愛屋及烏.3
「え……?」
女が立っている。
流れる黒髪と、黒い洋服を纏って男の前に立っている。
鎌を持っているわけではないと言うのに、俺にとって彼女は死神のように見えた。
あの大男を殺すために来てくれた、死神なのではないかと。
「貴方最近巷を騒がしている食人鬼、いいえ連続殺人鬼で合っているかな」
「あぁ? んだてめぇ」
女性は男に問うと大男は女を認識し、じっと睨みつけている。
「ごめんなさい、貴方に名乗る名前は持ち合わせていないの」
「まあいいやぁ……死んでくれよ、女ぁ!! そんでもって、全部喰ってやる!!」
大男は女に切りかかる。
ナイフを女も持っていたのか、互いの金属音がぶつかり合う。
火花が散る戦闘。早くなっていく二人の死闘が、常人の俺には目を捕らえることができない。
大ぶりな一撃を男は振り下ろすと、女は軽々とくるっと一回りして猫のような身軽さでかわす。
女は男に蹴りを入れよろめきながらニタリと笑う男を冷静に見つめる。
「っぐ!! ……痛ぇなぁ」
「貴方が殺してきた者たちに比べたら大したことはないでしょ?」
「へへ、……っ、もしかしてその黒服と目隠しは新宿の死神って聞いたが、さてはお前か?」
「どうかな、私自身が名乗ったわけではないんだ」
「それは、了承と受け取るぜぇ!!」
男は持っているナイフを投げつけると女性の頬に掠った。
上着から別のナイフを取り出して切りかかる男。
女はその腕の下を潜り、男の顔面にナイフで切りつける。
「……っ!!」
男は声を挙げずに、女から一旦距離を取る。
下がる男を見た女は言葉で挑発する。
「暗黙の了解という言葉を知らないの、それは沈黙がない限り発生しないことよ」
「あぁ? んなことどうでもいいんだよぉ!! 俺は食う、お前も、アイツも、みんなみんな喰ってやるんだ!!」
「……そう、残念ね」
女性は頬に伝う血を手の甲で拭い払った。
それが合図のように男は女に襲い掛かる。
「――――――さようなら」
女性がそう言い、ナイフで切り裂くと男は血飛沫を撒き散らしながら倒れる。
何が、起こった?
切断された、漫画やアニメみたいに体を斜めに切り裂かれて、間違いなく絶命レベルの一撃だ。
女性はナイフを仕舞う。
「出てきたら? 少年」
――――――それは、死刑宣告か何かですか?
と思う俺は、間違いではなかったと思う。