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オフステージ(惣堀高校演劇部)  作者: 大橋むつお
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098・その千歳が落ち込んだ

REオフステージ (惣堀高校演劇部)


098・その千歳が落ち込んだ 






 日本のproverbに『人間万事塞翁が馬』というのんがある。



 良いことが悪い結果を招いたり、悪いことが良い結果を招いたり、人生は分からへんもんやという意味。


 ホームステイ先のお婆ちゃんに聞くと「禍福あざなえる縄のごとし」という言葉も教えてくれた。


 これは、人生は良えこと悪いことを三つ編みみたいに捩ったようなもんやという意味で――人生捨てたもんやない!――というAKBのヒット曲みたいな含蓄がある。


 ミッキーを説教しに行って、やっちまった捻挫がこじれて車いすの世話になって二週間。


 とんだ不幸やったけど、車いす大先輩の千歳といっそうの仲良しになれた。


 惣堀高校はバリアフリーのモデル校やけど、それでも身体障がい者が普通に生活するのは大変なんやと、それこそ身をもって知ることになった。


「もー、見てられません!」


 にわか車いすが危なっかしくって、千歳は拳をふるって宣言。電動車いすをやめた。


「このほうが小回りが利くんです」


 あくる日からは自分のを人力に替えてきた。じっさいに小回りが利くためか、わたしが人力なので合わせてくれたのか、たぶん後者の方やねんやろうと済まない気持ちになった(-_-;)。


「ほらね!」


 クルクルクルクルクルクルクルクルクル(^▽^)!


 廊下で車いすバスケットの選手のようにクルクル回って見せてくれる。


「わたしもやるぅ!」


 クル……クル……クル(^_^;)


 真似してやってみるけど、千歳の半分もでけへん。


 それでも、速さは出ぇへんけど乳酸は出るわけで、2分もやると腕やら肩やらの筋肉がパンパンですわ。


「あーーもうあかぁぁぁん(''◇'')!」


「ハハ、無理しない無理しない(^_^;)!」


「しかし、この細っこい体のどこに筋肉が付いてんのんよぉ?」


「アハ、いっしょにお風呂入ったら分かりまーす」


「よし、こんどいっしょに入ろう!」


 約束はしたけど、健常者のようにはいかへん。


 介助者がいるし、介助者も含めて四人が一度に入れるお風呂は一般家庭には無い。


 まあ、その場のノリで出てきた掛け声みたいなもんやから、それっきりになってる。



 その千歳が落ち込んだ。



 文化祭で演劇部が芝居をやることになったからや。



 でも、何年も芝居をやったことのないパチモン演劇部。何をやってええのか分からへんで、図書室で鳩首会議。


 なかなか決まらへんで唸っていると、図書部の敷島先生(彼女は八重桜というニックネームなんやけど、その意味は分からへん)が『夕鶴』という芝居を提案して、ついでに主役を千歳に押して決まってしもた。


 それから千歳に元気が無い。


 車いす仲間として放っておかれへんので聞いてみたけど「え、なんでもないです(^_^;)」と笑顔を向けてくるばっかり。


 ちょっと寂しい。


 演劇部で一番仲良しになったと思ってたけど、やっぱアメリカ人のわたしには越えがたいバリアーがあるような気ぃがした。


 外国人にとって日本は居心地のええ国やけど、居心地の良さは観光客でも長期留学生でも変わらへんねんけど、結局はお客さんというところがあって、容易には心を開いてもらわれへんねんやろか……と、ちょびっと寂しい。


 それで三日ほど、千歳とは距離が出来てしもた。


 ドアというのは押すか引くかすると開くものなんやけど、心のドアは簡単やない。


 せやから下手に気ぃつかわんと、そっと見守っている。


 アメリカやったら、友だちがこんな風に変わってしもたら、息のかかるくらい近くに寄って肩に手ぇかけて「黙ってたら分からへんがなあ」と声をかける。それで、友だちが傷ついていたらガシっとハグする。


 でも、ここは日本や。忖度とか以心伝心とか空気を読む日本なんや。



「ちょ どいてどいてえ(><)! 通してええ(>▭<)!」



 朝礼間近の廊下、ロードレースみたいな勢いで千歳の車いすが突進してきた! 


「ちょ、ち、千歳えええ!!」


 キキキーー!


 激突寸前、器用に車いすを急停車、赤い顔で宣言した。



「ミリー先輩! 先輩が主役をやるんですよ!」



 え! なんやて( ◎Д◎)!?

 



☆彡 主な登場人物とあれこれ


小山内啓介       演劇部部長

沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる

ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿

松井須磨        停学6年目の留年生

瀬戸内美春       生徒会副会長

ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生

シンディ―       サンフランシスコの高校生

生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口

先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)

惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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