33. 聖水をかけて下さい!
魔人と戦うリリー達、隠れた襲撃者に襲われるジジ。
隠された能力が発揮された彼に待ち受ける恥辱のご褒美とは!?
―――――
近くの森、ジジ達が逃げ込んだ森から爆発音が聞こえた。
「リリー、ジジ君を!」
「わかってるッ!!」
カピと対峙している魔人は、空間を渡る能力を持っていた。
いくら攻撃しても瞬時にかわされてしまう厄介な相手だ。
「お願い!そこをどいて!!」
意図をわかってか、魔界の竜が森を背に立ちふさがる。
硬い鱗で覆われた魔界の竜は魔法を弾き、リリーは致命傷を与えられずにいた。
それでも絶えず魔法で攻撃をするリリー。
「空に漂う魔の力、覇せし連なる精霊よ。全ての在りし徒を糧に__」
「あなたもよそ見とは頂けませんねー?頂けないのデスよ!」
「・・・お前達、やっぱり弱いッスね。オイラ達を襲った事、あの世で後悔するといいッスよ!(リリー、仕掛ける気ッスね。ならやる事は一つ。)」
「弱い?下手な攻撃ばかりの獣魔風情が、魔人になったこの私を弱いと?御神の祝福を受けたこの身体と力。慈悲深き__」
リリーは地に降り立ち両手を上げた。
魔力が充満した空間、巨大な魔力の塊。
条件は揃った、あとは放つだけ。
「__裁きを今ここに!次元終焉華」
上空に超巨大な魔法陣が現れ、リリーは魔法障壁に包まれる。
耳鳴りに似た、頭に直接響く甲高い金属音。
太陽が出現したかと思う位の眩い光が__。
次の瞬間、空間が歪み爆ぜる。
余波だけで地を割る程の地鳴り。
共に激しく揺れた。
魔力で充満させた空間を魔法陣で囲い、空間そのモノを振動させ原子同士を亜光速で衝突、魔力が凝縮結晶化する際の超出力エネルギーも加わり超高温超高圧の限定空間を疑似的に造り出し大爆発させたのだ。
大量の魔力とそれを制御できる器を持った魔法師が数十人数必要な為に、軍や騎士団でも発動までに数時間かかる大魔法だ。
その威力から空間干渉系極大魔法の一つとされている。
「・・・。」
魔方陣に切り取られた空間内は跡形も無く消し飛んだ。
魔人も魔界の竜の姿も。
何の気配も感じない。
魔方陣が消え、紅い宝石だけが残る。
それを拾いあげ、リリーは急いでジジのところへ飛んで行った。
―――――
その場に立つ事が出来ない程の激しい揺れが、ジジ達にまで届いた。
裸の少年達も、敵の剣士も体勢を崩し戦闘は中断。
「おぃおぃ、お次は何なんだ!?全然楽な仕事じゃねーんだけど。」
「……あなたはもしかして、雇われて戦っているのですか?」
裸の少年の一人が口を開く。
「そうだよ。俺は傭兵だ。羽振りの良い楽な仕事だから受けたんだが、話が違ったようだ。」
揺れも収まり男は立ち上がりながら剣先を向ける。
「あなた程の腕の立つ人がなぜ傭兵を?」
「ほっとけ。それより第二ラウンドと行こうぜ!」
すぐ再生するとは言っても、死ぬ程痛いのだ。
正直もう戦いたくはない。
何故身体が分裂しているのか分からないが、いくつか言える事がある。
分裂してはいるが、多数で一つの自分という意識。
全ての感覚が共有され、指を動かす程度ぐらいに個々を動かせている。
それに。
「もうやめにしませんか?正直、これ以上戦いたくないです。」
「そう言われてもな~。」
「あなたは強い。逆立ちしても今の私では勝てない。」
「……言いたい事は分かってる。化け物染みた増殖力と、その急激な経験値。戦いの最中に強くなるとか反則だろー?だが、こっちも剣士の端くれだ。ヤられる前にコアを見つけて必ず倒す!」
何を言ってもダメなパターンか。
話をしていると、上空にリリーの姿が見えた。
「!!!!!?」
一瞬驚いた表情をしたが。
あーぁ、って感じの、今はそんな顔をしながら剣士の前に降りてきた。
「リリー様!!」
「剣士さん、そこまでです。貴方の仲間は倒しました。今後一切手を出さないのなら、今回だけは見逃してあげます。」
リリーに纏う魔力は色濃く怒りをあらわにしていた。
「ん~、依頼主がいないんじゃ~な~。」
男は頭をかきながら剣を下ろした。
それを見たリリーも落ち着きを取り戻す。
「リリー様!!怖かった~!」
安心したのか、涙目のシーナがリリーに飛び付いた。
いつもと違って、よしよしと頭を撫でてあげるリリー。
「剣士さん。」
「わ~てるよ。やめだ、やめ。」
剣を収めると手をふった。
「俺の名前はリク、傭兵だ。だいぶ切り刻んだでおいてなんだが、ここいらで退かせてもらう。どう考えても勝ち目は無いからな。」
リリーの方をチラ見し、少年に歩み寄りながら言葉を続ける。
「仕事とは言えすまなかった。気に入らないならいつでも襲ってきて構わない。そういう仕事だからな。」
「…思うところはありますが、私達は先を急ぎますので。」
「そうか。そんじゃ、この事は他言しねーし干渉もしない。またどこかで会おうや。次は味方になるよう願ってるよ。勇者様!」
裸の少年と握手を交わし、傭兵リクはその場を去っていった。
聞きたい事はあったが、他言しない代わりに聞くなという事だろう。
話せば彼の命が狙われる、察したジジは何も聞かずに見送った。
ずっと背を向けているリリーが少年に声をかけた。
「ところでジジ君?」
「はい。」
「あのね、その、すごく言いにくいコトなんだけどね…。」
「はい。」
「その。…前、隠してくれないかな?」
いやぁん!!
約1000人の少年は一斉に前を隠した。
とりあえず、おのおの近くの葉っぱをちぎり隠す。
「リリー様見て下さいよ~!ジジさんの、体の割りに結構大きいんですよ~☆」
耳まで真っ赤になるリリー。
恥ずかしさのあまり顔を押さえている。
大きいコトは嬉しいが、裸の今は恥ずかしい。
「そう言えば、カピさんは?」
「魔法をあてるのに足止めしてもらったから疲れてて、しばらくこの中で休んでるって。」
「そっか。」
リリーは胸元に忍ばせた、濃い紅い石の付いたネックレスを二人に見せた。
刺客の件やこの能力について相談したかったのだが、仕方ない。
とりあえず、この約1000人の自分達をどうしようか。
「リリー様、私、嫌ですよ。例えリリー様のお願いでも、嫌ですよ。」
「えぇ~!私も~、ちょっと・・・。」
そうだよね、そうですよね。
約1000人の裸の少年と旅するのは。
怪訝そうな顔つきで二人はこそこそ話をしだした。
「いっそ全員燃やしてしまうというのはどうでしょう?」
「……ダメだよそんなの。痛みはあるって言ってたし。」
バッチリ聞こえてますよ!
物騒な間があったのは気のせいかな?
しかし、どうしようこの人数。
自分の意思ではどうにもならない感じがする。
「リリーさん、何か元に戻す方法を聞いてませんか?」
「え?あ、あ~。一人に戻す方法~、ね。大丈夫だよ!でもね…。」
「ジジさん大丈夫!浄化すれば戻るって言ってましたよ!それには聖水が必要で、今ここには無いんです。」
「聖水?」
「無いんですッ!」
「シーナさん、か、顔が近い。」
無いなら仕方ない。
別の方法を考えるか。
「なので、しばらくここで待っててもらっていいですか?リリー様と街まで急いで、聖水と服を用意しに行きますので!」
「おぉ、それは助かります。ぜひお願いします!」
「裸でうろついてると、変態が出たーってすぐ噂になりますから!絶ッ対に動かないで下さいね!」
「は、はい。」
「絶対の絶対ですよ!!」
「わかったわかった。大人しく隠れとくよ。」
「リリー様!急いで行きましょう!」
「え?あ、うん…。じゃあこれ。何かあれば叫んでカピを起こしてね。」
そう言うとネックレスをジジに渡す。
シーナはリリーの手を引いて、元来た道を駆けて行った。
単純に街までの往復で2時間はかかるだろう。
聖水と服を手に入れるのを考えても最低3時間。
それまで裸とは、寒くないとはいえ風邪を引きそうだ。
約三時間裸で放置プレイ。
外ですっぽんぽんなのは、こう何と言うか。
変に興奮した気分になる。
「あ、あれだな。ロングコート広げて見せるやつ。」
「って変態じゃん!!」
―――――
二時間経過・・・
リリーとシーナは急いでツルギザキの街に戻った。
もちろんジジの服と聖水を手に入れる為に。
「リリーざま~!!ごっちも無理でずぅ~。。。」
「こっちもダメだった。。。」
服はすぐ用意が出来た。
だが、肝心の聖水が。
「いやいや、ジジさんの願いに関係あるって言ってもアレはないでしょう?とりあえず聖水って言っちゃいましたけど。」
「はじめ聞いた時はビックリした。けど、ジジ君がいた世界では飲み物としてあるのかも。」
「それはないですよ!どんな変態な世界から来たんですか!?」
二人は笑顔で笑っていたが、内心焦っていた。
自分のは、かけたくない。
聖水とは名ばかり、ご存知のあの液体だからだ。
そうそう他人に渡すはずがないし、流通もしていない。
さすがに知り合いには頼めず、殿方が夜徘徊する大人なお店に提供してくれる人を探しに行ったのだった。
「シーナさん、あのお願いが__。」
「リリー様のお願いでもお断りします!」
「今夜一緒のベッドに寝る、って言うの__」
「是非提供させていただきます!!」
あっさり折れたシーナ。
「じゃあさっそく、行こっか?」
「う"、はい。。。」
「私もするからね?でも内緒にして欲しいな。。。」
「もちろんですよ!気付かれないようにしましょう!」
二人はしぶしぶ聖水を用意する事にしたのだった。
―――――
更に二時間後・・・
リリー達はジジの所に戻ってきた。
「ただいま~。」
「お帰りなさい、遠くまでありがとうございます!」
手にはじょうろのようなモノと、高価な装飾が施された小瓶が10本。
それに魔導師が着そうなローブや食べ物まであった。
「ジジさん、大人しく待ってたかな?」
「森から出てませんので安心して下さい!」
「聖水は何とか用意出来たから、え~と。一番本体に近い子ってわかるかな?」
アリスに聞いていた通りの液体を用意した。
あとは、なるべく本体に近い個体にかけるだけで、他の個体は本体との繋がりが無くなり、煙りとなって消えるらしい。
もちろん本体から遠い個体にかけでも同じなのだが、数が用意出来ない。
なので、なるべく本体に近い方にかけるのが良いらしい。
「なんとなく、今しゃべってるこの身体とあと6人かな?」
そう言うと、ぞろぞろと計7人がリリー達の前に出てきた。
「じゃあ、ジジさんズはここに座ってもらって。今から言う事を絶対守って下さい!」
「は、はい。」
「まず目を開けない事!それから息を止める事!口を絶対開けない事!この三つ!はい、復唱ッ!」
「はい!目を開けない、息を止める、口も開けない。」
「一つでも破れば生死に関わります!むしろコロします!」
「は、はい。」
「じゃあ、はじめるからせーのでやって下さい!」
「「せーの!」」
目と口を閉じ、息を止める。
リリー達は小瓶を開け急いで7人のジジにかけた。
後ろに控えていた約1000人の人間が一斉に煙りとなって消える。
続いて、前の6人も。
残るは一人だけになった。
「やった!成功ですね!リリー様!」
「良かった~。」
アリスの言っていた事は、全てが本当だった。
この世界、魔法やスキルとは違う理で存在するジジ。
そして、魔王討伐の天命も。
これから先も命を狙われるだろう彼を、支える事が出来るのだろうか?
そう思うリリーだった。
「ぶはぁ~!!もう、いいかな?」
「あ、ごめんねジジ君!」
「ん?何かちょっとにおいが・・・。聖水のにおいって似てますね、ちょっとおしっ__。」
「な、な、なに言ってるんですかッ!!神聖なる聖水を!!ジジさん、バチが当たりますよ!!」
リリーはじょうろの水をジジの頭からかけた!
「ぬわーっ!」
「ごめんなさい!」
何はともあれ、とりあえずの危機は去った。
疑問だらけの旅だが、さっさと実家に戻って魔王退治に備えたいところだ。
それから身体を拭いて着替え、食事にする事にした。
裸に放置プレイ、さらに聖水をかけられるご褒美をもらったジジ。
知らない方が幸せ?知ればもっと幸せ?
次回『10ー7=2?』
まったりゆっくり読んでもらえると嬉しいな☆