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オフステージ(惣堀高校演劇部)  作者: 大橋むつお
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001・ただ今四時間目

REオフステージ (惣堀高校演劇部)


001・ただ今四時間目                       


※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 世の中で一番だるいものは四時間目の授業だ。



 三時間目まででなけなしの集中力は弛み切っているし、空っぽの胃袋は昼食を欲して何を見ても食べ物をイメージしてしまう。


 小山内啓介は窓側の一番後ろに座っているので、並み居るクラスメートがコンビニの棚に整然と並ぶお握りの列に見えてきてしまう。


 姫ちゃんこと姫田先生が板書の左端に付けたしの注釈を書いたので、啓介の二つ前のミリーが身を乗り出した。


――ああ、冷やし中華食いたいなあ…………――


 啓介は交換留学生のブロンドの髪もコンビニの冷やし中華の黄色い麺に見えてくる。


「4時間目て、お腹空いて眠たくなって、板書のトレースだけになってしまうよねぇ」


 姫ちゃんがチョークを置いて語り始めた。語ると言っても姫ちゃん先生はお説教などはしない。程よく脱線してみんなの脳みそを覚醒させようとするのだ。


「わたしも高校生のころは眠たかったあ……」


 そこから始まって、姫ちゃん先生は自分の高校時代を語り始める。高校の先生というのは妙なプライドがあって出身校の話は、あまりしない。

 しないからこそ効果的だろうと姫ちゃん先生は語る。教師としてツボを心得ているというよりは、いまだに学生気分、いや、高校生の気分が抜けないからだろう。


「北浜高校は校舎を建て替えたばっかりでね……」


――ほう、北浜高校やったんかぁ――


 北浜高校と云えば府立高校でも五本の指に入ろうかという名門校。初めて聞く姫ちゃんの履歴でもあり、姫ちゃんの評価は5ポイントほど上がった。


「食堂がメッチャきれいやねんやんか。きれいになると味もようなるようで、唐マヨ丼がワンランクほどグレードが上がってね」


「唐マヨ丼て、どんなんですか?」


 丼もの大好きなトラやんが聞く。


「丼ご飯の上に唐揚げが載っててね、出汁とマヨネーズがかかってんのん」


「美味そう!」と「キモイ!」の声が等量で起こった。


「ヌハハ、それで、それをテイクアウトのパックにしてもろて中庭とかで食べるのん! キモそうやけど、あたしら三年生には一押しのメニュ-やったなあ! 数量限定やったけど、あたしらの教室は食堂に一番近かったから食いぱぐれはなかった!」


 昼ご飯前に美味しいものの話をするのは反則だ。これは姫ちゃん先生の憎めない人柄だ。お腹の虫の鳴き声に閉口しながらも啓介は思い至った。


 そう言えば、世界史の隅田先生も似たような話をしていた。


「丼ものはパックに入れて食堂の外でも食べられた。府立高校ではうちだけで、ゴミの始末が問題になって一年で廃止になってしもたけどな。ぼくら3年生は嬉しかった」


 ……隅田先生は学校名は言わなかったが、同じ北浜高校だと考えられた。


「ひょっとして、姫田先生……」


「なに、小山内くん?」


 そのとき廊下を歩く隅田先生が目に入った。廊下側のセーヤンも同じことを考えていたようで、開けっ放しの後ろの出入り口から隅田先生に声をかけた。


「……ということは、姫田先生と隅田先生は北浜高校のクラスメートとちゃいますのん!?」


「「え……ええ!!」」


 二人の若い先生は教室と廊下で同時に驚いた。


 姫田先生は現代社会、隅田先生は世界史、共に社会科だから同じ部屋に居る。それも二人そろって去年の春に新任でやってきた。それが今の今まで同級生であることに気づかなかったのだ。惣堀高校二年三組の教室は暖かい笑いに満ちた。



「そやけどなあ……」



 啓介はコンビニの袋をぶら下げながら思った。


――なんや一幕の喜劇を観るようやったけど、同級生やったいうことにも気づかへんいうのは、ちょっとコミニケーション不足なんとちゃうのかなあ――


 惣堀高校は府立高校の中でも老舗で、レベルもそこそこだ。春の海のように波風がたたない。生徒も教師も温泉に浸かった猿のように平和だ。

 イジメや校内暴力とも無縁で穏やか。生徒の自主性を重んじるという伝統の下に、実質は放任されて、少々の無茶やはみ出しは見過ごされる。


――大丈夫なんかい?――


 チラとは思ったが、昼食のため演劇部の部室に入ったとたんに忘れてしまう啓介だった……。



 

 


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