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泡沫の無葬  作者: 絵之色
第一幕 濡れ鴉の鮮血夢
3/24

愛屋及烏.2

 彼女と出会うために必要な事情説明も全部考えて外に出た。

 目的地は新宿二丁目にあるという廃墟ビルだ。彼女がよくいるのはそこらしい。

 スマホのマップを使って電車を乗り換えながら移動する。

 俺は手に持った日記をぎゅっと握る。

 俺がどんないじめを受けてきたのか、思いつく限りの罵倒も暴力も記してきた日記がその証拠だ。

 これで殺してくれるのかどうかなんてわからないが……それでも、無いよりマシだろう。

 電車から降りて、自動改札にスマホをかざして外に出る。

 あまり慣れない土地だから、人に聞きながら目的の場所まで向っていくとある一本道を通るとあまりにも静かで、徐々に体に寒気が走ってきた。

 自動販売機に売ってあった暖かい缶コーヒーを飲む。


「にっげぇ……」

 

 缶の中身がまだないかと思って上に持ち上げて缶を振っても出てこなかったから、缶を道端に投げ捨てる。


「…………あともう少し、か」


 スマホで後数距離と表示されたのを見て、後からはスマホを見ないで行くことにした。

 この道が黄泉への俺の道となるのなら、それに怯えるのはしても無駄なことだよな、どうせ死ぬんだし……この世に、未練なんてものなんて何もないんだから。

 頭にぽつりと、何かがかかったのを感じて上を見上げる。


「ん? なんだ? 雨?」


 上からぼたぼたと何か落ちてくる。

 生暖かい感覚がしてとっさに腕で頭を(かば)うも、回避することはできなかった。


「うわぁああああ!! なんだなんだよ!?」


 制服を着たままでここまで来てしまったことにひどく後悔した。

 体全身に浴びた何かがなんなのか、とりあえず自分の頬を触れることにした。


「――――血だ、これ、血だ」


 今降ってきたのは、死体か何かなんだ。

 でも、だったらなんの……? ふと、電子看板で照らされた道路にくたばってるカラスが目に入る。


「な、なんでカラスの死体なんて……うっ」


 全身に浴びてしまった血の悪臭が耐えられなくて、吐き気がする。

 鳥の糞程度のことならまだお風呂に入ってもう一度終末屋のところに会いに行けばってなっただけなのに、なんでこうも俺は不運ばかりなんだ。

 けど、それよりもこの状況はまずい。


「どうしよう……こんなところ見られたら動物虐待なんて訴えられかねない……! 動物をどこかに埋葬しても、こんな姿を誰かに見られた時点で通報物だ……!!」 


 俺はどうすればいいのか迷いに迷って固まっていた。


「ヒャハハハハハハハハハハハ!!」

「……は? 今度は何っ」


 下品な笑い声をあげている男が、二階建ての建物から飛び降りてきた。

 男は平気そうに立ち上がって、手に握っている鋭利な物を直視した一般人は固まらないわけがない――――――ナイフだ。

 俺はすぐに口元を塞いで叫びそうになるのを抑え込む。

 そして、急いで男から死角になる建物の横に向かった。

 落ちつけ、落ちつけ。

 なんで死のうって勇気を出した時に、こんな災難ばっかりなんだよ。

 いつもそうだ、死のうって思って学校の屋上から飛び降りようとしたら学校に生えてる木で邪魔されて死ねなかったし、夏の海で溺れようとしたところをライフセイバーに助けられたり、ああ!! 腹が立ってしかたない。


「ん~? さっき見えたヤツぅ、どこだぁ?」


 げ!! やっべぇ。やべぇよ!!

 逃げる? 通報? 通報だ!

 ポケットに入れておいたスマホを取り出すと、電池がもうほとんどなかった。


「――――――くそ、なんでだよ。こんな時に!!」


 俺は男にぎりぎり聞こえないくらいであろう小声で呟く。


 ――――いや、死にに来たんだ、アイツに、殺されたっていいんじゃないか?


 頭が意外な状況すぎて逆に冷静になるとはこのことか、なんて後からいくらでも出てきた。

 けど、本当にこんな奴に殺されなくちゃいけないのか?

 あんなただ叫ぶしか能がないような大男に? 自分が殺されたいって思うような素敵じゃない奴に? 俺にだって、誰かに殺される相手を選ぶ権利くらいある。あるはず、なんだ。

 

「――――――逃げなさい、少年」


 綺麗な声だった、美しい声だった。

 一瞬で頭の中の罵倒の数々が消えるくらいの、美しい声が俺の横を通り過ぎて行った。

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