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朝食を済ませて午前中の鍛錬の時間になると、多くの戦士や兵士たちが中庭や外庭に出て剣を振る中、ラミルはシールを町の外へと連れだした。
(なんで外なんだ?)
(ちょっと広い場所が良いし、あまり他の人には見られたくないんだ)
(まあいいや、じゃあ早速見せてよ)
「シール、これからは学校や王宮で学ぶことのできない動きを教える」
「は、はい」
「これは、先の戦いの後に身に付けたものだが、シールは初めて目にする動きだと思うので、まずはしっかりと見ておくように」
健人はそう言うと、鋼の剣を両手で持って剣先を右後方に向けると、やや腰を落として左足を前に出してガニ股ぎみに構えた。
(この構えは前にも見たな・・・)
(いいから、とりあえず見ていてよ)
健人は全神経を集中させるように、ゆったりとしたリズムで呼吸し、シールもラミルの顔が真剣そのものになっているのを見て、見逃すまいと集中して見ている。
ゆるやかな風が吹いて木の葉が健人の前に舞い上がった瞬間、その左腕がわずかに動いた。
シールにはラミルの剣がわずかに動いたのは見えたが、何が起こったのかまったくわからなかったが、よく見ると目の前に落ちた木の葉は4つに斬れていて、シールは絶句し、ラミルも何が起こったのかわからずに驚いている。
(健人・・・僕には2つに斬ったようにしか見えなかったぞ)
次に健人は鋼の剣を鞘におさめると、シールから少し離れ、左腰に下げたセラムの剣を右手で逆手にして握り、左手で鞘をしっかりと持った。
「シール、お前の足元にあるその石を、どこでも良いから私の上半身に向かって思い切り投げつけてみろ」
「えっ、これをですか?」
足元にある子供の拳ほどの大きさの石を手に取ってラミルを見た。
「それでいい、早く投げろ!」
シールは振りかぶって、ラミルの顔を目掛けて思い切り投げつけた。
(健人、避けろよ・・・)
ラミルがそう思った瞬間、石が砕け散った。
剣を握ったままの右手は元の場所にあり、剣は鞘におさまっている。
(おい、健人、いま何をしたんだ?剣を抜いたよな、何も見えなかったぞ)
「ラミル様・・・今、何が起こったのですか?いったい何をしたのですか?」
「シール、今の動きは見えなかったか?」
「はい。手はわずかに動いたような気がしたのですが、それだけしかわかりませんでした」
(僕にもわからなかったよ・・・)
「これは・・・まあ、抜刀術とでも言っておこうかな。難しい説明はしないが、集中力と速く剣を扱うための技術と鍛錬が必要だ、お前には他の兵士に無い才能と、私の剣の動きを薄っすらとでも見ることのできる視力がある。これから年数を重ねて鍛錬していけば、今の戦士たちには負けることは無くなるだろうが、今はその時間が無い。まずは重い剣を振れるだけの体力と筋力、そして相手の一瞬の隙も見逃さない集中力を磨くんだ」
「はい、わかりました」
健人は木剣を使ってシールの剣技だけでなく集中力を高めるため、自身が8年の間に学んだことを中心に教えていった。
シールの体にはすり傷や痣が増えたが、泣き言は一切言わず、翌日もまたその翌日も特訓は続き、5日ほど経つとパンパンに張っていた全身の筋肉も落ち着き、引き締まっているが一回り体が大きく見えるほどの体格に変わりはじめていた。
もちろん両腕、両足の筋力もついてきたようで、最初は一番重い剣では体がふらついて振ることが出来なかったが、少し腰を落とした姿勢で剣を構えることや、体重のバランスのとり方にも慣れてきたのか、左手一本でも少しは振ることが出来るようになり、足腰が鍛えられた成果は動きにも出てきていた。
(ラミル、シールは少し成長していると思わないか)
(魔闘士としての素質があるかもしれないけど、他の奴ではこうはいかないかもしれないな)
健人はシールの上達ぶりに、最後の見極めとして木剣で手合わせをすることにした。
「シール、そろそろお前の実力を試させてもらう、この数日間でどれほどまで成長したのか、見させてもらうからな」
「はい、しかし・・・」
「どうした?」
シールが不安そうな顔をしているのを見て、健人が話した。
「シール、もちろん私を倒すつもりでかかってこい、もしも本気を出していないと判断したら、かなり痛い思いをしてもらうから、そのつもりで来いよ」
シールはもちろんラミルに勝てるとは思っていなかったが、その言葉を聞いて今の自分の全力をぶつけようと決めた。




