32. 漢の戦い
突然の襲撃者!
襲って来たのはなんと、破壊神を奉る教徒の魔人!?
リリーとカピが応戦するなか、ジジ達は逃げるしかなかった。
「シーナさん!こっちに!」
「えっ!?」
ジジはシーナの手を取り、襲撃者から距離をとる。
何も隠れるところのない場所だからこうするしかない。
守りながら勝てる相手でもなさそうだ。
側にいても戦闘に巻き込む心配ばかりで、まともに魔法が使えないだろう。
幸いにも死なない身体、シーナさんの盾くらいにはなってやる。
「リリーさん、こっちの事は気にせずやっちゃって下さい!!」
「ありがとう、ジジ君!」
走りながらリリーに声をかける。
カピの口調から察するに、勝てない相手ではなさそうだ。
自分に出来る事は、シーナさんと逃げる事。
悔しいが実力がない以上、選択肢が他にない。
「何処に逃げようと無駄な事!」
「オイラを前によそ見とは余裕ッス、ね!!」
「ぐはぁぁ!!」
追撃しようとする魔人に、飛んで頭突きをかますカピ。
「あなたの相手は私。」
浮遊魔法を使ってリリーは浮き上がり、魔界の竜と対峙する。
―――――
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「はぁ~ここまで来れば大丈夫。」
ジジとシーナは近くの雑木林に足を踏み入れた。
ここなら戦闘の邪魔にはならないだろう。
「リリー様!!デモンズドラゴンなんかに負けないで!」
遠目に祈りながらシーナは叫ぶ。
「シーナさん、あのドラゴンの事知ってるんですか?」
「え?あ、はい。直接見たのは初めてなのですが、文献に載ってましたし。」
「文献って?」
「図書室にある本ですよ。絵本から歴史書、神話とか色々な本があるんです。さすがに魔法書は魔法省が絡むのでなかなかお目にかかれないんですけどね。」
ちょいちょい気になる文献の存在。
「デモンズドラゴンは魔界に連れていかれた、ブルードラゴンやレッドドラゴンなんですよ。魔界はこの世界と少しズレた世界らしいくって、魔界のものは全て魔力が強く…って、そんな事よりリリー様達は!?」
「え?あぁ、多分大丈夫だと思うよ。本気になったらリリーさん強いから。シーナさんの大好きなリリーさん、信じて待とうよ。」
そう、魔法の練習中に一度実力を見せてもらった事がある。
一撃で島一つ吹き飛ばす極大魔法と呼ばれるものや、魂だけを破壊する神聖魔法を。
だからきっと大丈夫。
「そう、ですね!リリー様はあんな奴に負けはしないのです!!」
「それにしても、シーナさんは色々と詳しそうですね?この世界の事、ご教授願おうかな。」
「はい!一緒に旅しながらでしたら。」
いい笑顔をする人だ。
子供っぽいところはあるものの、それなりに胸もあって可愛い!
それは置いといて。
遠目に戦闘を見ていると、何かひっかかりを感じる。
戦闘は優勢のように見える。
だが、決定打にかけている気がする。
「何か変、ですよね?魔人はともかく、ドラゴンまで防御に徹しているように見えますね。」
何か、わざとやられているような。
時間稼ぎ?
まさか!?
「シーナさん!戻りましょう!!」
ジジはシーナの手を取り、走りだそうとする。
しかし、繋いだ手を引っ張る感覚がない。
「きゃあ!!」
叫ぶ声に振り向くジジ。
シーナの手を取ったはずのジジの手が…。
足元に転がっていた。
「見通しの良い場所だから、敵は一人だけだと思い込んでしまった。勇者の負けだ。」
黒ローブを身にまとった男に、剣を突き付けられていた。
男に気づいたと同時に、切り落とされた腕の痛みが襲ってくる。
「せめて苦しまずに!!」
太刀筋が見えない斬撃が、ジジの腕を、足を、首をはねた。
飛び散る鮮血。
帰り血を浴びたシーナが叫んだ。
「ジジさーんッ!!」
一瞬の出来事だった。
敵が目の前に現れて斬られるまで。
魔人は陽動だったのだ。
リリー達の足止めをして、離れたところで襲撃をする。
始めからこちらの戦力と地形を理解した上での戦略。
敵の罠を見抜けなかった自分の責任だ。
それにシーナさんの目の前で惨殺されたのだ。
トラウマにならないといいのだが……。
って激しい痛みはあるのに、身体はバラバラなのに。
意識だけは、はっきりしている。
「ジジさん、お願い!死なないで!」
「おいおい、死体の頭なんか抱くなよ~。お前さんは連れてこいって依頼人に言われてるからな~。あ~あ~服、汚すなって。」
シーナはジジの頭を抱きしめながらへたり込み、黒ローブの剣士を睨んだ。
「そんな目で見るなって~。こっちも仕事なんだよ。」
「許さない!!」
シーナは魔法で火炎球を造り出し、男に投げ放つ。
だが、男の一振りで掻き消された。
「何考えてやがる!森を燃やす気か!?」
言った男は違和感を覚えた。
さっきまでとは何かが違う。
そう、切り飛ばした手足が無くなっていたのだ。
男は真剣な顔になり、剣を構える。
「ジジ……さん?」
シーナが見た森の方に、うつ向いた裸の少年が一人。
背格好はジジと似ていた。
だが、ジジの頭はシーナが抱いている。
その少年は少しずつ男に近づいてくる。
「何なんだ?」
「…………さんは…絶対に…守る!」
裸の少年は走り出し男に襲いかかる。
が、あっさり両断される。
左足だけ服があるほぼ裸の少年が、男の後ろから襲いかかる。
右腕だけ服があるほぼ裸の少年が、左腕だけ服があるほぼ裸の少年が。
男に襲いかかった。
「何なんだよ!コイツらは!」
襲ってくる裸の少年を全て切り捨て叫ぶ。
そして、切り捨てた死体を見て驚愕する。
「マジで!どうなってんだよ!?」
切り捨てた死体が異常なまでの再生スピードで肉体を修復している。
しかも、身体から離れた一部がもう一人の個体、人間として造られていく。
つまり、斬った肉片が増殖しているのだ。
「気持ち悪りぃ!!」
再生した個体は次々に男に襲いかかる。
男は楽勝とばかりに切り捨てる。
10に増え、50に増え、100に増え。
弱い相手だが、束になればじり貧は明白。
だが、勝算はある。
核を破壊さえすれば止まる、人で言うなら心臓だ。
ただ闇雲に斬っている訳ではなかったのだ。
魔物には必ず核があり、同じものだと考え方たからだ。
「その頭もよこせ!!」
「きゃあ!!」
シーナから奪い、頭を両断する。
しかしこれもハズレだった。
「雑魚の分際で!!ぐはぁ!!」
何体かの拳がみぞおちに入る。
数の暴力だった。
どんなに優れた剣士でも、群れた生物に狙われればタダでは済まない。
500を越えたあたりで男は気づいた。
自分の剣が見切られはじめている事に。
男は呪文を詠唱する。
「チッ!これなら!神炎爆裂斬!!」
甲高い炸裂音が連発!
斬られた少年が次々に破裂している音だ。
神炎の力を借りた連撃。
斬り口を起爆点にし、対象を跡形もなく爆破焼滅させる神業だ。
魔力を大量消費した男は疲弊していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ!殺ったか?」
あまりの惨劇にシーナはへたり込んだまま、ただ呆然としていた。
「俺様にケンカを売った事、後悔させてやる!」
と、心にもない事を思ってみたり___。
力の使い方に戸惑いながらも、シーナを助ける為に死力を尽くすジジ。
増えゆく少年はジジなのか?
次回 『聖水かけて下さい!(仮)』
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