愛屋及烏.7
「……はぁ」
俺は散々泣いたからか、少し頭が冷静になった。
制服のワイシャツが血で濡れているからとりあえず洗濯することにした。
クリーニング屋に普通に出したら、女子でもない俺は生理とごかますことができないため、自分である程度洗うことにした。
婆ちゃんから教わった知恵を使って、ワイシャツを洗うことにした。
コップに半分入れた水と食器洗剤で洗浄液を作り、歯ブラシで血が付いた部分を優しく叩く。
汚れが落ちてきたら洗面器に水をため優しくもみ洗いをしながら汚れを浮かせて、洗濯機に突っ込んだ。
俺は冷蔵庫に入れて置いた缶コーヒーのタブを開けた。
「こういう時、婆ちゃんの知恵ってありがたいよな」
俺の人生みたいに苦くて苦くてたまらないブラックコーヒーを一口飲んだ。
「……ああ、苦げぇ」
俺はすぐに全部飲み干したくなって一気飲みした。
耶衣子さんが俺を殺してくれたなら、今俺がコーヒーを飲んだみたいに俺の一生も一瞬で終わったのかな……なんで、殺してくれなかったんだろ。
「確か、殺したいのか。それとも死にたいのか、って言われたんだよな……お願いしてるのに、どうしてそんなことわざわざ聞いて来たんだろう」
人を殺す時はどういう殺し方をすると決めている殺し屋みたいな考え方でもしてるんだろうか。
そもそも、なんで終末屋なんだろう。
人を世界から消すんだから、抹消屋? とか、そんな名前でも問題なかったのかもしれないのに、なんで彼女はわざわざ終末屋なんて名前なんだろう。
終末の意味、ちょっと調べてみるか。
「……もう、殺してくれるんだからって思ったから、そこまでは調べなかったんだよな」
俺はスマホを使って、ネットで終末、意味と打って検索する。
意味は物事が最後に行きつくところ。おわり、はて、しまい……終尾。
また、キリスト教で世の終わりをいう終末論がある、か。
終尾と終末論ってなんだろう。
漫画とかアニメとか、終末論とかは多少聞いたことあった気がするけど終尾はあんまり聞いたことないな。とりあえず、俺はその二つをまた検索をかけることにした。
「おわりお、おわりお……ん? ああ、しゅうびって読むのか」
終尾の意味は物事の終末。最後の部分。
終末論は、人間と世界の終末についての宗教思想。現世の悪に対して、世界の窮極的破滅、最後の審判、人類の復活、理想世界の実現などを説く……か。
……うーん、わからん。
終末論に関してはよくわからなかったけど、なんとなく最後の審判とかアニメで見たこと結構あるな。でも、理想世界の実現を説く、か。あの人も、ある意味で自分の理想とする世界の実現を俺に説こうとした、ってことなのだろうか。
「漢字辞書とか国語辞典とか、結構お堅い説明で書かれてあるよな……」
まだ俺が学生だから余計そう思ってしまうのかもしれないけど、まあそれによってはカッコいいと思う説明があるから、とやかくは言わないけど。
もう少し、砕けてもいい気がするのは俺だけだろうか。
……まあ、いっか。
もう一度、耶衣子さんに頼み込んでみよう。
説得すれば、今度はもう一度殺してくれるかもしれない。
俺はコンビニで買ったシャケ弁当を食べて、とりあえず明日からの虫唾が走る学校の授業も何もかも終わらせて、今度もう一度彼女に殺してくださいと頼もう。
一回目だけ、ああだっただけかもしれないし。何度も頼めば折れてくれるだろう。
俺は、シャツと短パンに着替えて明日の授業の教材を鞄に詰めてからベットに入る。
明日が無理ならその次の日、また次の日が、きっと俺の記念すべき人生最後の日と期待して、眠りにつくのだった。