それは囁く。出てはならぬと
出てはならぬ。そう仰るかのような貴方。堕落と快楽の世界にわたくしを導く。
大人しくして下さい。見張りの黒きケダモノは何故か無駄に可愛らしく感じる。モフモフだからだろうか。そして片時も離れまいとする様に、わたくしに張り付きその場に留める。
堕落と快楽の世界に。
わたくしにはやるべき事がある。
わたくしは成さねばならぬ事がある。
外は冷たき風が吹いている。わたくしが動かねば困る者がいる。
世の中は汚物にまみれ、荒れ果てる。
与えられた責務を放棄した為に起こる惨劇。
後悔と懺悔の世界。
出てはならぬ。わたくしが動こうとすれば言葉無き存在なのに、そう囁く様に感じる貴方の存在。
ここにいるのです。可愛らしき黒きケダモノがモフモフしながら、わたくしにひっついてくる。
堕落と快楽の世界に。
わたくしは、この様な場で留まっててはいけない。
わたくしは、与えられた責務を山と背負っている。
時が一刻、一刻と過ぎゆく。
今すべき事を成さねば。
世の中に飢えが襲い、人は倒れる朽ち果てる。
与えられた責務を放棄した為に起こる惨劇。
後悔と懺悔の世界。
出てはならぬ。蕩けるような安らぎの魔力を放つ貴方。温もりに癒されわたくしは、クタクタになってしまう。
行ってはだめでち。卑怯にも、寝転ぶわたくしの腹の上で丸くなる見張り。重い……。う、動けぬが幸せなひとときにうっとりとなる。
堕落と快楽の世界に。
わたくしは闘う!自分自身と!
このままぬくぬくと過ごしたい
だが上げ膳据え膳ではない生活
わたくしが動かねば誰が動いてくれるの!
可愛らしきケダモノにカリカリ、ジャーキー
トイレシーツの交換。
濡れ落ち葉が腹減ったと煩く囀るから
冷え込む台所で食事を作らねばならない
ケダモノの世話以外、実のところ、いち日位、放棄したい。
だが
濡れ落ち葉様が台所にお立ちになると
惨劇が起こるのは必須。
インスタント袋麺すら、自身がお選びになったIHクッキングヒーターの為、作れない濡れ落ち葉様。
有ろうことか、頼みの綱のカップ麺はきらしてる。
妄想すると広がる。
後悔と後悔と後悔と後悔と後悔。
雪起しの風が吹き荒れる。ガタガタと揺れる窓ガラス。
出てはならぬと、こたつ様が仰って下さっている。膝の上にはモフモフのチワワ様。
ぬくぬくしていたいのですが。
年末年始の休暇、濡れ落ち葉様と私のお昼ごはんを準備しなくてはいけません。チワワ様にもおやつを献上しなくては。
出てはならぬこたつから、ぽそりと外に出る。