36. あらぬ疑い
厨房にたどり着いたジジは、10数名いる船舶料理人の一人に話しかけた。
「すみません。食材を見せてもらえないでしょうか?ある野菜が欲しいのですが。」
「あん!?今忙しいんだ!奥の倉庫にあるから自分で探しな!」
男は持ってる包丁で、奥の一室に刃先を向けた。
「ありがとうございます!」
「礼はいらねぇよ!客人だからな。だが、厨房は俺らの聖域。勝手に入ってもらっては困る。次からは気をつけな!」
「は、はい!すみません。」
ジジは奥の倉庫部屋へ小走りで移動した。
欲しいものは『生姜』だ。
実は生姜には、冷え性や風邪予防に効く以外にも効能が沢山あるのだ。
その一つに酔い止め効果がある。
あまり知られていないが、前世で売っていたどの市販薬より効果は抜群なのだ。
まぁ、この世界の生姜が同じ効果があるかどうかは疑問だが。
試してみる価値はある!
\ピンポーン/ ※効果には個人差があります
「う~ん。あっ!!あったぁ~!!」
部屋には沢山の棚が。
前世でよく見た野菜や保存肉が並ぶ。
その中にお目当てのものを見つけた。
ジジは手にとった生姜を試しにかじってみる。
「ん゛!まじがいない!じょうがだ!」
早く!みずッ!水ッ!!
戻らないと!!
「ありがとうございましたぁ!!」
ジジは大きな声でお礼を叫んで、厨房を飛び出した。
「ただいま!!」
部屋に入るなり置いてある水を飲み干す。
「おかえり。探し物は見つかったっスか?」
「はぁ~、おかげさまで。これで薬が作れそうですよ!」
そう言うと持ってきた生姜を見せる。
一株拝借してきたので、この船旅分くらいにはなるだろう。
「本当なら粉末や錠剤に加工したい所だけど、時間的に無理そうだね。やっぱり煎じて飲むしかないかな?」
「オトコなら!かじれっス!!」
「飲むのはあの二人だよ~。」
「そうだったっスね!」
「「・・・・・。」」
なんか無言の圧力を感じる。
それは気にせず、生姜と一緒に持ってきたおろし金ですりおろす。
同じく拝借したレモンを絞る。
「あとは、頼んだものが来れば!」
タイミング良く船室のドアをノックする音が聞こえる。
行きがけに頼んだ、はちみつと温めたエールだ。
何気にVIP待遇らしく、この部屋専任で世話人が数人ついている。
ミラナさんに感謝だな!
「これらを適量合わせると~!なんとッ!これが!?そう!かの有名な!」
「じらすっスね~!」
「お待ちかねの!!ジンジャーエール!!もどき!」
前世では調子が悪くなった時、薬がわりに良く飲んでたな~。
一人暮らしだったから看病してくれる親しい人もいなかったし。。。
「また変わった飲み物っスね~。」
「美味しいんですよ~?二人が起きたら飲んでもらいましょう!」
《アストラス王国 王都オルアレン》
「やっと着いたっスね!」
「生まれた土地って実感ないな~。」
「長かった__。船は、もういい、かな。。。」
「同感ですぅ。」
リリーとシーナはうんざりした表情をしていた。
二人はというと、船酔いは収まったものの。
船に乗っていた数日間は気分がすぐれなかったようだ。
普段と違って、あまり会話という会話をしていない。
「なんだろう?やっと地面に足をついてるのに。揺れてる感覚。」
「リリー様、分かります!世界ってこんなに揺れてましたっけ?」
「二人とも、行くっスよー!」
重い足を引きずりながら、先を歩くジジ達の元に歩いて行った。
街は港と隣接というのもあって、どこを見ても人、人、人!!
露天が立ち並び、広場では大道芸に人だかりができていた。
さすが王都。
他の街とは違い、お祭りに似たに賑わいを見せている。
「まずは、ジジ君の街について聞き込みしないとっスね!」
「そうですね。では冒険者ギルドに行ってみるのはどうでしょう?」
「いいっスね~!っとその前に出店で腹ごしらえしようっス!」
ジジ達が周りの露天を見回していると、通りの奥から5人の衛兵が。
何か物々しい雰囲気で、こちらに気づいて近づいてきた。
「獣魔を従えているそこの3人。」
「はい?」
「ジジという名の者はいるか?」
「はい、私ですが?何か御用でしょうか?」
「ん?聞いていた話と年齢が違う、が・・・。まぁいい。『リスタ』という名を知っているか?」
「リスタ?母の名前ですが?ご存知なのですか?」
情報源が向こうからやってきた!
探す手間が省けた!
「そうか。ならば付いて来てもらおう。聖女リスタ様は大罪の容疑がかかって拘留されている。助けたくば、」
「えぇ!!?拘留!?なんで!?」
ジジは衛兵に掴みかかる。
「落ち着いて!話は最後まで聞くっスよ!」
「ん゛!続けていいか?」
「すみません。」
「約半月程前、大規模な魔法による王都への攻撃があったのだ。幸い死傷者は出ていないが、敵が王都に潜伏している可能性がある。その手引きをしたと容疑が掛かっているのが、領主のノーザンバーグ家。我が王は疑いを晴らすため、唯一の被害者で行方不明になった子供。名は『ジジ』、を探しているのだ!」
「そこに私が現れたと___。」
ん?それって・・・。
犯人はアリスなんじゃ???
「屋敷の状態からノーザンバーグ家に容疑がかかり、心良く思わない貴族が聖女様を犯人に仕立て上げた。王の命令もあるが、聖女様を助ける為王城へ証人として来て欲しいのだが?」
この国の王も、この人自信も母リスタを助けたいと考えているのがわかる。
だが、真犯人の疑いをかけられているのをヒシヒシと感じる。
何があったか知っているのを前提に話しているのも気になるし。
というか知ってなくても身代わりになれ!って思っているのが丸分かりである。
「分かりました。行きます!」
「大丈夫っスか?見た目も違うし、証人と言っても証拠が、証明出来るものもないっスよ?」
「分かってる!でも助けなきゃ!」
「・・・そうっスね!」
「では付いて来てもらおう。」
ジジ達は衛兵に連れられて王城へ向かうのだった。
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