31. どうせ童貞、命狙われてます
アリスが去り際に言い放つ。
「大賢者を貫き通して下さいましね?」
前世に引き続き、異世界に来ても賢者を貫く事に。
生きる希望をなくしたジジに刺客が迫る!
どういう事だよ?
話が違うよ女神様!
絶望にうなだれるジジ。
「行っちゃったっスね。」
「そうだね。でもまた会えるって言ってたし。カピ、さみしい?」
「んなわけないっスよ!あんな口の悪い女神!さぁ、さっさと用事済ませてジジ君の故郷に行くっスよ!」
そそくさと先に歩き出すカピ。
「ジジ君、大丈夫?歩ける?」
地面に伏せてるジジに、リリーが声をかける。
生きる希望を無くした人間は、ここまで動けなくなるものなのだろうか。
夢も希望も無くした今、何を楽しみに生きていけば良いのか。
来世は人間とは限らない。
だから前世で女性と関わる事が出来なかった分思う存分楽しんで、もとい、努力して嫁さんを探そうと思っていた。
やりたくもない魔王退治も引き受けたのに……。
この仕打ちはないよ…。
童貞卒業して魔王退治を放棄したら、まず真っ先に殺されるだろう。
かと言って、健全なる男子がもて余す欲望を抑えられるはずもない。
「この世界に艶本なんかなさそうだし、それっぽいお店に行く隙~は無さそうだし、これから一体どうすれば……。」
「何ブツブツ言ってるっスか?」
「ジジ君、本当に大丈夫?」
「あゎあ、だ、大丈夫です!」
顔を覗き込むリリーに焦るジジ。
きしむ身体を我慢して立ち上がる。
悟られるわけにはいかない。
絶対にバカにされる。
絶対に拒絶される……。
今は、若返っただけでも…良しとしよう。
考えるのは後だ。
「ささ、先を急ぎましょう!」
「ジジさんって、女神様に勇者として召喚された元大賢者だったんですか~?」
「そうみたいっスね。」
「すご~い!じぁあ、リリー様みたいにいろんな魔法が使えるですか?」
「今は全然だけど、いずれ使えるような素質があるんじゃないっスかね?だから呼ばれたんじゃないっスか?」
全然そんな素質は持ってませーん!
余計な詮索はやめてくれー!
悲しくなる。。。
「ジジさん!アリスさんから聞きました!異世界から召喚されたって!その世界ってどんな世界だったんですか!?どんな魔法使えるの?大賢者ならけっこうモテたんじゃないですか?」
目を輝かせながらシーナが詰め寄ってくる。
「シーナちゃん!ダメだよ!いっぺんに質問したら!ジジ君、困ってるよ!」
「はーい。ごめんなさーい。」
「シーナさん。リリーさんだけじゃなく、異世界にも興味があるんですね?」
「はい!魔法の勉強傍ら、色んな文献読んでたら興味が出ちゃって。」
まずはこの子を落ち着かせよう。
自分の事は後まわしだ。
時間は沢山ある、焦る必要はない。
能力についてはアリス様からカピに伝えてあるようだから、落ち着いた時にでも聞く事にしよう。
世界大戦も経験してるし、80年分の記憶があるのだ。
話すだけならいくらでもネタがある。
一行はラヴァンナの街に向かい、異世界の話しをしながら歩いていた。
「…遠いですね。」
「あと半日くらいかかるっスよ。」
「そんなに!?もっと近くだと思ってましたよ。じぁあ、今夜は野宿ですか?」
「そのつもりで歩いてたっスよ?冒険者なんだから野宿くらい当たり前っスよ。出来ればベッドで寝たいっスけどね~。」
時折休憩を挟みながら街道を進む。
若返った身体を手に入れたおかげで、割りと順調のような気もする。
街の外で困る飲み水も、リリーの魔法でいつでも出せるし困らなかった。
食料もカピが、どこからか木の実を持ってきてくれる。
それなりに現地調達出来てて、特に困った事はなかった。
しかし、チャリンコで隣町まで行くくらいの感覚で、徒歩を選択したのは間違いだったようだ。
森を切り開いたような街道。
歩く者など誰一人も見えない。
行く手はるか先には、地平線が見えている。
順調に帰路に就くはずだった。
「ジジ君危ない!!」
突然カピが体当たりしてジジを突き飛ばす。
その瞬間、地を裂く轟音が!
共に現れた黒い稲妻が、今しがた立っていた場所をえぐりとる。
リリーとカピは空を見上げ、戦闘態勢をとっていた。
「不意討ちのつもりだったのじゃが、避けられてしもうた~。苦しまずに死ぬ機会を与えられなんだ~。あ~これはえらいこっちゃ~えらいこっちゃ~。」
立ち上がったジジが見上げた先に、黒いローブを着た異形の人間が浮いていた。
「人が浮いている!?」
「ジジ君、シーナちゃん!私の後ろに隠れて!カッピーッ!!」
「おぃっス!」
カピの周りに空気中の水分が集まる。
水滴になったそれは、激しく振動し始めた。
全てのそれは音速を越えた速さで黒ローブに向かい切りつける。
「今っス!」
「振動界雷波!!」
空間を裂く程の雷鳴が轟く!
四方から伸びる蒼い雷撃が黒ローブに直撃した。
水の分子を高速振動し、発生した静電気を利用した電撃魔法だ。
以前使った同じ魔法とは比べものにならない威力。
だが!?
「いけません、いけませんよ~!我ら御神の御慈悲に抵抗しちょるのは。」
「直撃したのに!?」
「ありゃ、間違いなく魔人っスね。低級魔族を人に憑依させて魔力を何倍にもする、禁呪のひとつ。」
「魔人には物理的な魔法が効きにくいの。結構全力だったんだけどな…足止めにもなってないみたい。」
リリーさんには珍しく、弱気な発言だ。
「人に憑依してるようだから、助けたかったんスけど~。さすがに混じり過ぎてるし、今回は余裕ないかな~。」
殺されかけたこの状況で、敵を助ける事を考えてるとは。
やはり凄い、よほど戦い慣れしているのだろう。
相手との力量も測れる、実力がある証拠だ。
「なんなんですか~?あれ!?」
「……多分、破壊神宗教ザルヴァの生き残り。私のせいだ…。」
シーナの問いにリリーが意味深に答える。
「勇者はど奴かの~?忌々しい女神の犬よ。この世界を受け入れた罪を贖罪するがよい!そして我らの前に立ち塞がりし、勇ましき者達に我ら御神の御慈悲をぉー!」
魔人の両手から放たれる、黒い稲妻がリリー達を襲う。
カピがリリーの前に飛び出し稲妻を弾く。
「なるべく痛みのないよう、慈悲深く配慮しておるのに。我御神を二度も愚弄するとは。コロス!!コロス!コロス!コロスッ!!」
魔人は発狂した。
空気が振動するのがわかる。
これは憎悪だ。
鼻をつまんでも臭う、吐き気をもよおす感情。
「なんなんですか!?あれ!何で攻撃してくるんですかー!?」
「シーナさん、ごめん!やっぱり命狙われてるみたい。」
「狙われてるって!?魔人から?」
「……魔王の関係者から、かも。」
「え!?えーッ!?」
事情を聞かずに付いてきたのだから、この反応も無理もない。
それはそうと、狙われたと言う事は魔王の関係者さんもこちらの目的に気付いていると考えるべきか。
「リリーさまぁ!!」
「大丈夫。シーナちゃん泣かないで。」
どさくさ紛れにリリーに抱き付くシーナ。
「我ら御神の礎となれ!」
魔人は黒き電撃を地に放つ。
それと同時に巨大な魔方陣が現れ電撃を飲み込み収束する。
カピが光の魔法で魔方陣を攻撃。
しかし、無情にもかき消された。
魔方陣から濃霧と風が吹き荒れる。
陣から這い出るように、何か獣の手が。
頭が、翼が――――。
「あちゃー!ちょっとまずい状況っスね!」
「もう、次は何なんですかー!?」
リリーの後ろで泣き叫ぶシーナ。
霧の中から、黒き電撃を帯びた漆黒の竜が現れる。
「ドラゴン!?……逃げれそうに、ない。ですよね~。」
「ジジ君は、思ったより冷静だね。良かった。」
アリスに殺されかけた時の威圧感に比べれば、ドラゴンは可愛いものだ。
見た目が怖いのもあってか、シーナさんは取り乱している。
このままここに居ても、リリーさんとカピの邪魔になるだけだろう。
足手まといなのは自覚している。
守られてばかりの勇者って、カッコ悪いな。。。
「魔界の竜は気性が荒い。さぁ、苦痛と絶望に抗い、魂を捧げよ!」
魔人が叫び、竜が吠えた!
いつも見て頂きありがとうございます!
ご意見も頂いたのもありますので、ちょこちょこではありますが投稿済みのも見直ししていきたいと思っています。
気晴らしに始めた小説が半年もちました(笑)
次回『漢の戦い(仮)』 てす。
ジジ君参戦します。