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第4回

妹がiPhoneに変えて嬉しそうでした。私も今年からiPhoneユーザになったのですが、一度iPhoneで慣れるとまたandroidに戻るのは無理ですね...

「そこ!顎をしっかり地面につけろ!一からやり直させるぞ」

教官の檄が飛ぶ。

何百人という人が石畳の下でからだを倒していた。大きい声、高い声、低い声、枯れた声、悲鳴に近い声様々な声が入り混じる中、教官の声はどの声よりも通っていた。ユウは石畳に両手をつき、手と足のつま先だけで中肉中背の体躯を支え肘を曲げたり戻したりしていた。顳顬からは玉のような汗が吹き出し、目の中に入ると網膜に痛みが走る。汗は頬を伝い石畳に雫となり落ちていく。石畳はユウの力と水分を奪っていくのとは反比例して、水たまりを作っていた。腕立て伏せ300回と言われ広場の前で休むことなく腕を動かし続けているが、肘の感覚がなく上腕筋も悲鳴をあげている状態だった。

 僕は15歳になり、冒険者の養成学校に通うことになった。村の子どもたちは兵士に登用されたり、鍛冶職人や農夫など国に奉仕したり家業を継いだりしていったが、僕はアンリと見た誰も経験し得ない冒険に魅せられ父から剣を学びながらも冒険者になる夢をあきらめていなかった。15になる前の秋、僕は両親に冒険者の養成学校に行く許可を出してくれないかとお願いした。僕は我儘を言う方ではなかった。両親の畑の仕事は手伝っていたし、何かものをねだることもほとんどなかった気がする。そんな僕が一生に一度の願いとして冒険者になることを告げたのだ。

父は安いワインを飲みながら「そうか」と顎髭に手を当て少しばかり考えたあと、「わかった。農夫になるのはいくつでもなれる。ただ冒険者は今しかないからな」と快諾した。母も父の意見に賛成したようだった。ただし、父から条件が付けられた。もし、卒業後に冒険者としての仕事を受けることがなければ村に帰ってきて家業を継ぐこと、だった。僕はそれを受け入れ、都にある王立の冒険者養成学校へ通うことになった。

アンリも僕と同じく母親に冒険者になることを伝えたようだった。アンリの母は言っても聞かないだろうと根負けしてアンリを養成学校に行くことを許したようだ。これまでにも冒険者になった村の者はいたが、全員男でアンリが冒険者になれば村では女性初の冒険者となる。

はっきり言ってアンリは既に覚醒していた。ガキ大将として村の子どもを束ねていたのもそうであるが、一緒に剣の手ほどきを受けていたアンリと僕の間で、父を圧倒したのはアンリだけだった。僕は習い続けて10年経っても父を負かすことはできなかった。父に「彼女が女として生まれたことは村の唯一の不運だ」と言わせるほどにアンリの剣筋は冴えていた。

15歳になった春、僕とアンリは都に行く馬車に乗り村を出た。アンリの母は泣いていたが、アンリは涙一つ見せず「立派な冒険者として帰ってくるから。お母さん、村のみんないってきます」と笑顔で元気に旅立った。

馬車に揺られながらアンリはいつかあげた髪留めを撫でながら夢を語った。

「ユウ、わたし達ちゃんと冒険者になって村のみんなに土産話をしましょう」

「うん。一緒に頑張ろうアンリ」

「頑張りましょうユウ」


 アンリと二人で決意を立てたわけだが、現実はそう甘くはなかった。厳しい訓練に周辺諸国の内政事情や地形の特色など覚えることも多く1年が経つが、正直言って成績は芳しくない。腕立て伏せ300回を終えると力尽きて地面に倒れ込んでしまった。周りの学生もさすがに息を切らし、立ち上げれずにいた。僕はヒエラルキーで言えば中の下くらいのポジションであった。今日もついていくのにやっとというところだ。

教官から「今日はここまで」という声が掛かった。校舎にある大きな時計台を見ると18時を指していた。

「ユウ、立ち上がれるかい?」

「ああ。ありがとうリリアンヌ」

リリアンヌはポニーテールをなびかせながら僕の手を引き立ち上がらせる。白地のトレーニングウェアは汗に濡れ、彼女のボディラインが際立っていた。首筋には汗が流れ胸元に吸い込まれていく。三日月型のネックレスが汗に濡れて怪しげに光っていた。

「今日はどうする?疲れたのなら無理にとは言わないが」

「いや、お願いするよ。このままではいけないから」

「よし。剣術を少ししてから夕食の後は今日の復習でもしようか」

リリアンヌは白い歯を見せた。

リリアンヌは同じ騎士科の同期だ。序列5位の成績優秀、眉目秀麗その上僕のようなおちこぼれにも慈悲を掛ける優しい少女。騎士科の中でも一、二を争うほど男子に人気のある娘だ。僕はこのところリリアンヌに剣術や勉強を教えてもらっている。

全日課が終わり周りの学生は宿舎や食堂へと向かっていった。食堂へ向かっていく群れの中でも密度が特に高い集団がいた。アンリだ

アンリは同じ騎士科に入学したが入学後直ぐに頭角を現し、序列1位で去年の校内闘技大会でも上級生を差し押さえ優勝を遂げた。アンリは僕なんかをとっくに抜き去り雲の上の存在へとなっていたのだった。アンリは囲いの学生たちに構うことなくスタスタと食堂へと向かっていく。

アンリがこちらを一瞥した。ふとアンリと目が合うがアンリは無表情ともとれる顔でこちらを見て再び前を向いて食堂に入っていった。

気のせいだろうか睨まれた気がする。

「どうしたんだいユウ」

「ううん。よろしくお願いするよ」

僕は模造刀を持ちリリアンヌに立ち向かった。リリアンヌも模造刀を構え、腕を動かし刀を前後させている。刀を交え鎬を削る。力で押し返そうとするが、リリアンヌは涼しい顔をして僕の押しこみをあしらっていた。

刀を離し、胴を狙おうとするとリリアンヌはひらりとかわし懐に入り込む。気がつけば僕の喉仏には剣先が突きつけられていた。

「まだまだ甘いねユウは」

「はぁ、参りました」

リリアンヌは僕の喉元から模造刀を離して腰に収めた。

「でも、前よりは剣筋はよくなったよ。ただ力任せにしようとしてるところがまだあるね」

彼女の指摘はいつも的確だった。できているところは褒め、ダメな部分を具体的に教えてくれる。リリアンヌは指導はとてもわかりやすかった。

「これだけはどうしても抜けないなぁ。父が力で押し込めと言っていたから癖かもしれない」

「ユウではどうしてもガタイのいい相手には勝てないからね。やはり技術を吸収していくしかないよ」

「うん。」

リリアンヌは僕の後ろにまわり、二人羽織になって技を教えてくれる。リリアンヌの柔らかい胸が背中に当たる。僕の全神経は肩甲骨に集中しているかのように感触が如実に伝わる。白く細い手で僕の手を握り剣を繊細に振り回す。これはこうして、と懸命に教えてくれるが頭が回らない。

「聞いてるかい?ユウ」

「え?う、うん」

「もう今日はやめるかい?」

リリアンヌは呆れたように言う。僕は今度は気をつけるよと彼女に謝り特訓は1時間ほど続いた。


次の日、南海諸国についての授業が終わりお昼となった。学生は売店や食堂へと向かっていった。僕も食堂へと椅子から上がると

「ユウ」

机の前から声をかけられた。目の前を見上げるとアンリが「一緒にお昼食べない?」と誘ってきた。アンリから声をかけられるのは久しぶりのことだった。いや、僕が自然と避けていたのかもしれない。教室の窓からはポプラの木が見えた。新しい葉に生え変わる時期で青々としていた。僕たちはこの学校で二度目の春を迎えていた。僕は首を縦に振り、アンリと一緒に食堂へと向かった。

「お友達はどうしたんだい?」

「友達?私に友達なんていないわ」

「でも、いつも周りにいるのは」

僕が訊ねるとアンリは疲れたように

「勝手についてきてるだけよ。一緒にご飯を食べないかって。私馴れ合いは好きじゃないの。」

と吐き捨てた。食堂につくとトレイを持ちパンやおかずなどを受け取り、一番端のテーブルに腰掛けた。アンリはブロンズの髪をかき上げてコーンスープに口を付けた。唇が濡れ艶っぽくなりそれがなんとも色気を出していた。話題が浮かばず「アンリとこうして昼食を食べるのはいつぶりだったかな」と聞くと「8ヶ月ぶりよ」とすかさず返ってきた。

「随分が仲が良さそうね」

「え?」

「ユウとリリアンヌよ」

「ああ。今年に入ってから剣や勉強などを教えてもらっているんだ」

僕はレタスを齧った。アンリは器用にナイフを使いながら「そう」と相槌を打ちながら肉を切り分けていた。視線は食べ物に向かっていたが、急にナイフを使う手を止めこちらを見て、

「ユウはあの娘のこと好きなの?」

と唐突に質問をしてきた。僕は「は?」と間抜けな声を出した。アンリから発された言葉の意味を飲み込むのに時間が掛かった。ガラスのコップに注がれた水をがぶ飲みする。

「リリアンヌとはそんなんじゃないよ。」

僕が弁解するとアンリは「そうなの」と切り分けた肉をフォークで突き刺しひょいと持ちあげ口に運んでいた。

「それじゃあ聞いておきたかったことがあるのよ」

「なんだい。なんでも聞いてくれよ」

「じゃあ遠慮なく」とアンリは前置き、僕を見据える。

「どうして私以外のに見てもらってるのかしら」

アンリの口調は怒りも哀しみもこもっていない非常に無機質なものであったが、アンリの瞳は何か言いたげであった。

「なんでって...」

「彼女よりも私の方が付き合いが長いのだし、それに私の方が強いんだから私に頼めばいいでしょう?」

僕の答えを遮るようにアンリは立て続けに言葉の応酬をかけてくる。やや横暴な主張だが、実際強いのはアンリだ。リリアンヌよりも序列は上なわけであるし、成績も前回の考査では彼女よりも数十点の差を付けて学年1位であった。僕は120人中62位だったのだが。

僕は「はは」と渇いた笑いを浮かべるほかなかった。何故アンリに教わらずリリアンヌに教わっているかその理由が特にはなかったのだ。

「ユウが彼女のことを好きならまぁ分かるのだけれど、彼女も何かと忙しいでしょうしあまり迷惑をかけちゃダメよ。まぁ....きでも.....のだけれど」

最後の方は聞き取れなかったが、確かにその通りかもしれない。彼女も授業に自分と同じように自習の時間があるのだろうから。

「そうよ今度私がユウを仕込んであげるわ!」

アンリは目を輝かせて僕に特訓の提案をした。僕は大変じゃないか?と聞いたが「私のウォーミングアップ程度にはなるわ」と何気に毒のあることを口にした。

「久しぶりにユウと食事が出来て嬉しかった」

アンリは食器を片付け、トレイを持ち上げ席を立つ。笑うとセミロングの髪が少し揺れた。

「また一緒にお昼を食べましょ。あ、それと..」

アンリは何かを思い出したように僕の耳元に近寄り、「リリアンヌとはあまり関わらないほうがいいわ」と囁き帰っていった。

帰り際見せた笑顔は村にいた頃の無邪気な彼女と何も変わってはいなかった。

閲覧ありがとうございました。

昨日から未来日記を見始めています。クリスマスに最終回を迎えれればと

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