愛屋及烏.14
俺たちはラーメンを食べ終えると、とある廃墟に来ていた。
夜の廃墟は月明かりがあることでなんとか周囲を見渡せる。
懐中電灯をつける坂口さんは屈んで床を見る。
俺は不審に思いながら彼に声をかけた。
「……ここに、本当にいるんですか? 食人鬼が」
「間違いないさ、俺の情報網を舐めないでくれ」
「でも、ここは――――――」
見覚えがある。というか、覚えしかない。
確かにこの場所は、間違いなく俺は来たことがある……と、思う。
なぜ、そう思うんだ? 俺は、はじめての、はずなのに。
――――――だって、ここは、ここ、は?
俺は頭がくらっと目眩がし始める。
方向感覚が狂って、左右と前後がおぼつかない。
「大丈夫? 居神君」
わずかに聞こえる坂口さんの声に、俺は返答することはできなかった。
頭が、あまりにも痛みで悲鳴を上げている。
あれ、どこだっけ。
俺は、どうして覚えがある気がしてるんだ?
「ようやく見つけたよ――――――食人鬼さん」
俺を助けてくれると、そう縋った人の声が聞こえた。
ふらつく頭に手を当てて、声をした方の人影を見る。
「お前!! リーズニングキラーか!!」
「――――――耶衣子、さん?」
首筋に伝うナイフの冷たさを感じて、目の前の女性を見つめる。
俺が、食人鬼!? そんなわけあるはずがないのに……!!
どうして、耶衣子さんは俺にナイフを突きつけているんだ!?
「終末屋様! 私の言ったとおりだったでしょう!?」
「そうだね蜜祈ちゃん、教えてくれてありがとう……まさか、この子だったとは思わなかったよ」
耶衣子さんの隣からピンク頭が隣から出てくる。
彼女の嘲笑に、俺は強く反論した。
「お、俺は食人鬼じゃありません!」
「口で言うのは簡単だね」
「そんなの、耶衣子さんが知ってるじゃないですか!!」
「避けろ! 居神君!!」
横から坂口さんは銃を発砲するが、俺の首筋に突き付けていたナイフで銃弾を払った。
耶衣子さんは隠しナイフで坂口さんに向かって投擲した。
坂口さんは左に避けて、銃を四発発砲する。
耶衣子さんは一発目をナイフで弾き、二発目はナイフを軽く空中に投げてバク転しようと後ろに身体を下がって生きながら避けて、三発目はバク転しながら交わし、極めつけの四発目は落ちてくるナイフを掴んで弾丸を薙ぎ払った。
……惚れ惚れする一連の仕草に、拍手を送りたくなる衝動なんて今あるわけがない。
俺は頭を抑えながら、目隠しで隠れた彼女の目を睨みつける。
「それじゃ、君、死んでくれるよね? 私に殺されたがっていたんだから、特別問題はないでしょう?」
「でも……こんな終わり方なんて……俺は嫌です!!」
「そう、でもごめんね。依頼はきちんとさせてもらうよ」
銃声が響いたと思うと、耶衣子さんが坂口さんの銃弾を二発、俺の方に弾いて来た。
頬に、銃弾が掠めてうっすら血が伝う。
「俺がいることを忘れるなよ! 推理殺し!!」
「君は、本当に邪魔が好きだな。そんなんだから、苦労をするんだよ?」
「余計なお世話――――っ!?」
「坂口さん!?」
銃口を構える坂口さんは、じっと銃を構えようとしたが、いつの間にか忍び寄ってきていたのかピンク頭が坂口さんの腹にナイフで刺した。
「お前……なんで、こんなこと……っ」
「うるさい! あの人は、絶対に殺させないから!!」
「くっ……!!」
「坂口さん!!」
俺は坂口さんに駆け寄ろうと耶衣子さんに背を向けた。
それが、仇となったのだ。
「それじゃ、こんな茶番をいい加減終えようか」
「……!! 耶衣子さん!!」
耶衣子さんは俺の背後を回り込み、俺の首筋にまたナイフを突き立てた。
「耶衣子さん、頼みます。俺を、まだ今だけは殺さないでください!」
「断るよ、君は無残に名を残せず死ぬんだ」
首筋が引き裂かれた感覚が襲った。
切り開かれた首筋から、血が大量に噴き出る感覚がする。
「うぁあああああああああああああああああああああああ!!」
とめどなく飛び散る血飛沫を目に捕えながら、俺は視界が黒に支配されていく。
こんなにも、無力な死に方……する、なんて。
「おやすみ、少年」
耶衣子さんの穏やかなその言葉を聞き取れずに俺は絶命した。




