30. レトロウイルス
敵だと思ったアリスは生命の女神様の使いだった!
ジジに『加護の全解放』を授けに来たのだが・・・。
「太古の昔にかかったウイルスのゲノム編集で、生殖細胞を強制的に進化させる事に成功したんですの。いわゆる遺伝子操作ってやつね。ジジさんだっけ?あなたなら前世で聞いたことくらいあるんじゃないかしら?」
「???」
「分からないって顔してますわね。簡単に言うと死なない身体になっているだけですの。」
「不老不死って事ですか?」
あれだけのケガが治るのだ。
死なないのは分かるとして、痛みは何とかならないものか。
あと、この身体のままなのはちょっと…。
「不老不死とは違いますの。歳もとるし、いつかは死にますわ。」
「死なない身体なのに、死ぬっスか?」
半笑いのカピにアリスが睨み付ける。
応戦するかのようにカピが睨み返す。
「もういいッ!説明も面倒くさい!とりあえず力は引き出してあげますわ。使い方は自分で学びなさい!ッ!表へ出やがれネズミ野郎!」
「上等っス!エセ女神ッ!」
中指を立てて煽るアリスに、メンチを切るカピ。
あーあ、大事にならなければいいけど。
「あ、あの~、私は~。」
「あ~付いて来るなって言っても、付いて来そうだし。リリーさんがいいなら付いてきてもいいんじゃないかな?ただし!危ない事もあるから指示には従うように、ね?」
「はい!ありがとうございます☆」
こうして、シーナがついて来る事に。
おまけに女神様の使いまで。
《ツルギザキ郊外》
ラヴァンナの街に一旦戻る事になった。
クエストの完了申請は受けた街でしか受理してもらえないからだ。
そこで道中、ジジの『女神の加護』の力を引き出してもらう事になった。
ウマが合わない二人は、ちょこちょこ口喧嘩しながら賑やかに街道を歩いている。
「あのへんでいいかしら?」
傷もすっかり癒えたアリスが、街道から少し離れた草原を指差した。
辺りに人影は見えない。
「勇者さま、あなたにはなるべく早く魔王を見つけ出してもらいますの。その為に勇者召喚には行わない『加護の全解放』を。力を引き出しますの。」
「??、見つけ出す?」
ちょっと引っ掛かるところはあるが……。
魔王を倒す力?が手に入る今は、あまり突っ込んで機嫌を損ねたくはない。
「ちょっと痛いけど、我慢して下さいまし。」
アリスはジジめがけてジャンプ、同時に左腕でジジの胸をえぐった。
鈍い音と共に飛び出る鮮血。
痛みを感じる間すらなかった。
身体から魂だけが抜き取られた感覚。
アリスの手には、脈打つ心臓が握られていた。
「「ジジ君!!」」
「心配無用!大丈夫ですの。」
肺ごと潰され、息も出来ずに悶え倒れるジジ。
だが、アリスは冷静に自分の右手人差し指を噛み、垂れてきた血を心臓に垂らした。
その瞬間――――。
眩い光と熱が二つの周囲を覆った。
アリスは声にならない言語で、ジジの心臓にコードを打ち込む。
これが解呪の魔法なのか、彼女の言う遺伝子操作なのかはジジには分からない。
ただ分かるのは、息苦しい中でもこの光の中は心地良い暖かさという事だけ。
コードを打ち終えたアリスは、持っていた心臓をジジの胸に押し戻した。
戻されたジジの心臓から赤い糸が無数に現れ傷を修復していく。
「成功ですの。」
―――――
ジジが目を覚ますとリリーの寝顔が目の前にあった。
リリーの小さな身体に膝枕をされている。
驚いたが、身体が思うように動かせない。
何とか頭を動かして辺りを見回してみると、アリス、カピやシーナは遠くの木陰で食事をしているのが見えた。
太陽も真上に上がり、いつの間にか昼になっていたらしい。
「……良かった!」
起きたリリーはジジの頭を撫でて喜んだ。
気が付いたジジを見て安堵したのか、少し涙目になっているみたいだ。
そんな顔も可愛らしい、と思ってしまう。
それにしても、リリーさんの手はこんなに大きかったかな?
「ジジ君、死ぬんじゃないかと…。あれからアリスさんと色々あって…。」
お弁当組も気づいたのか、こっちに向かって手を振っている。
一人ものすごい殺気を放っている人がいるのは気のせいか?
「ジジ君?大丈夫?」
「え?…あ、…はい!大丈夫…です。」
あちこち身体が痛いし、声も出しづらい。
それよりも、膝枕で頭を撫でられている姿を見られたのがすっごい恥ずかしい。
柄にもなく顔が火照っているのが自分でもわかる。
起き上がろうとするジジを、リリーは支える。
「まだ寝てないと!」
そういうわけにもいかない。
一人殺気立てて猛ダッシュしてくる人物がいるからだ。
「ジジさん!ずるい!ズルい!ずるーいーッ!!リリー様のひざまくらーッ!」
到着するなりビシッっと指差し、上から見下ろすシーナの殺気は異常だった。
嫉妬の感情が色濃くジジに向けられる。
「リリーさま~!あたしも膝枕して欲しいな~☆」
「だめ。」
即答で断るリリー。
しょげるシーナを見て、近づくアリスが大笑いしている。
「…なら、ジジさん!ジジさんに残ったリリー様のぬくもりを私に下さい!」
そう言ってジジに抱きつき、頬擦りをしてきた。
「もっとダメーッ!!」
抱きつくシーナを無理やり引き剥がす。
だが、リリーから身体を触られてニヤけるシーナ。
ダメだな、こりゃ重症だ。
先が思いやられる。。。
「もう大丈夫みたいっスね?」
「わたくしの術式に問題はないですの。」
カピとアリスが近づいてきた。
二人はケンカはするが、拒絶する程ではないようだ。
それにしても、みんなちょっと大きくなった?ように見えるのだが…。
「そろそろ気づいたんじゃないかしら?」
「???」
「力については色々聞いといたっスよ。」
「あのね、ジジ君。実は身体がね!」
「あ~リリー、見てもらって驚かそうよ!姿が映る氷か何か出せないっスか?」
この物言いは、もしかして!?
リリーはジジの近くに氷の塊を生み出した。
恐る恐る覗くと……。
「若返っとる~ぅ!?」
女神様ありがとうッ!
ちょっと若過ぎるけど、老人よりはいい!
12?13歳くらいかな?
「若い?だいぶ年寄りになったと思うっスけど?」
そうだ、この世界では逆だった。
そんなことは今はどうでもいい。
老人ではないのだから!
「神様、アリス様、ありがとうございます!」
「しっかり精進すると良いですの。」
力がッ!
闘志がッ!
身体の奥底から沸き上がってくるぞぉ~!
若いって素晴らしい☆
殺されかけた事もあったけど、こうして力と若さをくれた女神様はいい神様だぁ~!
ありがとう神様!童貞卒業の日も近いぞ!
「それではわたくしは役目を終えたので、帰らせて頂きます。また近いうちに会えるでしょうが、それまでに力を使いこなして下さいまし!
あ~、そうそう言い忘れてましたけど。ジジさん。」
「はい!」
「あなた、生前大賢者だったから召喚されたんでしたわね?」
「お恥ずかしい話ですが、その通りです。」
「召喚された勇者には、制約が一つだけあるんですの。」
「制約?」
「それは、『この世界でも大賢者を貫き通す事』ですの。破られた瞬間、女神の加護は消え去りただの人間になってしまいますの。」
「えッ!えッ!?」
「ですので大賢者を貫き通して下さいましね?」
「えぇーーッッッ!?」
「大賢者?」
「ジジ君って賢者だったんスか!?」
「ジジさんって見かけによらず凄い人だったんですね!」
「違う!違うんです!生まれる前の話で!」
夢のハーレム生活がぁぁぁ~!
「くれぐれもお気をつけ下さいまし!それではご機嫌よう!」
「ちょっと待っ…!」
痛みの残る身体を振り絞り、アリスの手を掴もうと必死に手を上げる。
だが、音もなくアリスの身体が浮き上がり、空に溶け込み消え去った。
「Oh noーーッッッ!!」
ジジの絶叫だけが空に虚しく響き渡るのだった。
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