34. 10ー7=2?
久しぶりの更新。
熱中症にはご注意下さいまし。
―――遡る事、5時間前―――
「不本意ですが、カピさん。あたなが一番しっかりしていそうなので、今回の勇者の能力について彼に伝えておいて下さいまし。」
「不本意ってのは気に入らないッスけど、まぁ重要な話しだし、聞くッスよ。」
紅茶を飲みながらアリスは語り始めた。
力の解放でジジは衰弱し眠っている最中だった。
「勇者に与えられた力は『内在性レトロウイルス、ゲノムの強制進化による不死の力』ですの。大賢者のいた世界にプラナリアって生物がいて、その遺伝子を基に進化。天聖界の力をあわせ持つ異能力者として誕生させたんですの。」
アリスはそう言うと話を続けた。
「プラナリアは切ったら切った分だけ増える、しかも知識や経験を引き継ぐ能力も持っている変わった生き物ですの。まぁ、増えるところは端から見たら気持ち悪い事この上ないのですが・・・。それに女神様の治癒の力、超速再生が備わってるので、まずこの世界の理で本体が死ぬ事はないでしょう。意思も束ねてあるようだし。」
「アリス様、その力は魔力を使用されるのですか?」
リリーが質問をする。
「魔力での増殖擬態とはまた違う理屈だから、本体と全く同じ個体として魔力や能力が備わっていますですの。切られた肉片は増殖、全ての個体は一つの共有意思を持ちその数だけ使える魔力も増える。」
「それってある意味最強ッスね。ジジ君が力を付ければ、勇者の無限増殖ッスよ?国どころか、世界征服も楽に出来てしまう。」
「そんな事はしないとは思いますが、周りにそそのかされないように見張っといて下さいまし。使い方によっては魔王より厄介な存在になるので。」
「…そうッスね。」
「ここからが大事ですの。この能力にはいくつか欠点があって、皆さんにはその協力をお願いしたいのです。」
「欠点?」
「まず増殖について。彼の意思とは無関係に、切られれば増えると言う事。増えないよう意識して切られれば増えないのですが、能力を抑える事になるので再生が遅れる。痛みが続くと死にはしないでしょうが、気を失う可能性があるんですの。」
「痛みはあるッスか!!」
「程度はどうあれ、切られれば誰でも痛いんですのよ。」
「ごめんなさい。。。」
リリーが改めてアリスに謝る。
初対面でフルぼっこにしたからだ。
「気になさらないで下さいまし。女神の能力を示すのに手っ取り早かったですし。」
紅茶を口にするアリス。
「増えた勇者を元に戻す方法ですが。彼が異世界に来る時の願いが少し関係してるんですの。」
「願い?」
「詳しくは~そうね。長くなりそうですし。まぁ、簡潔に言うと異性のお小水をかける事によって本体との繋がりを断ち、元に戻す事ができますの。」
「え!?」
「お小水ですの。」
「え!?」
「つまり、オシッコですの。」
「「ええぇーー!?」」
リリーとシーナ、カピまで露骨にイヤそうな声を上げた。
「なるべく本体に近い彼にかけて下さいまし。そして、一番気をつけて頂きたいのが、性行為について。もし一度でも行えば女神の加護、勇者としての能力を失ってしまいますの。」
「それもジジ君の願いと関係があるッスか?」
「関係もそうですが、どちらかというと制約ですの。」
加護持ちの子供が産まれないとは限らないからか?
それとも、願いそのものが制約なのか?
「…わかったッス。とにかく増殖と制約には気をつけるッスよ。」
「そうして下さいまし。魔王が世界を滅ぼそうと動き始めるまで、あまり時間がないですの。勇者と言う特異点を魔王のところまでお願いしますですの。」
三人は頷いた。
「もしこの魔王の件が成功したなら、死後、悪いようにはしないと約束しますですの。」
「ジジ君とも約束したし、必ず成功させます!」
「成功させても、性行はしないようにね?」
意気込むリリーに茶化すアリス。
リリーの顔が真っ赤になった。
「そろそろお腹が空いてきましたですの。何か食べ物はないかしら?あ!そういえば、彼の姿について意見を聞きたかったの忘れてましたですの。」
ジジが目を覚ますまで、昼食にする事になったのだった。
―――――
《ラヴァンナ街道》
と、こんな事があったところを復活して手乗りサイズになったカピは、搔い摘んでジジに説明した。
もちろん、聖水の件は二人に口止めされたので、それとな~く流して。
それからしばらく歩いていたら、通りすがりの行商の馬車に乗せてもらえる事になったのだった。
「ん~まぁ、エセ女神のアリスが言ってた事をまとめると、ジジ君の能力は切られたら増える『増殖』らしいッス。気を付ける点は、増えた後の処理と性行による能力の消失ッスよ。」
「な、なる程。だから・・・増えたのか。それにしても死ぬ程痛かったんだが。。。もう少しましな能力にして欲しかったよ。(やっぱり魔王倒すまでおあずけか~)」
「なるべく協力するッスから~大丈夫、大丈夫!習うより慣れろッスよ!」
「あの痛みは慣れないよ~。」
話しをしているとラヴァンナの街が見えてきた。
色々ありすぎて、数日なのに久しぶりな感じがする。
「ますは、白猫探しの完了報告を冒険者ギルドにしないとッスね。その後にミラナさんとイリーナさんの所に行って、少し力になってもらう事でいいッスか?」
「賛成!」
「この世界で、国外に出るのに身分証が必要とは思っていませんでしたよ。」
そう、ファンタジー世界やゲームでは、金さえ払えば何処にでも自由に行けるイメージがあったからだ。
普通に考えると、要るよね?
なので、貴族であるミラナさんに後ろ楯になってもらおうという算段だ。
「ジジ君のいた世界ではどうかわからないけど、こっちでは気軽に国外へは行けないんスよ。もっと言うと領地の外に勝手に住まわれると納税が減るから領主らが許可を出さないんスよ。」
「なる程~。」
パスポートみたいな何かが必要なのか?
ジジ達は冒険者ギルドに顔を出し、クエストの完了報告をした。
「確かに完了ですね。こちらが報酬になります。」
「ありがとうございます。」
「それと、噂になってますよ~!悪徳奴隷商人を捕まえたって!」
「え!?あ、あはは~!たまたま偶然居合わせただけですよ。」
だから何かざわついていたのか?
ってか、噂が広まるの早くない?
ジジ達は報酬を受け取り、すぐ外に出た。
「ギルド長やら出てきたらまた面倒だから早く離れましょう!」
「そうッスね!」
あまり良い印象がないギルド長。
獣人嫌いが態度に出てるし、嫌なクエストを押し付けられても困る。
色々絡まれる前に、早々に退散しよう。
冒険者ギルドを出た一行はミラナさんの屋敷に向かって歩きだした。
しばらくすると少し離れて歩いていたリリーが呟いた。
「あれ?あれ?足りない!?」
「リリー、どうしたッスか?」
リリーの異変にカピが近寄ってきた。
「一本足りないの・・・?」
「何が足りないッスか?」
「何って、せい…すぃ。」
小声でカピに話しかける。
「三本あるはずなのに!やっぱりない!」
「もう捨ててると思ってたッスよ~。とりあえず二人に聞いてみたら?」
「もしまた増えたら、困るし。捨てられないよ~。ジジ君には聞き辛いし…。」
「じぁあオイラが二人に聞いて来るッスよ!」
カピは二人の所にかけて行った。