047・エリ-ゼのために・2
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
047・エリ-ゼのために・2
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
お茶を飲み終えるとなんだか恥ずかしくなってきた。
「あ、いやぁ、しょーもない話してしもたなあ」
「そんなことないですよ」
交換留学生らしいブロンドの女の子が柔らかく言ってくれる。
「タイトルの『エリーゼ』と転校生の三宅エリ-ゼさんが重なったんですよね」
「それで脚本も一気に書き上げ、お人形もできたんですよね」
「うん、まあ、そうやねんけどな。谷口は書きあぐねてしまいよってな……ま、僕の人形の方が先に出来てしもた」
「うまく行かなくなったんですね、人形のイメージが先行してしまって」
年かさの子が核心をついてきた。
「ああ、そうやねん……ごめん、もう一杯もらえるやろか」
「あ、はい」
車いすの子がトレーで受けてくれ、お茶を淹れなおしてくれる。
「ごめん、出がらしでよかったのに」
「いえ、わたしたちもお茶にしたかったですから」
お茶が飲みたかったわけではない、話を整理したかった。同じ空堀高校の生徒ではあるが、この四人は四十三年後の高校生だ……ふさわしい話し方をしなければならない。
「そんで、谷口は三宅エリ-ゼと付き合い始めよった」
「うわー!」「おー!」「あらあ!」
「チ!」
歓声が三つと舌打ちが起った。
「あのころは、演劇部で台本書きいうと、ちょっとかっこよかった。オタクやいうて差別されることもなかったからね」
「本は書きあがったんですか?」
「……結果的には書きあがらへんかった。谷口も本書くことより、エリーゼと付き合うことに熱中し出してね」
「ハアァ……リア充って、そんなもんですよね」
年かさがため息をつく。舌打ちは、この子やろなあ。
「ぼくらも本に注文つけ過ぎたんやけどね。注文とか変更は人形にも回ってきてね、あれこれ手を加えてるうちに……なんやグロテスクなもんになってしもてね。ヤケクソの大変更になった」
「大変更ですか?」
「うん、わやくそになってエリ-ゼが腐ってしまう話になったんや。あ、もちろんお話やから、比喩としてね」
「船頭多くして船山に上るというやつですね」
「うん、最後は、舞台に載せた時に腐敗臭がしたらおもしろいいうことで、スルメやらの干物使うて臭い出る仕掛けにしたんや」
「「「「あーーーそれで!」」」」
四人はトランクに仕舞ったミイラに目を向けた。
「年月が経って、ほんまの腐敗臭になってしもたけどね。まあ、あのころもたいがいの臭いやったけどね」
「「「「アハハハハ」」」」
四人は明るく笑ってくれる。屈託のない笑い声は若さだろう。まことに羨ましい。
そのときトントンとドアがノックされた。
「はい」
ブロンドの子が応対に出る。
「すみませーん、薬局の……あ、あんた。根ぇ生やしてしもて、傘持ってきたげたよ」
「あ、すまんエリーゼ」
瞬間、空気が固まった。
「もういややわ、昔の言い方して」
「あの、エリーゼ?」
「いえいえ、この人のてんご。お話のケリついたら、はよ帰ってきなはれや」
それだけ言うと、我が老妻にして薬局の看板ばばあは一足先に帰っていった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
小山内啓介 演劇部部長
沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
松井須磨 停学6年目の留年生
瀬戸内美春 生徒会副会長
生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
先生たち 姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




