愛屋及烏.1
いつも通りの道を今日も歩く。
寄り道をしてもよかったが、歩き慣れた道というのは安心するものだ。
地面に飛び散る朱色と黒い羽根が目に留まる。
がぁがぁとまだ鳴いている烏はもう声を出すことはない。
その烏の鳴き声が、妙に生々しかったのも。
人の声に聞こえてしまったのも、おそらく錯覚だ。
だが、なぜだろう。たまらなく愛おしいのは。
――――自分が、この子の側にいないといけないと思うのは。
ああ、それはまるで自分の最期の時がこうなると、期待しているからだろうか。
無残に無様に、その命を散らされることを願っているからなのか。
◇ ◇ ◇
「今日はこのくらいにしてやるよ、ケンセー? また逆らおうとしたら、わかってるなぁ?」
「「「「はははははははははははは!!」」」」
下卑た笑い声が耳に流れてくる。
汚らしい汚物共は、今日も退屈を殺すために砂糖菓子を貪るための咀嚼音を鳴らすことに忙しいらしい。居神献世は口の中に溜まった血を唾ごと公園の水道で流してから、家に帰宅する。
あざになるぐらいまで殴り倒され、金も掠め取られるとか、笑いすらもう起きなくなった。
「……はぁ、死にたいなぁ」
椅子にもたれて、今日も虫唾が走る日常に嫌気が差す。
暇つぶしにスマホのネットニュースで適当な記事を検索すると、最近多いらしいとある事件の記事が上位に挙がってくる。
「……食人事件、かぁ。人を喰うとかありえないだろ」
それよりも自殺サイトとかでの集まりで心中を図るか、それとも自殺の方法を探して手軽に死ねる方法を探すか……手軽に殺してくれる誰かなんて、いないかなぁ。
自分を殺してくれる人、と検索するとそこにある一個の項目に目が惹かれた。
「……終末屋? なんだ、それ」
タップして見ると、それはブログや2chの類のサイトが目立つ。
あまりそういうくだらないサイトを覗いたりしないが、きっとその人のことについて言っている人がいるのかもしれないと思いスワイプしながら情報を探ることにした。
まず、一つはブログの方から。
かわいらしいピンク色で女性のブログだろうと推察できるブログに書かれてある記事を読む。
『私、知ってるんです。終末屋さんは死にたいって思う誰かを殺してくれる人だって。この世界から、抹消してくれる人だから終末屋って名乗っている方なんです。だから今度、もう一回、私を殺してくれないか……会ってきます。その時は、このブログが消えていても怒らないでいてください』
「……は? なんでブログが消えるんだよ、自分が削除できるわけじゃあるまいし。ああ、家族が消す、って意味なのか? ……まあ、いいや。ちゃんねるの方見るか」
タップして、検索画面に戻りちゃんねるのほうのサイトを開く。
ちゃんねるのコメントたちはところどころにものすごい文字化けしたコメントが目立つ。
まるで、特定の相手の言葉が何を言っているのかわからなくさせているような、そんな気さえする。
「……不気味、だなぁ」
またタップして別のサイトを調べていくと、とある検索候補に挙がってきた名前が目に留まる。
終末屋に会いたい人へと書かれてある、ホームページに期待が膨らんだ。
調べると、そのサイトは終末屋という人にである条件が載っているサイトだった。まとめると、殺されたいヤツはまず本人にコンタクトできる場所があり、そこへ行くこと。
そして自分の過去の起こったトラウマやいじめられたことを全部を話すことが条件、と書かれてあった。自殺サイトよりもお手軽で死体の処理も終末屋がすると書かれてあり、なんていい話なんだと口角が上がってくる。
急いで終末屋がよくいる場所を検索をかけ、多少の荷物を持った後そこへ向かうことにした。
俺は、彼女に出会ってから気づかされることになる。
――――……俺という人間は、結局いつまでたっても狂言回しに過ぎないのだと。