愛屋及烏.16
深呼吸する蜜祈はゆっくりと最後に息を吐いてから、語り始めた。
まず、彼女が夢魔の先祖返りとして覚醒したのは最近のこと。
蜜祈の兄である精児の恋人が鴉殺しに殺され、復讐を誓ったこと。
それで、精児が鴉殺しを殺そうとして捕まり、助けてほしければ終末屋である耶衣子の首を持ってくれば、助けるという条件に彼女は渋々飲み、俺を殺そうとした……という流れらしい。
「……そんなことが」
「……ふむ、そういうことか」
「何か策があるんですか? 耶衣子さん」
「私の首があればいいんだね? そんなの簡単じゃないか」
耶衣子さんは自分の首に軽く触れながら口角を上げて笑う。
「「……え?」」
■ ■ ■
「いやぁあああああああああああああああああああ!!」
……あぁ、口惜しい。
たまらなく、たまらなく、たまらなく……たまらなく。
たまらないほどに、憎らしい。
「……アァ、食ベタイ。ハヤク、ハヤク……ハヤク」
「あっ、が……っ」
砕ける骨の響きが心地よく、血飛沫と言う美酒の味を酔い痴れる。
心臓を飲み干せば、己の活力すらも沸き立つほどだ。
だが……足りない。あの時の、あの餌に比べれば。
忘れられない。忘れられるはずがない。
色濃く放つ銀の光。刀剣の色をした魂。
透き通った心魂を、この手で食すのが―――私でなくてはならないのだ。
「殺ス、殺ス! 葬眼!! ――――あの銀魂ヲ!!」
一人の烏頭の男は、人外じみた声色で高ぶる。
「……来たよ、鴉殺し」
「!! ヨウヤクカ!!」
廃墟の中、背後の影。
視認するは濁り切った魂の残滓。寄せ集めの傀儡。
処女という枠組みでなくては夢魔の性に取り込まれる哀れな生き物の臭い。
桃髪の女は、箱を抱えてこちらに来る。
「ナニヲ持ッテイル?」
「終末屋さ……耶衣子さんの首、これでよかったんでしょ? 箱に入ってます」
「……!! ハヤク!! ハヤク!! 寄越セ!!」
私は急いで女の持っている箱を奪い取る。
乱暴に空けて箱の中身を空けてみれば、葬銀の首は確かにそこにあった。
美味そうな香り。これが、今回の葬銀の首……!!
私は喜んで口を開け噛みつけば、肉塊の柔らかさよりも人形の殻の感覚が口に纏わりつく。
「……ッ!? ナンダコレハ!!」
「がっつきすぎでしょ……終末屋様の言う通りだったわ」
「ナゼ偽物ヲ用意シタ!? 貴様ノ兄ヲ殺シテヤッテモイインダゾ!!」
「アンタ、目が見えてないんだね? だから開けた瞬間に違いがわからなかった……そうでしょ?」
「フザケテイルノカ!? ハヤク葬銀ヲ寄越セ!!」
「――――へぇ、君が彼女の兄を殺そうとする怪異か。殺し甲斐があるね」
鴉殺しは叫ぶと屋敷の窓辺からある女は嘲笑する。
「……葬銀!!」
「あぁ、会いに来たよ。鴉殺し……彼女の家族はまだ食べていないね?」
「私ハ美食家ダ!! アンナゲテモノナンカ食ワナイ!!」
「だって……よかったね、蜜祈ちゃん。本当みたいだよ」
「っ、わかりました!」
蜜祈は屋敷から出ると急いで扉へと駆け出してその場を去った。
「それじゃあ、鴉殺し……私と一緒に円舞曲に付き合ってもらうよ」
「乗ッタ!!」
……ようやく、ようやくだ!!
私の、獲物!! ――――早々に食い殺してやる!!




