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その頃、ラミルはエストを過ぎたあたりにいた、出来るだけ早く村長に剣のことを聞かなければと思い馬を走らせていた。
「確かめないと・・・あの村長が神の戦士に力を貸すとは思えないけど、もしもあのロムの剣を使いこなせる男がいるとしたら、それはあまりにも危険だ」
その時、なぜかレイラの声が聞こえたような気がして馬をとめた。
「レイラ?まさか、空耳か?」
お兄ちゃん、怖いよ、助けて・・・
間違いなくレイラの声が聞こえた気がした、レイラが助けを求めている。
「まさか、レイラの身に何かあったんじゃ・・・」
ラミルはロムの剣のことが気になっていたが、それ以上にレイラのことが気になり慌ててサントへと向きを変えた。
「やはり神の戦士たちの言う王とは私のことで、王女はレイラのことなのだろうか、レイラ、どうか無事でいてくれ」
夕方になってようやくラミルはサントに着くと、家の周りには村の男たちが集まっている。
ラミルは近くで馬から降り、その人ごみをかき分けるようにして家に駆け込んだ。
「母さん、レイラは、レイラはいる?」
家の中にレイラの姿はなく、台所で肩を落としたクリシアがラミルの顔を見る。
「ラミル!レイラが・・・」
ラミルの顔を見て気が緩んだのか、ラミルにしがみつくように抱きついて泣き出した。
「母さん、やはりレイラに何かあったんだね、何があったの?」
「学校の帰りに連れ去られたらしいの、王女様と言われて男たちに連れ去られたらしいの」
ラミルの嫌な予感が当たったと思った、母を慰める言葉も見つからず、椅子に座らせてその手を握って黙っていると、仕事から戻ってきたラシンドが家の周囲にいる男たちから事情を聴いて慌てて家へ駆けこんできた。
「レイラが連れ去られたっていうのは本当なのか」
椅子に腰かけてうなだれているクリシアと、その横で母の手を握り慰めるように座っているラミルを見つめた。
「父さん、レイラが何者かに連れ去られたのは本当だよ」
さらにクリシアが子供から聞いた状況などを話すと、ラシンドも力が抜けたように椅子に腰をおろして無言になってしまった。
ラミルは、やはり神の戦士の仕業かと思いながら、ラシンドが村の男たちと相談すると言って家から出ていくとクリシアに話しかけた。
「レイラが連れ去られたとき、王女様と言われたと言っていたよね?」
「ええ、何か心当たりがあるの?」
「いまアルムは、神の戦士と名乗る者たちに脅されている。そいつらはわずか百数十人で万を超える兵を要する強大な国を滅ぼした力を持っている。レイラを連れ去ったのは、恐らくその神の戦士と名乗る奴らだ」
「そんな者たちがなぜレイラを?」
「神の戦士は恐らくジゼルの末裔たちだと思う」
クリシアはその言葉を聞いて驚いてラミルを見つめたが、すぐに納得したような顔になった。
「そうなの、やはりジゼルが関わっているのね。あの子が王女と言われるとなるとレミル様のことしか思い浮かばなかったのよ」
「レイラを手に入れた奴らは必ず僕に接触してくると思う。レイラが王女だと言うなら僕はレミルの跡を継いだ王だ、母さんも十分に気をつけてね」
「わかったわ。ラミル、お願いだからレイラを助けてちょうだい、あの子にはまだジゼルのことは何も話していないの、何も知らないのよ、きっと怖い思いをしているわ、お願い、ラミル」
「もちろんわかっているよ、僕だってレイラを助けたい、いや、必ず助けるよ」
ラシンドが外から戻ってくると、ラミルは話をやめた。
「父さん、レイラは必ず連れ戻すから、母さんを頼むね」
一言だけ父に声をかけ、王宮に戻るために家を出た。
夜も更けて、王宮は見張りの門番以外に人影は無く静まっている。
ラミルは王宮内にある自室に入ると椅子に腰掛けて天井を見上げた。
「どうしたら良いんだ、まさかレイラが連れ去られるなんて、奴らは死の谷を通って来なかったと言うことか、それともすでにアルムに潜入していて、まだどこかにいるのか?」
考えても頭が混乱するだけだった、健人はいないし8年前のようにムーラに相談できるわけでもなく、それでも何かを期待するかのようにDarkを拡げてみる。
最後の頁には、8年前に健人へ書いたメッセージがあり、もちろんムーラからのメッセージは無い、そしてラミルは健人へ書いたメッセージを見ながらつぶやいた。
「健人・・・君の先祖であるレイラが連れ去られた。もし本当に奴らがジゼルの末裔だとしたら、僕は同じジゼルの血が流れる者たちを敵にしなければならない、僕はいったいどうしたら良いんだ、教えてくれよ」
ラミルは悩みながら自分が書いた文字を見つめていた。
この本にメッセージを書いたとしても未来で健人が見るだけで自分の中に現われる訳ではない、でもレイラの身に何かあったら健人はこの世に産まれなくなってしまう。
ラミルはペンを取ると、健人に伝わってくれ、健人が僕の中に現われてくれと祈りながら、最後の頁に言葉を書き足した。
健人、再び君の力が必要になった
でも僕にはここにメッセージを書くことしかできない
いったいどうしたら良いかわからない
レイラが危ない、頼む、僕に力を貸してくれ
ラミルはDarkを閉じ、眠れそうもないと思いながらも明日に備えて横になった。
すると、睡魔とは違う妙な感覚に包まれて意識を失うように深い眠りについた。




