愛屋及烏.12
「おい、いつまで俺の腕引っ張ってるつもりだよ!!」
俺たちは廃墟から出てきて、いつまでも腕を引っ張ろうとするピンク頭に声を荒げた。
「うるさいクズ! あの人、切れたら怖いんだから!!」
ピンク頭は反論しながらも、瞳には恐怖心がにじみ出ていた。
そ、そんなに怖いのか?
とにかく、俺は無理やり力で振りほどく。
「……ど、どんな風に怖いんだよ」
「ずっと笑顔、声のトーンが一定。目が笑ってない」
「た、確かにそれは怖い……」
「でしょ、だからあの人は怒らせるなよ、後が怖いんだから」
……ちょっと想像してみるか。
口角が上がってる耶衣子さん。そして、声の抑揚があまり感じなくて、目が笑ってない……って、目隠ししてんだからわかんねぇだろ!! 心の中で盛大に手で突っ込んだ。
「空気で察しろ陰キャ」
「陰キャと罵ることを空気をすることと同じレベルで言うんじゃねえよ!! お前は相手を罵ることしか能がない鷹か!!」
「能ある鷹は爪を隠すだろうがそれは」
「だってお前爪隠してねえじゃん、要するにバカって言ってんだよ。あ、それにも気づけねえか低能ちゃん」
「お前ぜってぇ恋人の萌え袖に興奮するタイプだろ、キモ。低能さがにじみ出てるな脳みそすら性欲にしか向けられねえハゲタカさんは髪の毛もはげちゃうんですよねぇ? 笑える」
「やっぱ俺お前嫌いだわ」
「同意見、アタシもアンタ大っ嫌い」
バチバチ、と互いの視線に火花が散っているの肌で感じる。
俺絶対、こういう女彼女にしたくない。いや、恋人にもしたいという感情すら沸きたくない。
俺のじいちゃんがハゲてたから俺もそうなるかなとか思ったことのある俺としてとても聞き捨てならない。マジ嫌いだ、コイツ。
「あ、実は気にしてた? ちょっと目がウルウルしてるけど」
「るっせぇ、顔がいいからって調子に乗んな」
「ふぅん、人を褒められる技量は塩ひとつまみ程度ぐらいはあるんだ」
「な、なんだよ」
ピンク頭は俺の顔を覗き込む。
近くで見れば、目隠しをしていても美人だとわかる耶衣子さんのようにとても綺麗な顔をしている。けど、でもなんだろう……コイツの目をじっと見つめていると、頭がとろんとしてくる気が。
「でも、お前目が虫集ってんな。眼科に行っても完治できない程度には腐敗してるわ」
カチン。
やっぱコイツ嫌いだ。
でも、コイツは俺みたいに嫌なことがなければ、耶衣子さんの側に居ようとしないよな。
こんなに毒舌なんだし、もしかしたらいじめっ子だった可能性もあるか。
だとしたら、コイツを擁護する気にはならないけど。
「お前の罵倒、学校のいじめっ子共にでも学んだレベルじゃないだろ。どんだけ毒舌なんだよ」
「アタシは空気読めない奴は嫌いなだけだよ、例えば葬式とか亡くなった人を想う場所なのに特定の相手のことをずっと罵り続けてる一家とかは特に」
「……それ、って――――――」
「それ以上何も言うなよ、それ以上言うならお前の舌切り落とすから」
ピンク頭は、俺に横目で睨みつける。
…………ああ、やっぱりコイツも耶衣子さんに殺してもらえるようにお願いしたりしたのかな。
同情するつもりは絶対ないけど。それは絶対したくもないしする気もないけど。
でも、終末屋に耶衣子さんの近くにいるというのは、そういう意味になるよな。
「それに、アンタが犯人見つけられなかったらアタシが殺していいんだし、一石二鳥だね。あの人の隣にお前なんか不要なんだよ」
「勝手に言ってろ、俺はあの人の助手になるんだよ」
「ふぅん。無駄な努力だと思うけどね。ま、せいぜい無駄な足掻きでもしてみれば」
ピンク頭は片手でひらひらと手を振りながら、先に歩き始めた。
俺は、ふぅと夜風が吹く新宿の街の中、自分の家まで帰ることにした。
予想と違ったけれど、それでも俺が望んだ死を与えてくれるのだと、期待に胸を膨らませながら月明かりの夜道を歩き始めるのだった。




