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(ナナ、ずいぶん綺麗になったな)
(なんだよ、突然)
(いや、今回はまだ会ってなかっただろ、ただそれだけ)
(そうだったね。ところで健人、ハンに着く頃には日が暮れてしまうかもしれないけど良い?)
(見張っている奴がいるかもしれないが、たぶん襲っては来ないだろう。それにあの兵士レベルでは何の問題もないけどね、もちろん油断は禁物だけど)
(本当はジゼルへ行くのは明日の朝で良かったけど、あの状況でナナを追い返すためには、できるだけ早くいなくなった方が良いと思って)
(まあね、それはしかたないな、俺は結婚していないから夫婦や子供のことはわからないけど、ナナが一緒に行くことを強く拒絶したのは正解だな。ラミルは足手まといと言わなかったけど、僕は今度の戦いはナナだけじゃなく、ロザイルだって足手まといになる可能性があると思っている。これはジゼルの末裔の戦いだ、カーズも含めた3人を巻き込んじゃいけない。この戦いはレミルの子孫であるラミルと僕の戦い、これも宿命だと思うよ)
(そうだね)
(それよりもレイラのことが気がかりだな・・・)
(うん、レイラはジゼルのことも、レミルの子孫だと言うことも知らなかったんだ。たぶん奴らに聞かされて驚いていると思うし、レイラがどんな扱いを受けているのか心配だ)
(早く助け出さないとね、そろそろハンに着く、気をつけろよ、もしかすると待ち伏せされているかもしれないからな)
慎重に馬を進めた、日が暮れて辺りが闇に包まれた頃にラミルはハン村の跡に着いた。
(待ち伏せはされていないみたいだけど、どこかで見張っているだろうな)
(うん、今のところそれらしい気配は感じないけど、たぶんいるだろうね)
村の小さな広場で馬をおり、馬を休ませるとともに自分も小川の水で喉を潤した。
(健人、これからどうする?)
(ジゼルへ行った方が良い気がするけど、戦うことになると、たぶんここよりも不利な状況になるかもしれないな)
(どうして?)
(ここなら道幅が狭いし周りも山の斜面や小川がある、簡単に大勢に囲まれることはない)
(なるほど、そういうことか、だとするとアーシャ様が葬られている、あの祠の方が良いんじゃないか?片側は谷になっているし)
(あそこは駄目だよ。もしあの場所が奴らに知られていなかったら教えることになるかもしれない、アーシャ様が奴らに力を貸すことはないだろうけど、あの神聖な場所は奴らに荒らされちゃいけない場所だよ、確かに僕もあの美しいアーシャ様には会いたいけどね)
(へぇ~、健人ってああいう女性がタイプなんだ)
(おいおい、俺たちのご先祖様だぞ、タイプっていうか・・・まあ、綺麗だなぁとは思うけどさ)
(なんか、健人が動揺するのってあまり無いから面白いかも)
(ラミル、そういうこと言うようになったか、お前も変わったなぁ)
(うん、たぶん8年前の健人の影響だと思うよ)
2人とも笑った。
(確かにあの場所は知られたくないな、ちょっと気味悪いけど、ここで仮眠するか)
(それにしても、奴らはどうやって谷の検問所を通らずに来られたんだろう?)
(レイラを連れ去ったときもそうだ、あの時も誰も通っていないと言っていた)
(僕たちが石盤を持っていったとき、何を持っていたのか調べたのかもしれないけど、それにしても追いついてくるまでに時間があったよな?)
(たぶんバイスの山のどこかを通って、アルムへ抜け出る道があるんだろうな、時間があればそれを調べる必要もあるかもしれないな)
(そうだね、でも今日はもうとりあえず休もう、夜が明けたらすぐにジゼルに行くぞ)
ラミルは神経を研ぎ澄ませながらも体を休めるために横になって目を閉じた。
その夜、ラミルを襲ってくる者はなく、日が昇って谷間のハン村にも日が差し込んでくると、すぐに出発準備に取り掛かり、小川の水で喉を潤してからジゼルを目指した。
左手にアーシャの眠る死の谷への道、小川に架けられた丸太の橋が見えてくる。
(なあ健人、あの橋を誰かが渡ったかどうか見ておく必要はない?)
(今は良いだろう、まずは先を急ごう、剣を先に手に入れることだけを考えるんだ)




