッポを相手にハンバーグとフライドポテトを教える。

 ハンバーグの材料に牛肉が手元に無かったので、貯蔵室に保存してある豚肉と在庫のベアボア肉で合い挽き肉を作ってから、昨晩と同じ方法でハンバーグを調理した。

 付け合わせ用にフライドポテトも作る。

 植物油はそれなりに高いので揚げ物用にドバドバと鍋に入れるのを躊躇(ちゅうちょ)するが、どうせお貴族様の依頼で調理しているので、気にせず使わせてもらう。

 やはり、油で揚げるという調理方法は珍しいらしく、ハンネとエッポには目を見開かれて驚いていた。

 切ったジャガイモを油で揚げて、塩胡椒を掛けただけのフライドポテトを食べると、再度、驚いた顔をされた。

 ハンバーグを一口食べた時には、頭を抱えていた。その後、すぐにフォークを動かし続けるので、口に合わなかった訳ではないようだ。

 ちなみに、朝食を食べたばかりにも関わらず、エーリカとティアはハンネたちと一緒にハンバーグとフライドポテトを一食分完食している。私とアナは、フライドポテトだけ食べた。

 

「昨日の夕食でパウル様は、三回もマローニをお代わりしたのよ。相当、気に入ったみたいだね。今日の夕食も沢山お代わりしそうだわ」


 そう言うなり、ハンネは食べ掛けのハンバーグを見つめる。

 そんなハンネに、魚やエビに関する料理について聞いてみた。


「魚かい? 食べないね。この辺で捕れる魚は、泥臭いし、大きさも小さい。好き好んで食べないよ」


 クロージク男爵は、海のある国で魚を食べた事があり、何とかこのダムルブールの街まで取り寄せられないか考えた事があったのだが、結局、生ものの長期間の運搬は不可能と学び、諦めたそうだ。


「現地で食べた魚料理が美味しかったらしくて、思い出す度に悔しい顔をしているよ。私自身、海すら見た事がないから、どのくらい美味しいのか、さっぱり分からないけどね」


 そんな話を聞かされた私も魚料理が食べたくなってきた。

 遠出する機会があれば、是非とも海のある場所に行きたいものである。

 

 こうして、ハンバーグとフライドポテトを教えた私たちは、作り過ぎたハンバーグのタネをお持ち帰りしながら、クロージク男爵の屋敷を後にする。

 時刻は昼前。

 これからクロとシロに乗って、リーゲン村の先にあるエッヘン村に行き、名も無き湖を調査してから街に戻れば、良い時間帯になりそうだ。

 


 エッヘン村へ行く為、アナの家に一旦戻ってきた私たちは、家事をしている三人のティアたちに見送られながら、クロとシロに乗ってエッヘン村へと向かった。

 まず、リーゲン村を目指して、ゆっくりと街道を進む。

 巨大ベアボアの鬼ごっこで無茶な乗馬をした所為か、小走り程度でクロに乗っていてもあまり股は痛くならなくなった。

 ちょっとした上下運動でも、自然な態勢を維持できているのに気が付く。怖い目に遭ったが、経験が血肉となっている事を思うと、悪い経験でもなかったみたいだ。

 小走りで街道を進んでいると、荒野の時みたいにティアの案内が始まる。

 「あそこに生えている花の蜜が美味しいのよー。魔物だけど……」とか、「殺人蜂の匂いがするわー。蜂蜜が美味しいのよー」とか、「ウッドスライムが木の幹に擬態しているわー。カブトムシの魔物がスライムを啜っている。美味いのかしらー?」と休みなく話し続けている。

 

「ティアねえさん、目についたものを片っ端から感想を述べなくていいです。しばらく口を閉じていたらどうですか?」


 私の前に座っているエーリカが、ティアの声にうんざりしながらシロの頭にいるティアを睨む。


「あたしが色々と教えているんだから、しっかりと聞きなさいよー。ほら、切株の下に生えているキノコ。あれを食べると、脳みそが溶けるそうよー。シロちゃん、食べちゃ駄目よー」


 ティアが指差したキノコは、虹色のマーブル模様に輝いている、いかにもな毒キノコであった。

 誰も食べないよ、そんなキノコ。それよりも脳みそが溶けるって、怖い!


「ティアねえさん、そんなにも口を開きたいなら、歌でも歌ったらどうですか?」

「ティアが歌?」


 取り止めのない事を休みなく話し続けるティアしか見た事がないので、いまいち歌を歌う姿を想像できない。

 見た目だけなら、鳥の囀りのような声で歌いそうな妖精であるが、普段のおしゃべりの姿を見ていると、応援歌でも歌いそうだ。


「なになに、エーちゃん。あたしの歌が聞きたいの? 聞き惚れたいの? 仕方ないわねー。可愛い妹のおねだりだものー。お姉ちゃん、頑張っちゃうわよー」


 後頭部しか見えないので分からないが、今のエーリカは眉間を寄せている事だろう。

 そんなティアは、シロの頭から離れると「ぶんしーん!」と叫ぶと同時に、ドコーンという効果音と爆発のエフェクトを背景に三人の分身体を作り、合計四人のティアになった。

 毎回、分身する度に効果音とエフェクトが必要なのかと疑問に思っていると、収納魔術から竪琴、横笛、フィドルを取り出し、三人のティアが各楽器を構える。

 どの楽器も使い込まれており、軽くチューニングをしているティアたちは堂に入っていた。

 何か期待できそうな雰囲気だ。

 ちなみに、ティアたちはクロたちの歩行に合わせながら空を飛んでいる状態である。器用なものである。


 音合わせを済ませたティアたちは一度顔を合わせると、ヴァイオリンに似たフィドルを顎に当てているティアが、弓を引いて弾き始めた。

 低音を奏でるフィドルは、音がはっきりとした踊るような音色である。

 そんなフィドル担当のティアは、空中で足を踏みながらリズムを取りつつ、体全体で楽しそうに弾いてる。

 曲の途中から竪琴と横笛も加わる。

 竪琴はパーカッションのように指で弦を弾き、リズムを取っている。

 横笛は、高音を奏で、陽気なメロディーを吹いていた。

 フィルド、竪琴、横笛と音が重なる事で、深みが増し、複雑に絡み、個性的な音楽へと変わる。

 楽器を奏でている三人のティアは、空中にいるにも関わらず、踊っているように楽器を弾いて、音だけでなく見ている私たちも楽しませてくれた。


 楽器だけの曲が終わると、今度は竪琴が主旋律を担当し、優しいメロディーが奏でられた。曲は、涙を誘うような悲しい曲ではなく、優しさの中に勇気を与えるような力のある叙情的な曲である。

 そんな曲に乗せて、手ぶらのティアが歌い出す。それに合わせて、フィドルと横笛も加わった。

 ティアの歌声は、普段、無意味に声を出しているだけあり、優しくも芯の籠った見事な歌声であった。小鳥の囀りのような綺麗な声にも関わらず、深みがあり、低音高音と幅広い声域で、聞く者を惹きつけていく。

 歌を歌うティアは、普段の自由気侭の妖精ではなく、絵画から飛び出したような神秘的で神々しさのある美しい雰囲気を纏っていた。

 歌詞は、私の知っている言葉でないらしく、何を言っているのか分からない。たが、歌メロも楽器の一部として聞いているので、内容が分からなくても問題はなかった。

 もしかしたら、ティアの事だ。歌詞の内容が「パン、美味しい」「蜂蜜、食べたい」みたいなものかもしれない。それなら、歌詞の内容は知らない方がいい。


 優しく、そして勇気を与えるようなバラード調の曲が終わると、最初に弾いたような陽気な曲に切り替わり、歌担当のティアは、クルクルと体を回転させながら、私たちの周りを飛び回りながら歌い始めた。

 ティアの回転に合わせ、赤い髪も空を舞い、火の子が舞うように力強くかつ儚げな雰囲気へと変わる。

 それに合わせて、楽器担当の三人のティアも楽しそうに飛び回るので、そこだけお祭り騒ぎのようであった。

 ティアの熱に当てられた私とアナは、曲のリズムに合わせて、手拍子をして、さらに盛り上げる。

 曲の間奏部に入ると、横笛担当のティアを引っ張り出し、二人で手を繋ぎながら空中でダンスを始める。

 最後には、シロの背に乗っているアナの両手を掴み、三人で踊るようにしながらティアの歌は幕を閉じた。

 曲に合わせて、色々な雰囲気を変えるティア。

 彼女の色んな一面が見えて、非常に有意義な時間であった。


「へへへっ、どうよー。あたしにメロメロになったでしょー」


 四人のティアが、私たちの前で無い胸を反らして、ドヤ顔をしている。


「凄く、良かった」

「ティアさん、素敵です。私、感動しました。楽しかったです」


 私とアナは、拍手をしながら純粋に褒める。ただ音楽に詳しくない私たちは、ここが良かった、あそこが凄かったと詳しく説明できないので、ただただ「良かった」「凄かった」と感想を言う事しか出来ない。


「所々、音が外れていましたし、ズレていましたけど、概ね良かったと思います。長い間、宝箱に閉じ込められていたとは思えませんでした」


 私とアナには気づかなかった細かい個所をエーリカはチクチクと指摘していく。


「はいはい、分かった、分かった。これだからエーちゃんは、辛気臭いのよー。音楽はノリと勢いが大事なのよー。だから、次はエーちゃんねー」

「なぜ、そうなるのですか? わたしは歌いませんよ」

「良いから、良いから。リーちゃんとよく妖精相手に歌っていた曲を弾いてあげるわー」

「だがら、歌いませんと言っています。人の話を聞いてください」


 エーリカの訴えをまったく耳に入れないティアたちは、バラード調の曲を弾き始めた。

 純粋にエーリカの歌を聞きたかった私は、前に座っているエーリカの肩に手を置いて、「歌ってあげたら」と優しく催促すると、渋々歌い始めてくれた。

 鈴が転がるような綺麗な声がエーリカの口から発せられる。

 普段と変わり映えのしない起伏のない声であるが、とても曲の雰囲気に合っていた。

 優しく語り掛けるような歌も、何を言っているのか分からないが、何となく子守歌のような気がした。

 複雑で高度な曲でもない単調な歌であるが、ゆっくりとクロたちが歩くリズムと合わさり、心地良くなっていく。

 途中でティアも歌に加わると、歌声に厚みが増し、子守歌にも関わらず深みが出て、聴きいってしまった。

 歌い終わったエーリカに向けて、私とアナは拍手を送る。


「エーリカ、凄く良かった」


 後ろからエーリカの頭を撫ぜると、エーリカが照れているのが何となく気配で分かった。

 ちなみにティアの口から出たリーちゃんって誰? と聞いたら、「秘密です」とエーリカとティアの口から返ってきた。私には知る権限が無いらしい。たぶん、残りの姉妹の誰かなのだろうと勝手に想像する。


「じゃあ、次はアナちゃんね」


 シロの背に乗ってティアとエーリカの歌を楽しく聞いていたアナに向けて、ティアが無茶ぶりをする。


「えっ……えー!? わ、私は無理です。歌は知りません!」


 アナがあわあわと首を振って断るが、「まあまあ」と繰り返しティアが返し続けるので、ついにアナが根負けする。


「で、では、一曲だけ……お父さ……父がよく聴かせてくれたのを……」


 そう言って、アナは恥ずかしそうに歌い出す。

 小声で歌うアナであるが、決して音痴ではない。

 どうやら、大人が子供に聴かせる童謡のようで、難易度が低い事もあり、すぐにティアたちがアナの歌に合わせて楽器を奏でていく。

 アカペラから楽器の音が合わさり、アナの歌声も上がっていく。

 やはり途中からティアも歌に加わり、最後は二人で楽しく歌い終わった。

 それにしても、この流れは不味い。

 アナも歌ったとなると……。


「じゃあ、次はおっちゃんね」


 やはり、そうきたか!


 ここで私だけ歌わないと白けムードになってしまう。

 エーリカに歌うように催促した手前、空気を読んで私も歌うしかないだろう。

 だが、カラオケも数えるぐらいしか行ったことのない私だ。

 何を歌えばいいのだ?

 皆で楽しむノリノリの歌か? 皆に聴かせる歌か? 

 まぁ、選べるほど歌のレパートリーなんか無いので、考えるだけ無駄なのだが……。

 それならネタに走ろう。


「では、ちょうどクロたちに乗っているので、この曲を……聞いてください。『ローハイドのテーマ』」


 女子高生の声では歌えない、おっさんならではの太い声で「ローレン、ローレン、ローレン」と歌い出す。

 歌詞もほとんど知らないし、なんちゃって英語なので、適当に歌う。

 「変なのー」とティアが笑いながら、私の歌に合わせるように楽器を奏でてくれるが、この世界の曲とは違う珍しい曲調なので、パーカッションのように鳴らし、リズムを取ってくれた。

 案の定、ティアも私の歌を真似て、一緒に「ローレン、ローレン、ローレン」と歌ってくれる。

 エーリカもアナも、ティアに無理矢理歌わせられ、最後の方では、四人仲良くクロたちの背中に揺られながら、楽しく歌うのであった。


 こうしてクロたちに乗りながら、歌ったり、踊ったりとエッヘン村までの道中を楽しく過ごすのであった。


 それよりも、ネタとはいえ『ローハイドのテーマ』をチョイスするあたり、私は本当に現役女子高生なのだろうか?

 これだから友達ゼロなんだと、改めて思うのであった。


祝100話という事で、皆で楽しく、歌って踊って終わりました。

全然、話が進まないです。

とほほ……。

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