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オフステージ(惣堀高校演劇部)  作者: 大橋むつお
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046・エリ-ゼのために・1

REオフステージ (惣堀高校演劇部)


046・エリ-ゼのために・1                     


※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです






 それは違う!



 俺も谷口も言い続けてきた。


 コンクールを射程に入れた文化祭の上演作品『エリ-ゼのために』はけっして転校生の三宅さんがモデルではないと。


 なぜなら『エリ-ゼのために』の企画は三宅さんが転校してくる半月前にはできていたからだ。


「十代の現在いまでしか書けない少女像を書こう!」


 惣堀商店街名物そうほり屋の冷やしコーヒーで乾杯しながら誓い合った。


 ま、いまから思えば「~ではない」という否定形でしか自己規定や価値判断ができない高二病だったろう。


――身体測定で座高がクラス一番なんて関係ない――俺が斜陽商店街の薬屋ので終わるわけがない――俺の未来は型にはまってなんかいない――演劇部の良し悪しは演技や技術の優劣では決まらない――学校の成績で人間の値打ちは決まらない――俺がいつまでもモテないわけがない――


 そんな具合だった。


 それで、話しは変わるが、あのころのアイドルは美容院のサンプル写真みたいに人工的だった。


 多少個性めいたところがあっても、それは子どもアニメのヒロインのように定型的で底が浅い。清楚・可愛い・清潔・分かりやすい等々の要件をミキサーにかけて固めて輪切りにしたように均質。かき氷のシロップが名前と色が違うだけで味はみんな同じなのと似ている。


 そうそう、小学生のころ、そうほり屋のかき氷のどれが一番おいしいかで言い争ったことがある。学校の正門を出て商店街の入り口にさしかかるまで「いちごや!」「メロンや!」「ブルーハワイや!」と、その後高校までいっしょの谷口と、言い合っていた。


 すると、いつのまにかそうほり屋のケメコ(ほんとうは恵子)が後ろに来ていていてほざいた。


「あれはなあ、元は同じシロップで、色を変えたあるだけやねんよ」


「え、ほんまか、ケメコ!?」


「ほんまほんま」


「おまえ、そうほり屋の娘が、そんなことバラシてええのんかあ?」


「ほんまのうちの味は『宇治金時』や!」


「「宇治金時ぃ!?」」


「うん、あの抹茶シロップとアンコは正真正銘の特性や!」


「え、そうなん?」


「抹茶は一保堂、アンコの小豆は松屋の一級品やし」


「みんな商店街の店やなあ」


「そうほり商店街は太閤さんの時代からあるねんで、しなもんに間違いはない!」


「あはは、せやなあ」


 斜陽と思っていても家業の悪口は言えない。


「まあ、お年玉もろた時にでも食べにおいで」


「正月の寒い時にかき氷なんか食えるかあ!」


「あ、せや、うちもやってへんわ!」


 アハハハハ(^▽^)(^▢^)(^〇^)


 宇治金時は小学生の小遣いでは手の出ないものだったので、この時はケメコに完敗だった。



 話がそれた、そうそう、アイドル。



 その中にあって、M.Yだけは違った。


 谷口の部屋でM.Yのテープを聞こうとしたら、手入れの悪いラジカセの為にテープがオマツリワカメになってしまい、憂さ晴らしにビールを引っかけたのが悪かった。


 しかし、動機はともかく創作劇を書こうという気持ちは天晴れであった。


 谷口が文章を書き、俺が二次元化した。


「それは朝丘アグネスや、そっちは南淳子や、あかんやっちゃなー」


「そういうこれは岡山百恵やないかー」


 文章と二次元の違いはあったが、二人の作品は、やっぱり美容院のサンプルだ。


 ただタイトルだけは決まっていた。



『エリ-ゼのために』



 当時のアイドルには無い名前、オルゴール曲で有名なこの曲は、名前を聞くだけで万人にイメージを喚起させるインパクトがある。


 夏真っ盛り、冷房の効かない俺の部屋、階下の調剤室から立ち込めてくるドイツの新薬の香りで浮かび上がったのがエリ-ゼだった。


「「これはエリ-ゼとちゃう!」」


 呻吟していた俺たちの前に現れたのが彼女だった。



 三宅エリ-ゼ



 当時珍しい帰国子女、日本人の父とドイツ人の母を持つ栗色のロングヘアー。

 少しドイツ訛の、それでいて正確な日本語、直接口をきいたことはないが、友だちと下校の正門で「ごきげんよう」と挨拶をしていた。


 じきにそぐわないと自覚したのか「さようなら」に置き換わるが「さいなら」というような大阪原人の風には染まらない。


 偶然を装ってすれ違った図書室前。髪の香りはエメロンシャンプーなどではなかった。


「エリ-ゼが降臨してきよった……」


 俺たちのイメージははっきりした。


 一か月後、ストーリーとラフができあがった。


 明らかに三宅エリ-ゼに影響されているんだけど、俺も谷口も自分の中にあったエリーゼの具現化だったと信じた。


 ほら、仏師とかが言うじゃないか、仏様を彫るんじゃない、木の中におわします仏様を掘り出すんだって。


 雨の季節になってプロットとラフは精緻になってきた。


 俺は、エリ-ゼを二次元から三次元に昇華させた。


 そうなんや、それがあの人形や。


 それがなんでミイラかて?



 まあ、ちょっとお茶飲ませてくれるか。



 千歳という子が器用に車いすを旋回させてお茶を入れ替えてくれる。


 四十三年前の演劇部の子たちが、あのころの時空からやってきたような親しさを感じさせてくれる。


 雨はまだ降り続いている……。

  



☆彡 主な登場人物とあれこれ


小山内啓介       演劇部部長

沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる

ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿

松井須磨        停学6年目の留年生

瀬戸内美春       生徒会副会長

生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口

先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)

惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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