079・美晴の「ゲ、なんだって!?」
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
079・美晴の「ゲ、なんだって!?」
ちょっと自己嫌悪。
十三で迷子になったミッキーは、気の毒にホームステイ先の家が火事になった。
――これでサンフランシスコに帰ってくれる――と思ってしまった。
こういう人の不幸を喜んでしまうところは母親譲りで自己嫌悪。
でも、お母さんが人の不幸を喜ぶのは理由が無い。
ただただ、人の幸せが許せないだけ。
ちょっとバイヤスがかかってる。
冷蔵庫から麦茶を出してラッパ飲み。
クールダウンしなきゃ。
娘のわたしが言うのもなんだけど、お母さんは若くてきれいだ。
――それだけお若くって綺麗でいらっしゃるんだから、なにかやってらっしゃるんでしょ?――
MCの菅沼恵美子さんが聞く。
――ハハハ、めんどくさがりやなんで大したことはやってません。乳液に、気を付けてるかな?――
健康的に笑いながらお母さんは応える。
お母さんは、口を手で隠すということをしない。歯並びに自信があるせいなんだけど、その方が魅力的に見えることを知っている。
それと、乳液だけというのはウソだ。
整形こそはやってないけど、身体や顔のあちこちのリフトアップのための体操というかエアロビというかヨガというかに掛ける情熱には鬼気迫るものがある。ストイックなんて言葉では済まない、なんというか魅入られてるような雰囲気があって怖いよ。
一度凄いところを見てしまった。
鼻から入れた紐を口から出して掃除していた。でもって、次には鼻から入れた水を目から出す。
ヨガ名人のインド人のお爺さんがやっていたら、それなりの納得ができるんだろうけど、美人のお母さんがやると鬼気迫ってしまう。
「アハハ、びっくりしたぁ?」
健康的にオチョクッテくるので、負けじと返す。
「ネットで見たけどね、ヨガのチョー名人は口から入れた紐をお尻から出して、キュキュッて掃除するらしいわよ!」
さすがに嫌がると思ったら、藪蛇だった。
「それいいよね、試してみる!」
で、この人はほんとにやってしまう。
「できるようになった!」
一週間後には帰宅したばかりのわたしに喜々として報告する。
「三種類の紐を試してみたんだけど、須磨はどっちがいいと思う?」
まだ湿り気の残る紐を三本突き付けてくる。
「ど、どれでもいいでしょ!」
それ以来、お母さんがヨガもどきをやっているところには足を踏み入れない。
男だったらどうだろ?
娘や女房が怪しげなことやっていたら、きっと覗くよね。ほら『鶴の恩返し』。けして覗いてはいけないと言われながら男は覗くじゃない。でもって、女房が鶴の姿になって自分の羽を抜いては機を織ってるの。うちの両親が離婚したのは、そういうところに原因があったと思うんだけど、賢明なわたしは踏み込まない。
麦茶のお替わり飲んで、その半分が汗になるくらいの時間考えた。
ミッキーが好意を寄せてくれるのは悪いことじゃない。困るんだけどミッキーを責めるのはお門違いだ。
彼が惣堀高校に交換留学に来たのもたまたまのことで彼のせいじゃない。
だから、火事になったことを喜んだりするのは間違ってる。
「かわいそうミッキー、わたしで力になれることがあったら言ってね」
かけた言葉は社交辞令なんだけど、社交辞令であればこそ、表現には心が籠る。
眉間にキュッと力が入って、それが自分のキュートで可愛い表情になることを気に掛けつつ、ま、これでアメリカに帰ることになるんだろうから、ま、いいや。
お母さんがゲストの番組も、そろそろお終い。
いろいろ考えてしまって、ほとんど観ていなかった。
――そういや、瀬戸内さん、今日とってもいいことなさったんですって?――
菅沼さんが、その玉ねぎ頭の段差のように話を切り替える。
――そうそう、娘がアメリカでホームステイした家の男の子。ミッキーって可愛い名前なんですけど、今度は交換留学で来てるんですけどね。ホームステイ先が火事になってしまいましてね、代わりのお家が見つからないと帰国しなくちゃならないって、可哀そうでしょ? で、決めたんです。わたしの家に引き取らせていただくことに!――
ゲ、なんだって( ゜Д゜)!?
☆彡 主な登場人物とあれこれ
小山内啓介 演劇部部長
沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
松井須磨 停学6年目の留年生
瀬戸内美春 生徒会副会長
ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
シンディ― サンフランシスコの高校生
生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




